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寝取られ編
侵入できません2
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絶対に浮気してやる……。俺は飛行機の中、そう固く心に誓った。
すっかり忘れていた。望が素直になった時は大抵何か裏があるってことを。最初その手に引っかかって無理矢理犯されたというのに、同じ轍を踏むとは我ながら情けない。油断しすぎた。
抱かれますと素直に言っておきながら、あんな手段に出てくるとは、最悪だ。いっそ持ってきた包丁で自害を見守ってやればよかったと思うほどだ。
つまり俺が浮気して、男を抱きまくるのはいいんだな、という意味に取っておいた。
とりあえず殴って蹴って、それを悦ぶ望を縛り上げて奴の自室へ運び込んで置き去りにし、そのまま出張へ来た。安否は知らん。でも死ぬことはないと思う。これくらいで死んだりするようなタマじゃない。会社はクビになるかもしれんが。
明日か今日の夜には携帯へ電話がかかってくるだろうと、着信拒否しておいた。暫くは奴の声を聞きたくない。
せめてこの腰の痛みが引くまでは……。
現地につくと、空港で件の後輩が俺を出迎えた。今日から部下になるんで当たり前ですみたいなことをにこやかに言われて少し引いた。
仮にもお偉いさんの息子がこれでいいのか?
まあ、確かに今は俺が指導役という形で、彼はこの地にいる間は俺の部下にあたるのだが。
「お疲れ様です。今日来ると伺って、せっかくなので案内をさせて頂きたいと思いまして。寮まで案内します」
俺の会社は長期出張用に、ホテルのような小さい寮が用意されている。俺も暫くそこで寝泊まりする訳だ。
ここへは初めて来るのだから案内してもらえるならそれは助かる。
だが有給を消費したのかはわからないが……指導役とはいえただの社員である俺の案内役をかって出るには、彼は不釣り合いだと言える。
「どうか……しましたか?」
まだ少し幼さを含んだ顔で、こちらを伺うような視線を送ってくる。
それを見てなんとなく、ご同類なのだとわかってしまった。公言している訳ではないが、隠している訳でもない……といった感じか。
まあ、確実にそうだという保証もないから、暫くは探り合いだな……。これから付きあいがあるとわかっている相手に対して自分から性癖を暴露してくる相手はそうはいない。もちろん俺も含め。
望みたいなぶっとんだ馬鹿くらいだ、そんなのは。あいつですら初めのうちは、多少隠そうとはしていたしな。
「いえ。わざわざ出迎えていただき、ありがとうございます」
「そんな。オレ、貴方の部下なんですから、敬語なんて使わないでください」
礼を述べると、凄い勢いで恐縮された。確かに一応部下という肩書きのこの男……渡瀬に敬語を使うのは、周りから見ておかしく映るかもしれない。
俺が優しげな風貌ならいざ知らず、自分が他者からどんなふうに見られているかは、自覚しているつもりだ。
「そうだな。じゃあ、よろしく頼む」
「はいっ!」
渡瀬は表情を明るくさせて微笑み、俺に背を向けた。
「ついてきてください!」
随分元気だ。尻尾が見える気がする。さっき感じた窺うような視線は気のせいだったのではないかと思わされるくらい無邪気だ。
だが俺の好みではないな、残念ながら。望やこの男のように、元から従順そうな可愛いタイプは俺の好みじゃない。かと言ってまあ、この男はマゾでもなさそうだが。
「ここからだと車を使いますが、寮から会社へは徒歩で出勤できる距離にあります」
「そうか」
随分気さくに話しかけてくる。上司を敬う訳ではなさそうな態度は自分の立場を自覚してのことだろうか。それとも、単に世間慣れしてないだけか?
