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第十一話
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騎士寮に案内された瞬間、私は周囲を見渡して息を呑んだ。
廊下を歩く騎士たち全員が男性だった。当然だ。近衛騎士に女性など一人もいない。粗野な笑い声が響き、汗と革の匂いが漂う。誰もが肩幅が広く、筋骨隆々とした体つきをしている。
私は喉の奥が乾くのを感じた。
「エリアス、お前の部屋はここだ」
案内役の先輩騎士が廊下の奥の扉を開けた。部屋の中に入ると、質素なベッドと机、小さな衣装棚だけが置かれている。窓からは訓練場が見えた。
「新人は相部屋が基本だが、今年は人数が奇数でな。お前だけ個室だ。ラッキーだと思え」
先輩騎士は肩を叩いてから去っていった。
扉を閉めた瞬間、私は壁に背中を預けて大きく息を吐いた。個室。一人きりの部屋。正体を隠すには最高の幸運だった。
胸に巻いた布を確認する。呼吸のたびに締め付けられる感覚が、私に男装を思い出させる。鏡を見れば、短く切った髪と低い声の訓練のせいで、もはや侯爵令嬢の面影はない。
「大丈夫......私はエリアス・ハートだ」
自分に言い聞かせる。
だが安堵したのも束の間、夜になって問題が起きた。
廊下から聞こえる騎士たちの会話に、私は耳を澄ませた。
「おい、風呂に行くぞ」
「待ってくれ、今服を脱いでる」
風呂。
私の体が硬直した。共同浴場だ。当然、男たちは一緒に入る。裸で。
タオルを手に取り、私は部屋を出た。廊下を歩きながら、心臓の音が耳に響く。浴場の入り口に近づくと、中から笑い声と水音が聞こえた。
入り口の前で立ち止まる。
「よう、新人! 一緒に入るか?」
背後から声をかけられ、私は飛び上がりそうになった。振り返ると、上半身裸の騎士が笑顔で立っている。筋肉質の胸板が目に入り、私は慌てて視線を逸らした。
「あ......いや、その......」
「どうした? 恥ずかしがるな。みんな男同士だ」
騎士が肩を叩こうと手を伸ばす。私は咄嗟に一歩後ずさった。
「先に入ってくれ! 私は......部屋に忘れ物をした!」
「そうか? じゃあ先に入ってるぞ」
騎士は浴場に入っていった。
私は踵を返し、急いで部屋に戻った。扉を閉めてから、背中を壁に押し付ける。息が荒い。手が震えている。
無理だ。男たちと一緒に風呂に入るなど、絶対に無理だ。
時計を見る。まだ宵の口だった。私はベッドに横たわり、じっと時間が過ぎるのを待った。
深夜。王宮の鐘が二度鳴った。
私は静かに部屋を出て、浴場に向かった。廊下には誰もいない。浴場の扉を開けると、誰もいなかった。
ようやく肩の力が抜けた。
服を脱ぎ、胸を締め付けていた布を解く。解放感と同時に、自分が女性であることを思い出す。湯に浸かりながら、私は天井を見上げた。
王子を見返すために騎士になった。だがこんな緊張の連続では、いつか正体がバレてしまう。
湯から上がり、急いで着替えて部屋に戻った。
翌朝。
私は着替えの途中だった。胸に布を巻き直している最中、突然扉が開く音がした。
「おい、エリアス! 朝の訓練の時間......」
咄嗟に、私は魔力を放った。結界が扉の前に張られ、扉が勢いよく閉まる。廊下から驚いた声が聞こえた。
「なんだ!? 扉が......」
心臓が破裂しそうだった。私は慌てて声を作る。
「す、すまない! 体調が悪くて......少し待ってくれ!」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ。すぐに行く」
急いで布を巻き終え、服を着る。手が震えて、ボタンを留めるのにも時間がかかった。
扉を開けると、先輩騎士が心配そうな顔で立っていた。
「顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「ああ......少し寝不足で」
「無理するなよ。訓練はきついからな」
先輩騎士は肩を叩いてから去っていった。
私は壁に手をついて息を整えた。危なかった。あと少し遅ければ、胸を巻いている姿を見られていた。
部屋に戻り、私は鏡の前に立った。短い髪、低い声、男の服。全てが偽りだ。だがこの偽りを守り通さなければ、私はここにいられない。
窓の外では、騎士たちが訓練を始めていた。剣を振る音、掛け声、笑い声。男たちの世界だ。
私はその中に紛れ込んでいる。
正体がバレる恐怖。常に気を張り続けなければならない緊張。それでも私は、王子を見返すためにここにいる。
