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本編
おしおき(R18
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最近、ようやく慣れてきてくれたけど、今日はいつも以上に狭い。
「やっぱりローションがないとキツイですね」
「ん、うん……」
強い異物感があるらしく、東吾さんが苦しそうに浅く息をする。
せめても財布にコンドームはしのばせているけれど、さすがにローションまでは携帯していない。
持ち出して雪遊びをしていたのであれば、王子様にどんな無体を働く気だったのかって話だ。
でも唾液と先走りだけで二本の抽挿が容易いんだから、人体ってスゴイ。肉がちゃんと前よりも柔らかくなってるもんな……。
「でもせーたの指、気持ちいい……」
東吾さんが熱にのぼせたような表情で、たまに小さく短く喘ぐ。やばいエロさだ。
いつもとは違うシチュエーション。彼の部屋で彼を抱く。僕にはそれが許されてる。どころか、求めてくれてる。濡れた瞳が早くって言う。早く抱いて、せーたのモノにして、って。
そんな想いに応えるように下肢がくちりと音を立て、三本目の指をくわえこんだ。
「っあ……」
「思ったより早くほぐれましたね」
中がピッタリ吸いついてきて、僕を覚えてくれているみたいで嬉しい。
押し殺した吐息と粘着質な水音が東吾さんの広い部屋に響く。
それにしても、やらしい眺め。このキラキラした王子様が僕に内蔵を引っ掻き回されて喘ぐのは、何度目になっても征服欲を刺激される。
「も、いいから……。早く、せーた」
「でも、今日は無理すると僕も貴方も痛いですよ?」
「せーたが痛いのは、嫌だな」
自分が痛いのはいいのかな。
東吾さんを傷つけたくないけど、そろそろ辛抱たまらんのは事実。あと、ねだるの可愛い。早く欲しいってよりは、恥ずかしいからって感じがするけど。
溜め息ひとつついて指先の動きを再開しようとすると、腕を掴まれた。
「東吾さん?」
熱っぽい視線。何か言いたそうにしてる。
これ以上煽るような台詞を吐かれたら、さすがの僕でも限界だ。
東吾さんはもう片方の手で横に用意していたゴムを手にとってパッケージを開けた。
ま、まさか。つけてくれるつもりなのか? 今から自分の中に入るコレに。
「ようは濡らせばいいんだよね」
それってつまり。まさか、東吾さんがゴム越しに僕の、舐め……。
「ん……。ん? う、上手くつけられない。もう何度も見てるのに」
「ぶはっ」
東吾さんはやっぱり東吾さんだった。
今の一瞬、壮絶な色気で淫靡だったのに。思わず噴き出しちゃったじゃないか。
ルックスだけなら、抱かれてもいいとか、抱いて! と言いたくなるのに、やることなすことみんな可愛くて、愛したくてたまらなくなる。
噴き出した僕に拗ねたのか、ちょっと眉根を寄せているのもまたカワイイ。
「自分でつけます。今日はこれ一枚しかないから、破れたら困りますし」
「わかった」
素直に頷いてくれたはいいけど、じっと見てる……。凄い見てる。間近で。さすがにこれは恥ずかしい。
「あの。そんなにじっと見られると」
「はっ……!? す、すまない!」
自分が凝視しているモノの名称に今気づいたという感じに、東吾さんがバッと顔を背ける。
見られる恥ずかしさより、見られて大きくなったのがバレるほうが恥ずかしい。
だって仕方ないじゃないか。興奮する、こんなの。
「できたので、舐めてくれますか? 今度は見ても構わないので」
「あ、ああ」
王子様な見た目の東吾さんが僕の股間に顔を埋めて卑猥な肉の塊を舐める。その姿に背筋をゾクゾクとした快感がかけあがる。
ゴム越しとはいえ、本当に……。そこまで僕を好きでいてくれてるんだって、幸福感が溢れてくる。
……まあ、舐め方は可愛らしく舌を伸ばして仔猫がミルクでも飲むみたいにぴちゃぴちゃ舐めてるだけなんだけど。
味付きのコンドームとかにしておけば良かった。甘かったりしたら、貪欲にしゃぶってくれたかもしれない。
「気持ちいいです、東吾さん」
「んッ……」
東吾さんの頬を撫でて、そのまま白い背中に手のひらを這わせる。
何がきっかけになったのか、濡らすだけみたいだった舌の動きが急に変わった。裏筋を添って絡めて、押し付けるように舐っていく。ぬるぬると擦られると、腰が浮きそうになる。
これって……僕を感じさせようとしてくれてる?
