親友をストーカーから守るためには、私がストーカーと付き合えばいいんじゃないっ!?

藤崎 涼汰

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初恋編【序】

バナナを咥えて

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 6月某日の朝。目が覚めた先の時計は、7時50分を指そうとしていた。…寝坊である。

 私は母と朝から『なんで起こしてくれなかった』『何度も起こしたのに起きなかった』というような言い合いを繰り返しながら身支度を大急ぎでして、朝食代わりのバナナを口に咥え玄関を飛び出した。

 朝の陽射しが、寝起きの私の瞳孔を刺す。急ぎ早に走る私とは対照的に今日も1日は穏やかに流れているらしい。しかしそんなことよりだ。制服が乱れバナナを咥えながら走る女子高生というのは、傍から見ればどういう風に映るのだろう。もしも咥えている物が食パンで、私が女の子走りのように跳ねながら、「遅刻遅刻~」などと本当に急いでいるのかわからないようなセリフでも吐いていたら、幾分マシだったのかもしれない。

 だが、残念なことに私は元陸上部。中距離選手だった。中学地区大会優勝の成績を持ち、自分でも誇れるほど綺麗なフォームだ。

 それがこの状況においてまさか仇になるとは。と、こんなことを考えていられるのも、私の俊足が功を奏し、何とか遅刻を回避できそうな時間まで短縮できたからである。

 ―あとはその曲がり角を曲がれば…!

 私が重心をやや傾け、住宅街の交差点を右に曲がろうとしたとき、死角から一人の男性が私と同じように走ってきたのだった。

 「!?」

 「うわぁ!」

 私の姿を目視した男性が声を上げた。人が急に飛び出してきたことに対しての驚きの声か、バナナを咥えながら汗だくで髪を乱す女の姿に対する恐怖の声か、それは考えるのをやめよう。

 私同様に男性もなかなかのスピードで曲がってきている。普通なら避けられるはずもなかった。…そう、普通なら。

 私は反射神経と動体視力には自信があった。卓球のオリンピック候補生まで行った母親の影響だろうか。

 私は、生まれながらの動体視力と陸上で培った脚力で男性を見事なサイドステップでかわした。しかし、男性は避けようとした反動で、その場に倒れてしまった。

 「だーひょうふでふか大丈夫ですか!?ごふぇんなふぁいごめんなさい!」

 私は男性にそう言った。うまのように荒ぶった息と口に含んだ美味うまいバナナのせいで上手うまく発音ができなかった。…。うま美味うま上手うま…。妙な韻が頭の中に浮かんだが、それは今の状況とは全くもって関係がないので忘れてくれて構わない。

 「あ、いや。こちらこそすみません。急いでたもので…」

 男性はその言葉を言いながら、私の方へ顔を向けた。

 衝撃が走った、とはこの時のことを言うのだろう。目が合った瞬間に全身に電気が通ったような、そんな衝撃。

 澄んだ瞳にスッと筋の通った鼻。清潔感のある髪型に、立ち上がるとわかる高身長。スーツの上着を腕に掛け、青いネクタイにしっかりとアイロンがかけられているであろうパリッとしたワイシャツ。よほど何か急な用事があったのだろうか、綺麗な首筋に流れる一筋の汗が眩しい。

 「あなたも大丈夫でした?どこかお怪我とか」

 ―しかも優しい!?

 『木偶脳筋でくのうきん』ではないに違いない。
 『終末花畑しゅうまつはなばたけ』、そんな気配は微塵もない。
 『汗製造機かんせいぞうき』とは程遠い存在。
 『仮非行者かりひこうしゃ』。そうである訳がない。
 『孤立無念こりつむねん』と比較するのもおこがましい。
 『生死不明せいしふめい』、否!存在感が満ち満ちている…。

 なんだ?この輝かしい生物は。6つの内のどれにも該当しない…?第7のジャンル…!!新人類!

 恐れながら命名させていただくとするならば…そう。

 【7】すべてを超越し、頂点にして頂点。『夢幻神々むげんこうごう』。

 私はそう名付けざるを得なかった。それほどまでに、彼は輝いて見えた。

 「では、僕は先を急ぐので!失礼します」

 彼はそう言って颯爽とその場を離れた。

 名前も聞く事が出来なかった。身なりからして、社会人。立ち振る舞いなどから察するに年のころは25、6。大人の男性。明らかに年下の私にも敬語で対応してくれる常識的大人の余裕。

 私は走りゆく彼の背中を眺めながらそんなことを考える。

 ―あぁ。そうか。これが一目惚れなのか…。

 堀井 光莉。高校2年生の16歳。人生で初めての初恋は、夏の暑い朝、道端で、汗だくで、一目惚れで…、バナナを咥えながらの出来事だった。

 そのまま、出逢いの衝撃でその場から動く事が出来ず、しばらくして私を突き動かしたのは少し遠くから聞こえる始業のチャイムだったことは言うまでもないが言っておく。
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