婚約破棄されて男装騎士になったら、私を捨てた王子が溺愛してきます。

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第十二話

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「全員、集合! 」
オスカー団長の低く響く声が訓練場に轟いた。
まだ夜明け前の空気は冷たく、吐く息が白く染まる。私は慌てて列に加わり、背筋を伸ばした。周囲には屈強な体格の新人騎士たちが並んでいる。男装していても、体格差は隠せない。私の隣に立つ騎士は、私の肩幅の倍はあった。
「近衛騎士は王家を守る最後の砦だ。生半可な覚悟では務まらん」
オスカー団長が私たちの前を歩きながら言った。鋭い視線が一人一人を値踏みする。私の前で足が止まった。
「エリアス、だったな」
「は、はい! 」
低い声を出そうと意識しすぎて、かすれてしまった。
「体格に恵まれているとは言えんが......まあ、試験を通過した以上は期待している」
そう言い残して、団長は次の騎士へ向かった。
ほっと息をつく。だが安堵している暇はなかった。
「まずは基礎体力だ。訓練場を五十周、走れ! 」
......五十周!?
訓練場は外周だけでも相当な距離がある。私は思わず息を呑んだ。だが周囲の騎士たちは既に走り始めている。遅れるわけにはいかない。
私も駆け出した。
最初の十周は何とか集団についていけた。だが二十周を過ぎた頃、息が上がり始めた。足が重い。男装のために胸を布で巻いているせいで、呼吸が浅くなる。
駄目だ。このままでは倒れてしまう。
私は密かに魔力を足に流した。結界魔術は本来、防御のための魔法だ。だが応用すれば、筋肉を補強することもできる。魔力が足の筋肉を包み込み、負担を和らげる。
「おい、エリアス! 大丈夫か? 」
隣を走っていた茶髪の騎士が声をかけてきた。彼の名はロバート。試験の時にも一緒だった気さくな男だ。
「平気だ」
「嘘つけ、顔が真っ青だぞ。無理すんなよ」
「......ありがとう。でも大丈夫」
ロバートは心配そうに私を見たが、黙って走り続けた。
三十周。四十周。足がもつれそうになる。魔力で補強しても、限界が近い。視界が揺れる。
それでも私は走った。
ここで倒れたら、怪しまれる。男として、騎士として認められるためには、歯を食いしばってでも走り切らなければならない。
「最後の十周だ! 気を抜くな! 」
オスカー団長の声が背中を押した。
私は唇を噛み締め、最後の力を振り絞った。魔力が枯渇しかける。それでも足を動かし続ける。
五十周目のゴールラインを踏んだ瞬間、膝が崩れた。だが倒れる前に、誰かの手が私の肩を支えた。
「よく頑張ったな、エリアス」
ロバートだった。彼も息を切らしながら、笑っていた。
「お前、ひょろいくせに根性あるじゃねえか」
「......ひょろいは余計だ」
私は肩で息をしながら答えた。ロバートが豪快に笑う。
「走り込みはここまで。次は剣術だ! 」
団長の声に、全員が剣を構えた。
私も立ち上がり、腰の剣を抜いた。柄を握る手が震える。体力が限界に近い。だが弱音は吐けない。
「基本の型、一から五十まで。始め! 」
団長の号令と共に、一斉に剣が動いた。
一の型。上段からの斬り下ろし。
二の型。横薙ぎ。
三の型。突き。
私は必死に型をなぞった。剣を振るたびに腕が悲鳴を上げる。握力が失われていく。それでも剣を落とすわけにはいかない。
「エリアス、肘が下がっているぞ! 」
団長の厳しい声が飛んだ。
私は慌てて肘を上げた。だが次の型に移る時、剣先がぶれた。
「集中しろ! 王子を守る剣が、そんなふらついた剣で務まると思うか! 」
「申し訳ございません! 」
私は歯を食いしばり、剣を握り直した。
型稽古が終わる頃には、腕が完全に痺れていた。汗が額から滴り落ちる。男装用の布が肌に張り付いて不快だ。
「最後に組手だ。二人一組になれ」
組手......剣を交えるのか。
私の前にロバートが立った。
「俺と組もうぜ、エリアス」
「......頼む」
私たちは向かい合い、剣を構えた。
「始め! 」
ロバートの剣が迫った。速い。私は咄嗟に受け流した。金属音が響く。
ロバートは容赦なく連撃を繰り出してくる。私は防御に徹した。結界魔術で剣筋を読み、最小限の動きで受け流す。攻撃はしない。体力が持たないからだ。
「お前、防御上手いな! 」
ロバートが驚いたように言った。
「剣術は......防御から習ったんだ」
嘘ではない。母から教わった剣術は、結界魔術と組み合わせた防御特化の型だった。
私たちの組手を、オスカー団長が黙って見ていた。鋭い視線が私の動きを捉えている。
「やめ! 」
団長の声で、剣を下ろした。
「エリアス」
「はい! 」
「お前の防御の構えは独特だ。誰に習った? 」
心臓が跳ねた。正体がバレる......?
「......父に、習いました」
「なるほど。だが攻撃がまるでなっていない。これから鍛え直す」
「はい! 」
私は安堵と緊張が入り混じった心境で返事をした。
「今日の訓練はここまで。各自、武器の手入れをして解散! 」
全員が「はっ! 」と答えた。
私は剣を鞘に収め、訓練場の隅へ向かった。足が重い。全身が悲鳴を上げている。だが表情には出さなかった。
「エリアス」
振り返ると、ロバートと数人の新人騎士が立っていた。
「お前、初日でよく頑張ったな」
「ああ、見た目ひょろいのに、根性あるじゃねえか」
「これから一緒に頑張ろうぜ」
私は戸惑いながらも、頷いた。
「......ああ。よろしく頼む」
騎士たちが笑った。温かい笑顔だった。
私は初めて、仲間として認められたような気がした。
復讐のために来た王宮で、思いがけず得た仲間意識。胸の奥が温かくなる。
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