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本編
隣の王子様
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「本当に、またもやこんなボロアパートで良かったんですか?」
「前のところよりは広くて綺麗だよ。それに住んでる人もいるんだから、そんなことは言うものじゃない。こういうのも趣(おもむき)があっていい」
東吾さん、実は単にボロアパートが趣味なんじゃって気がしなくもない。お金持ちだとかえって新鮮でイイ、みたいな?
今度の物件は2DKなので、自室の他にダイニングもある。角部屋でお隣の部屋は三人家族。東吾さんが暮らすにあたって、周りの治安なども色々調べてくれた。
今日から僕と東吾さんは、ここで二人暮しをすることになる。
本格的な同棲生活が始まるんだ。
中へ入ると、畳の和室には不釣り合いな真新しい家具が一式入っている。トイレもウォッシュレットだ。他にも色々グレードアップされている。
僕は王子様に初めてできた友達兼、ルームシェアの相手ということでかなりの厚待遇。家賃を半分払いたいという意見もきいてくれて、でもできる限りのことはするよと言われて、こんな感じになった。
「前の部屋よりだいぶ広いね。部屋が他にもあるよ」
「そうですね」
食べるところは別にあるし、それぞれの部屋もある。前もある意味2部屋みたいなもんだったから、今はお互いを隔てる壁が薄くなっただけって感じだ。
「私の部屋のほうを、寝室扱いにしようか」
寝るのは一緒らしい……。ちなみに、ベッドじゃなくて布団だ。
少なくとも僕は部屋を散らかす習慣がないから、どちらの部屋を寝室にしてもさして問題ない。物がないだけとも言う。
「せーた、見て見て! お湯のパネルにお風呂ボタンがあるよ! これを押せば自動でお湯が溜まるのかな」
「便利でいいですね」
でも残念ながら追い焚きの機能はないっぽい。そして浴槽はやっぱり二人で入るには狭そう。……頑張ればなんとか。
「嬉しいな。せーたと一緒だ……。君の隣に越した時は、こうなるなんて思わなかった。今思えば運命的なものは感じていたけど」
「そうなんですか?」
「美しいなって……」
それは単に見た目が好みだっただけでは。あれ社交辞令じゃなかったのか。褒めるのが礼儀とか言ってたのに。
……僕は、第一印象に関してはまあ。本当に、まさかこうなるなんて……だな。
「僕はなんかまだ、夢でも見ているみたいです。誰かと暮らすなんて」
「しばらく同居していたじゃないか」
「あれは居候っていうんですよ」
新しいアパート。お付き合いしている恋人と二人暮らし。
わかってはいたのに、いざとなると思考がついていかない。
「なんか元気がないね。やはり、嫌だったかい?」
「逆です。幸せすぎて、ちょっと怖い。今噛みしめてます」
東吾さんが、ぎゅうと抱きしめてくれた。
これからこの人が、僕の家族になるんだ。こんなキラッキラした人が。
改めて見ても、この部屋には不釣り合いな外見。
「せーた」
前まではよく頬にキスをしてくれたけど、最近は直接唇にくる。
「東吾さん。僕、貴方のことが大好きです」
「私もだよ」
「僕はね、結婚をしたいとも家庭を作りたいとも思ってなかったけど、貴方とだったら歩いていきたい。きっと毎日退屈しないだろうな」
「プロポーズみたいだ」
「それはもう少し待ってください。大学卒業して、就職したらちゃんとさせて?」
「……うん」
いい雰囲気だったのに、隣からドッと女の子の笑い声。予想はしてたけど、ここも壁が薄いらしい。
赤くなって身体を離す東吾さん。
……僕に経済力がついて、このアパートを出るときはまず第一に壁の厚さで選ぼう。
「引っ越し蕎麦、渡しに行ってくる」
「あ、僕も行きます」
前までなら、これも面倒だってやらなかっただろうな。今は東吾さんとすることならなんでも楽しいというか。
蕎麦は僕の指示で無難な値段のものをチョイス。東吾さんが越してきた時に貰った蕎麦の値段を見て目が飛び出たよね。美味しいはずだよ。
二人で外へ出て、隣のインターフォンを押す。前のアパートと違ってひび割れたような音はしない。
「はーい」
女性の高い声。ドアの前に立つ東吾さん。横で見守る僕。
並んで立っているのも相手に威圧感を与えそうだから、少し離れたとこに。
ドアが開いて、女子中学生くらいの女の子が出てきた。
「お隣に越してきました。これ、引っ越し蕎麦です。」
「あっ……あの、ありがとうございます! 家族に渡します」
女の子はぺこりとお辞儀をして、蕎麦を受け取り慌てたように部屋の中に戻っていった。
「おかーさん、おかーさん! なんか王子様が来たんだけど! 本当だって! めっちゃ王子様!」
声、丸聞こえだし。
「ぶふっ……」
思わず噴き出すと、東吾さんが情けない顔で僕を睨んだ。
「いいじゃないですか、王子様」
擦り寄って腕を取る。
こんな感じできっと飽きない毎日を過ごせるに違いない。今頃あの女の子もドキドキワクワクしてるだろう。
でも残念ながら、王子様の居場所はずっと僕の、隣。
「前のところよりは広くて綺麗だよ。それに住んでる人もいるんだから、そんなことは言うものじゃない。こういうのも趣(おもむき)があっていい」
東吾さん、実は単にボロアパートが趣味なんじゃって気がしなくもない。お金持ちだとかえって新鮮でイイ、みたいな?
今度の物件は2DKなので、自室の他にダイニングもある。角部屋でお隣の部屋は三人家族。東吾さんが暮らすにあたって、周りの治安なども色々調べてくれた。
今日から僕と東吾さんは、ここで二人暮しをすることになる。
本格的な同棲生活が始まるんだ。
中へ入ると、畳の和室には不釣り合いな真新しい家具が一式入っている。トイレもウォッシュレットだ。他にも色々グレードアップされている。
僕は王子様に初めてできた友達兼、ルームシェアの相手ということでかなりの厚待遇。家賃を半分払いたいという意見もきいてくれて、でもできる限りのことはするよと言われて、こんな感じになった。
「前の部屋よりだいぶ広いね。部屋が他にもあるよ」
「そうですね」
食べるところは別にあるし、それぞれの部屋もある。前もある意味2部屋みたいなもんだったから、今はお互いを隔てる壁が薄くなっただけって感じだ。
「私の部屋のほうを、寝室扱いにしようか」
寝るのは一緒らしい……。ちなみに、ベッドじゃなくて布団だ。
少なくとも僕は部屋を散らかす習慣がないから、どちらの部屋を寝室にしてもさして問題ない。物がないだけとも言う。
「せーた、見て見て! お湯のパネルにお風呂ボタンがあるよ! これを押せば自動でお湯が溜まるのかな」
「便利でいいですね」
でも残念ながら追い焚きの機能はないっぽい。そして浴槽はやっぱり二人で入るには狭そう。……頑張ればなんとか。
「嬉しいな。せーたと一緒だ……。君の隣に越した時は、こうなるなんて思わなかった。今思えば運命的なものは感じていたけど」
「そうなんですか?」
「美しいなって……」
それは単に見た目が好みだっただけでは。あれ社交辞令じゃなかったのか。褒めるのが礼儀とか言ってたのに。
……僕は、第一印象に関してはまあ。本当に、まさかこうなるなんて……だな。
「僕はなんかまだ、夢でも見ているみたいです。誰かと暮らすなんて」
「しばらく同居していたじゃないか」
「あれは居候っていうんですよ」
新しいアパート。お付き合いしている恋人と二人暮らし。
わかってはいたのに、いざとなると思考がついていかない。
「なんか元気がないね。やはり、嫌だったかい?」
「逆です。幸せすぎて、ちょっと怖い。今噛みしめてます」
東吾さんが、ぎゅうと抱きしめてくれた。
これからこの人が、僕の家族になるんだ。こんなキラッキラした人が。
改めて見ても、この部屋には不釣り合いな外見。
「せーた」
前まではよく頬にキスをしてくれたけど、最近は直接唇にくる。
「東吾さん。僕、貴方のことが大好きです」
「私もだよ」
「僕はね、結婚をしたいとも家庭を作りたいとも思ってなかったけど、貴方とだったら歩いていきたい。きっと毎日退屈しないだろうな」
「プロポーズみたいだ」
「それはもう少し待ってください。大学卒業して、就職したらちゃんとさせて?」
「……うん」
いい雰囲気だったのに、隣からドッと女の子の笑い声。予想はしてたけど、ここも壁が薄いらしい。
赤くなって身体を離す東吾さん。
……僕に経済力がついて、このアパートを出るときはまず第一に壁の厚さで選ぼう。
「引っ越し蕎麦、渡しに行ってくる」
「あ、僕も行きます」
前までなら、これも面倒だってやらなかっただろうな。今は東吾さんとすることならなんでも楽しいというか。
蕎麦は僕の指示で無難な値段のものをチョイス。東吾さんが越してきた時に貰った蕎麦の値段を見て目が飛び出たよね。美味しいはずだよ。
二人で外へ出て、隣のインターフォンを押す。前のアパートと違ってひび割れたような音はしない。
「はーい」
女性の高い声。ドアの前に立つ東吾さん。横で見守る僕。
並んで立っているのも相手に威圧感を与えそうだから、少し離れたとこに。
ドアが開いて、女子中学生くらいの女の子が出てきた。
「お隣に越してきました。これ、引っ越し蕎麦です。」
「あっ……あの、ありがとうございます! 家族に渡します」
女の子はぺこりとお辞儀をして、蕎麦を受け取り慌てたように部屋の中に戻っていった。
「おかーさん、おかーさん! なんか王子様が来たんだけど! 本当だって! めっちゃ王子様!」
声、丸聞こえだし。
「ぶふっ……」
思わず噴き出すと、東吾さんが情けない顔で僕を睨んだ。
「いいじゃないですか、王子様」
擦り寄って腕を取る。
こんな感じできっと飽きない毎日を過ごせるに違いない。今頃あの女の子もドキドキワクワクしてるだろう。
でも残念ながら、王子様の居場所はずっと僕の、隣。
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