あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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「わたしの替わりなんていくらでもいるのですか?」

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「ひどい顔ね… 凛子」

翌朝、洗面台の前に立ったわたしは、鏡に映る自分に向かって、つぶやいた。

真夜中に泣いたのと睡眠不足で、目が充血していて、まぶたも腫れぼったい。
頬はこけて、髪も跳ねまくっている。
こんな顔と気分で、学校なんかに行きたくない。
それでもわたしはノロノロと顔を洗い、できるだけ家族と顔を合わせないようにしながら、機械的に朝の支度を整え、家を出た。

 学校での一日は、なんの張り合いも感動もなく、無為に時が過ぎるだけ。
時計の針が進むのが、遅すぎる。
しかも、こんな日に限って、『慰労会』だとかで、放課後になぎなた部の集まりがあるのだ。
適当な理由をつけて欠席したかったが、主将を務め、全国大会でも6位に入賞したわたしが、出ない
わけにはいかない。

日が短くなってきはじめた放課後の道場で、慰労会がはじまる。
板張りの道場に3年生と1•2年生が向かい合って座り、お茶やお菓子が配られる。
顧問の退屈な訓示のあとは、ぎこちない下級生の謝辞と部長のつまらない答辞。

虚しい。

なにもかもが、心のなかを通り過ぎていくだけ。
胸にぽっかりと大きな穴が開いたみたい。
ヨシキさんの存在は、他に埋められるものがないくらい、大きなものなのだろうか。
これってやっぱり、失恋なのかなぁ、、、

そんなことない!
あんな人のことなんか、もうどうでもいい!
あいつを好きなわけがない!

だけど…

どんなに否定してみても、ごっそりと抜け落ちた愛の欠片かけらは、埋められない。

「先輩、お疲れ様です」

会食の時間になってしばらく経ったとき、ふと可愛らしい声が、肩越しに聞こえてきた。
そちらに目をやると、2年生の女子がお盆に茶碗を乗せて、わたしに差し出している。
和歌乃彩葉わかのいろはとかいう、古風な名前の、わたしがいちばん目をかけてやっている後輩だ。
わたしと同じような漆黒の髪をおさげにした、ふんわりとした雰囲気の色白の美少女で、無口でおとなしいけど、次期主将の呼び声も高い腕の持ち主だった。
彼女もわたしを慕ってくれているようで、稽古や試合のあとに、いつもタオルを渡してくれる姿が印象的。

「ありがとう」
「…」

なにか言いたそうに、彼女はもじもじしている。

「なに?」
「…い、今まで、いろいろと、あ、ありがとうございました」

やっとの思いで口に出したのか、彼女は頬を赤らめると、声を詰まらせたようにうつむいたまま下がっていった。
その様子が、奥ゆかしくて可愛い。
退屈な慰労会のなかの、いっときのやすらぎだった。
それでもわたしの気鬱は、こんなことでまぎれるものではなかった。



一日が長い。
慰労会も終わって帰路につき、やっと夜になったと思ったのに、今度は暗闇のとばりが、孤独を募らせてくる。
無意識のうちに、わたしは携帯に目をやっていた。

『待っても無駄よ凛子。わたしたちもう別れたんだから、連絡くるはずがないわ』

そう何回も言い聞かせても、心の底でどこか期待して、携帯を見つめてしまう自分がいる。
もちろん、携帯はピクリとも動かず、机の隅で化石のように固まったまま。
あれほどわたしを愛してくれて、この携帯から優しい声をいつも聞かせてくれていたヨシキさんなのに、こんなにあっさりと連絡が途絶えるなんて。
いくら、わたしから先にさよならを告げたとしても、あまりにそっけない態度。
一度くらい、未練がましい言い訳をしてくれてもいいじゃない。
結局わたしの替わりなんて、いくらでもいるというわけ?!
こうしてわたしが悶々としている今も、他のとよろしくやっているわけ?
なんか、ムカつく。

、、、いけない。
また、思考のループに陥っている。
孤独の中でイライラが昂まっていき、どうにも気持ちのやり場がない。
なんとか自分を落ち着けなきゃ。
とにかくだれかと繋がっていたくて、わたしは携帯を手にとり、ボタンをまさぐった。

つづく
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