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10巻
10-3
「HPとMPも回復させたくないか? ほら、空も暗くなってきたし、宿屋で一泊した方が良いんじゃ」
「あら、そうですわねぇ。ええと……」
ヒバリ達に言い聞かせるよう大きめの声で話し、空や大通りを指し示すと、ミィが頷き視線をウロウロさせた。
ヒバリはメイ達を愛でることに夢中で、頼れるのはやっぱりヒタキ先生。
ヒタキが選んでくれた宿は、料理が美味しくて、いっぱい食べられるところ、とのこと。
どうやらポンドステーキも真っ青な、特盛りステーキを出してくれるらしいぞ。
ジャガイモと甘く煮たニンジン、コーンもたっぷり付け合わせで出てくるとかなんとか。
いっぱいたっぷり食べるヒバリ達が満足出来そうなので、なるほど納得。
「じゃあ行こう! 目指すはお肉だぁ~!」
「「にゃんにゃ~ん」」
宿屋は大通りに面しており、冒険者やら食事を食べに来た人達で、食堂は大盛況。
部屋はすぐに取ることができ、鍵を受け取ってから食堂へ。
他の客が肉を食べたりお酒を飲んだりと騒いでいるので、空いている場所を見つけるのも一苦労だ。
すると、俺達が席を探していることに気づいた冒険者達が大雑把に皿を退け、場所を空けてくれたので、お礼を言ってから着席する。
メニューなんてあって無いようなもので、肉! 酒! おかわり! で通じている。
ステーキセット、ジュース、お酒、水があるらしい。周りの人に教えてもらった。
ステーキセットを4つ、ジュースを8つ頼むと、事前に用意されていたかのような手際の良さで、すぐテーブルに並ぶ。
熱々な湯気を立てている肉の塊にヒバリ達は目を奪われ、俺はちょっと遠い目をしながら自身のジュースをひと口。
ん? これはミカンジュースか。
「んん~、おいひぃ~!」
「えぇ、肉汁が骨身に沁み渡りますわ」
「ん、これには野菜好きなヒタキさんもニッコリ」
「とにかく肉! って感じがたまらなぁ~い!」
ヒバリが熱々ステーキを大きめに切り分け、冷ますのもそこそこにパクリとひと口。目を輝かせたかと思うと、ステーキを切り小麦の口の中へ。
ミィもヒタキもステーキを食べてから頷き、ヒバリと同じようにメイと小桜にも食べさせている。
俺もリグにステーキを食べさせる。
リグが前脚を器用に動かして喜んでいる姿を見つつ、俺もひと口。
塩コショウでしっかりと味付けされているし、ニンニクや香草も使っているな。ソースは焦がしバター醤油風味。
最近、R&Mの料理が美味しくなったと思う。やっぱり料理ギルドのおかげなんだろうか。
「とても美味しく食べておりますが、リアルだったらこんなに食べられないですわよね」
「ん、現実なら3人でひとつを食べられるくらい。いっぱい食べられて最高」
とてもじゃないけど、妹達が1人で食べ切れる量ではない。俺でも厳しい量かもしれないな。
だけど余裕で食べ終えた俺達は、入店時と同じように少しばかり苦労して移動し、受付の横を通り抜け、部屋を探した。
「……1、2、3、飛ばして5、ええと6だからここか」
鍵に刻まれている数字は6なので、手前から5番目が俺達の部屋。
昔から4は死を連想させるとか言われ、使われることはほとんど無いとか。
この宿屋は冒険者を相手にもしているから、余計に気を使ってるかも。諸説ありってことで。
部屋の中は特徴もなく、ゆっくり眠ることが出来れば御の字といった感じ。
ヒバリ達は装備をインベントリへしまって、ベッドに腰掛けた。
俺もコートを枕元に置き、その上にリグを乗せる。
リグは、ステーキを食べていたときは元気だったけど、食べ終わったらウトウト舟を漕いでいたからな。
そしてベッドに腰掛け、楽しそうな妹達の会話を聞きながら、ブーツとにゃんこ太刀をしまい横になった。
メイ、小桜、小麦は、3人と寝るから良いとして、寝過ごさないようにタイマーをかけておこう。
ええと明かりは……あぁ、枕元近くのスイッチで大丈夫そうだ。
「よし、俺とリグは寝るし、電気も消す。会話してても良いからな」
「シュシュシュシュ~」
会話が弾んでいるヒバリ達に一方的に告げ、枕元近くのスイッチを押して俺は目を閉じた。
HPMP回復のために宿屋へ来たから放って置いても大丈夫だ、と思いたい。
◆ ◆ ◆
アラームが鳴る。
何度経験しても、一瞬で時間が過ぎてしまう感覚に慣れない。
気にしたら負けの精神でアラームを止め、ムクリと起き上がれば、まだヒバリ達は寝ていた。
