300年狩られ続けた《禁忌》持ちの令嬢は、三日で処刑を覆す。

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第十七話

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「やはりな。これが本物か」
男は貪欲な笑みを浮かべ、鏡を掴もうとした。
勝利を確信した、醜悪な笑顔。その手が、禁忌の秘宝へと伸びる。

その瞬間――
「そこまでだ、リュシアン・ド・ヴァロワ」

低く、威厳に満ちた声が秘宝庫に響き渡った。
扉の向こうから、アクセルが現れた。
深い蒼の外套を翻し、腰には宝剣。月光を受けて、その刀身が鈍く輝いている。厳格な顔立ちに宿る眼光は、まるで獲物を狩る狼のように鋭い。その背後には、銀の鎧を纏った王直属騎士団の騎士たちが整然と控えていた。
リュシアンの顔が、見る見るうちに歪んだ。
勝利の笑みが凍りつき、驚愕と怒りに染まる。
「辺境伯......! なぜここに......!」
声が裏返っている。さっきまでの余裕はどこへやら、狼狽が隠せない。

「お前の計画は、全て筒抜けだった」
アクセルは冷徹に告げた。一歩、また一歩と、王者のような威厳を纏いながら近づいてくる。
「エリーズは最初から、俺と協力していた」
「なんだと......!」
リュシアンは私を睨みつけた。その鋭い目に、裏切られたという怒りと、まんまと嵌められたという屈辱が渦巻いている。

「貴様、俺を嵌めたのか!」
「私は、あなたのような人に協力するつもりはありませんでした」

私は震える声で言った。
でも、もう怯えてはいない。
アクセルがいる。彼が守ってくれる。
「アクセルが、守ってくれると信じていましたから」
その言葉が、リュシアンの逆鱗に触れたようだった。
リュシアンの顔が、憤怒に染まった。こめかみに青筋が浮き、整った顔立ちが憎悪で醜く歪む。
「小娘が......! 小賢しい真似を......!」
男は懐から短剣を取り出し、私に向かって跳びかかってきた。
刃が月光を反射し、殺意を孕んだ軌跡を描く。
「危ない!」
アクセルが叫ぶ。
しかし、距離がある。間に合わない。
リュシアンの短剣が、私の首筋に迫る。冷たい刃が、あと数センチの距離だ。

死ぬ――そう思った瞬間。
私の体が、勝手に動いた。

「真実ノ眼」が、さらに深く発動する。
視界が研ぎ澄まされ、世界の色が変わる。
リュシアンの動きが、まるでスローモーションのように見えた。
短剣の軌道、筋肉の動き、次の一手――全てが、クリアに視える。
全てが、まるで本に書かれた文字を読むように理解できた。
私は本能的に体を捻り、短剣を躱した。
刃が髪を掠め、数本の髪が宙を舞う。

「なっ......!」

リュシアンが驚愕の表情を浮かべる。目を見開き、信じられないという顔で私を見る。
こんな小娘が、自分の攻撃を躱すなど――彼の顔に、そう書いてあった。
その隙に、アクセルが一気に距離を詰めた。
まるで風のように。人間とは思えない速さで。
「ふざけるな!」
怒りを込めた一喝と共に、宝剣がリュシアンの短剣を弾き飛ばす。
金属のぶつかり合う、甲高い音。短剣が宙を舞い、遠くの床に転がった。
そして――
アクセルの拳が、容赦なくリュシアンの顔面に叩き込まれた。
鈍く、骨が軋む音が響き渡った。
リュシアンは床に倒れ込んだ。傲慢だった宮廷魔法顧問が、無様に石畳の上に転がる。口から血が流れ、整った顔は殴られた衝撃で歪んでいた。

「エリーズ!」
アクセルが駆け寄ってくる。
あの厳格な顔に、明確な心配の色が浮かんでいた。
「大丈夫か、怪我は!」
大きな手が私の肩を掴み、全身を確認する。その手は震えていた。
「はい......大丈夫です」
私は息を整えながら頷いた。心臓が激しく打っている。
恐怖と安堵と、そして彼の存在による温かさが入り混じって。
アクセルは私の肩を掴んだまま、服の裾、腕、髪まで、傷がないか丁寧に確認した。その仕草は、まるで大切な宝物を扱うように慎重で、優しい。
「本当に無事か。あいつの短剣が当たっていたら......」
アクセルの声が、わずかに震えていた。

この強く、冷静なはずの人が、私のために恐怖を感じてくれている。
私がいなくなることを、恐れてくれている。
胸が熱くなった。
「大丈夫です。あなたが来てくれましたから」
私はそっと、彼の手に自分の手を重ねた。
「......ああ」
男は深く息を吐いた。張り詰めていた緊張が、ようやく解けたようだった。

そして、私の頭にそっと手を置いた。大きな手のひらが、優しく髪を撫でる。
「もう、危険な目には遭わせない」
その優しさに、私の目頭が熱くなった。
「リュシアン・ド・ヴァロワを拘束しろ」
アクセルの命令が、凛と秘宝庫に響く。辺境伯としての威厳が、その声に宿っていた。
騎士たちが一斉に動いた。訓練された動き、無駄のない連携。
リュシアンは床に倒れたまま、苦しそうに呻いている。さっきまでの傲慢な態度はどこへやら、今は無様に血を流しながら床に這いつくばっている。
「く......くそ......」
男は血を吐きながら、憎悪の眼差しで私を睨みつけた。
「小娘が......俺を......こんな小娘ごときに......!」
悔しさと屈辱で、声が震えている。宮廷魔法顧問という高位にあった男が、平民出の若い娘に敗れた。そのプライドがズタズタに引き裂かれているのだ。
見ていて、心地よかった。
「お前の負けだ、リュシアン」
アクセルは冷ややかに見下ろした。まるで虫けらでも見るような、冷徹な眼差し。
「お前は王家の秘宝を盗もうとし、さらに管理官補佐を脅迫した。これらの罪により、お前を逮捕する」
宣告する声は、絶対的だった。
騎士たちがリュシアンに手錠を嵌める。冷たい金属の音が、彼の敗北を告げる鐘のように響いた。
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