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第10話
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リュカは大きな机の上を片付け始めた。
地図や書類を脇に寄せ、中央に白い布を敷く。その上に、シトリンのネックレスを慎重に置いた。
「ナタン、銀の燭台を」
「へいへい」
ナタンが棚から燭台を四つ取り出し、ネックレスを囲むように配置した。
リュカは古い魔術書を数冊選び、机の上に並べる。
「準備はこれでいいのか?」
ナタンが腕を組んで眺めていた。
「本当にこの子にできるのか? 失敗したら――」
「できる」
リュカの声は確信に満ちていた。
「彼女は舞踏会で文様を見た。俺やお前には見えなかったものを」
私は緊張で手が震えた。
その時、リュカが私の手を取った。
手袋を外された手の甲には、まだセリーヌにつけられた鞭の跡が赤く残っている。
「この手で、無理をさせるつもりはない」
リュカの親指が、傷跡をそっとなぞった。
「もし魔術の行使中に少しでも痛んだら、すぐに中断しろ。いいな」
それは命令口調だったが、声は驚くほど優しい。
「はい」
私が頷くと、リュカは私の手をそっと置いて、自分の上着を脱ぎ始めた。
「え、ちょっと、何を――」
「寒いだろう」
問答無用で私の肩に上着をかけられる。彼の体温と森の泉のような香りに包まれて、顔が熱くなった。
「魔力を使うと体温が下がる。お前が倒れたら、俺が困る」
困る? どうして?
その意味を考える間もなく、リュカは私の肩を軽く叩いた。
「さあ、始めよう。お前なら、できる」
あ……もしかして、私が倒れたら心配だから、って意味……?
顔を上げると、リュカはもう魔術書のページをめくっていた。
横顔が真剣で、さっきの優しい声が嘘みたいだ。
でも上着の温もりが、彼の言葉の本当の意味を教えてくれている気がした。
「セリア、まずはネックレスに触れてみてくれ」
私は深呼吸をして、震える手を伸ばした。
シトリンの花弁に指が触れた瞬間、視界が歪んだ。
目の前に、無数の光の文字が浮かび上がった。
それは螺旋を描きながら、天井へと伸びていく。金色、銀色、虹色。様々な色の文字が、まるで生きているかのように踊っていた。
「見える……」
呟くと、文字たちが反応した。
私の周りを旋回し始め、徐々に一つの形を作り出す。
「何が見える?」
リュカの声が、遠くから聞こえた。
「地図……みたいなもの」
光の文字で描かれた地図が、空中に浮かんでいた。
この街の形をしている。そして、一箇所だけ、赤く光る点があった。
「モンフォール邸の……地下?」
「地下だと?」
ナタンが驚いた声を上げた。
「確かに。地下深くに、何かが隠されているみたい」
赤い光が脈動している。まるで心臓の鼓動のように。
突然、別の映像が重なった。
セリーヌの姿。黒いマントに身を包み、地下への階段を降りていく。その手には、紫色に輝く首飾りが握られていた。
「紫水晶の首飾り!」
「本当か!?」
リュカが私の肩を掴んだ。
「確かです。セリーヌが地下に隠しているのが見えます」
でも、それだけじゃなかった。
地下には他にも何かがある。大きな箱がいくつも。その中身は――
急に頭が締め付けられるような痛みが走った。
「うっ……」
視界がぼやけ、体から力が抜ける。
倒れそうになった私を、リュカがしっかりと抱き止めた。
「無理をするな」
彼の腕の中は温かかった。
上着越しに、彼の心臓の音が聞こえる。速い鼓動。私と同じくらい。
「でも、まだ見えることが……」
「今日はここまでだ」
リュカが私を抱き上げた。
お姫様抱っこの体勢に、顔が真っ赤になる。
「ちょ、ちょっと! 自分で歩けます!」
「無理をするな。初めて魔術を使ったんだ。体に負担がかかっている」
有無を言わせない口調だった。
ナタンが呆れたように肩をすくめる。
「相変わらず過保護だな」
「黙れ」
リュカは私を抱いたまま、ソファまで運んだ。
そっと下ろされ、毛布をかけられる。まるで壊れ物を扱うような優しさだった。
「ローザンヌ、温かい紅茶を。砂糖を多めに」
いつの間にか戻ってきていたローザンヌが、すぐに紅茶を用意した。
甘い香りが、疲れた体に染み渡る。
「ありがとうございます」
カップを両手で包み、一口飲んだ。
