あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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level 19

恥ずかしさと口惜しさで顔が真っ赤になりました」

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「凛子ちゃん。今の動画見る?」

スタジオの隅に置かれたパソコンの周りには、プロデューサーさんやカメラマンさん、公安のお偉いさんらが集まってて、みんなでモニターを覗き込んでいた。
放心状態でホリゾントに突っ立ってるわたしに、みっこさんが手を振って招いてる。

「なかなかいいですね」
「さすが、みっこちゃんの秘蔵っ子ね。華があるわ」
「まあ、はじめての撮影だし、こんなもんでしょうね」
「いいんじゃないですか?」

当たり障りなくみんなが褒めてくれるなかで、みっこさんだけは腕組みをしたまま、じっとモニターを見つめていた。
そのとなりに立って、わたしもモニターに見入る。
何度も再生される画面のなかの自分を、まばたきもせずにわたしは見つめた。
恥ずかしさと口惜しさで顔が真っ赤になってきて、わたしは拳を固く握りしめた。

こんなの、全然ダメだ。
ロクな演技じゃない。
見るからに集中力がなくて、速さにも正確さにも気魄にも欠けてる。

素人が見てもわからないだろうけど、試合じゃ一回戦負けするようなレベル。
全国大会に出場して、6位まで勝ち上がったわたしの力は、こんなもんじゃない!

なのに『こんなもんでしょうね』って。
みくびらないで!

そりゃ、緊張で実力が発揮できなかったわたしが、いちばん悪いんだけど。

しっかりしろ。凛子!
だらしないぞ!
なんとかしなきゃ!!

「どう? 凛子ちゃん的には」

わたしの方を振り向き、みっこさんが訊いてきた。
思わず声を荒げる。

「こんなの、、、 納得いきませんっ」
「どこが?」
「なにもかもです!」
「ふうん」
「あっ、すみません。撮影がとかってわけじゃなくて、自分のなぎなたのことです。
わたし、緊張で全然集中できなくって、演技もうわの空で… こんな演武、みっともないだけです!
師範や上級者の方に見られたら、笑われます!」

激昂した言葉に、それぞれに感想を述べていたみんなは口を閉じ、不審そうにわたしを見つめる。
たくさんの視線を痛いほど感じながら、わたしは思い切って深々と頭を下げ、監督に頼んだ。

「すみません。やり直させて下さい!」
「え? やり直す?」
「…生意気ね」

呆気にとられた様子でわたしを見返てる監督を、みっこさんは一瞥すると、こちらを睨み、冷たく言い放った。

「監督もクライアントさんも、もう、OK出したのよ。駆け出しモデルのくせに、自分からダメ出しするつもり?」
「しかし…」
「スタジオの予定だって、このあと詰まってるのに、あなたが『納得いかない』からって、撮り直せって言うの?」
「すっ、すみません。でもわたし、こんな形で終わるのはイヤです。もっといい演技を見てもらいたいです。
だからどうしても、もう一度やらせてほしいんです。お願いします!」

もう、あとには引けない。
抑えつけるように見つめるみっこさんの視線に気圧けおされながらも、わたしは一歩も引かなかった。
かすかに口元に笑みを浮かべ、みっこさんは答える。

「じゃあ、見せて」
「え?」
「凛子ちゃんが納得いくまでやって、その、『もっといい演技』ってのを見せてもらいましょ。ね、監督?」
「あ? そうだな…」
「ありがとうございます。でもその前に、素振りの時間を少し下さい。からだを暖めないと調子が出ないから」
「好きにすればいいわ」

わたしは丸に十文字の入った馴染みの真剣を手に取り、思いっきり薙刀を振れる場所を探した。

「ホリゾント使いなさいよ。邪魔なものもないし、そこがいちばん広いでしょ」

そう言って、みっこさんは真っ白な空間を目で示した。撮影に使う場所だけど、確かにそこなら薙刀を振り回すには十分過ぎるスペースがある。
まだライトが煌々と輝いているホリゾントの真ん中に立って、わたしは薙刀を構えた。

つづく
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