そのうち舐めるだけじゃなく、口を開けてずぶずぶ上から飲み込んだ。
熱い口腔内にずっぽりくわえられるのヤバイ。動きは拙くてたまに歯が軽く当たるくらいなんだけど、熱い口内で扱かれると快感が断続的に続く。
このまま口でイキたい気もするけど、やっぱり東吾さんを僕のモノで気持ちよくさせたい。
「も、いいですよ」
口の端から零れた唾液を指先で拭うと、東吾さんが軽く目を見開いて僕から離れた。
「そうだね」
ごしごしと口の周りを擦りながら、少し気まずそうにしてる。
「……もしかして、途中から目的忘れてました?」
「だって……。君が気持ちいいと言うから」
あー、それで、濡らすのを中断して気持ちよくしようとしてくれたのか。可愛いなあ。
「じゃあ、次にしてくれる時は……貴方の口の中に出していいですか? 飲んでくれる?」
東吾さんの唇へ親指を突っ込みながら訊くと、恥ずかしそうに頷いてくれた。
……飲んでくれるのか。マジか。
嬉しい言質もとれたし、お互いの身体も準備万端だし、今は中に入りたい。
身体を俯せにしてもらって、後ろからゆっくりと腰を押し進めた。
「っ、ふ……う」
くぐもった呻きと共に、欲望が熱い快感に包まれる。
ちょっときついけど、摩擦が強いからひっかかって気持ちがいい。
幸い普通に入ったし、東吾さんも痛くはなさそう。
「今日は声、我慢しなくても大丈夫じゃないですか? 壁厚いでしょう、ここ」
真っ白いうなじに噛みつきながら囁くと、王子様は首を横に振った。
「君が聞いているから恥ずかしい……」
そりゃ聞くだろ! 僕はむちゃくちゃ聞くし、めちゃくちゃ聞きたい。
「僕、東吾さんのイイ声聞きたいな」
「男の低い声だし」
「何を今更」
低い声が掠れて甘くなるあの瞬間がたまんないのに。
せっかくだし、今日はたくさん聞きたいな。どうしたら心置きなく喘いでくれるだろ……。
「なら喘がなくてもいいので、僕の名前いっぱい呼んで、いっぱい好きって言って?」
こちらを振り向かせながら、おねだりと一緒にキスをする。東吾さんは途端にとろけた顔になった。
「っ……せーた、可愛い」
「うん。可愛い僕のために、お願い」
自分を可愛いと思ったことなんてないけど、対王子様にはやたら効果があることは重々承知。
「せーた、好き」
「うん」
「せー……、あっ、ああッ」
言葉を紡ぐ瞬間を狙って突き上げると、甘い声が上がって言葉は意味をなさなくなる。
「好……ひっ、あ、あッ」
それでも懸命に健気に僕の名前を、僕を好きだと言ってくれようとする東吾さんの姿に胸がいっぱいになる。
はあ、もう本当に可愛い。好き。
「可愛い」
耳をはぷっと噛むと、また甘い声で啜り泣いた。
「ず、ずる……ずるい、せーたあぁ」
ようやく僕の意図に気づいたらしく、恨み言も混じってるけど。
っていうか、考えたらわかりそうなものなのに。素直だな。
可愛すぎて煽られるし、喘ぐたびに中は締まるしで僕のほうがヤバイ、もたない。最高に気持ちいい。
「あ、ん、んっ……やだ、せーた、やっ……」
「何がやなんですか?」
「違う。好きだ。好きだけど……ッ、気持ちよすぎて、恥ずかしすぎて死にそうだ……」
僕も死んじゃいそう。
「あ、あ、あッ……せーたッ」
東吾さんが僕の名前を呼びながらびくびくと身体を震わせる。絶妙な動きで締め付けられて、僕も同時に熱を吐き出した。
気だるい心地好さを噛み締めながら、東吾さんの背中にぺったりと体重を預ける。
「はー……。名前を呼びながらイッてもらえるの、やっぱりイイですねー。求められてるみたいで」
あと、東吾さんの背中すべすべしてて気持ちいい。思わず頬擦りしてしまう。
「……私も、気持ちよかったよ。君の可愛い顔が見られなくて残念だったけど」
そして抱かれた側だってのに、発言はやっぱりキザなんだよな。虫の息みたいになってて、決まってはいないけど。
疲れさせてごめんなさい。でも可愛い。
「じゃあ、こっち向いて今からいっぱい見てください」
振り向かせて、チュッとキスをする。
「んう……ッ、は……。ちょっと、キスしてたら見えないだろう?」
東吾さんの声に咎めるような響きはなくて、むしろ甘々。
存分にいちゃこらした後で、現実の惨状に気づく。
そう……ここは、自分の部屋じゃない。東吾さんの実家。自分のぱんつ一枚洗ったことがなさそうな、東吾さんの実家なのだ。
「あの……。うっかりしてたんですけど、このシーツどうしましょう」
ベッドの上が汗と精液でぐちゃぐちゃになっている。この状態では今夜とても眠れそうにはない。
「東吾さん、自分で洗濯なんてしませんよね」
「何を言うんだい。初めは服をビリビリにしたり服の色をまだらにしていた私も、今では立派に…………」
そこまでドヤ顔で言って、東吾さんはハッと目を見開いた。
「この家には同じタイプの洗濯機がない」
多分気にするところそこじゃない。というか、機種が違ったら洗濯できなくなるのかよ……。そして色移りは洗濯初心者あるあるだけど、どうしたら破けるんだ?
