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第13話
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モンフォール邸の裏庭は、不気味なほど静かだった。
木々がざわめき、時折梟の鳴き声が聞こえる。
「ここだ」
ナタンが使用人用の扉を指差した。
「鍵は?」
「任せろ」
ナタンが懐から細い金属の棒を取り出した。
鍵穴に差し込み、カチャリと音がした。
「お見事」
私が感心すると、ナタンが得意げに笑った。
「これくらい朝飯前だ」
扉が音もなく開いた。
中は真っ暗で、冷たい空気が漂っている。
「ランプは使えない。見つかる」
リュカが囁いた。
「でも、暗くて――」
その時、私の視界が変わった。
暗闇の中に、薄っすらと光る文字が見えた。壁に、床に、天井に。まるで道標のように。
「見える……光の文字が」
「本当か?」
「はい。こっちです」
私が先導することになった。
光る文字を辿って、階段を降りていく。石段がひんやりと冷たい。
地下は思っていたよりも広かった。
長い廊下が続き、両側には使われていない部屋が並んでいる。
「ここは昔、ワインセラーだったようだな」
リュカが呟いた。
さらに奥へ進むと、突き当たりに大きな扉があった。
重厚な鉄の扉で、複雑な紋章が刻まれている。
「これは……」
私が扉に手を触れた瞬間、紋章が光り始めた。
金色の光が、螺旋を描きながら広がっていく。
「魔術の封印だ」
リュカが息を呑んだ。
「開けられるか?」
「やってみます」
私は目を閉じて、意識を集中させた。
昨夜リュカに教わった通り、魔力を少しずつ解放していく。
光の文字が、私の指先から流れ出した。
それは扉の紋章と絡み合い、複雑な模様を描いていく。
カチン、という音がした。
「開いた……!」
扉がゆっくりと開いていく。
中から、冷たい風が吹き出してきた。
***
扉の向こうは、巨大な地下室だった。
ひんやりとした空気が肺を満たし、カビと古い石の匂いが鼻腔を刺激する。天井が高く、まるで聖堂のような造り。石造りの柱が等間隔で並び、その影が松明の光でゆらゆらと壁に踊っている。壁には無数の棚があり、整然と区画整理されたそれぞれの場所に、様々な品物が並んでいる。埃一つない棚の上で、品物たちは不気味な沈黙を保っていた。
「これは……」
ナタンが絶句した。喉が詰まったような声は、この光景への驚愕を物語っている。
棚には宝石、絵画、彫刻。金細工の燭台、象牙の小箱、東方の陶磁器。明らかに盗品と思われる品々が、まるで美術館の展示品のように整然と並べられていた。それぞれに小さな札がついており、おそらくは入手日や出所が記されているのだろう。薄暗い光の中で、宝石たちが妖しく輝いている。
「セリーヌの仕業か」
リュカが険しい表情で呟いた。その横顔に浮かぶ怒りの色が、松明の光でより鮮明に見える。拳を握りしめた彼の手が、微かに震えていた。
私は光に導かれるように、部屋の奥へと進んだ。石の床を踏む足音が、空洞のような地下室に反響する。
光の文字が、金色の軌跡を描きながら一箇所を指し示している。まるで生きているかのように脈動するそれは、私にしか見えない道標だった。
「ここです」
震える声で告げると、二人が素早く私の横に並んだ。
大きな石の台座の上に、紫色に輝く首飾りが置かれていた。黒いビロードのクッションに鎮座するそれは、まるで王座に座る女王のような威厳を放っている。
紫水晶が連なる、美しい首飾り。一つ一つの石が内側から発光しているかのように、深い紫色の光を放っていた。間違いなく、王家の宝だ。
「やった!」
ナタンが歓声を上げた。安堵と興奮が入り混じった声が、地下室の天井に響く。
リュカが慎重に首飾りを手に取った。彼の指先が紫水晶に触れる瞬間を、私は息を殺して見つめていた。
