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38.陸上生活⑦
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追加で買ったものも全て船に積み終えて、少し広場に寄り道をしてから宿に戻る。
空はもう暗く、屋台を飾る電燈がキラキラと輝き始めていた。
夜はアランの誕生日祝いということで、みんなで盛大な宴会を開いた。
宿の一階の食堂を借り切って、酒も料理もお任せでどんどん出てくる。ここのところずっと給仕を取り仕切っている側だったから、何もしなくても食事が出てくるのはとても楽でいい。
調子に乗って私もお酒を飲んだが、普段飲んでいないせいか、すぐに頭がふわふわしてきてしまった。
熱を持った頬を覚ますために窓際に椅子を持ってきて、しばし風にあたる。
冷たくて気持ちのいい風だった。
「ふぅ……」
「レーナ、疲れちゃった?」
一息ついていると、今夜の主役であるアランが私の隣に立った。
「お酒弱かったみたい。あんまり飲んだことないから知らなかったわ」
笑いながら言うと、アランが心配そうに赤くなった私の頬に触れた。
「眠たかったら休んできていいからね」
レーナいないと寂しいけど、と可愛いことを言ってくれながら、アランも椅子を引っ張ってきて隣に座る。
「ありがとう。でももっとアランのお祝いをしていたいから」
「嬉しい。でも無理しないでね」
「うん。……あ、そうだこれ、」
言ってポケットから小箱を取り出す。
帰りに露店に寄った時に買ったのだ。
「誕生日おめでとう。アランにとって良い一年になりますように」
「ありがとう! 開けていい⁉」
「もちろん。大したものじゃないけれど」
破顔して受け取るアランが眩しくて、少し目を細めて微笑む。
酔っぱらっているせいか、彼の周りが本当にキラキラして見えるのはやばいだろうか。
いそいそと箱を開けるアランの目が、中身を見たとたんに輝きだす。
「コンパスだ! かっこいい!」
心底嬉しそうに言われて安堵する。
真鍮でできたそれは、ふたの部分に精巧な細工が彫ってあり、一目で気に入ってしまったのだ。
完全に自分の趣味だったけれど、アランも気に入ってくれたなら良かった。
アルコールのせいもあるのか、彼の頬も紅潮していた。
いつも素直で、優しくて、たまに頼もしくてかっこよくてかわいい。
こんな弟がいたら、死ぬほどかわいがり倒すのに。
ふわふわした頭でそんなことを思う。
「ふふ、レーナ、くすぐったい」
気付くとアランの頭を撫でていた。ストレートの短髪は、手の平にさらさらと気持ちがいい。
アランは照れくさそうに目を細め、くすぐったいと言いながらも私の手からは逃れなかった。
「アランはかわいいなぁ」
「オレ男なんだけど」
「関係ないよ。かわいいものはかわいいの」
「そんなこと言ったらレーナの方が可愛いよ。あ、でも可愛いより綺麗だな」
「んふふ、そういうこと言ってくれるアランの方がずっと可愛いわ」
お互い酔っているからだろう、なんだかよくわからない褒め合いを、ふわふわした笑顔で繰り返す。
今はウィルというツッコミ役もいないからエンドレスだ。
「なーにじゃれてるの」
「アル」
ワイン片手にアルフレッドに声を掛けられる。
こちらはまったく酔っている感じはしない。
アルはこの海賊団のなかでもトップクラスの酒豪だ。
「レーナ、俺からのプレゼントは受け取ってくれるかい」
「ええ、オレにじゃないの?」
「アランには前の時にもうやっただろ」
「ジャガイモひとつじゃ納得できないね」
「いいから主役は戻りな。ミゲルがしょんぼりしてるぞ」
「ちぇっ、これだからアルは」
アランがむくれながら、それでも宴会の輪の中に戻っていく。
ミゲルが嬉しそうに迎え入れるのが見えて、微笑ましい気持ちになった。
「隣に座っても?」
近くのテーブルにグラスを置いてアルが微笑む。
