あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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「本当に好きなのはわたしひとりだけですか?]

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「ん~、、、 8月下旬、だったかな」
「8月下旬?! 山口にバカンスに行く直前ですか? 『仕事を片づけとかないといけないから、しばらく会えない』って言っていた」
「ああ。そのときだよ」
「仕事って、恋子さんと新島に行くことですか?!」
「…それも含まれてる」
「『含まれてる』って… よくそんなサラっと言えますね。悪びれもせずに!」
「悪びれるって、、、 オレはなにも悪いことはしてないから」
「開き直らないで下さい! わたしに黙って恋子さんと新島なんかに行って、水着撮影するなんて!」
「いちいち了解とらなきゃいけないのか? 凛子ちゃんの」
「なにそれ? 信じられない! わたし、ヨシキさんのなんなんですかっ?!」
「カノジョ」
「だったら、他の女の人と撮影に行くとき、ひとことでいいから言ってほしいです! でないと、やましいことしているのじゃないかと、疑ってしまいます!」
「そんなこと、してないよ」
「でも、恋子さんと泊まったんでしょ? 新島に」
「泊まったりしてないよ」
「嘘っ! この前ヨシキさんは『新島は泊まりじゃないと日程組みにくい』って言っていたじゃないですか!」
「調べたら、調布から飛行機が出てたんだよ。それだと撮影だけなら日帰りでもなんとかできるし」
「ほんとうに、撮影だけですか?」
「オレのこと信じられない? まあ、あの掲示板スレ見れば、信じられなくなるよな、ふつー」
「どうしてそんな、人ごとみたいに言うんです? あれを見たわたしが、いったいどんな気持ちになったか、ヨシキさんはわかりますか?!」
「イヤ~な気持ちになっただろ。オレだっていい気持ちしないもん」
「そんな… ヨシキさんは平気なんですか? 就職先のことや人間関係や、プライベートなことまで全部晒されて、悪口言われて好き勝手なこと書かれて」
「しかたないよ。『有名税』って思うことにしてるよ」
「それで、本当に納得しているんですか?!」
「できなくてもするしかないだろ。オレは敵が多いし、あることないこと晒されるし」
「『あることないこと』って、ほんとうのことも書いてあるんですか?」
「逆に訊くけど、オレのこと、ほんとにあのスレのとおりだって思ってる?」
「それは… 思いたくないけど、でも…」
「凛子ちゃん、オレのこと信じてないの?
オレがほんとに好きなのは、今は凛子ちゃんただひとりだってのに」
「『今は』って。なんですか?」
「ん~、、 とにかくオレのこと、信じてほしいってこと」
「…そりゃ、信じたいけど、、、 なんだかわからなくなってきました」
「…」
「ヨシキさん… わたし以外にも、今つきあっている人、いるんじゃないですか?」
「…はぁ、、、、、、、、、」

携帯の向こうで、深いため息が漏れる。
長い沈黙のあと、冷めた口調でヨシキさんは言った。

「いたとしたら、どうする?」

なにそれ?!
意味わからない!
わたしは激昂して言った。

「別れます!!」
「………」

ヨシキさんはなにも言わなかった。
その沈黙はわたしを余計に苛立たせ、溜まりに溜まっていた不満をぶちまけさせた。

「最低! なにもかも、ぶち壊しです!
お台場でのファーストキスも、ふたりで行ったバカンスも…
綺麗な思い出はみんな、ぐしゃぐしゃにされて。
わたし、心のどこかで『ヨシキさんはわたしのこと、本気で好きなのかな?』って、いつも疑問、感じていました。自信、ありませんでした。
それでも、精いっぱいついていって、『大事にされているんだ』って実感できるようになって、少しずつ自信も芽生えてきたというのに、それも打ち砕かれました。
正直、むかつきます!」

わたしの言い分を黙って聞いていたヨシキさんは、静かな声で切り返す。

つづく
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