いつまで起きていたのかはしらないけど、HPとMPは回復しているから、規定の時間はキッチリ寝たらしい。
「……いつ頃起きたいとか言ってたかな」
これは聞いてなかったな。
コレは俺のミスだ、反省しておこう。
隣に寝ているヒタキを起こすと、「もう大丈夫」の一言が返ってきて、ヒバリとミィも起こしていく。
装備を整えてから受付に鍵を返し、朝食を食べて宿屋をあとにする。朝からステーキ、なんてことは無かったのでホッとした。
宿屋を出た俺達が向かったのは、もちろん噴水広場。
今日の予定は子供職場体験。予約はいらないとか、受付時間は朝の9時からとか、3時間かかるとか。
ほとんど観光になりそうだなぁ、って思ったのは内緒。
「ゆっくり歩きながら、もしくは買い食いしながら行くと、ちょうどいい具合の時間に着きそうだね!」
インベントリを開いて、ゲーム内時間を見ていたヒバリが元気良く話しだし、俺は少し考えてから彼女に問う。
「……買い食いしたいだけじゃないのか?」
「そっそそそっそそそんなことないよぉー、ほんとほんと」
すると図星だったのか「えへへ」とはにかんだ笑みを浮かべるヒバリ。
ヒタキとミィはそんなヒバリを見てほっこりしていた。
受付に、9時までに行く必要はないからな。ゆっくり行こう。
ええと、目的の場所は騎士団の詰め所らしく、大通りから城へ向かう中ほどの建物……だな。
灰色の石材で出来た詰め所は大きく、屋根が青く、周りの建物より目立っている。
警察署などの役割もあるから、目立ってなんぼ、ってやつかもしれない。多分だけど。
屈強な騎士達が行き来する詰め所を恐る恐る覗けば、中は意外にも清潔な雰囲気で、大きな窓から光が取り入れられとても明るい。
こっそり覗き込んだ俺達だったが、すぐさま気付かれ、柔らかな笑みを浮かべた事務職の人に中へ誘われた。
ホテルのラウンジみたいなところだろうか?
間違っていたら恥ずかしいので口には出さないけども。
『本日のご用件は職業体験の件でしょうか?』
片眼鏡の似合う、穏やかな青年は慣れた様子で俺達に問うた。ヒバリが元気な声で返事をすると、より笑みを深める。
青年は手慣れた様子で簡単な説明を始め、説明が終わると4つの襷を渡してきた。
太めの襷には【騎士団体験中】と書かれてある。
ヒバリ達の真似をして、俺も肩にかけた。
ちなみに当たり前だけど、リグ達の襷は無い。ちょっと見てみたかった気もする。可愛いだろうし。
見回りの引率は、事務の青年ではなく俺より少し若い騎士だった。彼は職業体験を通じ、憧れて騎士団に入ったらしい。
騎士とは言っても全身鎧ではなく、ハーフプレート姿で、腰には大きめの革袋とロングソードを提げていた。
職業体験の世話は新人騎士の仕事だ。
週1回は誰かしらが体験しに来るから、『もうほぼプロです。自分に任せてください!』と胸を叩いて……噎せていた。ヒバリと似た雰囲気がする人だな。
『自分は騎士団に所属して2年目ですが、30回は随行しておりますのでご安心ください。今日はアインド騎士団の一員として、住民の皆さんの安全を見守りに行きましょう!』
「はぁ~い!」
多少演技染みた口調ではあるものの、ヒバリもノリノリだ。
周囲の人も慣れているのか、『頑張れよ』なんて言葉をかけてくれたりもして、準備の終わった俺達は詰め所から出てゆっくり歩き出す。
『見回りは、まず南門まで行き、そこから左回りに巡回します。冒険者の方達がいる大通りはもちろん、住民の方達が生活に使う道も見て回ります。お昼の鐘が鳴ったら、見回りの途中でも詰め所へ戻って解散となります』
若い騎士は年下のヒバリ達相手でも丁寧な対応をしてくれ、とても俺の中で好印象フェスティバル開催中だ。
「分かりましたわ。では張り切って参りましょう!」
「ん、世界の平和は私達が守る」
ミィが握り拳で気合いを入れる姿にほっこりした俺だったが、ヒタキの壮大な見回り計画に、一瞬で表情がスンッとなってしまう。これは仕方ない。
南門に行く途中も、見回りは見慣れた光景なのか、住民から『お勤め頑張れよ』などと声援をもらった。
ヒバリ達はもちろんのこと、リグ達も声援を受けて、若干キリッとした表情をしているような、いないような。
南門から、俺達の見回りが本格的に開始だ。
大通りの3分の1程度の幅しかない狭い通りへ、騎士が歩いて行く。
そう言えば、俺達が聞かないとNPCの人は名乗らないから、ちょっと不便かもしれないなