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9巻
9-2
◆ ◆ ◆
唯一通路のない場所を背にし、俺はインベントリから休憩に必要なものを取り出す。
そのまま座っちゃってるから敷き布は無しとして、あとはお菓子と飲み物かな。
準備が終わると、ヒバリ達と妖精達がお行儀良く座り、期待したキラキラの眼差しで俺を見つめてくる。
「と、当店はセルフサービスとなっております」
軽く摘まめるお菓子とお茶セットを指差し、俺はヒバリ達から目をそらしながら言った。皆に手渡していたら終わりそうにないので。
あ、リグとメイはもちろん、俺と一緒に食べるよ。
小桜と小麦はヒバリとヒタキにお任せ。
妖精達は器用そうだから、困ったときだけ助けるスタンスでいこう。
俺がセルフサービスと言った途端、お菓子は争奪戦になってしまった。しっかり者のスイが、取り合わないようひたすら怒っていた気がする。
休憩は大体30分くらいかな。ヒバリ達と一緒に休憩セットを片付けていると、スイがわざわざ寄ってきて感謝してくれた。
俺としては、美味しく食べてくれるのが一番嬉しいから、別に良いんだけど。
その代わりと言ってはなんだけど、もっとたくさん虫系魔物がいるオススメ? スポットを聞いてみた。
ほら、どんな魔物を倒しても1匹300Mだから。稼ぐなら数を倒さないと。俺が倒すんじゃないけども。
俺の肩に乗ったスイは悩むように頬に指を当て、むむむっと唸る。しばらく目を閉じて考えると、パッと目を開いた。
『そうねぇ……もう少し奥に行くと大部屋があるんだけど、そこかしら? んん~、100匹くらいいるわ』
「100匹!」
その返答に俺は驚いた。大丈夫だとは思うんだけど、俺の中の過保護成分が……。
すると、ヒバリとヒタキが俺の隣に並び、満面の笑みで、俺の背中に手を当てながら言う。
「大丈夫だよ、ツグ兄ぃ。私とひぃちゃんの合体魔法が火を噴くし」
「ん。それに、このあたりの魔物はそこまで強くない。魔法でシャドウハウンドも出せるし」
「シュッシュ!」
ちょっと心配しすぎか。リグもやる気満々なのを見て、俺は片付けを終えたら出発しようと、スイに案内を頼んだ。片付けもあと少しだったからすぐ終わる。
「次の虫はどんな虫が出てくるのかなぁ~?」
まったりと目的地へ歩きながら、ヒバリが俺の肩に乗っているスイに問いかけた。
『あまり代わり映えはしないかも。甲虫系が多いわね』
「そっか。魔物は魔物に変わらないから頑張って倒すぞー!」
「めめっ! めめめめめ」
スイの答えを聞いたヒバリが元気よく右手を突き上げ、メイも便乗するように、軽くピョンッと飛んだ。敵のおかわりが欲しいみたいだしな、メイは。
スイと妖精達のコントを見たり、樹液が染み出したところに群がる虫系魔物をサクッと倒したり、寄り道をしたり。
まぁ、そこまでクエストの使命感に苛まれなくてもいい……かな。時間の許す限り、できるだけ魔物を倒すよ、ヒバリ達が。俺はほら、お察しください。
そんなこんなで、スイのオススメスポットにたどり着いた俺達。
大部屋と呼ばれるだけあって、広さは学校の体育館、くらいかな? 世界樹の樹液に色とりどりの虫系魔物が群がっている。
なんとも言い難いゾワゾワした感じに襲われつつ、ちょっとだけ作戦会議。
「私達のレベル上げも兼ねてるから、まずは小桜と小麦に、にゃん術で大雑把に倒してもらう?」
「ん、リグとメイに比べて、小桜と小麦はレベルが低い。ツグ兄にも経験値入るから一石二鳥」