どのみち浮気相手には向いてなさそうだ。それに同じ会社の人間と関係すると何かと厄介だしな。
案内された車はまさかの黒塗りベンツ。思わず眉を顰めた俺に気づいたのか、彼は恥ずかしそうに笑った。
「叔父が入社祝いだってプレゼントしてくれて。見合わなくて恥ずかしいから、普通の安い車にしてくれって言ったんですけどね」
「まあ、そういう訳にもいかないのだろう。歳を重ねれば見合うようにもなるさ」
「早くそうなればいいんですけど……。さあ、乗ってください」
助手席のドアが自動で開く。乗り込んでシートベルトを締める俺を、渡瀬はハンドルに身体を預けながらじいっと眺めていた。
俺がゲイでなければ、やたらと見て不思議な奴だなとしか思わないのかもしれない。
だが、絡むようなこの熱っぽい視線は明らかにそういう感情を含んだものだ。俺はそれになんらかのアクションで応えてやればいい。そうすることで同類なのだと相手に伝えるのだ。視線に気づかなければ、俺は同類ではないと判断される。
気づかないフリをするか、視線に応えてやるか……どうするか。
普段なら絶対に手を出さないタイプの男だ。そもそも部下とそういう関係になるのはリスクが高すぎるし、彼はただの部下とは言えない立場にいる。
なのに今こんなふうに悩んでいるのは、あのうざい男のせいで浮気をしてやろうという気分になっているからだ。
……かと言って、相手が誰でもいいというほど自暴自棄でもない。
俺は彼と一度視線をあわせ、気まずそうにネクタイを直すフリをした。見られているのは寝癖がついているか衣服に乱れがあるせいだと思った。と思わせるために。
同類であるという確信があったのか、彼は少し驚いた顔をして、それから表情を引き締めた。
「車、出しますね」
「ああ」
こういった視線を絡める駆け引きは久し振りだ。好きだったはずなのに、妙に疲れた。
まだ若いつもりだったが枯れてきているんだろうか……。あまり考えたくはないな。
渡瀬は暫く無言で車を運転していたが、沈黙に耐えかねたように口を開いた。
「急な呼び出しで、驚かれたでしょう。一ヶ月の出張ですし」
「……そうだな」
「オレが、どうしてもと我儘を言ったんです。貴方を一目見て気に入ったので、是非指導にあたっていただきたくて」
俺が呼ばれた理由については色々考えてはいたが……売り上げ云々はさておいて、俺自身に興味があったと……そういう意味にとっていいんだろうか。
さて、どう返したものか。
「言っておくが、指導するのは苦手だからな。優しくはできない。覚悟しておくといい」
結局無難に返してしまった。もう少し腹を探ってやってもよかったかもしれない。
「はい、覚悟しておきます」
渡瀬は顔色一つ変えず神妙にそう頷いた。
素直なのは悪くない。シゴキがいがある。物怖じしないところも、割りと俺の好みだ。
部下でさえなければ問題なかったんだが……残念だ。
まあ、何も男はこいつだけじゃない。うるさい奴のいない一ヶ月、充分満喫してやるさ。
それからほどなくして、寮へとついた。
探り合うような会話の結果、俺のことをノンケだと判断したのか、それとも元々そのつもりはなかったのか……。渡瀬はさっきのように思わせぶりな台詞を吐いてくることもなく、後輩としての態度を崩さぬまま中を案内してくれた。
寮とはいっても、ワンルームマンションのような部屋だ。さすがに俺が今住んでいるマンションよりは手狭だが、一ヶ月間借りするには充分すぎる。
冷蔵庫もレンジ、テレビ、洗濯機など、家電はほとんど揃っていた。
説明を適当に受け流し、会話を切り上げて部屋から追い出そうとすると、渡瀬は焦ったような表情で俺を見上げた。
「あの、今夜お時間ありましたら、一緒に飲みませんか?」
一瞬判断に迷った。
遠くから出てきた上司を、親睦を深めるため飲みに誘うくらいは何もおかしなことじゃない。
処女のように過剰反応するのも馬鹿らしいが、今日のところは断っておこう。
裏があろうとなかろうと、正直なところ面倒だったし、何より疲れていた。何しろ昨日の今日だ。腰の痛みもまだ引いていない。ゆっくり休みたい。
