【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

文字の大きさ
90 / 91

終.レジーナ・アーヴァインの最期

しおりを挟む
唖然とするウィルに構わず立ち上がって、すらりと剣を抜いた。

「よろしくて? ヴィルヘルム・クローゼ。あなたはわたくしのなんなのです? 前におっしゃったことは妄言ですの?」

ピッと剣先をウィルの眼前に突き付けて、滔々と語りかける。
茶々を入れる船員達とは対照的に、ウィルは冷や汗を垂らしチ切れている私を見て頬を引きつらせた。

その顔を見ても怒りはちっとも収まらず、「一回やったら二度と離さないんじゃねーのかボケ」といった意味合いの罵詈雑言を出来る限りオブラートに包み、丁寧な貴族言葉でぶちまける。
すっかり抜け切ったと思っていたが、切れるとこうなるらしい。
新発見だ。
たぶん貴族時代に悪意のある連中と散々舌戦を繰り広げてきたせいだろう。

思いつく限りの罵声を上品に浴びせかけ、ようやく満足して剣先を引っ込めるとウィルが天井を仰いだ。

「船長の負け」

アルが笑いながら言って、他の船員たちが囃し立てる。
ウィルは頭を抱え、項垂れて低く呻いた。

「わーかったよ俺が悪かった! もう言わん!」

降参のポーズでヤケクソのように言って、立ち上がった勢いで私を抱きしめる。
そのまま担ぎ上げて、冷やかしの声に「うるせぇ!」と怒鳴りつけた。
黙る船員はもちろんいなくて、ウィルは盛大に舌打ちをした。

「今からレーナとやってくるから誰も邪魔すんなよ!」
「はぁ⁉」
「どうやら俺は覚悟が足りんらしいからな。俺のだと思い知るためにじっくり堪能してくる」
「ちょっ、ばか何言ってんのよ!」

慌てる私に開き直ったようないい笑顔を向けて、ブーイングに変わった船員たちの声に構わず食堂を出た。


「もうほんと最低。デリカシーをどこに置いてきたのよ」
「んなもん海軍の牢に決まってんだろ」

ウィルのベッドに押し倒されながら文句を言っても、涼しい顔で私の服を剥いでいく。

「あとで絶対からかわれる。エミリオなんて間違いなく全開の笑顔で寄ってくるわ」
「んじゃやめるか?」

ぼやくように言うと、意地の悪い顔でウィルが手を止める。
そんな気なんて全くないくせに、さっきまでの殊勝な態度は一体どこへ行ってしまったのか。

「やめない。だから早く思い知ってね。私の帰る場所はここだって」

腕を首に巻き付けると、ウィルが嬉しそうに目を細めて笑った。



その夜、海軍に戻る組とのお別れ会という名の宴会は深夜まで続いた。

結局は陸に上がるまでの数日間、毎晩のように繰り返された宴会のおかげで、食糧庫はすっからかんだ。


闇夜に紛れて港の外れから行われる密入国はすっかり手慣れたものとなり、これから真っ当な職に戻る人がいるとは思えないほどに手際がいい。

人気のない岩場で、それぞれに別れの挨拶を交わし合う。

「ミゲル」

ウィルに呼ばれてミゲルが振り返る。

「……トゥール隊長。巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」
「ふ、懐かしい口調だ」

真面目な口調にミゲルが微笑む。
その表情に恨みや非難は全くなかった。

「我ら海軍のために戦った貴君のことは忘れない」

右手を差し出して、ウィルの手を固く握りしめる。

「だが次に会った時は容赦なく捕縛する。油断するなよ海賊」
「くくっ、たかが海軍風情に捕まるかよ」

悪い笑みを交わし合って、拳を軽くぶつけ合う。

アランは残りたがったが、ミゲルと船員たちの説得によってここでお別れになる。
皆ずっとこんな日が来ることを待ち望んでいたのだろう。アランを直接戦闘に参加させなかったのはこの日のためだったのだ。
この海賊団で唯一手を血で染めていない、未来ある若者にこの船は少し血生臭すぎる。