「もちろんどうぞ。もう飲まないの?」
「あとでね。今は酔って魅力を増したキミに優先するものなんてないよ」
「みっともない顔してない? 顔の熱が引かなくて」
「頬がバラ色に染まって目元の美しさが際立ってる。それに瞳も潤んで最上級のエメラルドみたいだ」
「やだ、完全に酔っ払いの顔じゃない」
良いように言い換えてくれているけど、要するにそういうことだろう。
恥ずかしくて、隠すように両手で顔を覆う。
アルフレッドが苦笑した。
「俺の言葉が全然響かないところも愛しいよ」
響いていないわけではないが、あまりにも大袈裟すぎて恥ずかしくなってしまうのだ。
それにいちいち真に受けていると、変な勘違いをしてしまいそうになる。
だからあえてスルーしているだけだ。
恋愛経験知の高い女性ならば、これくらい恋の駆け引きのひとつのスパイスとして楽しく受け取れるのだろうけど。
「そんな愛しのキミにどうしても渡したいものがあるんだ」
「アランの誕生日なのに私にプレゼントなの?」
「他のやつからも受け取ってるだろ。俺のももらってよ」
苦笑しながら言うと、真新しい髪飾りを指さしてアルフレッドが言った。
「よく気付いたね」
「レーナのことは毎日見てるからね」
女性の変化は見逃さない、アルフレッドらしい目敏さに感心してしまう。
「テオがくれたの。かわいいでしょ」
「うん。よく似合ってるよ。本当に可愛い」
いつもより真剣味のました声と表情でアルが言う。
自然、頬がお酒とは別の原因で熱くなった。
軽い口調で愛を囁かれるのにはすっかり慣れてしまったが、真面目な口調で言われることなんかほとんどない。
こうやって真正面から目を見据えて言われると、途端にどうしていいのかわからなくなってしまう。
「テオが選んだと聞いて納得だ。キミにぴったりなものを良く知っている」
言いながら、男にしてはキレイな手が私に向かって伸ばされる。
指先が髪飾りに触れた。
チリッと、うなじの辺りにしびれが走る。
「先を越されたな」
低い声で不満げにぼやいて、少し悔しそうにアルが笑った。
空はもう暗く、屋台を飾る電燈がキラキラと輝き始めていた。
夜はアランの誕生日祝いということで、みんなで盛大な宴会を開いた。
宿の一階の食堂を借り切って、酒も料理もお任せでどんどん出てくる。ここのところずっと給仕を取り仕切っている側だったから、何もしなくても食事が出てくるのはとても楽でいい。
調子に乗って私もお酒を飲んだが、普段飲んでいないせいか、すぐに頭がふわふわしてきてしまった。
熱を持った頬を覚ますために窓際に椅子を持ってきて、しばし風にあたる。
冷たくて気持ちのいい風だった。
「ふぅ……」
「レーナ、疲れちゃった?」
一息ついていると、今夜の主役であるアランが私の隣に立った。
「お酒弱かったみたい。あんまり飲んだことないから知らなかったわ」
笑いながら言うと、アランが心配そうに赤くなった私の頬に触れた。
「眠たかったら休んできていいからね」
レーナいないと寂しいけど、と可愛いことを言ってくれながら、アランも椅子を引っ張ってきて隣に座る。
「ありがとう。でももっとアランのお祝いをしていたいから」
「嬉しい。でも無理しないでね」
「うん。……あ、そうだこれ、」
言ってポケットから小箱を取り出す。
帰りに露店に寄った時に買ったのだ。
「誕生日おめでとう。アランにとって良い一年になりますように」
「ありがとう! 開けていい⁉」
「もちろん。大したものじゃないけれど」
破顔して受け取るアランが眩しくて、少し目を細めて微笑む。
酔っぱらっているせいか、彼の周りが本当にキラキラして見えるのはやばいだろうか。
いそいそと箱を開けるアランの目が、中身を見たとたんに輝きだす。
「コンパスだ! かっこいい!」
心底嬉しそうに言われて安堵する。
真鍮でできたそれは、ふたの部分に精巧な細工が彫ってあり、一目で気に入ってしまったのだ。