「悪い。今日は遠くから出てきて疲れたから、休もうと思っている。明日でよければ付きあうが、それでかまわないか?」
「ありがとうございます。いい店知ってるんで、案内させてください」
「ああ……。楽しみにしている」
部下とはいえ、お偉いさんの息子。そう無下にもできないからな。酒を一緒に飲むくらいは問題ないだろう。
一日付きあったらあとは適当なバーへ行って、遊び相手を物色すればいい。
ようやく一人になった部屋で、携帯の電源を入れてみると、メールが百通届いていた。一通目を開いて、三回ほどページ送りしても文字が続いているのが見えた時点で全てのメールを見ずに消去し、再び電源を切った。
実際酷く疲れていたこともあって、ベッドで少しうたた寝をしてしまったらしい。
夕飯の時間はとうに過ぎていたし、ほどよくお腹も空いていた。
何かコンビニで買ってくるか……。そう思いながら身を起こして、携帯の電源を入れてみると、メールがあれから更に50通届いていた。うざすぎるだろ。
しかも、コピーペーストじゃなく、きっちり一通一通打っているあたりに狂気を感じる。やはりあいつは危険だ。
そんな相手に惚れて付き合っている時点で、俺も狂っているのかもしれないな。……いや、狂わされたと言うべきか。
まあいい。まとめて消去しよう。見てはいけない気がするし、読む時間ももったいない。
打つのは更に時間がかかるだろうに、お前はどれだけ暇なんだ。
「あ」
消去作業中に着信、通話。しまったと思う前に携帯電話から甘ったるい涙声が聞こえてきた。
『なっ、直人さあぁん』
その声に少し嗜虐心をくすぐられる。
『電話した途端出てくれるなんて、やっぱり僕、愛されてるッ……!』
「…………」
相変わらずの楽天思考に、あっさり醒めたが。
電源を切られていたあたりやメール無視についてはスルーなのか? メールの量からいっても、こいつが電話を一度もかけてないというのは考えにくい。
まあ、こいつのことだ。充電が切れていただけとでも思っているんだろう。
『昨夜はすみませんでした。貴方に浮気されないためなら抱かれるのも覚悟しようとは思ったんですけど、しばらく会えないのかと思ったらたまらなくなって……。僕の欲望を飲み込みながら喘ぐ貴方をどうしても見たかったんです。声を我慢しているのに、だんだんと吐息が甘くなっていく様はとても色っぽいし、その吐息すら漏らすまいと僕の腕を噛むその歯のなめらかさ、ハァハァ……。そして僕を睨みつけながら下半身も食いちぎらんばかりの締め付けがたまら』
…………聞くにたえん。
うんざりして通話を切ったらすぐ様かけ直してきたので、電源を落とした。
俺が一言も喋ってないのに、よくもまああれだけテンション高くベラベラと喋れるもんだ。
いや待て。あまり長く放置すると俺の家がどうなるかわからないな。一応声をかけておくか。
電源を入れた瞬間、着信。今度は意図的に出てやる。
『直人さん、切るなんて酷いです! 僕の愛を最後まで聞』
「うざい、死ね」
……これでよし。
俺は再び電源を切って、食糧調達をしにコンビニへ向かった。
すっかり忘れていた。望が素直になった時は大抵何か裏があるってことを。最初その手に引っかかって無理矢理犯されたというのに、同じ轍を踏むとは我ながら情けない。油断しすぎた。
抱かれますと素直に言っておきながら、あんな手段に出てくるとは、最悪だ。いっそ持ってきた包丁で自害を見守ってやればよかったと思うほどだ。
つまり俺が浮気して、男を抱きまくるのはいいんだな、という意味に取っておいた。
とりあえず殴って蹴って、それを悦ぶ望を縛り上げて奴の自室へ運び込んで置き去りにし、そのまま出張へ来た。安否は知らん。でも死ぬことはないと思う。これくらいで死んだりするようなタマじゃない。会社はクビになるかもしれんが。
明日か今日の夜には携帯へ電話がかかってくるだろうと、着信拒否しておいた。暫くは奴の声を聞きたくない。
せめてこの腰の痛みが引くまでは……。
現地につくと、空港で件の後輩が俺を出迎えた。今日から部下になるんで当たり前ですみたいなことをにこやかに言われて少し引いた。
仮にもお偉いさんの息子がこれでいいのか?