「一人で暮らしていた時は自分で洗濯するのが当たり前だったかもしれませんが、この家では違いますよね」
「あ……」
「帰ってきていきなりシーツを洗い出したら、使用人さんたち、みんな驚くんじゃないでしょうか」
王子様にオネショ疑惑が流れてしまう。いや、オネショならまだいいほう。
「確かにそうだな。ど、どうしようか」
「僕が考えなしでした。すみません……」
とんだお仕置きになってしまった。こんなところで伏線を回収しなくてもいいのに。
「ABCの誰かに、ゴミ袋と新しいシーツを持ってきてもらうこと、できませんかね?」
「これを……捨てさせるのか」
「とりあえず、お茶か何かこぼしたことにして」
二人でそんなことを話し合っていると、外からノックの音が響いた。
あたふたしながらとりあえずパンツを穿いて証拠の隠滅をはかる。
「換気しましょう!」
「私はアロマをたくよ」
ファブリースじゃなくてアロマ。さすがだ。
窓を開けてからシーツを丸めてベッドの下に。乱れたベッドも形だけ整える。
「これで平気かな。ドアを開けよう」
「ま、待って東吾さん! 貴方パンツしか穿いてませんよ! そのまま出ないでください!!」
「ッ……。あ、ありがとう。バタバタしていたから。見苦しい姿を見せるところだったよ」
問題はそこじゃないし、見苦しくないし、恋人としては当然見せたくない。
僕も着替えて、慌ただしい雰囲気を落ち着けてからようやく扉を開けた。
そこには見慣れた巨体な黒服が。ここでもその服なのか。まさかそれが制服とか言わないよな。
「し、椎名じゃないか。どうしたんだい?」
「東吾様が伊尾様を連れて帰られたと聞き、挨拶に伺いました。お茶を持ってまいりましたので、入ってもよろしいでしょうか」
東吾さんが目線でこちらに尋ねてきたので、こくりと頷く。
ちょうどいいから、ゴミ袋と新しいシーツの手配をお願いしよう。
今夜は僕に用意された部屋で二人で寝ればいいとして、ずっとそのままってわけにはいかないしな。
それに……家族、ではないけど、家族のような存在が僕と東吾さんの関係を知ってかつ、表だった反対はしていないというのは励まされる。
ここは愛しい東吾さんが育った場所だけれど、今の僕にとってはある意味敵地とも言えるからだ。
ABCに関しては、一応中立陣営だとは思う。いや、東吾さん教とでもいうのか。東吾さんが僕を大切にしてくれるおかげで、必然的に僕の味方をしてくれている感じ。
「椎名の煎れた紅茶を飲むのも久しぶりだな」
広い部屋の一角に、大きめなソファとテーブルが用意されている。
C……椎名さんの巨体でも余裕で座れるけど、さすがに三人並ぶとちょっときつい。
「では失礼します」
何故当たり前のように、真ん中に座るんだ。そして、東吾さんも驚きもせず嬉しそうに横へ座り、そのふくよかな腹に顔を埋……。
「って、待て。待って。何してるんですか、東吾さん!」
「あっ。ついクセで」
「クセになるほど!?」
「東吾様は小さな頃から私めの腹がお好きでしたから……。相撲取りみたいでいいね、と言われた日から私はダイエットを諦めました」
東吾さん、なんて恐ろしい……。いや、元々ダイエットをしないための言い訳だったのかもしれないけど。
というか、いくら椎名さんが人のよい老人風でもこの光景は面白くないぞ。見苦しい嫉妬の嵐が腹の底から沸き起こる。
そもそも成人男性としてどうなんだ、これ。
「ほら、せーたもやってごらんよ」
東吾さんに手を引かれて、反対側のソファに腰を落とす。半ば無理やり頭を腹に押し付けられた。
「あ……」
こ、これは……。ぽよんとしてあったかい……。なんという素晴らしい肉布団だ。このぷよぷよさは相撲取りに失礼だと思うけど。
「どうだい?」
「いえ、気持ちいいとかそういうことじゃなくてですね」
そもそも、甘やかしすぎだ。子供でもないのに。いや、この人たちからは東吾さんがまだ子供に映っているのかもしれない。東吾さん自身、甘やかされて育ったと言っていた。
おんぼろアパートに住むハメになったのは、甘やかされて育った東吾さんの矯正のためだったらしいし。
その話を聞いた時は極端すぎると思ったけど、今はなんとなく理解できる。まあ僕も際限なく甘やかしたくなるもんなあ。
「いい歳をした男が、こう……」
というか、やるなら僕の腹に! 貧相だから薄いし硬いけど!
「も、もちろん、わかっているさ。私ももう、立派に独り立ちした男だからね」
今は無職だけどな……。
本当にわかっているのかいないのか。少なくとも腹に顔を埋めながら言う台詞じゃない。
「ああ、東吾様! しばらく見ないうちに立派になられて……!」
いやいや、アンタめっちゃ見てたし、見はってたし!
