17 / 19
第十七話
しおりを挟む
「やはりな。これが本物か」
男は貪欲な笑みを浮かべ、鏡を掴もうとした。
勝利を確信した、醜悪な笑顔。その手が、禁忌の秘宝へと伸びる。
その瞬間――
「そこまでだ、リュシアン・ド・ヴァロワ」
低く、威厳に満ちた声が秘宝庫に響き渡った。
扉の向こうから、アクセルが現れた。
深い蒼の外套を翻し、腰には宝剣。月光を受けて、その刀身が鈍く輝いている。厳格な顔立ちに宿る眼光は、まるで獲物を狩る狼のように鋭い。その背後には、銀の鎧を纏った王直属騎士団の騎士たちが整然と控えていた。
リュシアンの顔が、見る見るうちに歪んだ。
勝利の笑みが凍りつき、驚愕と怒りに染まる。
「辺境伯......! なぜここに......!」
声が裏返っている。さっきまでの余裕はどこへやら、狼狽が隠せない。
「お前の計画は、全て筒抜けだった」
アクセルは冷徹に告げた。一歩、また一歩と、王者のような威厳を纏いながら近づいてくる。
「エリーズは最初から、俺と協力していた」
「なんだと......!」
リュシアンは私を睨みつけた。その鋭い目に、裏切られたという怒りと、まんまと嵌められたという屈辱が渦巻いている。
「貴様、俺を嵌めたのか!」
「私は、あなたのような人に協力するつもりはありませんでした」
私は震える声で言った。
でも、もう怯えてはいない。
アクセルがいる。彼が守ってくれる。
「アクセルが、守ってくれると信じていましたから」
その言葉が、リュシアンの逆鱗に触れたようだった。
リュシアンの顔が、憤怒に染まった。こめかみに青筋が浮き、整った顔立ちが憎悪で醜く歪む。
「小娘が......! 小賢しい真似を......!」
男は懐から短剣を取り出し、私に向かって跳びかかってきた。
刃が月光を反射し、殺意を孕んだ軌跡を描く。
「危ない!」
アクセルが叫ぶ。
しかし、距離がある。間に合わない。
リュシアンの短剣が、私の首筋に迫る。冷たい刃が、あと数センチの距離だ。
死ぬ――そう思った瞬間。
私の体が、勝手に動いた。
「真実ノ眼」が、さらに深く発動する。
視界が研ぎ澄まされ、世界の色が変わる。
リュシアンの動きが、まるでスローモーションのように見えた。
短剣の軌道、筋肉の動き、次の一手――全てが、クリアに視える。
全てが、まるで本に書かれた文字を読むように理解できた。
私は本能的に体を捻り、短剣を躱した。
刃が髪を掠め、数本の髪が宙を舞う。
「なっ......!」
リュシアンが驚愕の表情を浮かべる。目を見開き、信じられないという顔で私を見る。
こんな小娘が、自分の攻撃を躱すなど――彼の顔に、そう書いてあった。
その隙に、アクセルが一気に距離を詰めた。
まるで風のように。人間とは思えない速さで。
「ふざけるな!」
怒りを込めた一喝と共に、宝剣がリュシアンの短剣を弾き飛ばす。
金属のぶつかり合う、甲高い音。短剣が宙を舞い、遠くの床に転がった。
そして――
アクセルの拳が、容赦なくリュシアンの顔面に叩き込まれた。
鈍く、骨が軋む音が響き渡った。
リュシアンは床に倒れ込んだ。傲慢だった宮廷魔法顧問が、無様に石畳の上に転がる。口から血が流れ、整った顔は殴られた衝撃で歪んでいた。
「エリーズ!」
アクセルが駆け寄ってくる。
あの厳格な顔に、明確な心配の色が浮かんでいた。
「大丈夫か、怪我は!」
大きな手が私の肩を掴み、全身を確認する。その手は震えていた。
「はい......大丈夫です」
私は息を整えながら頷いた。心臓が激しく打っている。
恐怖と安堵と、そして彼の存在による温かさが入り混じって。
アクセルは私の肩を掴んだまま、服の裾、腕、髪まで、傷がないか丁寧に確認した。その仕草は、まるで大切な宝物を扱うように慎重で、優しい。
「本当に無事か。あいつの短剣が当たっていたら......」
アクセルの声が、わずかに震えていた。
この強く、冷静なはずの人が、私のために恐怖を感じてくれている。
私がいなくなることを、恐れてくれている。
胸が熱くなった。
「大丈夫です。あなたが来てくれましたから」
私はそっと、彼の手に自分の手を重ねた。
「......ああ」
男は深く息を吐いた。張り詰めていた緊張が、ようやく解けたようだった。
そして、私の頭にそっと手を置いた。大きな手のひらが、優しく髪を撫でる。
「もう、危険な目には遭わせない」
その優しさに、私の目頭が熱くなった。
「リュシアン・ド・ヴァロワを拘束しろ」
アクセルの命令が、凛と秘宝庫に響く。辺境伯としての威厳が、その声に宿っていた。
騎士たちが一斉に動いた。訓練された動き、無駄のない連携。
リュシアンは床に倒れたまま、苦しそうに呻いている。さっきまでの傲慢な態度はどこへやら、今は無様に血を流しながら床に這いつくばっている。
「く......くそ......」
男は血を吐きながら、憎悪の眼差しで私を睨みつけた。
「小娘が......俺を......こんな小娘ごときに......!」
