3 / 91
3.目指すは平凡な生活なので
しおりを挟む
外に出ると、空はもう暗くなっていた。
空気は澄んでいて、大きく息を吸い込んだ後、清々しい気持ちで歩き出す。
まずはどうしよう。国を出なきゃいけないなら海か。
船着き場の運行表を見てから行先を決めようか。
ノープランのまま、勢いでフリーの馬車を拾う。
「乗せてもらえるかしら」
「どちらまで」
「とりあえず海へ向かってちょうだい」
支払いは右耳につけていたピアス一つで話が付いた。
むしろ海までの運賃には多すぎるくらいの代物だが、旅立ちの第一歩にケチがつくのも嫌で何も請求しなかった。
きっと元剣道部だから剣の上達が早かったんだな。
馬車の中、砂利道を揺られながら考える。
記憶によれば、前世では剣道で全国優勝経験がある。
弓道も空手も、そこそこに強かった。
現世では確か、剣を持ったのは三歳頃だ。
親がドン引きしていたのをおぼろげに覚えている。
どうやら根っからの体育会系らしい。
武道ばかり習っていたからといって、別に暴力的で荒くれモノだったわけではない。
ただ、いつも胸には闘志が燻っていて、それは今の生でも同じだった。
我ながら強い女だったと思う。
だからといって反逆者扱いされるほどのものかと、改めてため息が出る。
きっとマリーはあの後もうまくやるのだろう。
弱くて従順で愚かなフリの出来る、賢い女性だったから。
何が目的だったのかはわからないが、それこそ国家転覆を考えるような人間ではないはずだ。
まぁなんにせよ、もうこの国を出る私には関係のないことだ。
滅ぶなら滅んでしまえ。
思ってもいないことを考えて、そう考えても許される立場になったことに少し笑う。
それよりこれからどうしよう。
記憶の混乱があったとは言え、こんなに考えなしに行動するのは初めてだ。
もちろんそれを不安に思う気持ちもあるけれど、期待の方が強かった。
なにより開放感がある。
ずっと窮屈に思っていたのだと、今更気付いて馬鹿みたいだ。
あの生活だって目標や生き甲斐はあったけれど、私が私のまま生きるにはつらい世界だった。
貴族だからもちろん衣食住に不自由はなかったし、むしろ高位貴族の長女である私はとても恵まれているのだと理解もしていた。
それでもいつも逃げ出したかった。
前世では庶民も庶民、むしろわりと貧乏寄りだったから、セレブ生活と言うものが性に合わなかったのかもしれない。
父子家庭だったから、傍から見れば恵まれているなんてとても思えないだろう。
けれど父との仲は良かったし、やりたいことをやらせてくれ、褒めてくれる親だった。
現世とは正反対だ。
「ふふ」
思わず笑いがこぼれる。
それは不思議と自嘲的なものではなく、愉快なものだった。
たぶん、今確かに存在しているこの世界よりも、今日思い出したばかりの前世の記憶の方が圧倒的に温かくて幸福なものだとわかって、おかしいのだ。
うん、私はあれを目指そう。
貧乏でも、全部そろっていなくても、楽しくにぎやかな家庭を。
空気は澄んでいて、大きく息を吸い込んだ後、清々しい気持ちで歩き出す。
まずはどうしよう。国を出なきゃいけないなら海か。
船着き場の運行表を見てから行先を決めようか。
ノープランのまま、勢いでフリーの馬車を拾う。
「乗せてもらえるかしら」
「どちらまで」
「とりあえず海へ向かってちょうだい」
支払いは右耳につけていたピアス一つで話が付いた。
むしろ海までの運賃には多すぎるくらいの代物だが、旅立ちの第一歩にケチがつくのも嫌で何も請求しなかった。
きっと元剣道部だから剣の上達が早かったんだな。
馬車の中、砂利道を揺られながら考える。
記憶によれば、前世では剣道で全国優勝経験がある。
弓道も空手も、そこそこに強かった。
現世では確か、剣を持ったのは三歳頃だ。
親がドン引きしていたのをおぼろげに覚えている。
どうやら根っからの体育会系らしい。
武道ばかり習っていたからといって、別に暴力的で荒くれモノだったわけではない。
ただ、いつも胸には闘志が燻っていて、それは今の生でも同じだった。
我ながら強い女だったと思う。
だからといって反逆者扱いされるほどのものかと、改めてため息が出る。
きっとマリーはあの後もうまくやるのだろう。
弱くて従順で愚かなフリの出来る、賢い女性だったから。
何が目的だったのかはわからないが、それこそ国家転覆を考えるような人間ではないはずだ。
まぁなんにせよ、もうこの国を出る私には関係のないことだ。
滅ぶなら滅んでしまえ。
思ってもいないことを考えて、そう考えても許される立場になったことに少し笑う。
それよりこれからどうしよう。
記憶の混乱があったとは言え、こんなに考えなしに行動するのは初めてだ。
