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それぞれの夜
13.名探偵アメリア1
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「この中に犯人がいるのは確かです」
レックス刑事に広間に集められた私たちは、皆周囲を見回しました。隣にいる誰かが、犯人かもしれないのです。一体誰がこんな酷いことをしたのでしょう。
「まず話を整理すると、エミリアさんが部屋に行って、その後すぐにダンさんが部屋へ、その後フレデリックさんが入れ替わりでエミリアさんの部屋を訪れた」
「ああ、間違いない」
フレデリック様は大きく頷きました。ダン様も腕を組んだまま頷いています。これは、私が目撃したこととも一致しています。
「その後、クロエさんがエミリアさんの所へ行って、事件は起きた」
ああ、恐ろしい。怯えるおクロエお嬢様のお顔を思い出すと胸が張り裂けそうです。
「……では、誰が彼女に毒を持ったのでしょう?」
声を上げるものは誰もおりません。広間は静まりかえっていました。
「毒はエミリアさんの林檎酒に仕込まれていました……彼女のグラスにだけ、ね」
レックス刑事は広間に置かれた林檎酒を指差して言いました。
「エミリア様はお酒を飲みません」
私は思わず声を出していました。皆様が私に注目するのが分かって、萎縮しているとクロエお嬢様が隣で肩を支えてくれました。
「……エミリア様は断酒中でございます。本人は気にしていないようですが、お酒が入ると人が変わったようで……テイラー夫妻のご要望もあって、パーティーではエミリア様にお酒を渡さない、というのが暗黙のルールなのです」
「……アメリアの言う通りよ。この町では誰もが知っているわ」
「なるほど、このパーティーの参加者の皆様は全員そのことをご存知だ」
レックス刑事は含みのあるような顔でジジ様を見ました。ジジ様は狼狽えています。
「でも、エミリアは林檎酒を飲んでいたわ。アップルサイダーには氷が入っていて、林檎酒には氷が入っていない。私、彼女が氷の入ってないグラスを持っているのを見たもの」
「断るとエミリアは気を悪くするでしょう。彼女には氷の入っていないアップルサイダーを渡していたのよ。万が一、ということがないように私たちも"エミリアに"グラスを持っていくと、その場に居合わせた者に言うのよ。みんな目を光らせてる」
クロエお嬢様は私の代わりに補足して下さいました。
「エミリアが手がつけられなくなるのは有名だからな」
ダン様は腕を組んだまま、懐かしそうに目を細めています。
「やはり彼女が酒を飲めないと知っていたのはジジ•ウォーカーさん、貴方だけのようですね」
レックス刑事が鋭く追求しますが、彼女は怯みません。
「確かに私はそのことを知らなかったけれど、私には彼女を殺す動機がないわ。今日はじめて会ったのよ」
「……いいえ、私聞いてしまいました。エミリア様が体調が悪い、と言ったときです」
ジジ様は、エミリア様が妊娠していることを確実に知っていた。
「クロエお嬢様が『何か薬を用意する? 』と聞いたら、『薬はやめた方がいい』と仰いましたよね。ジジ様はご存知だったのではないですか?」
ジジ様は苛立ったような表情をしています。
「それにもう一つ……、何故会ったばかりのエミリア様が飲んでいたものに、そんなに興味をお持ちだったのですか?」
「……どういう意味よ」
「失礼ですが、ジジ様はクロエお嬢様が何を飲んでいたかご存知ですか?」
「……さあ、林檎酒か、アップルサイダーでしょう」
「いいえ、クロエお嬢様はワインを飲んでいました。飲み物は二種類だけではないのよ。色も随分と違うのに気付かなかったかしら?」
ジジ様は黙ったまま、答えませんでした。
「……でも、他人の飲み物なんてそんなものでしょう」
「たまたまよ」
「ジジ様はエミリア様が"林檎酒"を飲んだのを見て確信されたのではないですか?妊娠が嘘であることを」
私はとにかく息をするのに必死でした。こんなに大勢の前でたくさん話をする機会なんて滅多にありませんから。
「フレデリック様を探している様な振りをして、エミリア様のお部屋へ行った……。ダン様もフレデリック様も、エミリア様にグラスは持って行っていないわ。そして、クロエお嬢様はエミリア様の分のグラスを持って部屋に向かったのです」
「……階段を落ちていく彼女は毒の入った林檎酒のグラスを持っていた。誰が渡したグラスでしょう」
ジジ様は深い溜息をつきました。
「侍女は敵に回さない方が良いって言うのは本当みたいね」
