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3rd stage
塔の上の美少女には居場所がない
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『さよなら ありがとう』
七つのそっけない文字を見てると、ざわざわしたものが沸き上がってくる。
、、、なんだか、悪い予感がする。
メモを手にして立ち上がり、ぼくは玄関を飛び出した。
急いでエレベーターを降りてマンションの外に出ると、回りを見渡す。
煌々と輝く向かいのコンビニの明かり。
キラキラまたたくビルのネオンに、通りを走るクルマのヘッドライトやテールライトの残像。
そういう都会のきらびやかさより、その陰に潜んでる闇の部分に、つい目がいってしまう。
華やかな街角にも、よく見ると、吸い込まれそうに深い闇が、いたる所に巣喰ってる。
そんな魔窟の様な闇の中に、栞里ちゃんも呑み込まれていったのかもしれない。
なんだか胸騒ぎがしてきて、そこら中をやみくもに歩きながら彼女を捜し、ぼくは何気なく自分のマンションを振り返って見上げた。
『?』
15階建てのマンションの最上階の非常階段に、かすかに白い影が揺れてるのが、目に止まった。
ここからじゃ小さすぎて、それがなんなのかわからない。
目を凝らしてよく見ると、どうやら人影の様。
まさか、、、
今来た道を急いで戻り、エレベーターに駆け込むと、最上階のボタンをガチャガチャと押す。
ゆっくりと上昇するエレベーターが、もどかしい。
こうしている間にも、その人影は非常階段の手摺を乗り越え、地上に舞い落ちてしまうかもしれない。
そんな予感がして、ぼくの心臓は、締めつける様に痛くなった。
「しっ、栞里ちゃん!」
重い金属製の非常ドアを押し開けると、階段の踊り場に栞里ちゃんの姿が見えた。
思わず名を叫ぶ。
彼女はピンクのキャミソールに、ショーパン姿で、下からヒラヒラと揺れて見えたのは、羽織っていた白いサマーカーディガンだった。
手摺にもたれかかって遠くを見ていた栞里ちゃんは、驚いた様に振り向いた。
「こんなとこにいたんだ」
少し安心して階段を数段上がり、彼女の側に歩み寄る。
栞里ちゃんはそんなぼくをじっと見つめていたが、しばらくすると視線を元の都会の夜景に戻し、ポツリと言った。
「お兄ちゃん… あたしなんて、いない方がいいでしょ」
「え?」
「迷惑… でしょ。あたしがいると」
「迷惑だなんて、、、」
「部屋に置いといたら、なにされるかわかんないし」
「…」
「得体のしれない家出娘なんて… イヤだよね。だれだって」
栞里ちゃん、、、
やっぱり家出中だったんだ。
それは予想してたから、あまり動揺もない。
「そんな事ないよ。…そりゃ、ちゃんと家に帰った方がいいんじゃないかなとは、思うけど…」
「…帰れないもん」
「え?」
「帰るとこなんて… ないもん」
「…」
「あたし… どこに行けばいいんだろ、、、」
そう言うと、栞里ちゃんは眉をひそめ、哀しげな色を瞳にたたえて、もっと遠くに視線を移す。
それは、この世界のどこにも焦点の合ってない様な、虚ろな瞳、、、
そんな彼女を見てると、胸がざわついてくる。
「とっ、とりあえず… うちに来ればいいよ。なにもしないから」
ヨシキの警告も忘れ、この少女をなんとか助けてあげたい気持ちに駆られて、ぼくは思わず口走ってしまった。
彼女は一瞬瞳を見開いたが、今度は可笑しそうに口許をほころばせた。
あ。
やっぱりこの子、笑うとすごく可愛い。
「おとといの夜と同じセリフ」
あどけない笑顔をぼくに向けながら、栞里ちゃんは言った。
「え?」
「そう言って、あたしをお部屋に入れてくれたじゃない」
「そ、そうだっけ?」
「やっぱり、全然覚えてないんだ」
「ごっ、ごめん。酔っぱらってて、その晩の記憶が飛んでるんだ」
「ふ~ん、、、」
「でも、ちゃんと責任はとるから。栞里ちゃんの悪い様にはしないから」
「…」
栞里ちゃんの顔から笑顔が消えた。
不機嫌そうに眉間に皺を寄せた彼女は、ぼくの方を見て、見下す様に言った。
「責任とか、、、 別に、いい」
「え?」
「…別に、エッチとかしてないし…」
「えっ?!」
「なんにもなかったのよ、おとといは。だから、責任とかとる必要、ない」
「なんにも、なかった…」
『もしかして』とは思ってたけど、栞里ちゃんの口からそう聞かされると、なんだか拍子抜け。やっぱりあの夜はなにもなかったんだ。
ほっと安心すると同時に、残念な気持ちにもなったり。
そんなぼくを見て、栞里ちゃんの口調は辛辣さを増してきた。
「…バッカじゃない? 自分がエッチしたかどうかもわかんないなんて」
「だ、だって、栞里ちゃん、『あたしのこと、無理矢理』って…」
「からかっただけ。別に『エッチした』とか、言ってないし」
「…」
「だから、お兄ちゃんが責任感じる事なんか、なんにもないわけ。
だいたい、二次元でしか女の子のからだ知らないドーテーキモオタが、まともにエッチなんかできるわけないじゃん。バッカみたい!」
「…」
「だからもう、あたしに関わらないで。さよなら!」
つづく
七つのそっけない文字を見てると、ざわざわしたものが沸き上がってくる。
、、、なんだか、悪い予感がする。
メモを手にして立ち上がり、ぼくは玄関を飛び出した。
急いでエレベーターを降りてマンションの外に出ると、回りを見渡す。
煌々と輝く向かいのコンビニの明かり。
キラキラまたたくビルのネオンに、通りを走るクルマのヘッドライトやテールライトの残像。
そういう都会のきらびやかさより、その陰に潜んでる闇の部分に、つい目がいってしまう。
華やかな街角にも、よく見ると、吸い込まれそうに深い闇が、いたる所に巣喰ってる。
そんな魔窟の様な闇の中に、栞里ちゃんも呑み込まれていったのかもしれない。
なんだか胸騒ぎがしてきて、そこら中をやみくもに歩きながら彼女を捜し、ぼくは何気なく自分のマンションを振り返って見上げた。
『?』
15階建てのマンションの最上階の非常階段に、かすかに白い影が揺れてるのが、目に止まった。
ここからじゃ小さすぎて、それがなんなのかわからない。
目を凝らしてよく見ると、どうやら人影の様。
まさか、、、
今来た道を急いで戻り、エレベーターに駆け込むと、最上階のボタンをガチャガチャと押す。
ゆっくりと上昇するエレベーターが、もどかしい。
こうしている間にも、その人影は非常階段の手摺を乗り越え、地上に舞い落ちてしまうかもしれない。
そんな予感がして、ぼくの心臓は、締めつける様に痛くなった。
「しっ、栞里ちゃん!」
重い金属製の非常ドアを押し開けると、階段の踊り場に栞里ちゃんの姿が見えた。
思わず名を叫ぶ。
彼女はピンクのキャミソールに、ショーパン姿で、下からヒラヒラと揺れて見えたのは、羽織っていた白いサマーカーディガンだった。
手摺にもたれかかって遠くを見ていた栞里ちゃんは、驚いた様に振り向いた。
「こんなとこにいたんだ」
少し安心して階段を数段上がり、彼女の側に歩み寄る。
栞里ちゃんはそんなぼくをじっと見つめていたが、しばらくすると視線を元の都会の夜景に戻し、ポツリと言った。
「お兄ちゃん… あたしなんて、いない方がいいでしょ」
「え?」
「迷惑… でしょ。あたしがいると」
「迷惑だなんて、、、」
「部屋に置いといたら、なにされるかわかんないし」
「…」
「得体のしれない家出娘なんて… イヤだよね。だれだって」
栞里ちゃん、、、
やっぱり家出中だったんだ。
それは予想してたから、あまり動揺もない。
「そんな事ないよ。…そりゃ、ちゃんと家に帰った方がいいんじゃないかなとは、思うけど…」
「…帰れないもん」
「え?」
「帰るとこなんて… ないもん」
「…」
「あたし… どこに行けばいいんだろ、、、」
そう言うと、栞里ちゃんは眉をひそめ、哀しげな色を瞳にたたえて、もっと遠くに視線を移す。
それは、この世界のどこにも焦点の合ってない様な、虚ろな瞳、、、
そんな彼女を見てると、胸がざわついてくる。
「とっ、とりあえず… うちに来ればいいよ。なにもしないから」
ヨシキの警告も忘れ、この少女をなんとか助けてあげたい気持ちに駆られて、ぼくは思わず口走ってしまった。
彼女は一瞬瞳を見開いたが、今度は可笑しそうに口許をほころばせた。
あ。
やっぱりこの子、笑うとすごく可愛い。
「おとといの夜と同じセリフ」
あどけない笑顔をぼくに向けながら、栞里ちゃんは言った。
「え?」
「そう言って、あたしをお部屋に入れてくれたじゃない」
「そ、そうだっけ?」
「やっぱり、全然覚えてないんだ」
「ごっ、ごめん。酔っぱらってて、その晩の記憶が飛んでるんだ」
「ふ~ん、、、」
「でも、ちゃんと責任はとるから。栞里ちゃんの悪い様にはしないから」
「…」
栞里ちゃんの顔から笑顔が消えた。
不機嫌そうに眉間に皺を寄せた彼女は、ぼくの方を見て、見下す様に言った。
「責任とか、、、 別に、いい」
「え?」
「…別に、エッチとかしてないし…」
「えっ?!」
「なんにもなかったのよ、おとといは。だから、責任とかとる必要、ない」
「なんにも、なかった…」
『もしかして』とは思ってたけど、栞里ちゃんの口からそう聞かされると、なんだか拍子抜け。やっぱりあの夜はなにもなかったんだ。
ほっと安心すると同時に、残念な気持ちにもなったり。
そんなぼくを見て、栞里ちゃんの口調は辛辣さを増してきた。
「…バッカじゃない? 自分がエッチしたかどうかもわかんないなんて」
「だ、だって、栞里ちゃん、『あたしのこと、無理矢理』って…」
「からかっただけ。別に『エッチした』とか、言ってないし」
「…」
「だから、お兄ちゃんが責任感じる事なんか、なんにもないわけ。
だいたい、二次元でしか女の子のからだ知らないドーテーキモオタが、まともにエッチなんかできるわけないじゃん。バッカみたい!」
「…」
「だからもう、あたしに関わらないで。さよなら!」
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