誤解で始まった婚約破棄が、本当の恋に変わるまで

er

文字の大きさ
4 / 11

しおりを挟む
「はい」
二人は人目を避けて、図書館の奥の個室に移動した。
扉を閉めて、向かい合って座る。
「まず、私から話します」
エドウィンが深呼吸をした。
「昨夜、貴女からの手紙を読みました。オズワルド宛ての手紙を」
「え......?」
ロザリンドが凍りついた。
「貴女がオズワルドに相談していること、彼を頼りにしていることを知りました。それなら、私が貴女を縛り続けるのは間違っている。だから、婚約を解消しようと考えたんです」
「待ってください!」
ロザリンドが声を上げた。
「私も、エドウィン様からの手紙を読みました。セリア宛ての手紙を」
「セリア宛ての......?」
「はい。貴方様がセリアに特別な想いを抱いていると知って、私が身を引くべきだと思ったんです」
二人は互いの言葉を理解するのに、しばらく時間がかかった。
やがて、エドウィンが気づいた。
「まさか......手紙が入れ替わっていた?」
「そうかもしれません......」
ロザリンドも同じ結論に達した。
「私はオズワルド様に『エドウィン様との接し方』を相談しただけです。彼は話しやすい方だから......」
「私もセリアに『貴女を支えてくれる侍女への感謝』を伝えただけです......」
二人は同時に、ため息をついた。
そして、奇妙なことに、同時に笑ってしまった。
「なんという誤解......」
「お互いに、相手のために身を引こうとしていたなんて......」
笑いが収まると、また沈黙が訪れた。
だが今度は、重苦しい沈黙ではなかった。
ロザリンドが小さく呟いた。
「でも......婚約破棄という選択肢は、悪くないかもしれません」
「え?」
「私たち、互いに遠慮しすぎていたのかもしれません。政略結婚という枠に縛られて、本当の自分を出せなかった」
エドウィンは彼女の言葉に、深く頷いた。
「確かに......私も王子として完璧に振る舞わなければと思って、貴女と本音で話したことがなかった」
「なら、一度リセットしませんか?」
ロザリンドの目が、真剣に輝いた。
「婚約を解消して、互いに自由になる。それで、もし縁があれば......また出会えるかもしれない」
エドウィンは彼女の提案を、慎重に考えた。
だが、婚約破棄は簡単ではない。両家の体面、貴族社会の目、王家の権威。
「ただ破棄するだけでは、双方に傷がつきます」
「なら......演出しましょう」
ロザリンドが、不敵に笑った。
「悪役令嬢の婚約破棄劇。貴族社会でよくある物語です。私が悪役を演じて、エドウィン様に破棄を宣言していただく。そうすれば、貴方様の名誉は守られます」
「だが、貴女が......」
「私は構いません。どうせ窮屈な令嬢生活に疲れていました。むしろ、好都合です」
彼女の目には、確かな決意があった。
エドウィンは、初めて彼女の本当の姿を見た気がした。
完璧な公爵令嬢ではなく、一人の人間としてのロザリンド。
「......分かりました。では、共謀しましょう」
二人は手を取り合った。
婚約破棄という、奇妙な共同作業が始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※「なろう」にも重複投稿しています。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

夫に君も愛人を作ればいいと言われましたので

麻麻(あさあさ)
恋愛
「君も愛人を作ればいい」と夫に言われたので売り言葉に買い言葉で出会った愛人候補は自分が魔法使い伯爵と言いました。 全15話。プロローグから4話まで一挙公開。 翌日からは20時に2話ずつ公開。11日は最終話まで3話一挙公開。 登場人物 マーリン・ダグラス 結婚2年目にして夫の不倫を問い詰めたら黒だった令嬢。母に聞かされた結婚は夫となる人を大事にという言葉を守ってるが夫のギルバートにブチギレてこの度愛人を探すと決める。 デミトリアス・ドラモンドまたはアロン マーリンが仮面舞踏会で知り合った自称魔法使い伯爵。次の日にマーリン好みの執事アロンに姿を変えて彼女の屋敷に来る。 ギルバート・ダグラス マーリンの夫で伯爵。ギルと呼ばれている。愛人を作れば発言をした。 シェリー・モーヴ ギルバートの愛人 エミリー マーリンの親友で既婚者。 ララとリリー マーリンの屋敷のメイド達。

【完結】断罪された占星術師は、処刑前夜に星を詠む

佐倉穂波
恋愛
 星は、嘘をつかない。嘘をついていたのは——わたし自身だった。  王宮の卜部に勤める十七歳の占星術師リュシア・アストレアは、ある日、王太子妃候補の婚儀に「凶」の星を読んだ。星が告げるままに報告したに過ぎなかったのに、翌朝には牢に入れられていた。罪状は「占星術を用いて王家を惑わせ、王太子暗殺を画策した」こと。  言いがかりだ。  しかし、証明する術がない。  処刑は五日後の朝と告げられ、リュシアは窓もない石の牢に閉じ込められた。  そこで彼女は気づいてしまう。占いが外れ続けていた本当の理由に。  道具も星図もない暗闇の中で、生まれて初めて、星の声を正しく聞いた。  瞼の裏に広がる夜空が、告げる。  【王太子が、明後日の夜に殺される】  処刑前夜に視た予言を、誰が信じるというのか。それでも、若き宰相クラウス・ベルシュタインは深夜の牢へ足を運び、断罪された少女の言葉に耳を傾けた。  二人の出会いは、運命をどう変えていくのかーー。

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

気がついたら婚約者アリの後輩魔導師(王子)と結婚していたんですが。

三谷朱花
恋愛
「おめでとう!」 朝、職場である王城に着くと、リサ・ムースは、魔導士仲間になぜか祝われた。 「何が?」 リサは祝われた理由に心当たりがなかった。 どうやら、リサは結婚したらしい。 ……婚約者がいたはずの、ディランと。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

処理中です...