温かさが全身に広がっていく。
「それで、地下に何があるんだ?」
ナタンが身を乗り出した。
地図や書類を脇に寄せ、中央に白い布を敷く。その上に、シトリンのネックレスを慎重に置いた。
「ナタン、銀の燭台を」
「へいへい」
ナタンが棚から燭台を四つ取り出し、ネックレスを囲むように配置した。
リュカは古い魔術書を数冊選び、机の上に並べる。
「準備はこれでいいのか?」
ナタンが腕を組んで眺めていた。
「本当にこの子にできるのか? 失敗したら――」
「できる」
リュカの声は確信に満ちていた。
「彼女は舞踏会で文様を見た。俺やお前には見えなかったものを」
私は緊張で手が震えた。
その時、リュカが私の手を取った。
手袋を外された手の甲には、まだセリーヌにつけられた鞭の跡が赤く残っている。
「この手で、無理をさせるつもりはない」
リュカの親指が、傷跡をそっとなぞった。
「もし魔術の行使中に少しでも痛んだら、すぐに中断しろ。いいな」
それは命令口調だったが、声は驚くほど優しい。
「はい」
私が頷くと、リュカは私の手をそっと置いて、自分の上着を脱ぎ始めた。
「え、ちょっと、何を――」
「寒いだろう」
問答無用で私の肩に上着をかけられる。彼の体温と森の泉のような香りに包まれて、顔が熱くなった。
「魔力を使うと体温が下がる。お前が倒れたら、俺が困る」
困る? どうして?
その意味を考える間もなく、リュカは私の肩を軽く叩いた。
「さあ、始めよう。お前なら、できる」
あ……もしかして、私が倒れたら心配だから、って意味……?
顔を上げると、リュカはもう魔術書のページをめくっていた。
横顔が真剣で、さっきの優しい声が嘘みたいだ。
でも上着の温もりが、彼の言葉の本当の意味を教えてくれている気がした。
「セリア、まずはネックレスに触れてみてくれ」
私は深呼吸をして、震える手を伸ばした。
シトリンの花弁に指が触れた瞬間、視界が歪んだ。
目の前に、無数の光の文字が浮かび上がった。
それは螺旋を描きながら、天井へと伸びていく。金色、銀色、虹色。様々な色の文字が、まるで生きているかのように踊っていた。
「見える……」
呟くと、文字たちが反応した。
私の周りを旋回し始め、徐々に一つの形を作り出す。
「何が見える?」
リュカの声が、遠くから聞こえた。
「地図……みたいなもの」
光の文字で描かれた地図が、空中に浮かんでいた。
この街の形をしている。そして、一箇所だけ、赤く光る点があった。
「モンフォール邸の……地下?」
「地下だと?」
ナタンが驚いた声を上げた。
「確かに。地下深くに、何かが隠されているみたい」
赤い光が脈動している。まるで心臓の鼓動のように。
突然、別の映像が重なった。
セリーヌの姿。黒いマントに身を包み、地下への階段を降りていく。その手には、紫色に輝く首飾りが握られていた。
「紫水晶の首飾り!」
「本当か!?」
リュカが私の肩を掴んだ。
「確かです。セリーヌが地下に隠しているのが見えます」
でも、それだけじゃなかった。
地下には他にも何かがある。大きな箱がいくつも。その中身は――
急に頭が締め付けられるような痛みが走った。
「うっ……」
視界がぼやけ、体から力が抜ける。
倒れそうになった私を、リュカがしっかりと抱き止めた。
「無理をするな」
彼の腕の中は温かかった。
上着越しに、彼の心臓の音が聞こえる。速い鼓動。私と同じくらい。
「でも、まだ見えることが……」
「今日はここまでだ」
リュカが私を抱き上げた。
お姫様抱っこの体勢に、顔が真っ赤になる。
「ちょ、ちょっと! 自分で歩けます!」
「無理をするな。初めて魔術を使ったんだ。体に負担がかかっている」
有無を言わせない口調だった。
ナタンが呆れたように肩をすくめる。
「相変わらず過保護だな」
「黙れ」
リュカは私を抱いたまま、ソファまで運んだ。
そっと下ろされ、毛布をかけられる。まるで壊れ物を扱うような優しさだった。
「ローザンヌ、温かい紅茶を。砂糖を多めに」
いつの間にか戻ってきていたローザンヌが、すぐに紅茶を用意した。
甘い香りが、疲れた体に染み渡る。
「ありがとうございます」
カップを両手で包み、一口飲んだ。
温かさが全身に広がっていく。
「それで、地下に何があるんだ?」
ナタンが身を乗り出した。
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