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我儘
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嫉妬と焦燥に駆られ、優しくできたとはとても言い難い。
ただ、気持ちよくはできたと思う。可愛らしさのあまり、俺のほうもとろとろになってしまった。久しぶりに受け入れる側もしたけど、俺の中で快感を得てくれる様も幸せだった。
そんな甘い一夜を過ごしたのに、秋尋様は。
「では、今から行ってくる。ついてくるなよ」
ピシリと着替えをし、正午にもならないうちに出かけてしまった。
もちろん、ついていくに決まっている。
ありがたくもわざわざ宣言してくれたんだ。もはやこれは、ついてこいというフリだと思うほうが正しいでしょ?
俺から秋尋様を奪う……かも、しれない相手の顔くらいは、拝んでおかないと。
いつでも外出できるように支度はできてる。止める止めないは別として、ついていくことに躊躇いはなかった。
ホテルのレストランなどではなく、喫茶店。しかも昼間から。つまり、そんなに家柄のいい女性ではないことが推測される。
普通のお出かけならいざ知らず、近衛家レベルのお金持ちが見合いのような席に喫茶店を使うとは考えにくい。
一般的な恋人同士でもプロポーズの際には洒落たレストランで夜景を見ながら指輪を差し出す。それくらいはするだろう、多分。
そう思って入った喫茶店。秋尋様の対面に座る女性の姿に、俺は秋尋様から話を切り出された時以上の衝撃を受けた。
確かに俺がよく知る相手。そんなに親しいわけでもないけど、話だけはかなりの頻度で耳にしていたから。
そこにいたのは平坂くんのお姉さんだった。金井くんの彼女の、平坂千代子さん。お見合いの席だからだろうか。いつもよりもゴージャスな感じがする。あどけない感じは抜け、すっかり派手な美女になっている。
ちょっと前まで上手くいってないような話を聞いてはいたけど、最近はとんと話題に出さなくなってたから仲直りしたものだとばかり思ってたのに、まさか事態がここまで悪化していたなんて。
秋尋様と縁があって、家柄も容姿も頭脳も問題ない女性。スペックだけで見れば、相応しいし認められる。取り持ったのは平坂くんか?
でも。確かに美女だけど、秋尋様の好みではない。顔が。
だから平坂くんのお姉さんには悪いけど、少しホッとしてしまった。
そして……その近くの席に、金井くんの姿があった。
席、近すぎじゃないか? 多分あれ、バレバレだぞ。二人とも気づいてない体で会話をしてるけど。
俺はラインを送って、金井くんを自分のテーブルへ呼び寄せた。さすがに消音はしてたみたいで、無音のままこちらに来た。
生身と会うのは久しぶりだけど……。美女に成長した千代子さんと違って、相変わらずの小動物系だ。
「なんで、そんなに落ち着いていられるんだよ。自分の恋人が、お見合いしてるっていうのに」
「顔が秋尋様の好みじゃないから、断るかと思って」
「はぁ? あんな美女を断るとか、あるわけないから! こんなチャンスきたら、これ幸いと婚約までいくに決まってる!!」
冷静さを欠いている。別れる、別れないの話までいってたのかな、これ。
「君はいいよね。背もすくすく伸びてさ。僕なんて背も……低いままだし、千代子さんには釣り合わないし。相手が近衛先輩だったのは驚いたけど、見て、ほら。誰もが羨む美男美女カップルだよ……」
……確かに。
あれ。心臓がバクバクしてきたぞ。金井くんの焦りが移ったか。
「いじけてる暇があったら、止めてきなよ、2人を」
そのほうが俺も安心できる。
正直なところ秋尋様は単なる痴話喧嘩に巻き込まれただけにしか見えないんだけど、それでも面白くはない。
多少顔が好みでなくても女性のほうがいいとか、変になびかれても困るし。……少し、デレデレして見えるし。ただでさえ嫉妬深い俺は、それだけでもう飛び出していきたくてたまらない。
「で、でも……」
「きっとあてつけだよ。君に止めてほしいに決まってる」
「そうかな……」