まあ確かに、隣に越してきたばかりの頃に比べて色んなことを自分でできるようになったとは思うけど。
「これも伊尾様のおかげですね」
「え、いや、そんな……」
「うん。せーたにはいっぱいお世話になったよ」
二人の時は慣れた東吾さんの王子様オーラも彼の使用人がいると再びキラキラと輝きだし、無駄に緊張する。そんな状態で話をふられて、ついうろたえてしまった。
褒められるのは苦手なほうだ。どうしていいかわからなくなる。
……東吾さんに、感心されたり褒められたりするのは凄く嬉しいんだけどな。
「東吾様もこう言っておられますし、私どもは最大限のおもてなしを伊尾様にしたいと考えております。ディナーのリクエストやご入り用のものなど、なんでも仰ってください」
夫妻も夕飯は部屋に運ばせると言っていたから、椎名さんはリクエストを聞くついでに挨拶にきたのかもしれない。
しかし。息子さんに致してることを考えると微妙に罪悪感がわくオモテナシっぷりだ。
「それじゃあ、ゴミ袋と新しいシーツを」
「は? ゴミ袋とシーツ……ですか?」
「あっ、さっ、さっきお茶をこぼしてしまってね!」
東吾さんガチ不自然すぎる。
そんなふうに髪をかきあげると、さっき僕がうなじにつけた跡が見え……。あ、気づかれた。椎名さん、固まってる。
「……かしこまりました。すぐに手配いたしましょう」
これは確実に察された。
バレて気恥ずかしいけど、こればっかりは。
「伊尾様」
「ハ、ハイ」
「あまり東吾様に負担をかけないようにお願いします」
「ハイ」
見た目でいうなら僕が東吾さんに抱かれてるって感じなのに、この反応。やっぱり何か見られてたのかな……。
「せ、せーたは何も悪くないんだ! わ、私が……」
何を言うつもりだ。アレなことを言われたら気まずいってレベルじゃない。
「東吾さん、お茶!」
「そう、お茶を飲んだから!」
「……」
「…………」
こぼしたエピソードはどこに消えちゃったんですか。別にお茶を飲んでもシーツは汚れませんよ。漏らしでもしない限りは。
東吾さんが堂々とドヤ顔をしているものだから、おかしな笑いが込み上げてきた。笑っちゃいけないと思うから尚更。
「と、東吾さん、お茶……こぼしたんですよね?」
「あ……。そ、そうだ。うん、そう」
東吾さんは顔を赤くして、こくこくと頷いている。
「ところで夕飯のほうはいかがされますか?」
ここで何事もなかったようにさらりと話題を変える椎名さんカッコいい。
「そうだね。今日は簡単に食べたいからホットサンドか何かを運んでもらう感じでいいかな、せーた」
「僕もそのほうがありがたいです」
「では肉と魚、どちらにいたしましょう」
「えっ? に、肉……」
サンドイッチなのに中身を聞くのか。僕が少食だからかな。
「せーたは意外と肉食だよね」
王子様の言うことだからシモな意味なんてないとわかっているのに、ベストタイミング過ぎて噴きそうになった。
……東吾さん、自分でも何を言ってるかわからなくなってきてるのかもしれない。
「かしこまりました。ビーフのホットサンドを多目に用意します。19時頃にお持ちいたしますので……」
椎名さんが僕に視線を寄越す。
わかってます、わかってます。その時刻には王子様にちょっかいかけませんから!
妙な緊張感が残る中、椎名さんは丁寧なお辞儀と共に退室していった。
「ああー、心臓に悪い!」
「はは……。何をしていたか確実にばれたかな……。私の嘘が下手なせいで」
「いや。東吾さんのせいばっかりでも……」
僕はソファの上で東吾さんににじりよって、その後ろ髪をかきあげる。真っ白いうなじに、僕の残した赤い跡。なぞるようにそっとキスをした。
「んっ、せ……せーた?」
さっきの今だからか、東吾さんの身体に軽い抵抗と戸惑いが見える。
……押さえつけたくなるあたり、僕に反省の色は見られない。
「ココ、僕がつけた跡が残ってるんですよね」
「え、え!?」
東吾さんが頬を赤らめて、うなじを手のひらでパッと覆う。
「見えたのかな……」
「バッチリと」
「想像以上に恥ずかしいものだな」
情事を親に見られたような気まずさがあるんだろう。
僕も気まずいと言えば気まずいけど、身内ではないし何より突っ込む側だからな……。
「すみません。かきあげなければ見えないだろうと思って」
「いや、いいんだ。君に跡を残されるのは嫌ではないし……」
そんなことを言いながら、僕がつけた跡を愛しそうにさすさすと撫で擦っている。東吾さんがこれだから、僕が調子に乗るのも仕方ない。
心地の好いソファで贅沢に足を伸ばしながら、東吾さんに覆い被さって思う存分じゃれつく。今はまだイチャイチャしていても大丈夫。
「……そうだ、せーた。夕飯までまだ少しあるけど、お風呂に入るかい?」
「一緒に?」
「さ、さすがに別々だ……」
「なんだ甘ったるい息を吐きながら言われたから、誘われてるのかと思った」
「それは君がやたら首を舐めるからだろう」
東吾さんだってノリノリで頬にキスしたり、腰を抱いたりしてきたくせに。
「やっぱり東吾さんの家なら、全自動なんですか? お風呂」
「というか、循環しながら常に沸いているかな」