まあ、確かに今は俺が指導役という形で、彼はこの地にいる間は俺の部下にあたるのだが。
「お疲れ様です。今日来ると伺って、せっかくなので案内をさせて頂きたいと思いまして。寮まで案内します」
俺の会社は長期出張用に、ホテルのような小さい寮が用意されている。俺も暫くそこで寝泊まりする訳だ。
ここへは初めて来るのだから案内してもらえるならそれは助かる。
だが有給を消費したのかはわからないが……指導役とはいえただの社員である俺の案内役をかって出るには、彼は不釣り合いだと言える。
「どうか……しましたか?」
まだ少し幼さを含んだ顔で、こちらを伺うような視線を送ってくる。
それを見てなんとなく、ご同類なのだとわかってしまった。公言している訳ではないが、隠している訳でもない……といった感じか。
まあ、確実にそうだという保証もないから、暫くは探り合いだな……。これから付きあいがあるとわかっている相手に対して自分から性癖を暴露してくる相手はそうはいない。もちろん俺も含め。
望みたいなぶっとんだ馬鹿くらいだ、そんなのは。あいつですら初めのうちは、多少隠そうとはしていたしな。
「いえ。わざわざ出迎えていただき、ありがとうございます」
「そんな。オレ、貴方の部下なんですから、敬語なんて使わないでください」
礼を述べると、凄い勢いで恐縮された。確かに一応部下という肩書きのこの男……渡瀬に敬語を使うのは、周りから見ておかしく映るかもしれない。
俺が優しげな風貌ならいざ知らず、自分が他者からどんなふうに見られているかは、自覚しているつもりだ。
「そうだな。じゃあ、よろしく頼む」
「はいっ!」
渡瀬は表情を明るくさせて微笑み、俺に背を向けた。
「ついてきてください!」
随分元気だ。尻尾が見える気がする。さっき感じた窺うような視線は気のせいだったのではないかと思わされるくらい無邪気だ。
だが俺の好みではないな、残念ながら。望やこの男のように、元から従順そうな可愛いタイプは俺の好みじゃない。かと言ってまあ、この男はマゾでもなさそうだが。
「ここからだと車を使いますが、寮から会社へは徒歩で出勤できる距離にあります」
「そうか」
随分気さくに話しかけてくる。上司を敬う訳ではなさそうな態度は自分の立場を自覚してのことだろうか。それとも、単に世間慣れしてないだけか?
どのみち浮気相手には向いてなさそうだ。それに同じ会社の人間と関係すると何かと厄介だしな。
案内された車はまさかの黒塗りベンツ。思わず眉を顰めた俺に気づいたのか、彼は恥ずかしそうに笑った。
「叔父が入社祝いだってプレゼントしてくれて。見合わなくて恥ずかしいから、普通の安い車にしてくれって言ったんですけどね」
「まあ、そういう訳にもいかないのだろう。歳を重ねれば見合うようにもなるさ」
「早くそうなればいいんですけど……。さあ、乗ってください」
助手席のドアが自動で開く。乗り込んでシートベルトを締める俺を、渡瀬はハンドルに身体を預けながらじいっと眺めていた。
俺がゲイでなければ、やたらと見て不思議な奴だなとしか思わないのかもしれない。
だが、絡むようなこの熱っぽい視線は明らかにそういう感情を含んだものだ。俺はそれになんらかのアクションで応えてやればいい。そうすることで同類なのだと相手に伝えるのだ。視線に気づかなければ、俺は同類ではないと判断される。
気づかないフリをするか、視線に応えてやるか……どうするか。
普段なら絶対に手を出さないタイプの男だ。そもそも部下とそういう関係になるのはリスクが高すぎるし、彼はただの部下とは言えない立場にいる。
なのに今こんなふうに悩んでいるのは、あのうざい男のせいで浮気をしてやろうという気分になっているからだ。
……かと言って、相手が誰でもいいというほど自暴自棄でもない。
俺は彼と一度視線をあわせ、気まずそうにネクタイを直すフリをした。見られているのは寝癖がついているか衣服に乱れがあるせいだと思った。と思わせるために。
同類であるという確信があったのか、彼は少し驚いた顔をして、それから表情を引き締めた。
「車、出しますね」
「ああ」
こういった視線を絡める駆け引きは久し振りだ。好きだったはずなのに、妙に疲れた。
まだ若いつもりだったが枯れてきているんだろうか……。あまり考えたくはないな。
渡瀬は暫く無言で車を運転していたが、沈黙に耐えかねたように口を開いた。
「急な呼び出しで、驚かれたでしょう。一ヶ月の出張ですし」
「……そうだな」
「オレが、どうしてもと我儘を言ったんです。貴方を一目見て気に入ったので、是非指導にあたっていただきたくて」
俺が呼ばれた理由については色々考えてはいたが……売り上げ云々はさておいて、俺自身に興味があったと……そういう意味にとっていいんだろうか。
さて、どう返したものか。
「言っておくが、指導するのは苦手だからな。優しくはできない。覚悟しておくといい」