「何を悩む必要があるんだよ。出ていって嫌われたら終わりかもしれないけど、止めなくても終わりだろ?」
俺の場合は恋人関係が終わっても、使用人として傍にいられるというぬるま湯があるから二の足を踏んでしまうけど、金井くんはそうじゃない。今男を見せずにいつ見せるんだって話。
あてつけにしても他人を巻き込むほどならば、きっと……、本当にここで終わるぞ、金井くん。
「わかった。行ってくる」
金井くんはキリッとした面持ちで、2人が座るテーブルへ向かっていった。その足取りは、振り返って戻ってきそうなほどよろよろしていた。
何か話しているように見えるけど、ここまでは聴こえてこない。
声が出ていないのか、それとも異様に小さい声なのか。
ほどなくして金井くんが千代子さんの腕を掴んで喫茶店からの逃避行、という形で幕を閉じた。
秋尋様はそれを見送って、何事もなかったようにカップを傾けて中身を飲み干し、こちらを見た。目があった。驚いた様子はないから、すでにバレていたんだろう。
よし。ここからは俺とデートしてもらおう。あの様子なら、俺との恋人関係は継続だ。
俺は自分の席の伝票と金井くんの伝票を回収し、さっき婚約者予定殿が座っていた椅子に堂々と座った。
「お前は飛び出して来なかったな」
「破談になるってわかってましたから」
「いや、婚約したぞ」
「……えっ?」
「まあ、嘘だが」
「やめてください。心臓が止まります」
秋尋様がふっと笑う。
「残念ながらフられてしまった」
とても残念そうには見えなくて、ホッとする。
「秋尋様より金井くんを取るなんて、見る目がないですよね」
「それだけ好きだったんだろう。金井のことが」
「でも秋尋様の素晴らしさとは比べ物にならないのに……」
「なんだ。実は上手く婚約までいってほしかったのか?」
「そっ、それはないですけど! わかるでしょう。それだけ貴方のことが好きだからです」
秋尋様の言葉を真似て言い、細く綺麗な指先を摘んで引き寄せ、その先にキスをした。
「平坂くんに頼まれたからですか? こんな茶番に付き合うなんて。言ってくれればよかったのに。そっちのほうがショックです」
それとも本当は。金井くんカップルが上手くいかなかったら、本当に……婚約、してしまうつもりだったのかな。
「茶番だなんて言ってやるな。彼女、かなり思いつめていたみたいだぞ。別れる予定なんてないのに、金井のやつがそればかり気にしていると。僕らに少し、似ているだろう? 他人事とは思えなくてな」
似てるって……。確かに俺もその日がくるのを怯えて過ごしているけれど、それはそういう約束で恋人になったからなんですけど?
「俺はできれば、別れたくないです」
「そうか」
素っ気ない。秋尋様の気持ちがわからない。
そもそも、今回のことを俺に内緒にしていた理由にはなってないし。
「お前の言葉には、いつも遠慮がある。今も、できれば、と言った」
「だって、それは……」
「僕も婚約すると言った時のお前を見てみたかった。だから何も言わなかった」
「……待って。待ってください」
もし試されていたのだとしたら、考えられる上で最悪な反応をしてしまった。
でも。秋尋様はどうして試そうとしたのかな、とか。
他人事とは思えなかったってどういう意味かな、とか。
……色々考えると、あまりにも自分にとって、都合のいい結論しか出てこないんだけど。
けどさあ、俺、金井くんとは全然違うよ? 秋尋様が想う相手を殺してでも奪いたいくらい好きなんだよ? そういう反応、秋尋様にも見せてると思うし!
ただ、最終的には……、まあ。こう。結局……終わることを前提にしていたところはある。ご丁寧にも、せめて5年はなんて、自分でタイムリミットまでつけて。
それに泣いても縋ったりはしなかったはずだ。秋尋様が困るから。使用人としてでも傍にいられればそれでいいと思ってきた。
なのにこんな。こんな日がくるなんて。
もしかして誕生日の前日にあててきたのも、意味があるのでは? 昨日していた妄想が現実味を帯びてくる。
そ、そう。つまり。
これはプロポーズしてもいい流れではないか、と!
