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番外編
ギスギス夫婦①
キラキラした世界にうっとりと見惚れてしまう。
ずっと憧れていた世界だ。
綺麗なドレスに煌びやかな宝石たち。
オーケストラによる演奏は荘厳で、会場中央で優雅に踊る貴人たちは夢見るように美しい。
私もその世界の一員なのかと思うと胸が躍った。
「あら、失礼」
トン、と背中に軽い衝撃を受け振り返る。
貴族の奥方の中でも一層美しい人が、たおやかに微笑んでいた。
「ぶつかってしまったわね。怪我はないかしら」
「あっ、いいえ! 全然です!」
慌てて首を振ると、女性は少し眉を顰めてから苦笑した。
「どちらのお嬢さんかしら? 社交界は初めて? そんなに元気だとみんなびっくりしてしまうわ」
「あ、えーっと、いつも若く見られるんですけどぉ、もう二十歳なんです!」
ニコッと愛想のいい笑みを浮かべる。
男だったら一発で私を好きになる笑顔だ。
学校の女子たちと付き合うメリットはゼロだったけれど、社交界となれば話は別だ。
それに見たところ、このご婦人はかなり地位の高い人だ。
優雅な身のこなしや、たおやかな雰囲気から明らかだった。
これは取り入っておいた方がお得だろう。
夫であるトリスタンのためにも、社交界では顔を売っておかなくては。
そしてゆくゆくは私自身が社交界の華となって注目される存在となるのだ。
「……別に若く見えるわけではないのだけど。あまり遠回しな言い方はお好きじゃないようね」
「いえいえ。誉められるのは嫌いじゃないですぅ。お姉さんもぉ、とぉってもお綺麗ですねっ」
ニコニコと手放しで褒めると、ご婦人は笑顔のまま数秒沈黙してしまった。
どうしたのだろう。あまりにも私が可愛いから気後れしているのだろうか。それとも可愛い私から言われたからお世辞だって思っちゃったかな。まあまあ本気で言ったんだけど。
「あら、ウォルシュ侯爵夫人ではなくて?」
背後からの嬉し気な声に振り返る。
「ハリスン伯爵夫人ではありませんか。随分とお久しぶりですこと」
「ご無沙汰しております。少し体調を崩しておりまして」
「まぁ大変。お手紙くださったら良かったのに。すぐに伺いましたわ」
「お気を遣わせてしまいますでしょう? お優しい方ですもの」
親し気に話し出す二人に、所在なく微笑みを浮かべる。
このご婦人はウォルシュ侯爵夫人というのか。やはり顔を繋いでおいて正解だったみたいだ。
こっちの人は伯爵夫人って呼ばれてたっけ? じゃあ別に仲良くなる必要はないわね。だってうちより格下だもの。
「こちらの方はウォルシュ様のお知り合いですの?」
「いえ、そういうわけでは、」
「私! エステルと申します! トリスタン様に見初められてクロイド侯爵家に嫁いできました!」
水を向けられて、チャンスとばかりに自己紹介する。
第一印象で好感度を上げるためにハキハキと言えば、二人が予想外に顔を顰めた。
「トリスタン……」
「クロイド侯爵家、ね」
「これが例の……」
途端に空気が悪くなるのに気付いて思わずむくれてしまう。
あーあ、また嫉妬か。
これだから女子って嫌なのよね。
ため息が出そうになるのを堪えて笑みを浮かべる。
私はそんな嫌がらせじゃへこたれないのよ。
「本当にご結婚なさったのね」
「冗談だと思っていたわ」
「ええもちろん! 指輪だって高価なものを贈っていただいたんですよ?」
とっておきを見せるために左手を前にかざしてみせる。
サニー・フィルストンの指輪だ。
この国で一番の高級店の、こんなに大きな宝石のついた指輪。
さすがに侯爵家の人間でもそうそうお目にかかれないはずだ。
伯爵夫人程度なら尚更に。
小さなお屋敷なら買えてしまうくらいではないだろうか。
こんな高価なものを貰える私は、つまりそれくらいに価値の高い女だという証明でもある。
「……フィルストン? それが?」
「あなた本気で言ってらっしゃるの?」
けれど二人は驚くどころか、嘲笑混じりに顔を歪めてみせた。
なんだろう、すごく嫌な感じだ。
「もう少し見る目を養われた方がいいわ。本物のフィルストンは見ただけで格の違いが判るものよ」
「ええ本当。ホラ、ちょうどあの方みたいに」
なんたら伯爵夫人が得意げに会場内のひときわ華やかな集まりを指差した。
そちらを見て言葉を失う。