予想以上だった。いかに自分が貧乏じみているかがわかるな。
「初めてあのアパートのお風呂を見た時は衝撃的だった……。湯が溜まるまでひたすら見ていたね」
王子様がドラム缶みたいに小さなお風呂の湯が溜まるのをジッと見ているのを想像すると、シュールすぎて笑ってしまう。きっと微動だにせず見つめていたんだろう。
「せめて、溜まったら音がなるとか止まるとかしてくれたらいいんですけど」
「それはありがたい機能だね」
それでも、この家の風呂から見たら全然なんだけど。
「東吾さんは入らないんですか?」
「君のあとに」
「そんな。入るならお先にどうぞ」
「今、心臓がびっくりしてるからあとにする」
なんだそれ可愛い。
僕に対して甘えた言動増えたよなあ。幸せを感じる。
「わかりました。あと10回、キスしたら行きます」
「それは……心臓がおさまらないな」
東吾さんはふふっと笑って、僕の唇に啄むようなキスをした。
僕だって、いつも貴方にドキドキしてます。
「やっぱりローションがないとキツイですね」
「ん、うん……」
強い異物感があるらしく、東吾さんが苦しそうに浅く息をする。
せめても財布にコンドームはしのばせているけれど、さすがにローションまでは携帯していない。
持ち出して雪遊びをしていたのであれば、王子様にどんな無体を働く気だったのかって話だ。
でも唾液と先走りだけで二本の抽挿が容易いんだから、人体ってスゴイ。肉がちゃんと前よりも柔らかくなってるもんな……。
「でもせーたの指、気持ちいい……」
東吾さんが熱にのぼせたような表情で、たまに小さく短く喘ぐ。やばいエロさだ。
いつもとは違うシチュエーション。彼の部屋で彼を抱く。僕にはそれが許されてる。どころか、求めてくれてる。濡れた瞳が早くって言う。早く抱いて、せーたのモノにして、って。
そんな想いに応えるように下肢がくちりと音を立て、三本目の指をくわえこんだ。
「っあ……」
「思ったより早くほぐれましたね」
中がピッタリ吸いついてきて、僕を覚えてくれているみたいで嬉しい。
押し殺した吐息と粘着質な水音が東吾さんの広い部屋に響く。
それにしても、やらしい眺め。このキラキラした王子様が僕に内蔵を引っ掻き回されて喘ぐのは、何度目になっても征服欲を刺激される。
「も、いいから……。早く、せーた」
「でも、今日は無理すると僕も貴方も痛いですよ?」
「せーたが痛いのは、嫌だな」
自分が痛いのはいいのかな。
東吾さんを傷つけたくないけど、そろそろ辛抱たまらんのは事実。あと、ねだるの可愛い。早く欲しいってよりは、恥ずかしいからって感じがするけど。
溜め息ひとつついて指先の動きを再開しようとすると、腕を掴まれた。
「東吾さん?」
熱っぽい視線。何か言いたそうにしてる。
これ以上煽るような台詞を吐かれたら、さすがの僕でも限界だ。
東吾さんはもう片方の手で横に用意していたゴムを手にとってパッケージを開けた。
ま、まさか。つけてくれるつもりなのか? 今から自分の中に入るコレに。
「ようは濡らせばいいんだよね」
それってつまり。まさか、東吾さんがゴム越しに僕の、舐め……。
「ん……。ん? う、上手くつけられない。もう何度も見てるのに」
「ぶはっ」
東吾さんはやっぱり東吾さんだった。
今の一瞬、壮絶な色気で淫靡だったのに。思わず噴き出しちゃったじゃないか。
ルックスだけなら、抱かれてもいいとか、抱いて! と言いたくなるのに、やることなすことみんな可愛くて、愛したくてたまらなくなる。
噴き出した僕に拗ねたのか、ちょっと眉根を寄せているのもまたカワイイ。
「自分でつけます。今日はこれ一枚しかないから、破れたら困りますし」
「わかった」
素直に頷いてくれたはいいけど、じっと見てる……。凄い見てる。間近で。さすがにこれは恥ずかしい。
「あの。そんなにじっと見られると」
「はっ……!? す、すまない!」
自分が凝視しているモノの名称に今気づいたという感じに、東吾さんがバッと顔を背ける。
見られる恥ずかしさより、見られて大きくなったのがバレるほうが恥ずかしい。
だって仕方ないじゃないか。興奮する、こんなの。
「できたので、舐めてくれますか? 今度は見ても構わないので」
「あ、ああ」
王子様な見た目の東吾さんが僕の股間に顔を埋めて卑猥な肉の塊を舐める。その姿に背筋をゾクゾクとした快感がかけあがる。
ゴム越しとはいえ、本当に……。そこまで僕を好きでいてくれてるんだって、幸福感が溢れてくる。
……まあ、舐め方は可愛らしく舌を伸ばして仔猫がミルクでも飲むみたいにぴちゃぴちゃ舐めてるだけなんだけど。
味付きのコンドームとかにしておけば良かった。甘かったりしたら、貪欲にしゃぶってくれたかもしれない。
「気持ちいいです、東吾さん」
「んッ……」
東吾さんの頬を撫でて、そのまま白い背中に手のひらを這わせる。
何がきっかけになったのか、濡らすだけみたいだった舌の動きが急に変わった。裏筋を添って絡めて、押し付けるように舐っていく。ぬるぬると擦られると、腰が浮きそうになる。
これって……僕を感じさせようとしてくれてる?