今こそ男を見せるべき。なのに言ってはいけないと思っていた期間が長すぎて、上手く言葉が出てこない。頭ん中真っ白。
ここで言えないのは馬鹿すぎる。心なしか秋尋様の視線も早く言えって訴えている気がしてきた。
貴方の所有物でいられれば、それだけでいいと思っていた。
それが、ご主人様と使用人の枠を越えて、恋人になれただけでも奇跡的で。
永遠を、望んでもいいのかな。俺、秋尋様のこと、諦めなくてもいいのかな。
「貴方の一生を、俺にください」
俺はずっと、言いたくても言えなかった想いを、言葉にのせた。
「嫌だと言ったら?」
「もう何を言われても、手放せません」
「んん……」
秋尋様はやや俯きがちに、否定とも肯定ともとれないような呟きをもらす。躊躇っているようにも見えた。
勝算があるから口にしたみたいな打算的なところが気に入らなかったんだろうか。
否定されても手放せないのだから、別に答えを求めているわけではない。それでも。我儘だとは思うけど、やっぱり秋尋様の気持ちも欲しかった。
「お前を……拾った時、顔は可愛いが酷い有様で、僕が護ってやらなければと思ったんだ。結婚して、護ってやろうって。蓋を開けてみれば、まったく逆になってしまった。結婚もできないし、護られているのは僕のほうだ」
「できない……ですか?」
「不服か? できなくても、手放さないんだろう?」
秋尋様はテーブルに置かれた俺の手をギュッと握った。
「……でも。もう誰とも、しないでいてやるから」
「秋尋様」
やばい。泣くどころじゃなくて、号泣しそう。
「お前とは色々あったから。中々素直にはなれないが……」
「あの。俺、そんなところも、お可愛らしくて好きなんです」
秋尋様はちょっと拗ねたような顔で、視線を逸らした。
「知ってる」
可愛すぎる。本当に、この人の全部、俺のモノなの?
「僕は……。お前に我儘を言われるのは、嫌いじゃない。だから、もう少し、何か言え」
目元が赤く染まっている。素直じゃないこの人の嫌いじゃないは好きって意味なんだろうし。こういう時、俺がどんなことを言うかも、きっとわかってるはずで。
「いますぐ、かえって、貴方をだきたい、です」
もっと自然に言いたかったのに、緊張のしすぎでたどたどしくなってしまった。童貞か。
それより、もう少し強引なことを言うべきだったのでは。
「あっ、いえ。だ、抱き潰します」
「潰されるのは、さすがに困るな」
言い直した俺に秋尋様はそう言って、あまり困ってはなさそうに笑った。
昨晩も散々したのに、今日はもうこの人をベッドから出せそうにない……。
握られた手のひらから、じんわりと幸せが広がった。
ただ、気持ちよくはできたと思う。可愛らしさのあまり、俺のほうもとろとろになってしまった。久しぶりに受け入れる側もしたけど、俺の中で快感を得てくれる様も幸せだった。
そんな甘い一夜を過ごしたのに、秋尋様は。
「では、今から行ってくる。ついてくるなよ」
ピシリと着替えをし、正午にもならないうちに出かけてしまった。
もちろん、ついていくに決まっている。
ありがたくもわざわざ宣言してくれたんだ。もはやこれは、ついてこいというフリだと思うほうが正しいでしょ?
俺から秋尋様を奪う……かも、しれない相手の顔くらいは、拝んでおかないと。
いつでも外出できるように支度はできてる。止める止めないは別として、ついていくことに躊躇いはなかった。
ホテルのレストランなどではなく、喫茶店。しかも昼間から。つまり、そんなに家柄のいい女性ではないことが推測される。
普通のお出かけならいざ知らず、近衛家レベルのお金持ちが見合いのような席に喫茶店を使うとは考えにくい。
一般的な恋人同士でもプロポーズの際には洒落たレストランで夜景を見ながら指輪を差し出す。それくらいはするだろう、多分。
そう思って入った喫茶店。秋尋様の対面に座る女性の姿に、俺は秋尋様から話を切り出された時以上の衝撃を受けた。
確かに俺がよく知る相手。そんなに親しいわけでもないけど、話だけはかなりの頻度で耳にしていたから。
そこにいたのは平坂くんのお姉さんだった。金井くんの彼女の、平坂千代子さん。お見合いの席だからだろうか。いつもよりもゴージャスな感じがする。あどけない感じは抜け、すっかり派手な美女になっている。
ちょっと前まで上手くいってないような話を聞いてはいたけど、最近はとんと話題に出さなくなってたから仲直りしたものだとばかり思ってたのに、まさか事態がここまで悪化していたなんて。
秋尋様と縁があって、家柄も容姿も頭脳も問題ない女性。スペックだけで見れば、相応しいし認められる。取り持ったのは平坂くんか?