こうやって口に出して確認すれば、間違いは起きないはず。
そのあとの作戦について双子に尋ねると、各自殲滅と、あっけらかんと言われてしまう。
にゃん術であらかた倒せるし、それでいい……のか? いいか。
納得した俺達は、それぞれ武器を担いだり、多くの魔物が魔法の範囲内に入るようポジション調整したり。
「小桜、小麦。あいつらに、にゃん術お願い!」
「にゃんにゃ~ん」
ヒバリの声に反応して、名前を呼ばれた2匹がにゃん術を発動させる。
見えない風の爪が音を立てながら直進し、様々な虫系魔物を巻き込み、派手に世界樹にぶつかって消えた。
「……すごい音がしたけど、ホントに世界樹の壁、大丈夫? スイ達のお母さんでしょ? い、今更だけど」
予想以上の攻撃に不安が広がったのか、火を使ったときと同じように、恐る恐るスイに尋ねるヒバリ。やっぱりどうしても気になるよな。
『ふふっ、大丈夫大丈夫。母様は超弩級龍のブレスを受けても、無傷でケロッとしてるもの。あんなのそよ風程度じゃない?』
「ワァ、ソウナンダー」
スイが胸を張って教えてくれたとき、ヒバリの目はなんだか虚ろになっていた。俺はよく分からないけど、すごいんだな世界樹って。
「あ、虫達こっちに来るよ! 皆頑張って!」
ハッとしたヒバリが剣と盾を構え、皆に聞こえるよう声を張り上げた。小桜と小麦が相当数の魔物を倒したので、敵愾心がこちらに向いたのだろう。
ヒバリは敵の注意を引きつけるスキルを使い駆け出したが、ウゾウゾ集まってくる虫系魔物を前に、「ひぇっ!」と怖気づいた。
ムカデのような、カマキリのような、バッタのような……それらに加えて魔物の幼虫。さすがに俺でも嫌な感じだから仕方ない。
ヒバリの尊い犠牲を無駄にしないために、俺達は散開して討伐を始めた。スイ達妖精チームは見学ということで。
部屋の中央で派手に戦っているヒバリ達を横目に、俺とリグも戦闘開始。
「リグ。俺達はいつも通り、魔物を糸で簀巻きにしていこう」
「シュッ! シュシュ~」
「じゃあ、あの芋虫みたいな魔物から」
俺達が狙うのは、俺より一回り小さな芋虫の魔物だ。動きはメイよりも遅く、安心して対峙できる……はず。ただ魔物は魔物なので、気を抜かずにいきたい。
「動きを止める感じで、粘着性の高い糸を頼む」
「シュ!」
芋虫は嫌そうに体を捩ったりしているけど、全く振り払えておらず、次第に動きが鈍くなっていった。こんなものかな? と、次の獲物を探す俺達。
近くにいるヒタキに、トドメを刺すのをお願いしておくのを忘れずに。
中央の激戦区には近寄らず、はぐれた魔物を狙い続ける。
するとスイが俺の肩に乗ってきて、残り体力が少ない魔物の存在を教えてくれた。
その魔物にはリグ特製の毒牙をプレゼント。
なんで俺のところに来たのか尋ねたら、双子の戦闘は安定して心配いらないから、とのこと。
2人はきちんと考えて職業を選んでるからな。リグ達も仲間になって、よりバランスの良いパーティになってきたってのもあるし?
妹達が褒められたら自分のことのように嬉しい。うん。
「ツグ兄ぃ、倒し終わったよー!」
スイと話しながら立ち回っていたら、ヒバリが鉄の剣を頭上に掲げ、ブンブン振り回し報告してくれる。危ないからそれはやめておこうか。
そう言えば、益虫というか、中立の魔物がいるのかスイに聞いてみた。
自然界では、害虫を食べたり受粉の手助けをしてくれたりする益虫がいるんだけど、ここではどうだろう?
