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72.出来ることはこれだけだから

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陸に上がると、すぐにみんな好きなように行動を始めた。
私は特に行きたい場所もなかったので、すぐにいつもの宿へと向かった。

さすがにもう陸酔いはしなくなったが、波の揺れがないと少し寂しい。

部屋で一人荷物を整理しながらそんなことを思う。

ウィルは宿までついてきてくれようとしたが断った。
気まずかったからとかではなく、単純にもう場所も覚えたし自分の身は自分で守れるからというだけのことだ。
それでもウィルは、なんらかの後ろめたさを感じているのか少し申し訳なさそうな顔をしていた。

それでも私に気を遣うのはやめたのか、それとも私の諦めるという言葉を信用しなかったのか、上陸してから連日女の気配がする。
まるで私にわからせてやりたいかのように、露骨な情事の匂いをさせていた。

全く傷付かないかと言えば嘘になる。
それでもなんでもないフリは出来た。

数日で船旅は再開し、表面上は日常を取り戻したように思えた。
ウィルとも告白以前の関係に戻れているし、船員達とも仲良くやれている。

ただ、私の心の中での変化は少しあった。

私はウィルにとって、この船にとって必要なのだろうか。
そんなことを考えるようになった。

私が役に立てることは少ない。
料理はもうアランや他の船員達もある程度出来るようになって当番制になったし、掃除や修繕なんかはそれこそ誰にでも出来る。力仕事にいたっては、最初からアテにされていないせいで声もかからない。

だからせめて、と鍛錬の時間を増やした。
幸い、剣の腕だけは戦闘能力の高い船員たちの中でもそれなりの立ち位置にいられる自負がある。

女として側に居ることが叶わないなら、せめて並び立って守れるように。
そんなふうに思うようになった。

少しでも仲間として役に立てるように、率先して戦場で暴れまわった。
何の因果か、海軍を撃退して以来戦闘回数が増えている。
おかげで活躍の場は増えた。

より多くの敵を撃破出来るように、防御は捨てた。
もともと護りに重きを置く戦闘スタイルではなかったから、攻め一極に転じることでより速く動くことが出来る。
もちろん致命傷を受けることは紙一重で避けたが、おかげで生傷は絶えなかった。

戦闘を重ねるたび傷跡は増えたが、それを嘆く必要もない。
それを見る人などいないのだから。
なげやりになったりヤケになったりしているつもりはなかった。
ウィルの役に立てるならそれでよかった。



「やあレーナ。手伝うよ」
「ありがとうアル。でももう少しで終わるから大丈夫」

食堂で夕食の片付けを一人でしていると、アルフレッドが様子を見に来てくれた。
今日も小さな海賊団を返り討ちにしたところだったから、さっきまで船内は少しバタバタしていた。
アルがここに来たということは、上はもう片付いてみんな解散したのだろう。

「少し話があるんだ。一緒に片付けるから時間もらえるかな」
「そういうことなら。実はまだやること結構あるの」

正直に白状して肩を竦めてみせると、アルフレッドは「喜んで」と嬉しそうに微笑んでくれた。
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