「レーナ、大好きだよ。一生忘れない」
「私もよ。立派な大人になってね」

泣きながら抱擁を交わし、船に来たばかりの頃からずっと優しくしてくれたことに礼を言う。
頬にキスをされてくすぐったさに笑っていると、ウィルが容赦なく引き剥がしに来た。

「最後くらいいいだろ! お頭おとなげなさすぎる!」
「うっせ。レーナは俺のなの。おまえはどっかのつまらん女引っかけて平穏な幸せに満足しとけ」

そのままくだらない口喧嘩を始めるウィルとアランをほっといて、アルたちに別れを告げるミゲルの元まで行く。

「ミゲル、ちょっといい?」
「なんだ」

返事を待って、剣を抜く。
ひとつに束ねた髪の根元に刃を当て、躊躇なく斬り落とす。

「レジーナ・アーヴァインは海賊同士の争いに巻き込まれて死んだと伝えてくれる?」

珍しい色の髪だ。すぐに私のものだと認識してくれるだろう。
ミゲルは私の髪に視線を落としたあとで、確かに頷いてくれた。


「それじゃあ、またいつか」

最後にそろって別れの挨拶をかわし、背を向けあって歩き出す。
またいつかがあるかはわからないけれど、もし出会うことがあれば本気で容赦はしてくれないだろう。
不正に振り回された彼らは、海賊との馴れ合いを心底憎んでいるから。

だけどそれでいい。
そうでなければならない。

その時が来たら私も全力で戦うだろう。
きっと楽しくて笑いながら。

侯爵家令嬢のレジーナ・アーヴァインは死んだ。

これからの私は、女海賊レーナとして人生を謳歌するのだ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。 ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。 しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。 そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。

グリモワールの塔の公爵様【18歳Ver】

屋月 トム伽
恋愛
18歳になり、結婚が近いと思われたプリムローズは、久しぶりに王都の邸にいる婚約者に会いに行っていた。 だけど、義姉クレアと婚約者ジャンのベッドインを目撃してしまい、婚約破棄されてしまったプリムローズ。 プレスコット伯爵家から追い出すための名目で、金持ちの子爵様に売られるも同然の後妻に入ることになったプリムローズ。 そんなある日、夜会で出会ったクライド・レイヴンクロフト次期公爵様から結婚をもうしこまれる。 しかし、クライドにはすでに親の決めた婚約者がおり、第2夫人でいいなら……と、言われる。 後妻に入るよりは、第2夫人のほうがマシかもとか思っていると、約束だ、と頬にキスをされた。 「必ず迎え入れる」と約束をしたのだ。 でも、クライドとのデートの日にプリムローズは来なかった。 約束をすっぽかされたと思ったクライドは、その日から一向にプリムローズと会うことはなかった。 時折出す手紙のやり取り。プリムローズがどうしたいのかわからないクライドは困惑していた。 そして、プレスコット家での現状を知り、クライドはプリムローズをプレスコット伯爵邸から連れ出し、グリモワールの塔に連れて行き……。 最初は、形だけの結婚のつもりかと思っていたのに、公爵様はひどく甘く、独占欲の固まりだった。 ※以前投稿してました作品を【18歳Ver】に書き直したものです。

【完結】王子から婚約解消されましたが、次期公爵様と婚約して、みんなから溺愛されています

金峯蓮華
恋愛
 ヴィオレッタは幼い頃から婚約していた第2王子から真実の愛を見つけたと言って、婚約を解消された。  大嫌いな第2王子と結婚しなくていいとバンザイ三唱していたら、今度は年の離れた。筆頭公爵家の嫡男と婚約させられた。  のんびり過ごしたかったけど、公爵夫妻と両親は仲良しだし、ヴィオレッタのことも可愛がってくれている。まぁいいかと婚約者生活を過ごしていた。  ヴィオレッタは婚約者がプチヤンデレなことには全く気がついてなかった。  そんな天然気味のヴィオレッタとヴィオレッタ命のプチヤンデレユリウスの緩い恋の物語です。  ゆるふわな設定です。  暢気な主人公がハイスペプチヤンデレ男子に溺愛されます。  R15は保険です。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

処理中です...