悔しさと屈辱で、声が震えている。宮廷魔法顧問という高位にあった男が、平民出の若い娘に敗れた。そのプライドがズタズタに引き裂かれているのだ。
見ていて、心地よかった。
「お前の負けだ、リュシアン」
アクセルは冷ややかに見下ろした。まるで虫けらでも見るような、冷徹な眼差し。
「お前は王家の秘宝を盗もうとし、さらに管理官補佐を脅迫した。これらの罪により、お前を逮捕する」
宣告する声は、絶対的だった。
騎士たちがリュシアンに手錠を嵌める。冷たい金属の音が、彼の敗北を告げる鐘のように響いた。
男は貪欲な笑みを浮かべ、鏡を掴もうとした。
勝利を確信した、醜悪な笑顔。その手が、禁忌の秘宝へと伸びる。
その瞬間――
「そこまでだ、リュシアン・ド・ヴァロワ」
低く、威厳に満ちた声が秘宝庫に響き渡った。
扉の向こうから、アクセルが現れた。
深い蒼の外套を翻し、腰には宝剣。月光を受けて、その刀身が鈍く輝いている。厳格な顔立ちに宿る眼光は、まるで獲物を狩る狼のように鋭い。その背後には、銀の鎧を纏った王直属騎士団の騎士たちが整然と控えていた。
リュシアンの顔が、見る見るうちに歪んだ。
勝利の笑みが凍りつき、驚愕と怒りに染まる。
「辺境伯......! なぜここに......!」
声が裏返っている。さっきまでの余裕はどこへやら、狼狽が隠せない。
「お前の計画は、全て筒抜けだった」
アクセルは冷徹に告げた。一歩、また一歩と、王者のような威厳を纏いながら近づいてくる。
「エリーズは最初から、俺と協力していた」
「なんだと......!」
リュシアンは私を睨みつけた。その鋭い目に、裏切られたという怒りと、まんまと嵌められたという屈辱が渦巻いている。
「貴様、俺を嵌めたのか!」
「私は、あなたのような人に協力するつもりはありませんでした」
私は震える声で言った。
でも、もう怯えてはいない。
アクセルがいる。彼が守ってくれる。
「アクセルが、守ってくれると信じていましたから」
その言葉が、リュシアンの逆鱗に触れたようだった。
リュシアンの顔が、憤怒に染まった。こめかみに青筋が浮き、整った顔立ちが憎悪で醜く歪む。
「小娘が......! 小賢しい真似を......!」
男は懐から短剣を取り出し、私に向かって跳びかかってきた。
刃が月光を反射し、殺意を孕んだ軌跡を描く。
「危ない!」
アクセルが叫ぶ。
しかし、距離がある。間に合わない。
リュシアンの短剣が、私の首筋に迫る。冷たい刃が、あと数センチの距離だ。
死ぬ――そう思った瞬間。
私の体が、勝手に動いた。
「真実ノ眼」が、さらに深く発動する。
視界が研ぎ澄まされ、世界の色が変わる。
リュシアンの動きが、まるでスローモーションのように見えた。
短剣の軌道、筋肉の動き、次の一手――全てが、クリアに視える。
全てが、まるで本に書かれた文字を読むように理解できた。
私は本能的に体を捻り、短剣を躱した。
刃が髪を掠め、数本の髪が宙を舞う。
「なっ......!」
リュシアンが驚愕の表情を浮かべる。目を見開き、信じられないという顔で私を見る。
こんな小娘が、自分の攻撃を躱すなど――彼の顔に、そう書いてあった。
その隙に、アクセルが一気に距離を詰めた。
まるで風のように。人間とは思えない速さで。
「ふざけるな!」
怒りを込めた一喝と共に、宝剣がリュシアンの短剣を弾き飛ばす。
金属のぶつかり合う、甲高い音。短剣が宙を舞い、遠くの床に転がった。
そして――
アクセルの拳が、容赦なくリュシアンの顔面に叩き込まれた。
鈍く、骨が軋む音が響き渡った。
リュシアンは床に倒れ込んだ。傲慢だった宮廷魔法顧問が、無様に石畳の上に転がる。口から血が流れ、整った顔は殴られた衝撃で歪んでいた。
「エリーズ!」
アクセルが駆け寄ってくる。
あの厳格な顔に、明確な心配の色が浮かんでいた。
「大丈夫か、怪我は!」
大きな手が私の肩を掴み、全身を確認する。その手は震えていた。
「はい......大丈夫です」
私は息を整えながら頷いた。心臓が激しく打っている。
恐怖と安堵と、そして彼の存在による温かさが入り混じって。
アクセルは私の肩を掴んだまま、服の裾、腕、髪まで、傷がないか丁寧に確認した。その仕草は、まるで大切な宝物を扱うように慎重で、優しい。
「本当に無事か。あいつの短剣が当たっていたら......」
アクセルの声が、わずかに震えていた。
この強く、冷静なはずの人が、私のために恐怖を感じてくれている。
私がいなくなることを、恐れてくれている。
胸が熱くなった。
「大丈夫です。あなたが来てくれましたから」
私はそっと、彼の手に自分の手を重ねた。
「......ああ」
男は深く息を吐いた。張り詰めていた緊張が、ようやく解けたようだった。
そして、私の頭にそっと手を置いた。大きな手のひらが、優しく髪を撫でる。
「もう、危険な目には遭わせない」
その優しさに、私の目頭が熱くなった。
「リュシアン・ド・ヴァロワを拘束しろ」
アクセルの命令が、凛と秘宝庫に響く。辺境伯としての威厳が、その声に宿っていた。