その瞬間、私の視界に別の映像が流れ込んできた。血の気が引くような、恐ろしい光景が――
「待って!」
木々がざわめき、時折梟の鳴き声が聞こえる。
「ここだ」
ナタンが使用人用の扉を指差した。
「鍵は?」
「任せろ」
ナタンが懐から細い金属の棒を取り出した。
鍵穴に差し込み、カチャリと音がした。
「お見事」
私が感心すると、ナタンが得意げに笑った。
「これくらい朝飯前だ」
扉が音もなく開いた。
中は真っ暗で、冷たい空気が漂っている。
「ランプは使えない。見つかる」
リュカが囁いた。
「でも、暗くて――」
その時、私の視界が変わった。
暗闇の中に、薄っすらと光る文字が見えた。壁に、床に、天井に。まるで道標のように。
「見える……光の文字が」
「本当か?」
「はい。こっちです」
私が先導することになった。
光る文字を辿って、階段を降りていく。石段がひんやりと冷たい。
地下は思っていたよりも広かった。
長い廊下が続き、両側には使われていない部屋が並んでいる。
「ここは昔、ワインセラーだったようだな」
リュカが呟いた。
さらに奥へ進むと、突き当たりに大きな扉があった。
重厚な鉄の扉で、複雑な紋章が刻まれている。
「これは……」
私が扉に手を触れた瞬間、紋章が光り始めた。
金色の光が、螺旋を描きながら広がっていく。
「魔術の封印だ」
リュカが息を呑んだ。
「開けられるか?」
「やってみます」
私は目を閉じて、意識を集中させた。
昨夜リュカに教わった通り、魔力を少しずつ解放していく。
光の文字が、私の指先から流れ出した。
それは扉の紋章と絡み合い、複雑な模様を描いていく。
カチン、という音がした。
「開いた……!」
扉がゆっくりと開いていく。
中から、冷たい風が吹き出してきた。
***
扉の向こうは、巨大な地下室だった。
ひんやりとした空気が肺を満たし、カビと古い石の匂いが鼻腔を刺激する。天井が高く、まるで聖堂のような造り。石造りの柱が等間隔で並び、その影が松明の光でゆらゆらと壁に踊っている。壁には無数の棚があり、整然と区画整理されたそれぞれの場所に、様々な品物が並んでいる。埃一つない棚の上で、品物たちは不気味な沈黙を保っていた。
「これは……」
ナタンが絶句した。喉が詰まったような声は、この光景への驚愕を物語っている。
棚には宝石、絵画、彫刻。金細工の燭台、象牙の小箱、東方の陶磁器。明らかに盗品と思われる品々が、まるで美術館の展示品のように整然と並べられていた。それぞれに小さな札がついており、おそらくは入手日や出所が記されているのだろう。薄暗い光の中で、宝石たちが妖しく輝いている。
「セリーヌの仕業か」
リュカが険しい表情で呟いた。その横顔に浮かぶ怒りの色が、松明の光でより鮮明に見える。拳を握りしめた彼の手が、微かに震えていた。
私は光に導かれるように、部屋の奥へと進んだ。石の床を踏む足音が、空洞のような地下室に反響する。
光の文字が、金色の軌跡を描きながら一箇所を指し示している。まるで生きているかのように脈動するそれは、私にしか見えない道標だった。
「ここです」
震える声で告げると、二人が素早く私の横に並んだ。
大きな石の台座の上に、紫色に輝く首飾りが置かれていた。黒いビロードのクッションに鎮座するそれは、まるで王座に座る女王のような威厳を放っている。
紫水晶が連なる、美しい首飾り。一つ一つの石が内側から発光しているかのように、深い紫色の光を放っていた。間違いなく、王家の宝だ。
「やった!」
ナタンが歓声を上げた。安堵と興奮が入り混じった声が、地下室の天井に響く。
リュカが慎重に首飾りを手に取った。彼の指先が紫水晶に触れる瞬間を、私は息を殺して見つめていた。
その瞬間、私の視界に別の映像が流れ込んできた。血の気が引くような、恐ろしい光景が――
「待って!」
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