でも。確かに美女だけど、秋尋様の好みではない。顔が。
だから平坂くんのお姉さんには悪いけど、少しホッとしてしまった。
そして……その近くの席に、金井くんの姿があった。
席、近すぎじゃないか? 多分あれ、バレバレだぞ。二人とも気づいてない体で会話をしてるけど。
俺はラインを送って、金井くんを自分のテーブルへ呼び寄せた。さすがに消音はしてたみたいで、無音のままこちらに来た。
生身と会うのは久しぶりだけど……。美女に成長した千代子さんと違って、相変わらずの小動物系だ。
「なんで、そんなに落ち着いていられるんだよ。自分の恋人が、お見合いしてるっていうのに」
「顔が秋尋様の好みじゃないから、断るかと思って」
「はぁ? あんな美女を断るとか、あるわけないから! こんなチャンスきたら、これ幸いと婚約までいくに決まってる!!」
冷静さを欠いている。別れる、別れないの話までいってたのかな、これ。
「君はいいよね。背もすくすく伸びてさ。僕なんて背も……低いままだし、千代子さんには釣り合わないし。相手が近衛先輩だったのは驚いたけど、見て、ほら。誰もが羨む美男美女カップルだよ……」
……確かに。
あれ。心臓がバクバクしてきたぞ。金井くんの焦りが移ったか。
「いじけてる暇があったら、止めてきなよ、2人を」
そのほうが俺も安心できる。
正直なところ秋尋様は単なる痴話喧嘩に巻き込まれただけにしか見えないんだけど、それでも面白くはない。
多少顔が好みでなくても女性のほうがいいとか、変になびかれても困るし。……少し、デレデレして見えるし。ただでさえ嫉妬深い俺は、それだけでもう飛び出していきたくてたまらない。
「で、でも……」
「きっとあてつけだよ。君に止めてほしいに決まってる」
「そうかな……」
「何を悩む必要があるんだよ。出ていって嫌われたら終わりかもしれないけど、止めなくても終わりだろ?」
俺の場合は恋人関係が終わっても、使用人として傍にいられるというぬるま湯があるから二の足を踏んでしまうけど、金井くんはそうじゃない。今男を見せずにいつ見せるんだって話。
あてつけにしても他人を巻き込むほどならば、きっと……、本当にここで終わるぞ、金井くん。
「わかった。行ってくる」
金井くんはキリッとした面持ちで、2人が座るテーブルへ向かっていった。その足取りは、振り返って戻ってきそうなほどよろよろしていた。
何か話しているように見えるけど、ここまでは聴こえてこない。
声が出ていないのか、それとも異様に小さい声なのか。
ほどなくして金井くんが千代子さんの腕を掴んで喫茶店からの逃避行、という形で幕を閉じた。
秋尋様はそれを見送って、何事もなかったようにカップを傾けて中身を飲み干し、こちらを見た。目があった。驚いた様子はないから、すでにバレていたんだろう。
よし。ここからは俺とデートしてもらおう。あの様子なら、俺との恋人関係は継続だ。
俺は自分の席の伝票と金井くんの伝票を回収し、さっき婚約者予定殿が座っていた椅子に堂々と座った。
「お前は飛び出して来なかったな」
「破談になるってわかってましたから」
「いや、婚約したぞ」
「……えっ?」
「まあ、嘘だが」
「やめてください。心臓が止まります」
秋尋様がふっと笑う。
「残念ながらフられてしまった」
とても残念そうには見えなくて、ホッとする。
「秋尋様より金井くんを取るなんて、見る目がないですよね」
「それだけ好きだったんだろう。金井のことが」
「でも秋尋様の素晴らしさとは比べ物にならないのに……」
「なんだ。実は上手く婚約までいってほしかったのか?」
「そっ、それはないですけど! わかるでしょう。それだけ貴方のことが好きだからです」
秋尋様の言葉を真似て言い、細く綺麗な指先を摘んで引き寄せ、その先にキスをした。
「平坂くんに頼まれたからですか? こんな茶番に付き合うなんて。言ってくれればよかったのに。そっちのほうがショックです」
それとも本当は。金井くんカップルが上手くいかなかったら、本当に……婚約、してしまうつもりだったのかな。
「茶番だなんて言ってやるな。彼女、かなり思いつめていたみたいだぞ。別れる予定なんてないのに、金井のやつがそればかり気にしていると。僕らに少し、似ているだろう? 他人事とは思えなくてな」
似てるって……。確かに俺もその日がくるのを怯えて過ごしているけれど、それはそういう約束で恋人になったからなんですけど?
