あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

文字の大きさ
70 / 259
level 8

「うしろから抱きしめられるのは、ときめきます」

しおりを挟む
「男の人がキッチンに立っているのって、なんだか新鮮です。うちの男はだれも家事しないから」
「ふうん。古風だね」
「そうなんです。封建的で、いまだに男尊女卑の考えが強いんです」
「大河ドラマとか見てても、昔の薩摩ってそんなイメージだよね」
「…ええ。ほんとうにあんな感じです」
「そりゃ、凛子ちゃんが『変わりたい』ってのも、わかる気がするな」
「どうしてですか?」
「凛子ちゃんに、男尊女卑なんて似合わない。
自己主張がしっかりあって、負けず嫌いで、黙って男に従うだけの女じゃないもんな」
「それって、褒めているんですか?」
「そのつもり」
「父も兄も、『慎み深くてしとやかで胃袋を満たしてくれて、いつでも男を立ててくれる女が、男は好きだ』みたいなことを、いつも言っていますけど」
「一般的にはそうかもな。でもオレは、手応えのある女の子の方が好きだな。凛子ちゃんみたいな」
「わたしって、手応えありますか?」
「だから、好きになったんだよ」
「あ、ありがとうございます」
「まあ、オレだって、いつでも『男』を『立てて』くれる女の子は、好きだけどな」
「?」
「あはは。悪い。
凛子ちゃんにはまだ通じないオヤジギャグだったかな。とりあえず乾杯しよう。今日の記念すべき夜に」

アイスティの入ったグラスをふたつ持ってきたヨシキさんは、ひとつをわたしに手渡すと、軽くグラスを当てた。ガラスがはじける澄んだ音がする。
グラスに口づけながら、肩が触れあうほどすぐとなりに、ヨシキさんは腰を降ろした。
体温を間近に感じて、それだけでドキドキしてしまう。
そのぬくもりが、これから起こることを妄想させてしまって、からだが固くなる。
『大丈夫です』と、口ではどんなに強がってみても、やっぱりまだ経験していないことだから、不安で怖い。

気持ちを落ち着けようと、わたしは渡されたアイスティを、ひと口ふた口飲んでみた。
おいしい!
いれたての紅茶は、風味が格別だ。
ベルガモットの酸味を含んだ香りが、心をなごませてくれる。

二、三口飲んだわたしは、グラスを持ったまま窓の外を見た。
バルコニーから見える夜景は、光を敷き詰めた絨毯のように、とっても綺麗だった。
都心の高層ビルの辺りは、特に明るく瞬いている。
そういえば昨日はあの下で、ヨシキさんに写真を撮ってもらったのだったな。

「夜景が綺麗ですね」
「眺めが気に入って、ここを借りたんだよ」
「そうなんですね。わたしの家は2階建てだから、こんなに眺めのいい部屋は新鮮で、羨ましいです」
「そう? じゃあバルコニーに出てみる?」

そう言ってヨシキさんはわたしの手をとり、カーテンを開けると、掃き出し窓を開いてバルコニーへ案内してくれた。
わずかに熱気を含んだ夜の空気が、頬を撫でる。
手摺に手を添えて、わたしは夜の街並を見渡した。

「ほんと。とっても綺麗です!」

思わず興奮して声を高める。
カーテン越しで見ていたよりも、鮮やかに光が瞬いている。
さすがに高層階だけあって、窓の下の眺めは、まるでミニチュアのおもちゃみたいに可愛いらしく、道に沿って光の帯が続いている。
近くに高い建物がないせいか、広々と都心が見渡せて、あたり一面光の海。
怖さも忘れてわたしは身を乗り出し、キラキラ瞬く都会の夜景を見つめた。

「気に入ってくれた?」

そう言いながらヨシキさんは、うしろからわたしを軽く抱きしめた。
思わずピクリと、肩が震える。
うしろから抱きしめられるのって、どうしてこんなにときめくのだろう。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...