スイがきょとんとするも、すぐに明るい表情になって楽しそうに笑う。そして一言――『母様の中にいる虫の魔物はすべからく害虫よ』と。
あ、はい。樹液を啜ったり木を削ったり、確かに木を傷める行為だからな。見つけ次第退治の方向で。
◆ ◆ ◆
大量の虫系魔物を倒した俺達は、次の獲物を求めて歩き出した。
小道に蔓延る虫系魔物を倒し、なにやら揉めている虫系魔物を見つけては漁夫の利を狙う。
スイに許可をもらい、世界樹の樹液のご相伴に与り、休憩することも忘れない。
「倒しても倒しても終わりそうにないね」
「ん、虫はいくらでも湧いてくる」
「お金がっぽがっぽだからいいけどね!」
「ん、おいしいクエスト」
虫系魔物はいくら倒してもワラワラと湧いてくるみたい。
俺達はそれなりにお金を稼げて、スイ達は害虫が少なくなって嬉しい。ええと、win‐winってやつだな。
迷宮に窓はなく、外の様子が分からないから、時間の感覚はないに等しい。でも俺にはゲームのウインドウがあるので、それを確認すれば問題なし。
ゲーム内の時間を見てみると、なんといつの間にか夜になっていた。
そのことを伝えると、スイ達が大きく欠伸をした。妖精はもう寝る時間らしい。
人間も妖精も睡眠は大事なので、眠そうにしているスイ達を連れ、俺達は来た道を引き返した。
行きがてら、敵を見つけたら即滅の心構えで戦っていたので、帰り道は呆気ないほどスムーズに進むことができた。20分程度でギルドへ到着。
クエスト報告をする前に、眠たそうな妖精達を帰してあげようと思ったんだけど……あまりにフラフラだ。
これはついていったほうがいいのか? あ、でも黒色のコクが夜に強いらしく、こんな事態に慣れているらしいので任せようと思う。
『ふぁぁぁ、妖精案内にんのかつようありがとぉ』
『ばいばいにんげん』
『またおかしくれてもいいぞ』
『たにょしはっらふぇすぅ』
『妖精の案内がまた必要でしたら、ギルドの受付にてお申し出ください。ほら、皆眠たいのは分かるけど寝床までは頑張って』
『うぇぇぇぇ』
スイ、チャ、アカ、ハク、コク、リョクを、ギルドの出入り口で見送る俺達。
妖精はNPCだから眠かったみたいだけど、リグ達ペットは、あまり眠気を感じていないようだ。まぁ、寝られるときにいつでも寝てるからってのもあるけど。
建物に入り、クエスト報告をするため、人っ子ひとりいない受付へ向かう。
どれくらい虫系魔物を倒したかというと、なんと329匹で、金額にして9万8700M。
オススメの狩り場を教えてもらったおかげで、効率が良かったんじゃないだろうか?
基本、勝てない相手に挑まないからな、俺達。安心第一。
クエスト報酬を受け取ったらギルドを出て、満天の星の下、どこの街にもある噴水広場へ。
出歩いている冒険者は片手で数えるほど。
雲がないから空が綺麗なんだな、とか考えていたら、ヒバリがモジモジしながら俺のことを見た。
なんだ? 討伐の追加か?
「ツグ兄ぃ、ログアウトするのまだいい?」
「別にいいけど、やりたいことでもあるのか?」
「ん、普段は無理そうなツリーハウスのお宿に泊まりたい」
「高いとこのもっと高いとこ!」
俺が問いかけると、ヒバリではなく、ヒタキが代わりに話してくれた。
確かにツリーハウスに泊まれるチャンスなんてほとんどない。
俺としても、少年の頃の冒険心が刺激されるというかなんというか……簡潔に言えば賛成。
決まってからの動きが速いのが我が家族なので、ヒタキに案内してもらい、すぐに部屋を確保する俺達。
ヒバリ達が見繕ってくれたのは、素泊まり限定の宿らしい。2~3人用の部屋が世界樹の太い枝の上に点在しており、本当に寝るだけの造りだった。
あ、もちろんリグ達も泊まれるから安心。
部屋に行くための梯子はしっかり作られていたので、ちょっとほっとした。縄とか縄梯子の類いだったら、登れない自信しかない。
ツリーハウスの中は爽やかな木の香りで満ちていて、ベッドではなく綿のたっぷり入った布団が置かれていた。
床に敷いてあるのは……世界樹の葉? 肉厚の葉はとてもフカフカで、この上でもよく眠れそうだ。
「えへへ、ちょっと狭いけどワクワクするねぇ!」
「あ、これサービスだって」