そこには美しく着飾ったイルゼが立っていた。
ずっと憧れていた世界だ。
綺麗なドレスに煌びやかな宝石たち。
オーケストラによる演奏は荘厳で、会場中央で優雅に踊る貴人たちは夢見るように美しい。
私もその世界の一員なのかと思うと胸が躍った。
「あら、失礼」
トン、と背中に軽い衝撃を受け振り返る。
貴族の奥方の中でも一層美しい人が、たおやかに微笑んでいた。
「ぶつかってしまったわね。怪我はないかしら」
「あっ、いいえ! 全然です!」
慌てて首を振ると、女性は少し眉を顰めてから苦笑した。
「どちらのお嬢さんかしら? 社交界は初めて? そんなに元気だとみんなびっくりしてしまうわ」
「あ、えーっと、いつも若く見られるんですけどぉ、もう二十歳なんです!」
ニコッと愛想のいい笑みを浮かべる。
男だったら一発で私を好きになる笑顔だ。
学校の女子たちと付き合うメリットはゼロだったけれど、社交界となれば話は別だ。
それに見たところ、このご婦人はかなり地位の高い人だ。
優雅な身のこなしや、たおやかな雰囲気から明らかだった。
これは取り入っておいた方がお得だろう。
夫であるトリスタンのためにも、社交界では顔を売っておかなくては。
そしてゆくゆくは私自身が社交界の華となって注目される存在となるのだ。
「……別に若く見えるわけではないのだけど。あまり遠回しな言い方はお好きじゃないようね」
「いえいえ。誉められるのは嫌いじゃないですぅ。お姉さんもぉ、とぉってもお綺麗ですねっ」
ニコニコと手放しで褒めると、ご婦人は笑顔のまま数秒沈黙してしまった。
どうしたのだろう。あまりにも私が可愛いから気後れしているのだろうか。それとも可愛い私から言われたからお世辞だって思っちゃったかな。まあまあ本気で言ったんだけど。
「あら、ウォルシュ侯爵夫人ではなくて?」
背後からの嬉し気な声に振り返る。
「ハリスン伯爵夫人ではありませんか。随分とお久しぶりですこと」
「ご無沙汰しております。少し体調を崩しておりまして」
「まぁ大変。お手紙くださったら良かったのに。すぐに伺いましたわ」
「お気を遣わせてしまいますでしょう? お優しい方ですもの」
親し気に話し出す二人に、所在なく微笑みを浮かべる。
このご婦人はウォルシュ侯爵夫人というのか。やはり顔を繋いでおいて正解だったみたいだ。
こっちの人は伯爵夫人って呼ばれてたっけ? じゃあ別に仲良くなる必要はないわね。だってうちより格下だもの。
「こちらの方はウォルシュ様のお知り合いですの?」
「いえ、そういうわけでは、」
「私! エステルと申します! トリスタン様に見初められてクロイド侯爵家に嫁いできました!」
水を向けられて、チャンスとばかりに自己紹介する。
第一印象で好感度を上げるためにハキハキと言えば、二人が予想外に顔を顰めた。
「トリスタン……」
「クロイド侯爵家、ね」
「これが例の……」
途端に空気が悪くなるのに気付いて思わずむくれてしまう。
あーあ、また嫉妬か。
これだから女子って嫌なのよね。
ため息が出そうになるのを堪えて笑みを浮かべる。
私はそんな嫌がらせじゃへこたれないのよ。
「本当にご結婚なさったのね」
「冗談だと思っていたわ」
「ええもちろん! 指輪だって高価なものを贈っていただいたんですよ?」
とっておきを見せるために左手を前にかざしてみせる。
サニー・フィルストンの指輪だ。
この国で一番の高級店の、こんなに大きな宝石のついた指輪。
さすがに侯爵家の人間でもそうそうお目にかかれないはずだ。
伯爵夫人程度なら尚更に。
小さなお屋敷なら買えてしまうくらいではないだろうか。
こんな高価なものを貰える私は、つまりそれくらいに価値の高い女だという証明でもある。
「……フィルストン? それが?」
「あなた本気で言ってらっしゃるの?」
けれど二人は驚くどころか、嘲笑混じりに顔を歪めてみせた。
なんだろう、すごく嫌な感じだ。
「もう少し見る目を養われた方がいいわ。本物のフィルストンは見ただけで格の違いが判るものよ」
「ええ本当。ホラ、ちょうどあの方みたいに」
なんたら伯爵夫人が得意げに会場内のひときわ華やかな集まりを指差した。
そちらを見て言葉を失う。
そこには美しく着飾ったイルゼが立っていた。
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