騎士たちが一斉に動いた。訓練された動き、無駄のない連携。
リュシアンは床に倒れたまま、苦しそうに呻いている。さっきまでの傲慢な態度はどこへやら、今は無様に血を流しながら床に這いつくばっている。
「く......くそ......」
男は血を吐きながら、憎悪の眼差しで私を睨みつけた。
「小娘が......俺を......こんな小娘ごときに......!」
悔しさと屈辱で、声が震えている。宮廷魔法顧問という高位にあった男が、平民出の若い娘に敗れた。そのプライドがズタズタに引き裂かれているのだ。
見ていて、心地よかった。
「お前の負けだ、リュシアン」
アクセルは冷ややかに見下ろした。まるで虫けらでも見るような、冷徹な眼差し。
「お前は王家の秘宝を盗もうとし、さらに管理官補佐を脅迫した。これらの罪により、お前を逮捕する」
宣告する声は、絶対的だった。
騎士たちがリュシアンに手錠を嵌める。冷たい金属の音が、彼の敗北を告げる鐘のように響いた。
0
あなたにおすすめの小説
感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました
九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」
悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。
公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。
「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」
――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
村娘あがりの娼婦ですが、身請けされて幸せです
春月もも
恋愛
村を飛び出して王都に来たリリアは、いまは高級娼婦として生きている。
ここは通過点のはずだった。
誰かに選ばれて終わる物語なんて、わたしには関係ないと思っていたのに。
触れない客。
身体ではなく、わたしの話を聞きに来るだけの商人。
「君と話す時間を、金で買うのが嫌になった」
突然の身請け話。
値札のついた自分と向き合う三日間。
選ばれるのではなく選ぶと決めたとき、
通過点は終わりになる。
これは救いではなく対等な恋の話。
元婚約者に捨てられた伯爵令嬢ですが、今さら「戻ってきて」と言われてももう遅いですわ
exdonuts
恋愛
婚約者に「平民の娘が好きだ」と捨てられた伯爵令嬢クラリス。
失意の中で出会ったのは、冷徹と噂される公爵アーロンだった。
「君の泣き顔なんて、二度と見たくない」――彼の言葉が、凍えた心を溶かしていく。
やがて周囲がざわめく中、元婚約者が後悔の声をあげるが、クラリスはもう振り返らない。
今度こそ、本当の愛を掴む彼女のざまぁ&溺愛ストーリー。
婚約破棄された伯爵令嬢は冷酷公爵に見初められ、今さら縋る元婚約者に“ざまぁ”を告げる
nacat
恋愛
婚約者に裏切られた伯爵令嬢リリアナ。社交界で笑い者にされ、すべてを失った彼女の前に現れたのは“冷血”と噂される若き公爵アレクシスだった。彼の求婚は復讐か、それとも真実の愛か——。
愛に絶望した令嬢が、誰もが羨むほどに溺愛される未来を掴むまでの物語。
そして、後悔する元婚約者たちに告げる言葉はひとつ——「あなたとはもう終わりです」。
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
前世の私は重い女だったので、今世は恋なんてしません。
ありま氷炎
恋愛
前世は余りにも夫が大好きで、愛が重すぎた。
だから捨てられた。
なので生まれ変わった今は、恋なんてするつもりはなかったのだけど……。
愛人の生活費も、お願いします 〜ATM様、本日もよろしくてよ〜【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
政略結婚で結ばれた王子ザコットと、氷のように美しい公爵令嬢ビアンカ。だが、ザコットにはすでに愛する男爵令嬢エイミーがいた。
結婚初夜、彼はビアンカに冷酷な宣言を突きつける。
「お前を愛することはない。俺には愛する人がいる。このエイミーだ」
だが、ビアンカは静かに微笑み、こう返す。
「では、私の愛人の生活費も、お願いします」
──始まったのは、王子と王子妃の熾烈な政略バトル。
愛人を連れて食卓に現れるビアンカ。次々と辞表を出す重臣たち、そしてエイミーの暴走と破滅……。
果たして、王子ザコットの運命やいかに!?
氷の王子妃と炎の愛人が織りなす、痛快逆転宮廷劇!
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 コメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる