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終.レジーナ・アーヴァインの最期
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唖然とするウィルに構わず立ち上がって、すらりと剣を抜いた。
「よろしくて? ヴィルヘルム・クローゼ。あなたはわたくしのなんなのです? 前におっしゃったことは妄言ですの?」
ピッと剣先をウィルの眼前に突き付けて、滔々と語りかける。
茶々を入れる船員達とは対照的に、ウィルは冷や汗を垂らしチ切れている私を見て頬を引きつらせた。
その顔を見ても怒りはちっとも収まらず、「一回やったら二度と離さないんじゃねーのかボケ」といった意味合いの罵詈雑言を出来る限りオブラートに包み、丁寧な貴族言葉でぶちまける。
すっかり抜け切ったと思っていたが、切れるとこうなるらしい。
新発見だ。
たぶん貴族時代に悪意のある連中と散々舌戦を繰り広げてきたせいだろう。
思いつく限りの罵声を上品に浴びせかけ、ようやく満足して剣先を引っ込めるとウィルが天井を仰いだ。
「船長の負け」
アルが笑いながら言って、他の船員たちが囃し立てる。
ウィルは頭を抱え、項垂れて低く呻いた。
「わーかったよ俺が悪かった! もう言わん!」
降参のポーズでヤケクソのように言って、立ち上がった勢いで私を抱きしめる。
そのまま担ぎ上げて、冷やかしの声に「うるせぇ!」と怒鳴りつけた。
黙る船員はもちろんいなくて、ウィルは盛大に舌打ちをした。
「今からレーナとやってくるから誰も邪魔すんなよ!」
「はぁ⁉」
「どうやら俺は覚悟が足りんらしいからな。俺のだと思い知るためにじっくり堪能してくる」
「ちょっ、ばか何言ってんのよ!」
慌てる私に開き直ったようないい笑顔を向けて、ブーイングに変わった船員たちの声に構わず食堂を出た。
「もうほんと最低。デリカシーをどこに置いてきたのよ」
「んなもん海軍の牢に決まってんだろ」
ウィルのベッドに押し倒されながら文句を言っても、涼しい顔で私の服を剥いでいく。
「あとで絶対からかわれる。エミリオなんて間違いなく全開の笑顔で寄ってくるわ」
「んじゃやめるか?」
ぼやくように言うと、意地の悪い顔でウィルが手を止める。
そんな気なんて全くないくせに、さっきまでの殊勝な態度は一体どこへ行ってしまったのか。
「やめない。だから早く思い知ってね。私の帰る場所はここだって」
腕を首に巻き付けると、ウィルが嬉しそうに目を細めて笑った。
その夜、海軍に戻る組とのお別れ会という名の宴会は深夜まで続いた。
結局は陸に上がるまでの数日間、毎晩のように繰り返された宴会のおかげで、食糧庫はすっからかんだ。
闇夜に紛れて港の外れから行われる密入国はすっかり手慣れたものとなり、これから真っ当な職に戻る人がいるとは思えないほどに手際がいい。
人気のない岩場で、それぞれに別れの挨拶を交わし合う。
「ミゲル」
ウィルに呼ばれてミゲルが振り返る。
「……トゥール隊長。巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」
「ふ、懐かしい口調だ」
真面目な口調にミゲルが微笑む。
その表情に恨みや非難は全くなかった。
「我ら海軍のために戦った貴君のことは忘れない」
右手を差し出して、ウィルの手を固く握りしめる。
「だが次に会った時は容赦なく捕縛する。油断するなよ海賊」
「くくっ、たかが海軍風情に捕まるかよ」
悪い笑みを交わし合って、拳を軽くぶつけ合う。
アランは残りたがったが、ミゲルと船員たちの説得によってここでお別れになる。
皆ずっとこんな日が来ることを待ち望んでいたのだろう。アランを直接戦闘に参加させなかったのはこの日のためだったのだ。
この海賊団で唯一手を血で染めていない、未来ある若者にこの船は少し血生臭すぎる。
「レーナ、大好きだよ。一生忘れない」
「私もよ。立派な大人になってね」
泣きながら抱擁を交わし、船に来たばかりの頃からずっと優しくしてくれたことに礼を言う。
頬にキスをされてくすぐったさに笑っていると、ウィルが容赦なく引き剥がしに来た。
「最後くらいいいだろ! お頭おとなげなさすぎる!」
「うっせ。レーナは俺のなの。おまえはどっかのつまらん女引っかけて平穏な幸せに満足しとけ」
そのままくだらない口喧嘩を始めるウィルとアランをほっといて、アルたちに別れを告げるミゲルの元まで行く。
「ミゲル、ちょっといい?」
「なんだ」
返事を待って、剣を抜く。
ひとつに束ねた髪の根元に刃を当て、躊躇なく斬り落とす。
「レジーナ・アーヴァインは海賊同士の争いに巻き込まれて死んだと伝えてくれる?」
珍しい色の髪だ。すぐに私のものだと認識してくれるだろう。
ミゲルは私の髪に視線を落としたあとで、確かに頷いてくれた。
「それじゃあ、またいつか」
最後にそろって別れの挨拶をかわし、背を向けあって歩き出す。
またいつかがあるかはわからないけれど、もし出会うことがあれば本気で容赦はしてくれないだろう。
不正に振り回された彼らは、海賊との馴れ合いを心底憎んでいるから。
だけどそれでいい。
そうでなければならない。
その時が来たら私も全力で戦うだろう。
きっと楽しくて笑いながら。