「俺はできれば、別れたくないです」
「そうか」
素っ気ない。秋尋様の気持ちがわからない。
そもそも、今回のことを俺に内緒にしていた理由にはなってないし。
「お前の言葉には、いつも遠慮がある。今も、できれば、と言った」
「だって、それは……」
「僕も婚約すると言った時のお前を見てみたかった。だから何も言わなかった」
「……待って。待ってください」
もし試されていたのだとしたら、考えられる上で最悪な反応をしてしまった。
でも。秋尋様はどうして試そうとしたのかな、とか。
他人事とは思えなかったってどういう意味かな、とか。
……色々考えると、あまりにも自分にとって、都合のいい結論しか出てこないんだけど。
けどさあ、俺、金井くんとは全然違うよ? 秋尋様が想う相手を殺してでも奪いたいくらい好きなんだよ? そういう反応、秋尋様にも見せてると思うし!
ただ、最終的には……、まあ。こう。結局……終わることを前提にしていたところはある。ご丁寧にも、せめて5年はなんて、自分でタイムリミットまでつけて。
それに泣いても縋ったりはしなかったはずだ。秋尋様が困るから。使用人としてでも傍にいられればそれでいいと思ってきた。
なのにこんな。こんな日がくるなんて。
もしかして誕生日の前日にあててきたのも、意味があるのでは? 昨日していた妄想が現実味を帯びてくる。
そ、そう。つまり。
これはプロポーズしてもいい流れではないか、と!
今こそ男を見せるべき。なのに言ってはいけないと思っていた期間が長すぎて、上手く言葉が出てこない。頭ん中真っ白。
ここで言えないのは馬鹿すぎる。心なしか秋尋様の視線も早く言えって訴えている気がしてきた。
貴方の所有物でいられれば、それだけでいいと思っていた。
それが、ご主人様と使用人の枠を越えて、恋人になれただけでも奇跡的で。
永遠を、望んでもいいのかな。俺、秋尋様のこと、諦めなくてもいいのかな。
「貴方の一生を、俺にください」
俺はずっと、言いたくても言えなかった想いを、言葉にのせた。
「嫌だと言ったら?」
「もう何を言われても、手放せません」
「んん……」
秋尋様はやや俯きがちに、否定とも肯定ともとれないような呟きをもらす。躊躇っているようにも見えた。
勝算があるから口にしたみたいな打算的なところが気に入らなかったんだろうか。
否定されても手放せないのだから、別に答えを求めているわけではない。それでも。我儘だとは思うけど、やっぱり秋尋様の気持ちも欲しかった。
「お前を……拾った時、顔は可愛いが酷い有様で、僕が護ってやらなければと思ったんだ。結婚して、護ってやろうって。蓋を開けてみれば、まったく逆になってしまった。結婚もできないし、護られているのは僕のほうだ」
「できない……ですか?」
「不服か? できなくても、手放さないんだろう?」
秋尋様はテーブルに置かれた俺の手をギュッと握った。
「……でも。もう誰とも、しないでいてやるから」
「秋尋様」
やばい。泣くどころじゃなくて、号泣しそう。
「お前とは色々あったから。中々素直にはなれないが……」
「あの。俺、そんなところも、お可愛らしくて好きなんです」
秋尋様はちょっと拗ねたような顔で、視線を逸らした。
「知ってる」
可愛すぎる。本当に、この人の全部、俺のモノなの?
「僕は……。お前に我儘を言われるのは、嫌いじゃない。だから、もう少し、何か言え」
目元が赤く染まっている。素直じゃないこの人の嫌いじゃないは好きって意味なんだろうし。こういう時、俺がどんなことを言うかも、きっとわかってるはずで。
「いますぐ、かえって、貴方をだきたい、です」
もっと自然に言いたかったのに、緊張のしすぎでたどたどしくなってしまった。童貞か。
それより、もう少し強引なことを言うべきだったのでは。
「あっ、いえ。だ、抱き潰します」
「潰されるのは、さすがに困るな」
言い直した俺に秋尋様はそう言って、あまり困ってはなさそうに笑った。
昨晩も散々したのに、今日はもうこの人をベッドから出せそうにない……。
握られた手のひらから、じんわりと幸せが広がった。
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