身代わり令嬢は愛されすぎて逃げられない

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第16話

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彼女がパチンと指を鳴らした。その音は鞭が空を切るような鋭さで、夜の静寂を切り裂いた。
すると、護衛の一人が重そうに大きな木箱を運んできた。筋骨隆々とした男でさえ、その重さに顔を歪めている。箱は古く、表面には見慣れない紋様が刻まれていた。
「これが本当の目的」
セリーヌの合図で、箱がゆっくりと開けられた。蝶番が軋む音が、まるで墓が開く音のように不吉に響く。
中には、古い石版がぎっしりと詰まっていた。灰色の石の表面には、細かい文字がびっしりと刻まれている。月光を受けて、文字が微かに光っているように見えた。
「エルヴァニア王国の遺産。失われた魔術の記録。これを解読できるのは、文字詠みだけ」
セリーヌが私に近づいてきた。一歩、また一歩。ドレスの裾が地面を擦る音が、死神の足音のように聞こえる。彼女から漂う香水の匂いが、急に吐き気を催すほど濃く感じられた。
「あなたには、これを全て解読してもらうわ」
有無を言わせない口調だった。まるで、既に決定事項であるかのように。
「断るわ」
即答すると、セリーヌの美しい顔が醜く歪んだ。一瞬、仮面が剥がれ、その下に隠された本性が顔を覗かせる。
「あら、強気ね。でも」
彼女がまた指を鳴らした。今度の音は、さっきよりも鋭く、残酷な響きを持っていた。
護衛たちが何かを引きずる音が聞こえてきた。重い物を引きずるような、不吉な音。そして、ある人物を引きずってきた。月光が照らし出したその顔を見て、私の心臓が止まりそうになった。
「父さん!」
ジャック・フォトンだった。いつも優しく微笑んでいた父が、今は見る影もない。
顔は青ざめ、額には汗が浮かび、目は恐怖で見開かれている。腕には太い縄がきつく食い込み、赤い痣ができていた。服は所々破れ、明らかに乱暴に扱われた形跡がある。
「人質? 卑怯な」
リュカが怒りを露わにした。その声は、今にも爆発しそうな火薬庫のような危うさを孕んでいた。手が剣の柄に伸びかけ、ナタンが慌てて制止する。
「卑怯? これが私のやり方よ」
セリーヌが冷たく笑った。その笑顔は、氷の彫刻のように美しく、そして恐ろしく冷酷だった。
「さあ、選びなさい。石版を解読するか、父親が死ぬか」
究極の選択が、冷たい刃のように私の前に突きつけられた。
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