もちろんそれを不安に思う気持ちもあるけれど、期待の方が強かった。
なにより開放感がある。
ずっと窮屈に思っていたのだと、今更気付いて馬鹿みたいだ。
あの生活だって目標や生き甲斐はあったけれど、私が私のまま生きるにはつらい世界だった。
貴族だからもちろん衣食住に不自由はなかったし、むしろ高位貴族の長女である私はとても恵まれているのだと理解もしていた。
それでもいつも逃げ出したかった。
前世では庶民も庶民、むしろわりと貧乏寄りだったから、セレブ生活と言うものが性に合わなかったのかもしれない。
父子家庭だったから、傍から見れば恵まれているなんてとても思えないだろう。
けれど父との仲は良かったし、やりたいことをやらせてくれ、褒めてくれる親だった。
現世とは正反対だ。
「ふふ」
思わず笑いがこぼれる。
それは不思議と自嘲的なものではなく、愉快なものだった。
たぶん、今確かに存在しているこの世界よりも、今日思い出したばかりの前世の記憶の方が圧倒的に温かくて幸福なものだとわかって、おかしいのだ。
うん、私はあれを目指そう。
貧乏でも、全部そろっていなくても、楽しくにぎやかな家庭を。
19
あなたにおすすめの小説
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。
ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。
しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。
そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。
グリモワールの塔の公爵様【18歳Ver】
屋月 トム伽
恋愛
18歳になり、結婚が近いと思われたプリムローズは、久しぶりに王都の邸にいる婚約者に会いに行っていた。
だけど、義姉クレアと婚約者ジャンのベッドインを目撃してしまい、婚約破棄されてしまったプリムローズ。
プレスコット伯爵家から追い出すための名目で、金持ちの子爵様に売られるも同然の後妻に入ることになったプリムローズ。
そんなある日、夜会で出会ったクライド・レイヴンクロフト次期公爵様から結婚をもうしこまれる。
しかし、クライドにはすでに親の決めた婚約者がおり、第2夫人でいいなら……と、言われる。
後妻に入るよりは、第2夫人のほうがマシかもとか思っていると、約束だ、と頬にキスをされた。
「必ず迎え入れる」と約束をしたのだ。
でも、クライドとのデートの日にプリムローズは来なかった。
約束をすっぽかされたと思ったクライドは、その日から一向にプリムローズと会うことはなかった。
時折出す手紙のやり取り。プリムローズがどうしたいのかわからないクライドは困惑していた。
そして、プレスコット家での現状を知り、クライドはプリムローズをプレスコット伯爵邸から連れ出し、グリモワールの塔に連れて行き……。
最初は、形だけの結婚のつもりかと思っていたのに、公爵様はひどく甘く、独占欲の固まりだった。
※以前投稿してました作品を【18歳Ver】に書き直したものです。
【完結】王子から婚約解消されましたが、次期公爵様と婚約して、みんなから溺愛されています
金峯蓮華
恋愛
ヴィオレッタは幼い頃から婚約していた第2王子から真実の愛を見つけたと言って、婚約を解消された。
大嫌いな第2王子と結婚しなくていいとバンザイ三唱していたら、今度は年の離れた。筆頭公爵家の嫡男と婚約させられた。
のんびり過ごしたかったけど、公爵夫妻と両親は仲良しだし、ヴィオレッタのことも可愛がってくれている。まぁいいかと婚約者生活を過ごしていた。
ヴィオレッタは婚約者がプチヤンデレなことには全く気がついてなかった。
そんな天然気味のヴィオレッタとヴィオレッタ命のプチヤンデレユリウスの緩い恋の物語です。
ゆるふわな設定です。
暢気な主人公がハイスペプチヤンデレ男子に溺愛されます。
R15は保険です。
「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ
西野歌夏
恋愛
前世でフラれた記憶を思いだしたフローラ・ガトバンは、18歳の伯爵令嬢だ。今まさにデジャブのように同じ光景を見ていた。
エイトレンスのアルベルト王太子にまつわるストーリーです。
※の付いたタイトルは、あからさまな性的表現を含みます。苦手な方はお気をつけていただければと思います。
2025.5.29 完結いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる