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初恋編【破】
焦がれて焦げて死ぬのなら
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瑠衣と熱い握手を交わした翌日。私は瑠衣の言葉を信じ、昨日と同じ時刻に彼と出逢ったあの曲がり角にいた。もちろん、今日はバナナを咥えてなどいない。いつも以上に身だしなみを整え、彼を待つ。私の初恋の相手。私の運命の人を。
―………………。
しかし、なかなか現れない。私は左腕の時計を見る。8時20分を指していた。昨日はこの時間にはすでに彼と逢っていたはずだ。やはりいつもこの道に来るわけではないのかもしれない。そう言えば、何回も通っているこの通学路で彼を見たのは昨日が初めてだ。
「昨日はたまたまだったのか…」
私はそう言葉を溢し、肩を落としながら遅刻が確定している学校へと歩み出そうとしたその時。
『ドンッ!』
私は正面からの衝撃に思わず後ろへと倒れた。何が起きたか一瞬判らなかったが、どうやら曲がってきた人とぶつかってしまったらしい。
「いったた…」
私は、地面に尻もちをついた状態で顔をあげる。
「あっ」
思わず声が出た。ぶつかった人物の顔を目視したからだ。その人物は言うまでもなくあの人、『夢幻神々』その人であった。
「すみません!お、お怪我ありません…か?…あれ?君は昨日の…」
彼は私に手を差し出しながら、そう言った。なんと光栄なことに私のような愚民の顔を覚えてくれていたようだ。
「昨日のバナナの女の子」
…人は第一印象が最も大事だという。彼にとって私の印象はバナナ込みのものとなってしまったらしい。しかし、そのおかげで覚えてもらえたと考えれば、満更悪くない気もする。そんなことより、だ。今私の前に差し出されているものを、私は凝視する。まじまじと眺める。右手だ。彼の右手だ。
「ごめんね!急いでてぶつかっちゃって。ケガはないですか?」
またしても彼は私に話しかけてくれていらっしゃる。なんだ?ここは天国か?
「立てますか?」
―あぁ、そうか。私はここで死ぬんだ。そうに違いない。彼に再会できたのもそうだが、私を覚えててくれて、優しく声をかけてくれて、なおかつ右手を握る権利さえ私に与えてくれている。彼と初めて出逢っただけで全身に電気を浴びた感覚になった私だ。彼の体になど触れれば全身が炎に包まれ焼け焦げるに違いない。
「あの…大丈夫ですか?」
―お母さん、お父さん、瑠衣、そしてその他諸々の人類の皆さん。さようなら。先に逝くことを許してください。でも私は幸せに逝くのです。後悔なんて微塵もありません。
「我が生涯に…一片の悔いなし…」
私はそう発し、彼の右手を掴んだ。掴ませてもらった。…温かい。私の手よりも温かく、大きな手。鼓動が早くなるのを感じる。私の体温もどんどん上がっていく。焼け焦げる前の助長だろうか。
「ごめんなさい。制服とか汚れてませんか?」
彼は私の腕を引っ張り、私を起こしてくれた。手はまだ握られたまま。しかし、私の体は発火しない。なぜだろう?私に炎の耐性があるとでもいうのか?
「ケガもないようでよかった。昨日も今日もごめんなさい。今日も急いでて。明日からは気を付けます。じゃあ、僕はこれで。またここで会うかもしれませんね。失礼します」
彼は私の手を離し、またしてもその場から駆けていった。左手に残る彼の温もり。申し訳ないが、昨日瑠衣と交わした握手などとるに足らないものだったのだと思うほどのそんな温もり。
―ん?またここで会うかもしれませんね?またここで?会うかも?また…ここで…。またここで逢いましょう!?
彼は確かにそう言った。気がする!いや、言ってないかもしれないが私にはそう聞こえた。ということはそう言ったんだ!!
「それって…」
彼から、ここでまた逢う約束をされた。日時こそ指定されていないが、場所はここ。顔見知りの男女が決められた場所で逢う約束をするというのは、すなわち…そういうことだろう…。
「それって…」
私は学校への残り少ない道のりをスキップしながら向かい、こう呟くのだった。
「それってデートってことじゃ~ん」
―………………。
しかし、なかなか現れない。私は左腕の時計を見る。8時20分を指していた。昨日はこの時間にはすでに彼と逢っていたはずだ。やはりいつもこの道に来るわけではないのかもしれない。そう言えば、何回も通っているこの通学路で彼を見たのは昨日が初めてだ。
「昨日はたまたまだったのか…」
私はそう言葉を溢し、肩を落としながら遅刻が確定している学校へと歩み出そうとしたその時。
『ドンッ!』
私は正面からの衝撃に思わず後ろへと倒れた。何が起きたか一瞬判らなかったが、どうやら曲がってきた人とぶつかってしまったらしい。
「いったた…」
私は、地面に尻もちをついた状態で顔をあげる。
「あっ」
思わず声が出た。ぶつかった人物の顔を目視したからだ。その人物は言うまでもなくあの人、『夢幻神々』その人であった。
「すみません!お、お怪我ありません…か?…あれ?君は昨日の…」
彼は私に手を差し出しながら、そう言った。なんと光栄なことに私のような愚民の顔を覚えてくれていたようだ。
「昨日のバナナの女の子」
…人は第一印象が最も大事だという。彼にとって私の印象はバナナ込みのものとなってしまったらしい。しかし、そのおかげで覚えてもらえたと考えれば、満更悪くない気もする。そんなことより、だ。今私の前に差し出されているものを、私は凝視する。まじまじと眺める。右手だ。彼の右手だ。
「ごめんね!急いでてぶつかっちゃって。ケガはないですか?」
またしても彼は私に話しかけてくれていらっしゃる。なんだ?ここは天国か?
「立てますか?」
―あぁ、そうか。私はここで死ぬんだ。そうに違いない。彼に再会できたのもそうだが、私を覚えててくれて、優しく声をかけてくれて、なおかつ右手を握る権利さえ私に与えてくれている。彼と初めて出逢っただけで全身に電気を浴びた感覚になった私だ。彼の体になど触れれば全身が炎に包まれ焼け焦げるに違いない。
「あの…大丈夫ですか?」
―お母さん、お父さん、瑠衣、そしてその他諸々の人類の皆さん。さようなら。先に逝くことを許してください。でも私は幸せに逝くのです。後悔なんて微塵もありません。
「我が生涯に…一片の悔いなし…」
私はそう発し、彼の右手を掴んだ。掴ませてもらった。…温かい。私の手よりも温かく、大きな手。鼓動が早くなるのを感じる。私の体温もどんどん上がっていく。焼け焦げる前の助長だろうか。
「ごめんなさい。制服とか汚れてませんか?」
彼は私の腕を引っ張り、私を起こしてくれた。手はまだ握られたまま。しかし、私の体は発火しない。なぜだろう?私に炎の耐性があるとでもいうのか?
「ケガもないようでよかった。昨日も今日もごめんなさい。今日も急いでて。明日からは気を付けます。じゃあ、僕はこれで。またここで会うかもしれませんね。失礼します」
彼は私の手を離し、またしてもその場から駆けていった。左手に残る彼の温もり。申し訳ないが、昨日瑠衣と交わした握手などとるに足らないものだったのだと思うほどのそんな温もり。
―ん?またここで会うかもしれませんね?またここで?会うかも?また…ここで…。またここで逢いましょう!?
彼は確かにそう言った。気がする!いや、言ってないかもしれないが私にはそう聞こえた。ということはそう言ったんだ!!
「それって…」
彼から、ここでまた逢う約束をされた。日時こそ指定されていないが、場所はここ。顔見知りの男女が決められた場所で逢う約束をするというのは、すなわち…そういうことだろう…。
「それって…」
私は学校への残り少ない道のりをスキップしながら向かい、こう呟くのだった。
「それってデートってことじゃ~ん」
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