「......負けない」
小さく呟いて、私は剣帯を締めた。
廊下を歩く騎士たち全員が男性だった。当然だ。近衛騎士に女性など一人もいない。粗野な笑い声が響き、汗と革の匂いが漂う。誰もが肩幅が広く、筋骨隆々とした体つきをしている。
私は喉の奥が乾くのを感じた。
「エリアス、お前の部屋はここだ」
案内役の先輩騎士が廊下の奥の扉を開けた。部屋の中に入ると、質素なベッドと机、小さな衣装棚だけが置かれている。窓からは訓練場が見えた。
「新人は相部屋が基本だが、今年は人数が奇数でな。お前だけ個室だ。ラッキーだと思え」
先輩騎士は肩を叩いてから去っていった。
扉を閉めた瞬間、私は壁に背中を預けて大きく息を吐いた。個室。一人きりの部屋。正体を隠すには最高の幸運だった。
胸に巻いた布を確認する。呼吸のたびに締め付けられる感覚が、私に男装を思い出させる。鏡を見れば、短く切った髪と低い声の訓練のせいで、もはや侯爵令嬢の面影はない。
「大丈夫......私はエリアス・ハートだ」
自分に言い聞かせる。
だが安堵したのも束の間、夜になって問題が起きた。
廊下から聞こえる騎士たちの会話に、私は耳を澄ませた。
「おい、風呂に行くぞ」
「待ってくれ、今服を脱いでる」
風呂。
私の体が硬直した。共同浴場だ。当然、男たちは一緒に入る。裸で。
タオルを手に取り、私は部屋を出た。廊下を歩きながら、心臓の音が耳に響く。浴場の入り口に近づくと、中から笑い声と水音が聞こえた。
入り口の前で立ち止まる。
「よう、新人! 一緒に入るか?」
背後から声をかけられ、私は飛び上がりそうになった。振り返ると、上半身裸の騎士が笑顔で立っている。筋肉質の胸板が目に入り、私は慌てて視線を逸らした。
「あ......いや、その......」
「どうした? 恥ずかしがるな。みんな男同士だ」
騎士が肩を叩こうと手を伸ばす。私は咄嗟に一歩後ずさった。
「先に入ってくれ! 私は......部屋に忘れ物をした!」
「そうか? じゃあ先に入ってるぞ」
騎士は浴場に入っていった。
私は踵を返し、急いで部屋に戻った。扉を閉めてから、背中を壁に押し付ける。息が荒い。手が震えている。
無理だ。男たちと一緒に風呂に入るなど、絶対に無理だ。
時計を見る。まだ宵の口だった。私はベッドに横たわり、じっと時間が過ぎるのを待った。
深夜。王宮の鐘が二度鳴った。
私は静かに部屋を出て、浴場に向かった。廊下には誰もいない。浴場の扉を開けると、誰もいなかった。
ようやく肩の力が抜けた。
服を脱ぎ、胸を締め付けていた布を解く。解放感と同時に、自分が女性であることを思い出す。湯に浸かりながら、私は天井を見上げた。
王子を見返すために騎士になった。だがこんな緊張の連続では、いつか正体がバレてしまう。
湯から上がり、急いで着替えて部屋に戻った。
翌朝。
私は着替えの途中だった。胸に布を巻き直している最中、突然扉が開く音がした。
「おい、エリアス! 朝の訓練の時間......」
咄嗟に、私は魔力を放った。結界が扉の前に張られ、扉が勢いよく閉まる。廊下から驚いた声が聞こえた。
「なんだ!? 扉が......」
心臓が破裂しそうだった。私は慌てて声を作る。
「す、すまない! 体調が悪くて......少し待ってくれ!」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ。すぐに行く」
急いで布を巻き終え、服を着る。手が震えて、ボタンを留めるのにも時間がかかった。
扉を開けると、先輩騎士が心配そうな顔で立っていた。
「顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「ああ......少し寝不足で」
「無理するなよ。訓練はきついからな」
先輩騎士は肩を叩いてから去っていった。
私は壁に手をついて息を整えた。危なかった。あと少し遅ければ、胸を巻いている姿を見られていた。
部屋に戻り、私は鏡の前に立った。短い髪、低い声、男の服。全てが偽りだ。だがこの偽りを守り通さなければ、私はここにいられない。
窓の外では、騎士たちが訓練を始めていた。剣を振る音、掛け声、笑い声。男たちの世界だ。
私はその中に紛れ込んでいる。
正体がバレる恐怖。常に気を張り続けなければならない緊張。それでも私は、王子を見返すためにここにいる。
「......負けない」
小さく呟いて、私は剣帯を締めた。
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