「ジジ様、貴方は彼女を殺すつもりで今日この屋敷に来たのでしょう。それだけじゃない、クロエお嬢様に罪を着せるおつもりだったのでは?」
レックス刑事に広間に集められた私たちは、皆周囲を見回しました。隣にいる誰かが、犯人かもしれないのです。一体誰がこんな酷いことをしたのでしょう。
「まず話を整理すると、エミリアさんが部屋に行って、その後すぐにダンさんが部屋へ、その後フレデリックさんが入れ替わりでエミリアさんの部屋を訪れた」
「ああ、間違いない」
フレデリック様は大きく頷きました。ダン様も腕を組んだまま頷いています。これは、私が目撃したこととも一致しています。
「その後、クロエさんがエミリアさんの所へ行って、事件は起きた」
ああ、恐ろしい。怯えるおクロエお嬢様のお顔を思い出すと胸が張り裂けそうです。
「……では、誰が彼女に毒を持ったのでしょう?」
声を上げるものは誰もおりません。広間は静まりかえっていました。
「毒はエミリアさんの林檎酒に仕込まれていました……彼女のグラスにだけ、ね」
レックス刑事は広間に置かれた林檎酒を指差して言いました。
「エミリア様はお酒を飲みません」
私は思わず声を出していました。皆様が私に注目するのが分かって、萎縮しているとクロエお嬢様が隣で肩を支えてくれました。
「……エミリア様は断酒中でございます。本人は気にしていないようですが、お酒が入ると人が変わったようで……テイラー夫妻のご要望もあって、パーティーではエミリア様にお酒を渡さない、というのが暗黙のルールなのです」
「……アメリアの言う通りよ。この町では誰もが知っているわ」
「なるほど、このパーティーの参加者の皆様は全員そのことをご存知だ」
レックス刑事は含みのあるような顔でジジ様を見ました。ジジ様は狼狽えています。
「でも、エミリアは林檎酒を飲んでいたわ。アップルサイダーには氷が入っていて、林檎酒には氷が入っていない。私、彼女が氷の入ってないグラスを持っているのを見たもの」
「断るとエミリアは気を悪くするでしょう。彼女には氷の入っていないアップルサイダーを渡していたのよ。万が一、ということがないように私たちも"エミリアに"グラスを持っていくと、その場に居合わせた者に言うのよ。みんな目を光らせてる」
クロエお嬢様は私の代わりに補足して下さいました。
「エミリアが手がつけられなくなるのは有名だからな」
ダン様は腕を組んだまま、懐かしそうに目を細めています。
「やはり彼女が酒を飲めないと知っていたのはジジ•ウォーカーさん、貴方だけのようですね」
レックス刑事が鋭く追求しますが、彼女は怯みません。
「確かに私はそのことを知らなかったけれど、私には彼女を殺す動機がないわ。今日はじめて会ったのよ」
「……いいえ、私聞いてしまいました。エミリア様が体調が悪い、と言ったときです」
ジジ様は、エミリア様が妊娠していることを確実に知っていた。
「クロエお嬢様が『何か薬を用意する? 』と聞いたら、『薬はやめた方がいい』と仰いましたよね。ジジ様はご存知だったのではないですか?」
ジジ様は苛立ったような表情をしています。
「それにもう一つ……、何故会ったばかりのエミリア様が飲んでいたものに、そんなに興味をお持ちだったのですか?」
「……どういう意味よ」
「失礼ですが、ジジ様はクロエお嬢様が何を飲んでいたかご存知ですか?」
「……さあ、林檎酒か、アップルサイダーでしょう」
「いいえ、クロエお嬢様はワインを飲んでいました。飲み物は二種類だけではないのよ。色も随分と違うのに気付かなかったかしら?」
ジジ様は黙ったまま、答えませんでした。
「……でも、他人の飲み物なんてそんなものでしょう」
「たまたまよ」
「ジジ様はエミリア様が"林檎酒"を飲んだのを見て確信されたのではないですか?妊娠が嘘であることを」
私はとにかく息をするのに必死でした。こんなに大勢の前でたくさん話をする機会なんて滅多にありませんから。
「フレデリック様を探している様な振りをして、エミリア様のお部屋へ行った……。ダン様もフレデリック様も、エミリア様にグラスは持って行っていないわ。そして、クロエお嬢様はエミリア様の分のグラスを持って部屋に向かったのです」
「……階段を落ちていく彼女は毒の入った林檎酒のグラスを持っていた。誰が渡したグラスでしょう」
ジジ様は深い溜息をつきました。
「侍女は敵に回さない方が良いって言うのは本当みたいね」
「ジジ様、貴方は彼女を殺すつもりで今日この屋敷に来たのでしょう。それだけじゃない、クロエお嬢様に罪を着せるおつもりだったのでは?」
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