そのうち舐めるだけじゃなく、口を開けてずぶずぶ上から飲み込んだ。
熱い口腔内にずっぽりくわえられるのヤバイ。動きは拙くてたまに歯が軽く当たるくらいなんだけど、熱い口内で扱かれると快感が断続的に続く。
このまま口でイキたい気もするけど、やっぱり東吾さんを僕のモノで気持ちよくさせたい。
「も、いいですよ」
口の端から零れた唾液を指先で拭うと、東吾さんが軽く目を見開いて僕から離れた。
「そうだね」
ごしごしと口の周りを擦りながら、少し気まずそうにしてる。
「……もしかして、途中から目的忘れてました?」
「だって……。君が気持ちいいと言うから」
あー、それで、濡らすのを中断して気持ちよくしようとしてくれたのか。可愛いなあ。
「じゃあ、次にしてくれる時は……貴方の口の中に出していいですか? 飲んでくれる?」
東吾さんの唇へ親指を突っ込みながら訊くと、恥ずかしそうに頷いてくれた。
……飲んでくれるのか。マジか。
嬉しい言質もとれたし、お互いの身体も準備万端だし、今は中に入りたい。
身体を俯せにしてもらって、後ろからゆっくりと腰を押し進めた。
「っ、ふ……う」
くぐもった呻きと共に、欲望が熱い快感に包まれる。
ちょっときついけど、摩擦が強いからひっかかって気持ちがいい。
幸い普通に入ったし、東吾さんも痛くはなさそう。
「今日は声、我慢しなくても大丈夫じゃないですか? 壁厚いでしょう、ここ」
真っ白いうなじに噛みつきながら囁くと、王子様は首を横に振った。
「君が聞いているから恥ずかしい……」
そりゃ聞くだろ! 僕はむちゃくちゃ聞くし、めちゃくちゃ聞きたい。
「僕、東吾さんのイイ声聞きたいな」
「男の低い声だし」
「何を今更」
低い声が掠れて甘くなるあの瞬間がたまんないのに。
せっかくだし、今日はたくさん聞きたいな。どうしたら心置きなく喘いでくれるだろ……。
「なら喘がなくてもいいので、僕の名前いっぱい呼んで、いっぱい好きって言って?」
こちらを振り向かせながら、おねだりと一緒にキスをする。東吾さんは途端にとろけた顔になった。
「っ……せーた、可愛い」
「うん。可愛い僕のために、お願い」
自分を可愛いと思ったことなんてないけど、対王子様にはやたら効果があることは重々承知。
「せーた、好き」
「うん」
「せー……、あっ、ああッ」
言葉を紡ぐ瞬間を狙って突き上げると、甘い声が上がって言葉は意味をなさなくなる。
「好……ひっ、あ、あッ」
それでも懸命に健気に僕の名前を、僕を好きだと言ってくれようとする東吾さんの姿に胸がいっぱいになる。
はあ、もう本当に可愛い。好き。
「可愛い」
耳をはぷっと噛むと、また甘い声で啜り泣いた。
「ず、ずる……ずるい、せーたあぁ」
ようやく僕の意図に気づいたらしく、恨み言も混じってるけど。
っていうか、考えたらわかりそうなものなのに。素直だな。
可愛すぎて煽られるし、喘ぐたびに中は締まるしで僕のほうがヤバイ、もたない。最高に気持ちいい。
「あ、ん、んっ……やだ、せーた、やっ……」
「何がやなんですか?」
「違う。好きだ。好きだけど……ッ、気持ちよすぎて、恥ずかしすぎて死にそうだ……」
僕も死んじゃいそう。
「あ、あ、あッ……せーたッ」
東吾さんが僕の名前を呼びながらびくびくと身体を震わせる。絶妙な動きで締め付けられて、僕も同時に熱を吐き出した。
気だるい心地好さを噛み締めながら、東吾さんの背中にぺったりと体重を預ける。
「はー……。名前を呼びながらイッてもらえるの、やっぱりイイですねー。求められてるみたいで」
あと、東吾さんの背中すべすべしてて気持ちいい。思わず頬擦りしてしまう。
「……私も、気持ちよかったよ。君の可愛い顔が見られなくて残念だったけど」
そして抱かれた側だってのに、発言はやっぱりキザなんだよな。虫の息みたいになってて、決まってはいないけど。
疲れさせてごめんなさい。でも可愛い。
「じゃあ、こっち向いて今からいっぱい見てください」
振り向かせて、チュッとキスをする。
「んう……ッ、は……。ちょっと、キスしてたら見えないだろう?」
東吾さんの声に咎めるような響きはなくて、むしろ甘々。
存分にいちゃこらした後で、現実の惨状に気づく。
そう……ここは、自分の部屋じゃない。東吾さんの実家。自分のぱんつ一枚洗ったことがなさそうな、東吾さんの実家なのだ。
「あの……。うっかりしてたんですけど、このシーツどうしましょう」
ベッドの上が汗と精液でぐちゃぐちゃになっている。この状態では今夜とても眠れそうにはない。
「東吾さん、自分で洗濯なんてしませんよね」
「何を言うんだい。初めは服をビリビリにしたり服の色をまだらにしていた私も、今では立派に…………」
そこまでドヤ顔で言って、東吾さんはハッと目を見開いた。
「この家には同じタイプの洗濯機がない」
多分気にするところそこじゃない。というか、機種が違ったら洗濯できなくなるのかよ……。そして色移りは洗濯初心者あるあるだけど、どうしたら破けるんだ?
