身代わり令嬢は愛されすぎて逃げられない

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第14話

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私は叫んだが、遅かった。
部屋中に警報が鳴り響いた。
けたたましい鐘の音が、地下室に響き渡る。壁という壁が振動し、天井から埃が舞い落ちてきた。まるで地下室全体が巨大な鐘の中にいるような、耳を劈く轟音。
「罠だ!」
ナタンが素早く短剣を抜いた。刃が松明の光を反射して、銀色の軌跡を描く。
扉が勢いよく開き、武装した男たちが雪崩れ込んできた。黒い革鎧に身を包み、顔を覆面で隠した者たち。手には剣や棍棒が握られ、殺気立った雰囲気が部屋を満たす。
十人、いや二十人はいる。次から次へと、まるで蟻のように湧いてくる。
「逃げ道は?」
リュカが私を庇いながら叫んだ。彼の広い背中が壁となり、私を護衛たちの視線から遮る。
「奥に別の通路があるはずです!」
光の文字が示す方向を指差しながら答えた。
私たちは走った。革靴が石の床を蹴る音が、不規則なリズムを刻む。
背後から怒号と足音が迫ってくる。金属がぶつかり合う音、誰かが転倒する音、怒声。それらが混然一体となって、恐怖を煽る不協和音を奏でていた。
奥の壁に、小さな扉があった。他の壁と同じ石造りで、注意深く見なければ見落としてしまいそうなほど巧妙に偽装されている。
私が震える手を扉に触れると、また光の文字が現れた。今度は青白い光で、複雑な紋様を描き始める。
「急いで!」
ナタンの切羽詰まった声が聞こえた。振り返ると、彼が短剣で追手を牽制している姿が見えた。
必死で封印を解く。けれど焦りが募るばかりで、手が震えて上手く魔力を制御できない。光の文字が乱れ、紋様が歪んでいく。
「落ち着け」
リュカが後ろから私の手を包んだ。
彼の大きな手のひらから温もりが伝わってきて、不思議と心が落ち着く。まるで嵐の海に浮かぶ小舟が、急に凪いだ港に辿り着いたような安堵感。彼の規則正しい呼吸が背中から伝わり、私の呼吸もそれに合わせて整っていく。
扉が重い音を立てて開いた。古い蝶番が軋む音が、不気味に響く。
狭い通路が続いている。幅は大人がやっと一人通れる程度で、天井も低い。湿った土の匂いが立ち込め、壁には苔がびっしりと生えていた。
「行け!」
リュカが私の背中を押した。
私たちは通路に飛び込んだ。ナタンが最後に飛び込み、扉を閉めようとするが、すでに追手の手が伸びてきている。
後ろから追手の声が聞こえる。怒声、足音、金属音。それらが狭い通路で反響し、まるで地獄の釜が開いたような騒音となって追いかけてくる。
通路は上へ上へと続いていた。急な石段が螺旋を描き、目が回りそうになる。
息が切れ、肺が燃えるように熱い。足がもつれ、膝が悲鳴を上げている。汗が額から流れ落ち、目に入って視界がぼやける。でも、止まるわけにはいかない。
ようやく地上に出た。
冷たい夜風が汗ばんだ肌を撫で、一瞬の解放感を味わう。
そこは、モンフォール邸の庭園だった。見慣れた噴水が月光を受けて静かに水を吐き出し、薔薇の香りが夜風に乗って漂ってくる。
「まずい」
ナタンが呟いた。その声には、絶望の色が滲んでいた。
庭園には、さらに多くの護衛が待ち構えていた。半円を描くように私たちを取り囲み、逃げ道を完全に塞いでいる。
松明の光が、オレンジ色の円を作りながら私たちを照らし出す。眩しさに目を細めると、護衛たちの顔が悪魔のように歪んで見えた。
「観念しろ!」
護衛たちが一斉に武器を構えた。剣先が月光を反射し、無数の銀色の牙が私たちに向けられる。
もう逃げ場はない。前も後ろも、右も左も、全て敵に囲まれている。
私は観念して目を閉じた。心臓が早鐘のように打ち、全身が小刻みに震えている。
その時――
「あら、騒がしいわね」
甲高い声が、まるで舞台の幕開けを告げるように響いた。その声には、愉悦と嘲笑が入り混じっている。
恐る恐る目を開けると、そこにセリーヌが立っていた。
いつもの薄紫のドレスに、真珠の首飾り。髪は完璧に結い上げられ、顔には薄化粧。まるで舞踏会にでも行くような、あるいは観劇でも楽しんできたような姿だった。月光が彼女の姿を照らし出し、まるで舞台の上の女優のように見える。
「セリーヌ・モンフォール」
リュカが彼女を睨みつけた。灰色の瞳に宿る怒りの炎が、松明の光よりも激しく燃えている。
「あら、リュカ様。こんな夜更けに、しかも泥棒の格好で。品がありませんわね」
セリーヌが扇子で口元を隠しながら笑った。その笑い声は鈴を転がすように軽やかで、しかし氷のように冷たい。
「それに……」
彼女の視線が、ゆっくりと私に向けられた。薄い唇に浮かぶ笑みが、さらに残酷さを増していく。
「役立たずの人形まで連れて。本当に趣味が悪いこと」
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