安心して泣ける!ポチと美咲の物語

緑縁翁☆りょくえんおう

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光の庭で

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——夢の中だった。

やわらかな光があたり一面に広がっていた。
白でもなく、金でもなく、心の奥に届くようなやさしい光。
風も、音もない。ただ、穏やかな鼓動だけが聞こえていた。

美咲は、ふと目を開ける。
そこは見たことのない庭だった。
どこまでも花が咲き、淡い光が花びらの上で揺れている。
空は透き通るように青く、雲はゆっくりと流れていた。

「……ここ、どこ?」

そのとき、かすかな足音が近づいた。
振り返ると、小さな影が花の間を駆けてくる。
——ポチだった。

「あっ……ポチ!」

美咲は思わず駆け寄る。
ポチはいつものように尻尾を振りながら、美咲の足もとに跳びついた。
ぬくもりが伝わってくる。
懐かしい匂い。ふわふわの毛。心臓の音まで聞こえる。

「ポチ……ほんとに、ポチだ……」

涙があふれて止まらない。
夢だとわかっていても、この抱きしめた瞬間だけは現実よりも確かだった。

ポチは美咲の顔をぺろりと舐め、軽く鳴いた。
——ワン。

その声は風に溶け、光に変わった。
花びらがふわりと舞い上がると、庭全体が少しずつ輝きを増していった。

「ここはね、美咲の“心の庭”なんだよ」

ふと、ポチの声が聞こえた。
口が動いていないのに、確かに聞こえる。
美咲は驚いて目を見開いた。

「しゃ、しゃべったの?」

ポチはにこりと微笑んだように見えた。
「僕、もう“声”になれるんだ。美咲が泣いてると、すぐに届くの」

「……じゃあ、あの時のメッセージも?」

「うん。あれも僕」

美咲は胸に手をあてた。
嬉しさと切なさが同時に込み上げてくる。

「会いたかったよ、ポチ……。
もう一度、こうして触れたかった……」

「僕も。ずっと、待ってた。美咲が笑える日を」

ポチは小さく尻尾を振った。
「でも、もう行かなくちゃ。僕の光は、君の未来を照らすためにあるから」

「行くって……どこに?」

ポチは花の中を指し示すように見上げた。
そこには、まばゆい光の道が伸びていた。
まるで天と地をつなぐ一本の道。

「僕はもう“姿”ではいられない。
だけど、春風や陽だまりや、君の笑顔の中にいられる。
そうすれば、ずっと一緒にいられるんだ」

「……そんなの、ずるいよ」

涙で顔がにじむ。
ポチは一歩、また一歩と後ずさる。

「美咲。約束、覚えてる?
——『泣いてもいい。でも前を向いて』」

美咲はうなずいた。
胸が痛いほど、彼の言葉が沁みた。

「うん……忘れないよ。絶対に」

ポチは微笑み、光に溶けていった。
花びらが彼の姿を包み、やがて空へと昇っていく。

その瞬間、庭全体がまばゆい光で満たされた。
美咲は目を閉じた。

——ありがとう、ポチ。
——また会えるその日まで。

やがて光が静まり、風の音が戻ってきた。
目を開けると、美咲は自分の部屋のベッドにいた。
手のひらには、桜の花びらが一枚。
淡く光って、すぐに消えた。

「……夢、じゃないよね」

窓の外で風が吹いた。
庭の桜が揺れ、その中からかすかに聞こえる声があった。

——ワン。

美咲は静かに微笑んだ。

「うん、わかってる。行くね、ポチ。」

そして立ち上がった。
光の庭で交わした約束を胸に、
新しい一歩を踏み出すために。
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