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2.爵位を捨てよ、旅へ出よう
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「……それで? 反逆罪で私を捕らえて牢にでも入れますか」
クリスに問うふりで、マリーを見つめながら薄く笑う。
派手できつい顔だ、さぞ恐ろしい表情に見えたことだろう。
クリストフとマリーが、気圧されたように息を呑む。
私をハメようとしている張本人がひるむのが滑稽だった。
きっと惨めに喚いて、必死に弁明するとでも思っていたのだろう。
「か、確たる証拠を見つけ次第、北の塔に拘束か国外追放となるだろう」
「証拠、ね。無実なのでどうやって探すのかはわかりませんが」
盛大なため息とともに、あえて悪役然とした態度で吐き捨てる。
クリストフがぽかんとした顔で、意味を測りかねているのがいっそ微笑ましかった。
理解力が少し足りないところも、剣の腕がないのも、ただかわいらしく思っていた。
王の資質としてはイマイチでも、朗らかで快活な人柄が周囲を惹きつける人だったから。
だから私が不足分を補って、陰で支えていければと思っていた。
そのための努力の日々だった。
けれどそれも今日でおしまいだ。
婚約者に捨てられ、親友に裏切られ、それでも執着するほどこの地位に未練はない。
いや、前世を思い出す前なら懸命に身の潔白を証明しようと手を尽くしたかもしれない。
だけど思ってしまった。
こんな場所にずっといてもつまんなくない? と。
王城内で幼いころから婚約者として暮らしていた、狭い世界で生きてきたこれまでの私ならともかくだ。
前世の二十代後半まで生きた私としては、ほかの楽しいことをいくらでも知っている。
せっかく別の世界に生きているのだ、ずっとこの場所しかしらないで生きていくなんてもったいない。
だいたいこれから無罪を主張するとして、自分はやってませんよって証拠を提示した上で、一人一人に弁明し、汚名返上・名誉挽回をワンセットで行わなくてはならないのだ。
そんなの死ぬほどめんどくさい。
この場に何百人いると思ってんだ。
みんな高位貴族だぞ。
面会するだけでも煩わしい手順が山ほどある。
やってられるか。
「あまりにもくだらないので、もう国外追放で結構ですわ」
肩を竦めながら、ため息交じりに言う。
クリストフとマリーをはじめ、周囲の貴族たちが驚愕の表情を浮かべた。
ああ愉快。
妬み嫉みを向けてくる貴族連中を蹴散らすときの、とっておきの極上スマイルを浮かべてみせる。
「マリー。私の部屋のものは勝手に使ってくれていいわ。私のお古で申し訳ないのだけど、良い品ばかりよ。大切に使ってね」
挑発するように言うと、怯えた演技をしていたマリーの顔がスッと無表情になった。
よほど屈辱だったのだろう。
マリーが怒ると知っていて言ったのだ。少しだけ溜飲が下がる。
「クリス」
視線を戻して、婚約者の名前を呼ぶ。
びくりと肩が跳ねた。
名前を呼ぶだけで怯むくらいなら、最初から秘密裏に、部下にでも処理させればよかったのにね。
本当におばかで目立ちたがりで、その割に小心者でかわいい人。
「……善き王になってくださいね」
これだけは上っ面ではなく本心から。
「レジーナ、……僕は、」
情けない顔してまあ。
小さい頃から本当に変わってないんだから。
しょうがない人、と圧力強めな笑みを緩めて苦笑する。
クリストフはそれ以上何も言わず俯いた。
もう、二度と話をすることもないだろう。
周囲を一瞥する。
会場内は静まり返っていた。
こんな晒し上げの状態だというのに、庇う人もいなければ反論する人もいない。
友達、いなかったもんなぁ。
「お話はこれで終わりですの? それならば私はこれで失礼いたしますわ」
マリーもクリストフも、本当に言いがかり以上のネタを持っていなかったのだろう。
ならばさっさとこちらから切り上げた方が良さそうだ。
責めるネタを見つけられずヤケクソになったクリストフが、衛兵達に引っ捕らえろとか言い出したらたまったものではない。
「それではみなさま、御機嫌よう」
優雅なしぐさで首を少し傾げながら微笑み、上品に、殊更ゆっくりとお辞儀をする。
くるりと身を翻し、静寂に満ちた会場内を、ヒールを高らかに響かせ出口へと向かう。
扉が締まるのと同時に、ワッと会場内が騒がしくなった。
それを背後に聞いて、痛快な気持ちになった。