ヒバリが狭い部屋を楽しむ一方で、ヒタキが僅かなスペースに置かれた果物に気づく。
小さなメッセージカードが添えられていて、ヒタキの言ったとおり、サービスだと書いてあった。
「うひょ~! 新鮮果物! 美味しい! へへへ、お裾分け!」
「めぇめめっ」
瑞々しい果物を口に含んだヒバリが、パカッと口を開けて待つメイ達にも配っている。
果物を食べながら、眠る必要はあまりないので、少しお喋りすることにした。
世界樹は雪深い場所にあるのに果物が出てくるのは、妖精や精霊のおかげだとか、歓迎の意味があるとか。あと船や機関車のように、プレイヤーが交通機関に手を入れたから、とか。
ふと、今日後半の予定について気になって、ヒバリとヒタキのほうに顔を向けて尋ねる。
「今日は午後からもログインするけど、なにをするのか決まっているのか? また虫系魔物の退治か?」
「ん? ん~ん、ちゃんと考えてるよ! ひぃちゃんが!」
「それ、考えてるって言わないと思うなぁ」
ヒバリが胸を張ってキメ顔をしていたので、軽くデコピンしておいた。
楽しそうに肩を小刻みに揺らすヒタキに教えてもらうと、次の目的地は北の島らしい。
排他的な独立国家だけど、見習い天使ヒバリがいればなんの問題もなく入国できるとのこと。
「ここは試される大地。そして、広さが普通の何倍もある。島に行くにはめっちゃ移動するしかない」
「ええと確か、最北端の街に行かないと島への移動手段がないよ。けど、機関車が通ってるのはちょうど半分くらいまで。そこからは歩きか、別の手段しかなくて、一番オススメなのが犬ぞり!」
「ん、覚えてて偉い」
「えへへ」
きっちり決まっているならいいんだが、その褒め方は斬新だと思う。
ブドウのようなリンゴのような果物を一気に房から外し、ひとつリグの口に入れてはひとつメイの口に入れ、ひとつ小桜の、ひとつ小麦の……と繰り返しつつ、双子の話を聞く。
とりあえず、今日2回目のログインでなにをしたいのか分かった。
ヒバリとヒタキが行きたいと言うならば、お兄ちゃんはどこまでもついて行こう。移動するだけでも楽しいからな。
お喋りをしていたらあっという間に時間が過ぎ、出入り口や窓から見える空が白んできた。
朝になったら、数えるほどしかないけど、大通りのお店とか覗いてからログアウトしよう。
もしかしたら、ここでしか買えないものがあるかもしれない。
お喋りの途中で寝ていたリグ達を起こし、俺達はツリーハウスをあとにした。
「ちょっと買い食いしてみよう!」
「あんなに果物食べたのに買い食いなんて、じゅるっ」
「なんか良いものあるといいな」
早朝の中央広場はゆったりとした時間が流れており、のんびりしたい人にとっては最高の場所かもしれない。まぁ、ここに来るまでがとてつもなく大変ではあるけど。
俺達も周囲に合わせてまったりと歩きつつ、数えるほどしかない屋台や露天を覗き込む。下の聖域から買い付けているのか、品揃えは悪くない。
人通りは多くないので、俺の目の届く範囲にいれば好きにしていいと伝えて、ヒバリ達にお小遣いを握らせた。
すると、張り切った様子の双子はリグ以外を引き連れ、お目当ての屋台へ一直線に行ってしまう。あ、リグは俺のボディーガードだからな。
「このお肉とお野菜のセットください。あと……」
和やかな笑みを浮かべた店主と話しながら買い物をしていたら、必要以上に買ってしまった。
でも、『今のは妹さん? とっても可愛らしいわねぇ』とか言われたら、多少奮発してもしょうがないだろう。
それに、食材はたくさん買ってもすぐ消費されるし。ヒバリ達によってな。
◆ ◆ ◆
いろいろ買い込んでからヒバリ達の元へ向かうと、皆で楽しそうに買い食いしていた。
ヒバリが両手に持っていた食べ物をひとつ、俺に渡してくれたので、リグと分け合って食べる。
ええと、これは芽キャベツの串焼き? 甘塩っぱいタレがかかっていて、少し焦げたところが香ばしい。
「うん、野菜が甘くてうまい」
「シュッシュ~」
「あとは全部食べちゃって大丈夫だぞ」
「シュ! シュ~ッシュ」
感想
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