侯爵家令嬢のレジーナ・アーヴァインは死んだ。
これからの私は、女海賊レーナとして人生を謳歌するのだ。
「よろしくて? ヴィルヘルム・クローゼ。あなたはわたくしのなんなのです? 前におっしゃったことは妄言ですの?」
ピッと剣先をウィルの眼前に突き付けて、滔々と語りかける。
茶々を入れる船員達とは対照的に、ウィルは冷や汗を垂らしチ切れている私を見て頬を引きつらせた。
その顔を見ても怒りはちっとも収まらず、「一回やったら二度と離さないんじゃねーのかボケ」といった意味合いの罵詈雑言を出来る限りオブラートに包み、丁寧な貴族言葉でぶちまける。
すっかり抜け切ったと思っていたが、切れるとこうなるらしい。
新発見だ。
たぶん貴族時代に悪意のある連中と散々舌戦を繰り広げてきたせいだろう。
思いつく限りの罵声を上品に浴びせかけ、ようやく満足して剣先を引っ込めるとウィルが天井を仰いだ。
「船長の負け」
アルが笑いながら言って、他の船員たちが囃し立てる。
ウィルは頭を抱え、項垂れて低く呻いた。
「わーかったよ俺が悪かった! もう言わん!」
降参のポーズでヤケクソのように言って、立ち上がった勢いで私を抱きしめる。
そのまま担ぎ上げて、冷やかしの声に「うるせぇ!」と怒鳴りつけた。
黙る船員はもちろんいなくて、ウィルは盛大に舌打ちをした。
「今からレーナとやってくるから誰も邪魔すんなよ!」
「はぁ⁉」
「どうやら俺は覚悟が足りんらしいからな。俺のだと思い知るためにじっくり堪能してくる」
「ちょっ、ばか何言ってんのよ!」
慌てる私に開き直ったようないい笑顔を向けて、ブーイングに変わった船員たちの声に構わず食堂を出た。
「もうほんと最低。デリカシーをどこに置いてきたのよ」
「んなもん海軍の牢に決まってんだろ」
ウィルのベッドに押し倒されながら文句を言っても、涼しい顔で私の服を剥いでいく。
「あとで絶対からかわれる。エミリオなんて間違いなく全開の笑顔で寄ってくるわ」
「んじゃやめるか?」
ぼやくように言うと、意地の悪い顔でウィルが手を止める。
そんな気なんて全くないくせに、さっきまでの殊勝な態度は一体どこへ行ってしまったのか。
「やめない。だから早く思い知ってね。私の帰る場所はここだって」
腕を首に巻き付けると、ウィルが嬉しそうに目を細めて笑った。
その夜、海軍に戻る組とのお別れ会という名の宴会は深夜まで続いた。
結局は陸に上がるまでの数日間、毎晩のように繰り返された宴会のおかげで、食糧庫はすっからかんだ。
闇夜に紛れて港の外れから行われる密入国はすっかり手慣れたものとなり、これから真っ当な職に戻る人がいるとは思えないほどに手際がいい。
人気のない岩場で、それぞれに別れの挨拶を交わし合う。
「ミゲル」
ウィルに呼ばれてミゲルが振り返る。
「……トゥール隊長。巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」
「ふ、懐かしい口調だ」
真面目な口調にミゲルが微笑む。
その表情に恨みや非難は全くなかった。
「我ら海軍のために戦った貴君のことは忘れない」
右手を差し出して、ウィルの手を固く握りしめる。
「だが次に会った時は容赦なく捕縛する。油断するなよ海賊」
「くくっ、たかが海軍風情に捕まるかよ」
悪い笑みを交わし合って、拳を軽くぶつけ合う。
アランは残りたがったが、ミゲルと船員たちの説得によってここでお別れになる。
皆ずっとこんな日が来ることを待ち望んでいたのだろう。アランを直接戦闘に参加させなかったのはこの日のためだったのだ。
この海賊団で唯一手を血で染めていない、未来ある若者にこの船は少し血生臭すぎる。
「レーナ、大好きだよ。一生忘れない」
「私もよ。立派な大人になってね」
泣きながら抱擁を交わし、船に来たばかりの頃からずっと優しくしてくれたことに礼を言う。
頬にキスをされてくすぐったさに笑っていると、ウィルが容赦なく引き剥がしに来た。
「最後くらいいいだろ! お頭おとなげなさすぎる!」
「うっせ。レーナは俺のなの。おまえはどっかのつまらん女引っかけて平穏な幸せに満足しとけ」
そのままくだらない口喧嘩を始めるウィルとアランをほっといて、アルたちに別れを告げるミゲルの元まで行く。
「ミゲル、ちょっといい?」
「なんだ」
返事を待って、剣を抜く。
ひとつに束ねた髪の根元に刃を当て、躊躇なく斬り落とす。
「レジーナ・アーヴァインは海賊同士の争いに巻き込まれて死んだと伝えてくれる?」
珍しい色の髪だ。すぐに私のものだと認識してくれるだろう。
ミゲルは私の髪に視線を落としたあとで、確かに頷いてくれた。
「それじゃあ、またいつか」
最後にそろって別れの挨拶をかわし、背を向けあって歩き出す。
またいつかがあるかはわからないけれど、もし出会うことがあれば本気で容赦はしてくれないだろう。
不正に振り回された彼らは、海賊との馴れ合いを心底憎んでいるから。
だけどそれでいい。
そうでなければならない。
その時が来たら私も全力で戦うだろう。
きっと楽しくて笑いながら。
侯爵家令嬢のレジーナ・アーヴァインは死んだ。
これからの私は、女海賊レーナとして人生を謳歌するのだ。
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