【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

文字の大きさ
39 / 91

39.陸上生活⑧

しおりを挟む
今日のアルフレッドはいつもと違う表情ばかりだ。
挨拶みたいな口説き文句なら慣れているのに、これでは戸惑ってしまう。
どう反応するのが正解なのだろう。いつものように茶化したり受け流したりするのは違う気がした。

「……アルは、何を選んでくれたの」

だから私もちゃんと聞くことにした。
アルは少し目を瞬いて、それから髪飾りから手を離し、いつもの色男な笑みを浮かべた。

「これ。開けてみて」

渡された小箱は綺麗に包装されていて、それ自体がプレゼントみたいで開けるのがもったいないくらいだ。
そっと開けると、中には赤いピアスが鎮座していた。

「この町の特産品の珊瑚を加工したピアスなんだ。いい色だろう」

深紅のピアスは控えめな大きさで、シンプルな球体だった。
なんとなく派手なアクセサリーを想像していたから、少し意外な思いがした。

「うん……すごく綺麗……つやつやしてて質感もいいね……」

ぽうっとしながら手の平の小さなピアスを見つめて呟く。
宝石とは違って輝く美しさではないが、吸い込まれるような赤色だ。

そういえば、とふと思い出す。
現世の両親は、よく私に赤色を身につけさせたがった。
私のことは大嫌いだったが、私の外側は好きだったらしい。髪の色や瞳の色を称えた後で、だからお前は赤が似合うのだからとドレスもアクセサリーも赤いものを押し付けてきた。

それらの物を嬉しいと思ったことは一度もなかったが、このピアスには不思議と心を惹かれた。
贈ってくれた人の心遣いを感じるからかもしれない。

「つけてみてもいい?」

嬉しくなって聞くと、私の手からアルがピアスを取り上げた。
そのまま立ち上がるアルに、くれないの? と眉尻を下げて見上げると、なんとも言えない顔で目を逸らされた。

「いやうん……俺がつけてあげる」
「えっ、いいよ! 自分で出来る!」
「ダメ。つけさせて。お願い」
「でも……恥ずかしい、から」

男の人にピアスをつけさせるなんて。
そんなの、なんかちょっといかがわしい気がする。

「嬉しいな。少しは意識してくれた?」
「ええ……するよぉ普通に……アルかっこいいもん……」

また熱が上昇し始めた頬を押さえながら、今度は私が目を逸らしながら答えた。
改めて思うがアルフレッドの顔はとても整っている。至近距離で見るとなおさらだ。
少し垂れた目尻が造作の甘さを際立たせている。緩くウェーブした金髪は肩まで伸びて、まるでどこかの王子様みたいだ。
そんな人がすぐ目の前にいて、そのうえ私にピアスをつけてくれようとしている。
その事実から、目を逸らさずに受け止めるのなんて恥ずかしいことこの上ない。

誰にでも平等に優しいのは知っているが、それでも今まさにこの瞬間私に優しいという状況に対するトキメキは中和出来るものではない。

アルフレッドはピアスの留め具を外すと、一歩近寄って私の耳に触れた。
反射的にぎゅっと目を閉じる。

「……ふ、緊張してる」

嬉しくてたまらないみたいに、笑いを含んだ小さな声でアルが言う。
そろりと目を開けると、幸せそうな顔で微笑んでいた。それを見てさらに緊張が高まる。

逃げ出したい気持ちをこらえて身体を強張らせていると、外したままのピアスホールに珊瑚のピアスが通された。
留め具をつけるために、耳の後ろにアルの指が添えられる。
ぞわぞわと産毛が逆立っていく感覚があった。

「…………も、」
「も?」
「もうむり……げんかい……ゆるして……」

頭がグルグルしたまま、辛うじてそれだけ言って目の前に迫ったアルの身体を震える手で押し返す。
これ以上は耐えられそうになかった。

「……っっふ、……あははっ」

真っ赤になっている私を見て、とうとうアルが笑いだした。
あまりの恥ずかしさに泣きそうになりながらアルを見上げる。

それは馬鹿にしてるとかの嫌な感じではなく、いつものキザな感じでもなく、ただただ幸せそうな笑顔だった。

もしかしたらこれが素の笑い方なのかもしれない。
これも初めて見る表情だ。

気取った喋り方や笑い方より、こっちの方が好きかもしれない。
恥ずかしさも忘れて笑顔に見とれながら、そんなことを思う。

「……はー。ごめんねレーナ。からかったわけじゃないんだ」
「うん、わかってる……けどやっぱり恥ずかしいから、もう一個は自分でするね」
「ちょっと残念だけどわかった。諦めるよ」

そう言ってピアスの片割れを私にくれた。
酔いと動揺でおぼつかない手つきで、なんとか自分でピアスをつける。

アルがそれを夢見るような表情で見ていた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。 ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。 しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。 そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。

グリモワールの塔の公爵様【18歳Ver】

屋月 トム伽
恋愛
18歳になり、結婚が近いと思われたプリムローズは、久しぶりに王都の邸にいる婚約者に会いに行っていた。 だけど、義姉クレアと婚約者ジャンのベッドインを目撃してしまい、婚約破棄されてしまったプリムローズ。 プレスコット伯爵家から追い出すための名目で、金持ちの子爵様に売られるも同然の後妻に入ることになったプリムローズ。 そんなある日、夜会で出会ったクライド・レイヴンクロフト次期公爵様から結婚をもうしこまれる。 しかし、クライドにはすでに親の決めた婚約者がおり、第2夫人でいいなら……と、言われる。 後妻に入るよりは、第2夫人のほうがマシかもとか思っていると、約束だ、と頬にキスをされた。 「必ず迎え入れる」と約束をしたのだ。 でも、クライドとのデートの日にプリムローズは来なかった。 約束をすっぽかされたと思ったクライドは、その日から一向にプリムローズと会うことはなかった。 時折出す手紙のやり取り。プリムローズがどうしたいのかわからないクライドは困惑していた。 そして、プレスコット家での現状を知り、クライドはプリムローズをプレスコット伯爵邸から連れ出し、グリモワールの塔に連れて行き……。 最初は、形だけの結婚のつもりかと思っていたのに、公爵様はひどく甘く、独占欲の固まりだった。 ※以前投稿してました作品を【18歳Ver】に書き直したものです。

【完結】王子から婚約解消されましたが、次期公爵様と婚約して、みんなから溺愛されています

金峯蓮華
恋愛
 ヴィオレッタは幼い頃から婚約していた第2王子から真実の愛を見つけたと言って、婚約を解消された。  大嫌いな第2王子と結婚しなくていいとバンザイ三唱していたら、今度は年の離れた。筆頭公爵家の嫡男と婚約させられた。  のんびり過ごしたかったけど、公爵夫妻と両親は仲良しだし、ヴィオレッタのことも可愛がってくれている。まぁいいかと婚約者生活を過ごしていた。  ヴィオレッタは婚約者がプチヤンデレなことには全く気がついてなかった。  そんな天然気味のヴィオレッタとヴィオレッタ命のプチヤンデレユリウスの緩い恋の物語です。  ゆるふわな設定です。  暢気な主人公がハイスペプチヤンデレ男子に溺愛されます。  R15は保険です。

「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏
恋愛
前世でフラれた記憶を思いだしたフローラ・ガトバンは、18歳の伯爵令嬢だ。今まさにデジャブのように同じ光景を見ていた。 エイトレンスのアルベルト王太子にまつわるストーリーです。 ※の付いたタイトルは、あからさまな性的表現を含みます。苦手な方はお気をつけていただければと思います。 2025.5.29 完結いたしました。

処理中です...