どうやら明日からは爵位も立場も気にせず、自分のためだけに生きていいらしい。
ワクワクする。さぁ、どんな人生を歩もうか。
城を出る足取りは軽く、もはや何者にでもなれる気さえしていた。
クリスに問うふりで、マリーを見つめながら薄く笑う。
派手できつい顔だ、さぞ恐ろしい表情に見えたことだろう。
クリストフとマリーが、気圧されたように息を呑む。
私をハメようとしている張本人がひるむのが滑稽だった。
きっと惨めに喚いて、必死に弁明するとでも思っていたのだろう。
「か、確たる証拠を見つけ次第、北の塔に拘束か国外追放となるだろう」
「証拠、ね。無実なのでどうやって探すのかはわかりませんが」
盛大なため息とともに、あえて悪役然とした態度で吐き捨てる。
クリストフがぽかんとした顔で、意味を測りかねているのがいっそ微笑ましかった。
理解力が少し足りないところも、剣の腕がないのも、ただかわいらしく思っていた。
王の資質としてはイマイチでも、朗らかで快活な人柄が周囲を惹きつける人だったから。
だから私が不足分を補って、陰で支えていければと思っていた。
そのための努力の日々だった。
けれどそれも今日でおしまいだ。
婚約者に捨てられ、親友に裏切られ、それでも執着するほどこの地位に未練はない。
いや、前世を思い出す前なら懸命に身の潔白を証明しようと手を尽くしたかもしれない。
だけど思ってしまった。
こんな場所にずっといてもつまんなくない? と。
王城内で幼いころから婚約者として暮らしていた、狭い世界で生きてきたこれまでの私ならともかくだ。
前世の二十代後半まで生きた私としては、ほかの楽しいことをいくらでも知っている。
せっかく別の世界に生きているのだ、ずっとこの場所しかしらないで生きていくなんてもったいない。
だいたいこれから無罪を主張するとして、自分はやってませんよって証拠を提示した上で、一人一人に弁明し、汚名返上・名誉挽回をワンセットで行わなくてはならないのだ。
そんなの死ぬほどめんどくさい。
この場に何百人いると思ってんだ。
みんな高位貴族だぞ。
面会するだけでも煩わしい手順が山ほどある。
やってられるか。
「あまりにもくだらないので、もう国外追放で結構ですわ」
肩を竦めながら、ため息交じりに言う。
クリストフとマリーをはじめ、周囲の貴族たちが驚愕の表情を浮かべた。
ああ愉快。
妬み嫉みを向けてくる貴族連中を蹴散らすときの、とっておきの極上スマイルを浮かべてみせる。
「マリー。私の部屋のものは勝手に使ってくれていいわ。私のお古で申し訳ないのだけど、良い品ばかりよ。大切に使ってね」
挑発するように言うと、怯えた演技をしていたマリーの顔がスッと無表情になった。
よほど屈辱だったのだろう。
マリーが怒ると知っていて言ったのだ。少しだけ溜飲が下がる。
「クリス」
視線を戻して、婚約者の名前を呼ぶ。
びくりと肩が跳ねた。
名前を呼ぶだけで怯むくらいなら、最初から秘密裏に、部下にでも処理させればよかったのにね。
本当におばかで目立ちたがりで、その割に小心者でかわいい人。
「……善き王になってくださいね」
これだけは上っ面ではなく本心から。
「レジーナ、……僕は、」
情けない顔してまあ。
小さい頃から本当に変わってないんだから。
しょうがない人、と圧力強めな笑みを緩めて苦笑する。
クリストフはそれ以上何も言わず俯いた。
もう、二度と話をすることもないだろう。
周囲を一瞥する。
会場内は静まり返っていた。
こんな晒し上げの状態だというのに、庇う人もいなければ反論する人もいない。
友達、いなかったもんなぁ。
「お話はこれで終わりですの? それならば私はこれで失礼いたしますわ」
マリーもクリストフも、本当に言いがかり以上のネタを持っていなかったのだろう。
ならばさっさとこちらから切り上げた方が良さそうだ。
責めるネタを見つけられずヤケクソになったクリストフが、衛兵達に引っ捕らえろとか言い出したらたまったものではない。
「それではみなさま、御機嫌よう」
優雅なしぐさで首を少し傾げながら微笑み、上品に、殊更ゆっくりとお辞儀をする。
くるりと身を翻し、静寂に満ちた会場内を、ヒールを高らかに響かせ出口へと向かう。
扉が締まるのと同時に、ワッと会場内が騒がしくなった。
それを背後に聞いて、痛快な気持ちになった。
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