「一人で暮らしていた時は自分で洗濯するのが当たり前だったかもしれませんが、この家では違いますよね」
「あ……」
「帰ってきていきなりシーツを洗い出したら、使用人さんたち、みんな驚くんじゃないでしょうか」
王子様にオネショ疑惑が流れてしまう。いや、オネショならまだいいほう。
「確かにそうだな。ど、どうしようか」
「僕が考えなしでした。すみません……」
とんだお仕置きになってしまった。こんなところで伏線を回収しなくてもいいのに。
「ABCの誰かに、ゴミ袋と新しいシーツを持ってきてもらうこと、できませんかね?」
「これを……捨てさせるのか」
「とりあえず、お茶か何かこぼしたことにして」
二人でそんなことを話し合っていると、外からノックの音が響いた。
あたふたしながらとりあえずパンツを穿いて証拠の隠滅をはかる。
「換気しましょう!」
「私はアロマをたくよ」
ファブリースじゃなくてアロマ。さすがだ。
窓を開けてからシーツを丸めてベッドの下に。乱れたベッドも形だけ整える。
「これで平気かな。ドアを開けよう」
「ま、待って東吾さん! 貴方パンツしか穿いてませんよ! そのまま出ないでください!!」
「ッ……。あ、ありがとう。バタバタしていたから。見苦しい姿を見せるところだったよ」
問題はそこじゃないし、見苦しくないし、恋人としては当然見せたくない。
僕も着替えて、慌ただしい雰囲気を落ち着けてからようやく扉を開けた。
そこには見慣れた巨体な黒服が。ここでもその服なのか。まさかそれが制服とか言わないよな。
「し、椎名じゃないか。どうしたんだい?」
「東吾様が伊尾様を連れて帰られたと聞き、挨拶に伺いました。お茶を持ってまいりましたので、入ってもよろしいでしょうか」
東吾さんが目線でこちらに尋ねてきたので、こくりと頷く。
ちょうどいいから、ゴミ袋と新しいシーツの手配をお願いしよう。
今夜は僕に用意された部屋で二人で寝ればいいとして、ずっとそのままってわけにはいかないしな。
それに……家族、ではないけど、家族のような存在が僕と東吾さんの関係を知ってかつ、表だった反対はしていないというのは励まされる。
ここは愛しい東吾さんが育った場所だけれど、今の僕にとってはある意味敵地とも言えるからだ。
ABCに関しては、一応中立陣営だとは思う。いや、東吾さん教とでもいうのか。東吾さんが僕を大切にしてくれるおかげで、必然的に僕の味方をしてくれている感じ。
「椎名の煎れた紅茶を飲むのも久しぶりだな」
広い部屋の一角に、大きめなソファとテーブルが用意されている。
C……椎名さんの巨体でも余裕で座れるけど、さすがに三人並ぶとちょっときつい。
「では失礼します」
何故当たり前のように、真ん中に座るんだ。そして、東吾さんも驚きもせず嬉しそうに横へ座り、そのふくよかな腹に顔を埋……。
「って、待て。待って。何してるんですか、東吾さん!」
「あっ。ついクセで」
「クセになるほど!?」
「東吾様は小さな頃から私めの腹がお好きでしたから……。相撲取りみたいでいいね、と言われた日から私はダイエットを諦めました」
東吾さん、なんて恐ろしい……。いや、元々ダイエットをしないための言い訳だったのかもしれないけど。
というか、いくら椎名さんが人のよい老人風でもこの光景は面白くないぞ。見苦しい嫉妬の嵐が腹の底から沸き起こる。
そもそも成人男性としてどうなんだ、これ。
「ほら、せーたもやってごらんよ」
東吾さんに手を引かれて、反対側のソファに腰を落とす。半ば無理やり頭を腹に押し付けられた。
「あ……」
こ、これは……。ぽよんとしてあったかい……。なんという素晴らしい肉布団だ。このぷよぷよさは相撲取りに失礼だと思うけど。
「どうだい?」
「いえ、気持ちいいとかそういうことじゃなくてですね」
そもそも、甘やかしすぎだ。子供でもないのに。いや、この人たちからは東吾さんがまだ子供に映っているのかもしれない。東吾さん自身、甘やかされて育ったと言っていた。
おんぼろアパートに住むハメになったのは、甘やかされて育った東吾さんの矯正のためだったらしいし。
その話を聞いた時は極端すぎると思ったけど、今はなんとなく理解できる。まあ僕も際限なく甘やかしたくなるもんなあ。
「いい歳をした男が、こう……」
というか、やるなら僕の腹に! 貧相だから薄いし硬いけど!
「も、もちろん、わかっているさ。私ももう、立派に独り立ちした男だからね」
今は無職だけどな……。
本当にわかっているのかいないのか。少なくとも腹に顔を埋めながら言う台詞じゃない。
「ああ、東吾様! しばらく見ないうちに立派になられて……!」
いやいや、アンタめっちゃ見てたし、見はってたし!