結局無難に返してしまった。もう少し腹を探ってやってもよかったかもしれない。
「はい、覚悟しておきます」
渡瀬は顔色一つ変えず神妙にそう頷いた。
素直なのは悪くない。シゴキがいがある。物怖じしないところも、割りと俺の好みだ。
部下でさえなければ問題なかったんだが……残念だ。
まあ、何も男はこいつだけじゃない。うるさい奴のいない一ヶ月、充分満喫してやるさ。
それからほどなくして、寮へとついた。
探り合うような会話の結果、俺のことをノンケだと判断したのか、それとも元々そのつもりはなかったのか……。渡瀬はさっきのように思わせぶりな台詞を吐いてくることもなく、後輩としての態度を崩さぬまま中を案内してくれた。
寮とはいっても、ワンルームマンションのような部屋だ。さすがに俺が今住んでいるマンションよりは手狭だが、一ヶ月間借りするには充分すぎる。
冷蔵庫もレンジ、テレビ、洗濯機など、家電はほとんど揃っていた。
説明を適当に受け流し、会話を切り上げて部屋から追い出そうとすると、渡瀬は焦ったような表情で俺を見上げた。
「あの、今夜お時間ありましたら、一緒に飲みませんか?」
一瞬判断に迷った。
遠くから出てきた上司を、親睦を深めるため飲みに誘うくらいは何もおかしなことじゃない。
処女のように過剰反応するのも馬鹿らしいが、今日のところは断っておこう。
裏があろうとなかろうと、正直なところ面倒だったし、何より疲れていた。何しろ昨日の今日だ。腰の痛みもまだ引いていない。ゆっくり休みたい。
「悪い。今日は遠くから出てきて疲れたから、休もうと思っている。明日でよければ付きあうが、それでかまわないか?」
「ありがとうございます。いい店知ってるんで、案内させてください」
「ああ……。楽しみにしている」
部下とはいえ、お偉いさんの息子。そう無下にもできないからな。酒を一緒に飲むくらいは問題ないだろう。
一日付きあったらあとは適当なバーへ行って、遊び相手を物色すればいい。
ようやく一人になった部屋で、携帯の電源を入れてみると、メールが百通届いていた。一通目を開いて、三回ほどページ送りしても文字が続いているのが見えた時点で全てのメールを見ずに消去し、再び電源を切った。
実際酷く疲れていたこともあって、ベッドで少しうたた寝をしてしまったらしい。
夕飯の時間はとうに過ぎていたし、ほどよくお腹も空いていた。
何かコンビニで買ってくるか……。そう思いながら身を起こして、携帯の電源を入れてみると、メールがあれから更に50通届いていた。うざすぎるだろ。
しかも、コピーペーストじゃなく、きっちり一通一通打っているあたりに狂気を感じる。やはりあいつは危険だ。
そんな相手に惚れて付き合っている時点で、俺も狂っているのかもしれないな。……いや、狂わされたと言うべきか。
まあいい。まとめて消去しよう。見てはいけない気がするし、読む時間ももったいない。
打つのは更に時間がかかるだろうに、お前はどれだけ暇なんだ。
「あ」
消去作業中に着信、通話。しまったと思う前に携帯電話から甘ったるい涙声が聞こえてきた。
『なっ、直人さあぁん』
その声に少し嗜虐心をくすぐられる。
『電話した途端出てくれるなんて、やっぱり僕、愛されてるッ……!』
「…………」
相変わらずの楽天思考に、あっさり醒めたが。
電源を切られていたあたりやメール無視についてはスルーなのか? メールの量からいっても、こいつが電話を一度もかけてないというのは考えにくい。
まあ、こいつのことだ。充電が切れていただけとでも思っているんだろう。
『昨夜はすみませんでした。貴方に浮気されないためなら抱かれるのも覚悟しようとは思ったんですけど、しばらく会えないのかと思ったらたまらなくなって……。僕の欲望を飲み込みながら喘ぐ貴方をどうしても見たかったんです。声を我慢しているのに、だんだんと吐息が甘くなっていく様はとても色っぽいし、その吐息すら漏らすまいと僕の腕を噛むその歯のなめらかさ、ハァハァ……。そして僕を睨みつけながら下半身も食いちぎらんばかりの締め付けがたまら』
…………聞くにたえん。
うんざりして通話を切ったらすぐ様かけ直してきたので、電源を落とした。
俺が一言も喋ってないのに、よくもまああれだけテンション高くベラベラと喋れるもんだ。
いや待て。あまり長く放置すると俺の家がどうなるかわからないな。一応声をかけておくか。
電源を入れた瞬間、着信。今度は意図的に出てやる。
『直人さん、切るなんて酷いです! 僕の愛を最後まで聞』
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……これでよし。
俺は再び電源を切って、食糧調達をしにコンビニへ向かった。
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