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level 6
「キスからはじまる恋はふつうですか?」
「オレ。カメラマン失格かな」
「どうしてですか?」
「モデルさんに、いきなりキスしちまったから」
「…」
「そんなことしちゃ、モデルさんの信用、なくすよな」
「…『モデルさん』なんていうの、やめて下さい」
「じゃあ、美月ちゃん」
「わたしの名前、島津凛子です」
「島津凛子… ちゃん? 素敵な名前だね」
「そうですか? なんだか古くさくて、わたしは好きじゃないです」
「美しくて凛々しくて、美月… いや、凛子ちゃんにふさわしいよ。これからはプライベートでは、『凛子ちゃん』って呼んでいい?」
「え?」
「『美月梗夜』だけじゃなくて、『島津凛子』のことも、もっと知りたいから」
「…」
「凛子ちゃんのこと、好きだよ」
「…」
「はじめて会ったときから、強烈に惹かれてた」
「…」
「だから、撮影にも誘ったし、キスせずにはいられなかった。でも、写真をダシに口説くなんて… オレってやっぱり、卑怯なヤツだな」
「そんなことないです」
「そう?」
「わたしも、ヨシキさんのこと… はじめて会ったときから、ずっと… 好き、だったから…」
「ほんとに? 嬉しいよ」
そう言うと、ヨシキさんは口の端だけをキュッと上げ、僅かに目尻を下げて、余裕の微笑みを浮かべて応えた。
『そんなこと、はじめから知っていた』とでもいうように。
勇気を奮い立たせて絞り出した、初めての『好き』という言葉だったのに…
こんなに軽く受け止められるなんて。
なんだか口惜しい。
だいたい、『凛子ちゃんのこと、好きだよ』って言葉も、軽すぎる。
おとなの恋って、こんなものなの?
ちゃんとした告白とかもなしに、キスからはじまるのなんて、ふつうなの?
よくわからない。
男の人とつきあうどころか、こんなお洒落なレストランに男性と入るのもはじめてなわたしと、恋愛経験豊富なヨシキさんとの差を、痛いほど感じてしまう。
『オレのお気に入りの店』って言っていたし、ヨシキさん、このレストランには何度も来ているのだろな。
他の、女の人と…
「わたしも、ヨシキさんのこと、もっと知りたいです」
「いいよ。なんでも訊いて」
「そういえばわたし… ヨシキさんの本名、まだ聞いてなかったです」
「そうだったな。本名は壬生芳貴」
「みぶ、よしたか…」
「『よしたか』より『ヨシキ』の方が好きなんだ。昔っからそう呼ばれ慣れてるし」
「確かに… 今さら『よしたかさん』と呼ぶのは、馴染めないかも。『ヨシキさん』の方が語呂もよくて、しっくりきます」
「だろ? それに壬生芳貴って、メチャクチャ画数悪いんだ。姓名判断見てびっくりしたよ。オレの親、ちゃんと調べて名づけてないだろ」
「え? でもわたしは、いい名前だと思いますけど」
「ははは。まあ、姓名判断なんて信用してないけどな。自分の人生は自分で切り拓きたいし」
そう笑い飛ばしてヨシキさん… 壬生芳貴さんは、わたしの問いに気軽に答えてくれた。
バイト先の写真事務所のこと。
ヨシキさんが行っている大学のこと。
イベントの話や、親友の大竹さんと同人サークルを作っていることなど。
わたしもヨシキさんに訊かれるまま、日舞やバレエなどのお稽古のこと、学校での日常、先日の全日本なぎなた選手権大会や、家や田舎の家系のことまで、いろいろ話した。
つづく
「どうしてですか?」
「モデルさんに、いきなりキスしちまったから」
「…」
「そんなことしちゃ、モデルさんの信用、なくすよな」
「…『モデルさん』なんていうの、やめて下さい」
「じゃあ、美月ちゃん」
「わたしの名前、島津凛子です」
「島津凛子… ちゃん? 素敵な名前だね」
「そうですか? なんだか古くさくて、わたしは好きじゃないです」
「美しくて凛々しくて、美月… いや、凛子ちゃんにふさわしいよ。これからはプライベートでは、『凛子ちゃん』って呼んでいい?」
「え?」
「『美月梗夜』だけじゃなくて、『島津凛子』のことも、もっと知りたいから」
「…」
「凛子ちゃんのこと、好きだよ」
「…」
「はじめて会ったときから、強烈に惹かれてた」
「…」
「だから、撮影にも誘ったし、キスせずにはいられなかった。でも、写真をダシに口説くなんて… オレってやっぱり、卑怯なヤツだな」
「そんなことないです」
「そう?」
「わたしも、ヨシキさんのこと… はじめて会ったときから、ずっと… 好き、だったから…」
「ほんとに? 嬉しいよ」
そう言うと、ヨシキさんは口の端だけをキュッと上げ、僅かに目尻を下げて、余裕の微笑みを浮かべて応えた。
『そんなこと、はじめから知っていた』とでもいうように。
勇気を奮い立たせて絞り出した、初めての『好き』という言葉だったのに…
こんなに軽く受け止められるなんて。
なんだか口惜しい。
だいたい、『凛子ちゃんのこと、好きだよ』って言葉も、軽すぎる。
おとなの恋って、こんなものなの?
ちゃんとした告白とかもなしに、キスからはじまるのなんて、ふつうなの?
よくわからない。
男の人とつきあうどころか、こんなお洒落なレストランに男性と入るのもはじめてなわたしと、恋愛経験豊富なヨシキさんとの差を、痛いほど感じてしまう。
『オレのお気に入りの店』って言っていたし、ヨシキさん、このレストランには何度も来ているのだろな。
他の、女の人と…
「わたしも、ヨシキさんのこと、もっと知りたいです」
「いいよ。なんでも訊いて」
「そういえばわたし… ヨシキさんの本名、まだ聞いてなかったです」
「そうだったな。本名は壬生芳貴」
「みぶ、よしたか…」
「『よしたか』より『ヨシキ』の方が好きなんだ。昔っからそう呼ばれ慣れてるし」
「確かに… 今さら『よしたかさん』と呼ぶのは、馴染めないかも。『ヨシキさん』の方が語呂もよくて、しっくりきます」
「だろ? それに壬生芳貴って、メチャクチャ画数悪いんだ。姓名判断見てびっくりしたよ。オレの親、ちゃんと調べて名づけてないだろ」
「え? でもわたしは、いい名前だと思いますけど」
「ははは。まあ、姓名判断なんて信用してないけどな。自分の人生は自分で切り拓きたいし」
そう笑い飛ばしてヨシキさん… 壬生芳貴さんは、わたしの問いに気軽に答えてくれた。
バイト先の写真事務所のこと。
ヨシキさんが行っている大学のこと。
イベントの話や、親友の大竹さんと同人サークルを作っていることなど。
わたしもヨシキさんに訊かれるまま、日舞やバレエなどのお稽古のこと、学校での日常、先日の全日本なぎなた選手権大会や、家や田舎の家系のことまで、いろいろ話した。
つづく
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