まあ確かに、隣に越してきたばかりの頃に比べて色んなことを自分でできるようになったとは思うけど。
「これも伊尾様のおかげですね」
「え、いや、そんな……」
「うん。せーたにはいっぱいお世話になったよ」
二人の時は慣れた東吾さんの王子様オーラも彼の使用人がいると再びキラキラと輝きだし、無駄に緊張する。そんな状態で話をふられて、ついうろたえてしまった。
褒められるのは苦手なほうだ。どうしていいかわからなくなる。
……東吾さんに、感心されたり褒められたりするのは凄く嬉しいんだけどな。
「東吾様もこう言っておられますし、私どもは最大限のおもてなしを伊尾様にしたいと考えております。ディナーのリクエストやご入り用のものなど、なんでも仰ってください」
夫妻も夕飯は部屋に運ばせると言っていたから、椎名さんはリクエストを聞くついでに挨拶にきたのかもしれない。
しかし。息子さんに致してることを考えると微妙に罪悪感がわくオモテナシっぷりだ。
「それじゃあ、ゴミ袋と新しいシーツを」
「は? ゴミ袋とシーツ……ですか?」
「あっ、さっ、さっきお茶をこぼしてしまってね!」
東吾さんガチ不自然すぎる。
そんなふうに髪をかきあげると、さっき僕がうなじにつけた跡が見え……。あ、気づかれた。椎名さん、固まってる。
「……かしこまりました。すぐに手配いたしましょう」
これは確実に察された。
バレて気恥ずかしいけど、こればっかりは。
「伊尾様」
「ハ、ハイ」
「あまり東吾様に負担をかけないようにお願いします」
「ハイ」
見た目でいうなら僕が東吾さんに抱かれてるって感じなのに、この反応。やっぱり何か見られてたのかな……。
「せ、せーたは何も悪くないんだ! わ、私が……」
何を言うつもりだ。アレなことを言われたら気まずいってレベルじゃない。
「東吾さん、お茶!」
「そう、お茶を飲んだから!」
「……」
「…………」
こぼしたエピソードはどこに消えちゃったんですか。別にお茶を飲んでもシーツは汚れませんよ。漏らしでもしない限りは。
東吾さんが堂々とドヤ顔をしているものだから、おかしな笑いが込み上げてきた。笑っちゃいけないと思うから尚更。
「と、東吾さん、お茶……こぼしたんですよね?」
「あ……。そ、そうだ。うん、そう」
東吾さんは顔を赤くして、こくこくと頷いている。
「ところで夕飯のほうはいかがされますか?」
ここで何事もなかったようにさらりと話題を変える椎名さんカッコいい。
「そうだね。今日は簡単に食べたいからホットサンドか何かを運んでもらう感じでいいかな、せーた」
「僕もそのほうがありがたいです」
「では肉と魚、どちらにいたしましょう」
「えっ? に、肉……」
サンドイッチなのに中身を聞くのか。僕が少食だからかな。
「せーたは意外と肉食だよね」
王子様の言うことだからシモな意味なんてないとわかっているのに、ベストタイミング過ぎて噴きそうになった。
……東吾さん、自分でも何を言ってるかわからなくなってきてるのかもしれない。
「かしこまりました。ビーフのホットサンドを多目に用意します。19時頃にお持ちいたしますので……」
椎名さんが僕に視線を寄越す。
わかってます、わかってます。その時刻には王子様にちょっかいかけませんから!
妙な緊張感が残る中、椎名さんは丁寧なお辞儀と共に退室していった。
「ああー、心臓に悪い!」
「はは……。何をしていたか確実にばれたかな……。私の嘘が下手なせいで」
「いや。東吾さんのせいばっかりでも……」
僕はソファの上で東吾さんににじりよって、その後ろ髪をかきあげる。真っ白いうなじに、僕の残した赤い跡。なぞるようにそっとキスをした。
「んっ、せ……せーた?」
さっきの今だからか、東吾さんの身体に軽い抵抗と戸惑いが見える。
……押さえつけたくなるあたり、僕に反省の色は見られない。
「ココ、僕がつけた跡が残ってるんですよね」
「え、え!?」
東吾さんが頬を赤らめて、うなじを手のひらでパッと覆う。
「見えたのかな……」
「バッチリと」
「想像以上に恥ずかしいものだな」
情事を親に見られたような気まずさがあるんだろう。
僕も気まずいと言えば気まずいけど、身内ではないし何より突っ込む側だからな……。
「すみません。かきあげなければ見えないだろうと思って」
「いや、いいんだ。君に跡を残されるのは嫌ではないし……」
そんなことを言いながら、僕がつけた跡を愛しそうにさすさすと撫で擦っている。東吾さんがこれだから、僕が調子に乗るのも仕方ない。
心地の好いソファで贅沢に足を伸ばしながら、東吾さんに覆い被さって思う存分じゃれつく。今はまだイチャイチャしていても大丈夫。
「……そうだ、せーた。夕飯までまだ少しあるけど、お風呂に入るかい?」
「一緒に?」
「さ、さすがに別々だ……」
「なんだ甘ったるい息を吐きながら言われたから、誘われてるのかと思った」
「それは君がやたら首を舐めるからだろう」
東吾さんだってノリノリで頬にキスしたり、腰を抱いたりしてきたくせに。
「やっぱり東吾さんの家なら、全自動なんですか? お風呂」
「というか、循環しながら常に沸いているかな」
予想以上だった。いかに自分が貧乏じみているかがわかるな。
「初めてあのアパートのお風呂を見た時は衝撃的だった……。湯が溜まるまでひたすら見ていたね」
王子様がドラム缶みたいに小さなお風呂の湯が溜まるのをジッと見ているのを想像すると、シュールすぎて笑ってしまう。きっと微動だにせず見つめていたんだろう。
「せめて、溜まったら音がなるとか止まるとかしてくれたらいいんですけど」
「それはありがたい機能だね」
それでも、この家の風呂から見たら全然なんだけど。
「東吾さんは入らないんですか?」
「君のあとに」
「そんな。入るならお先にどうぞ」
「今、心臓がびっくりしてるからあとにする」
なんだそれ可愛い。
僕に対して甘えた言動増えたよなあ。幸せを感じる。
「わかりました。あと10回、キスしたら行きます」
「それは……心臓がおさまらないな」
東吾さんはふふっと笑って、僕の唇に啄むようなキスをした。
僕だって、いつも貴方にドキドキしてます。
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