完全に自分の趣味だったけれど、アランも気に入ってくれたなら良かった。
アルコールのせいもあるのか、彼の頬も紅潮していた。
いつも素直で、優しくて、たまに頼もしくてかっこよくてかわいい。
こんな弟がいたら、死ぬほどかわいがり倒すのに。
ふわふわした頭でそんなことを思う。
「ふふ、レーナ、くすぐったい」
気付くとアランの頭を撫でていた。ストレートの短髪は、手の平にさらさらと気持ちがいい。
アランは照れくさそうに目を細め、くすぐったいと言いながらも私の手からは逃れなかった。
「アランはかわいいなぁ」
「オレ男なんだけど」
「関係ないよ。かわいいものはかわいいの」
「そんなこと言ったらレーナの方が可愛いよ。あ、でも可愛いより綺麗だな」
「んふふ、そういうこと言ってくれるアランの方がずっと可愛いわ」
お互い酔っているからだろう、なんだかよくわからない褒め合いを、ふわふわした笑顔で繰り返す。
今はウィルというツッコミ役もいないからエンドレスだ。
「なーにじゃれてるの」
「アル」
ワイン片手にアルフレッドに声を掛けられる。
こちらはまったく酔っている感じはしない。
アルはこの海賊団のなかでもトップクラスの酒豪だ。
「レーナ、俺からのプレゼントは受け取ってくれるかい」
「ええ、オレにじゃないの?」
「アランには前の時にもうやっただろ」
「ジャガイモひとつじゃ納得できないね」
「いいから主役は戻りな。ミゲルがしょんぼりしてるぞ」
「ちぇっ、これだからアルは」
アランがむくれながら、それでも宴会の輪の中に戻っていく。
ミゲルが嬉しそうに迎え入れるのが見えて、微笑ましい気持ちになった。
「隣に座っても?」
近くのテーブルにグラスを置いてアルが微笑む。
「もちろんどうぞ。もう飲まないの?」
「あとでね。今は酔って魅力を増したキミに優先するものなんてないよ」
「みっともない顔してない? 顔の熱が引かなくて」
「頬がバラ色に染まって目元の美しさが際立ってる。それに瞳も潤んで最上級のエメラルドみたいだ」
「やだ、完全に酔っ払いの顔じゃない」
良いように言い換えてくれているけど、要するにそういうことだろう。
恥ずかしくて、隠すように両手で顔を覆う。
アルフレッドが苦笑した。
「俺の言葉が全然響かないところも愛しいよ」
響いていないわけではないが、あまりにも大袈裟すぎて恥ずかしくなってしまうのだ。
それにいちいち真に受けていると、変な勘違いをしてしまいそうになる。
だからあえてスルーしているだけだ。
恋愛経験知の高い女性ならば、これくらい恋の駆け引きのひとつのスパイスとして楽しく受け取れるのだろうけど。
「そんな愛しのキミにどうしても渡したいものがあるんだ」
「アランの誕生日なのに私にプレゼントなの?」
「他のやつからも受け取ってるだろ。俺のももらってよ」
苦笑しながら言うと、真新しい髪飾りを指さしてアルフレッドが言った。
「よく気付いたね」
「レーナのことは毎日見てるからね」
女性の変化は見逃さない、アルフレッドらしい目敏さに感心してしまう。
「テオがくれたの。かわいいでしょ」
「うん。よく似合ってるよ。本当に可愛い」
いつもより真剣味のました声と表情でアルが言う。
自然、頬がお酒とは別の原因で熱くなった。
軽い口調で愛を囁かれるのにはすっかり慣れてしまったが、真面目な口調で言われることなんかほとんどない。
こうやって真正面から目を見据えて言われると、途端にどうしていいのかわからなくなってしまう。
「テオが選んだと聞いて納得だ。キミにぴったりなものを良く知っている」
言いながら、男にしてはキレイな手が私に向かって伸ばされる。
指先が髪飾りに触れた。
チリッと、うなじの辺りにしびれが走る。
「先を越されたな」
低い声で不満げにぼやいて、少し悔しそうにアルが笑った。
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