46 / 259
level 6
「キスからはじまる恋はふつうですか?」
しおりを挟む
「オレ。カメラマン失格かな」
「どうしてですか?」
「モデルさんに、いきなりキスしちまったから」
「…」
「そんなことしちゃ、モデルさんの信用、なくすよな」
「…『モデルさん』なんていうの、やめて下さい」
「じゃあ、美月ちゃん」
「わたしの名前、島津凛子です」
「島津凛子… ちゃん? 素敵な名前だね」
「そうですか? なんだか古くさくて、わたしは好きじゃないです」
「美しくて凛々しくて、美月… いや、凛子ちゃんにふさわしいよ。これからはプライベートでは、『凛子ちゃん』って呼んでいい?」
「え?」
「『美月梗夜』だけじゃなくて、『島津凛子』のことも、もっと知りたいから」
「…」
「凛子ちゃんのこと、好きだよ」
「…」
「はじめて会ったときから、強烈に惹かれてた」
「…」
「だから、撮影にも誘ったし、キスせずにはいられなかった。でも、写真をダシに口説くなんて… オレってやっぱり、卑怯なヤツだな」
「そんなことないです」
「そう?」
「わたしも、ヨシキさんのこと… はじめて会ったときから、ずっと… 好き、だったから…」
「ほんとに? 嬉しいよ」
そう言うと、ヨシキさんは口の端だけをキュッと上げ、僅かに目尻を下げて、余裕の微笑みを浮かべて応えた。
『そんなこと、はじめから知っていた』とでもいうように。
勇気を奮い立たせて絞り出した、初めての『好き』という言葉だったのに…
こんなに軽く受け止められるなんて。
なんだか口惜しい。
だいたい、『凛子ちゃんのこと、好きだよ』って言葉も、軽すぎる。
おとなの恋って、こんなものなの?
ちゃんとした告白とかもなしに、キスからはじまるのなんて、ふつうなの?
よくわからない。
男の人とつきあうどころか、こんなお洒落なレストランに男性と入るのもはじめてなわたしと、恋愛経験豊富なヨシキさんとの差を、痛いほど感じてしまう。
『オレのお気に入りの店』って言っていたし、ヨシキさん、このレストランには何度も来ているのだろな。
他の、女の人と…
「わたしも、ヨシキさんのこと、もっと知りたいです」
「いいよ。なんでも訊いて」
「そういえばわたし… ヨシキさんの本名、まだ聞いてなかったです」
「そうだったな。本名は壬生芳貴」
「みぶ、よしたか…」
「『よしたか』より『ヨシキ』の方が好きなんだ。昔っからそう呼ばれ慣れてるし」
「確かに… 今さら『よしたかさん』と呼ぶのは、馴染めないかも。『ヨシキさん』の方が語呂もよくて、しっくりきます」
「だろ? それに壬生芳貴って、メチャクチャ画数悪いんだ。姓名判断見てびっくりしたよ。オレの親、ちゃんと調べて名づけてないだろ」
「え? でもわたしは、いい名前だと思いますけど」
「ははは。まあ、姓名判断なんて信用してないけどな。自分の人生は自分で切り拓きたいし」
そう笑い飛ばしてヨシキさん… 壬生芳貴さんは、わたしの問いに気軽に答えてくれた。
バイト先の写真事務所のこと。
ヨシキさんが行っている大学のこと。
イベントの話や、親友の大竹さんと同人サークルを作っていることなど。
わたしもヨシキさんに訊かれるまま、日舞やバレエなどのお稽古のこと、学校での日常、先日の全日本なぎなた選手権大会や、家や田舎の家系のことまで、いろいろ話した。
つづく
「どうしてですか?」
「モデルさんに、いきなりキスしちまったから」
「…」
「そんなことしちゃ、モデルさんの信用、なくすよな」
「…『モデルさん』なんていうの、やめて下さい」
「じゃあ、美月ちゃん」
「わたしの名前、島津凛子です」
「島津凛子… ちゃん? 素敵な名前だね」
「そうですか? なんだか古くさくて、わたしは好きじゃないです」
「美しくて凛々しくて、美月… いや、凛子ちゃんにふさわしいよ。これからはプライベートでは、『凛子ちゃん』って呼んでいい?」
「え?」
「『美月梗夜』だけじゃなくて、『島津凛子』のことも、もっと知りたいから」
「…」
「凛子ちゃんのこと、好きだよ」
「…」
「はじめて会ったときから、強烈に惹かれてた」
「…」
「だから、撮影にも誘ったし、キスせずにはいられなかった。でも、写真をダシに口説くなんて… オレってやっぱり、卑怯なヤツだな」
「そんなことないです」
「そう?」
「わたしも、ヨシキさんのこと… はじめて会ったときから、ずっと… 好き、だったから…」
「ほんとに? 嬉しいよ」
そう言うと、ヨシキさんは口の端だけをキュッと上げ、僅かに目尻を下げて、余裕の微笑みを浮かべて応えた。
『そんなこと、はじめから知っていた』とでもいうように。
勇気を奮い立たせて絞り出した、初めての『好き』という言葉だったのに…
こんなに軽く受け止められるなんて。
なんだか口惜しい。
だいたい、『凛子ちゃんのこと、好きだよ』って言葉も、軽すぎる。
おとなの恋って、こんなものなの?
ちゃんとした告白とかもなしに、キスからはじまるのなんて、ふつうなの?
よくわからない。
男の人とつきあうどころか、こんなお洒落なレストランに男性と入るのもはじめてなわたしと、恋愛経験豊富なヨシキさんとの差を、痛いほど感じてしまう。
『オレのお気に入りの店』って言っていたし、ヨシキさん、このレストランには何度も来ているのだろな。
他の、女の人と…
「わたしも、ヨシキさんのこと、もっと知りたいです」
「いいよ。なんでも訊いて」
「そういえばわたし… ヨシキさんの本名、まだ聞いてなかったです」
「そうだったな。本名は壬生芳貴」
「みぶ、よしたか…」
「『よしたか』より『ヨシキ』の方が好きなんだ。昔っからそう呼ばれ慣れてるし」
「確かに… 今さら『よしたかさん』と呼ぶのは、馴染めないかも。『ヨシキさん』の方が語呂もよくて、しっくりきます」
「だろ? それに壬生芳貴って、メチャクチャ画数悪いんだ。姓名判断見てびっくりしたよ。オレの親、ちゃんと調べて名づけてないだろ」
「え? でもわたしは、いい名前だと思いますけど」
「ははは。まあ、姓名判断なんて信用してないけどな。自分の人生は自分で切り拓きたいし」
そう笑い飛ばしてヨシキさん… 壬生芳貴さんは、わたしの問いに気軽に答えてくれた。
バイト先の写真事務所のこと。
ヨシキさんが行っている大学のこと。
イベントの話や、親友の大竹さんと同人サークルを作っていることなど。
わたしもヨシキさんに訊かれるまま、日舞やバレエなどのお稽古のこと、学校での日常、先日の全日本なぎなた選手権大会や、家や田舎の家系のことまで、いろいろ話した。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる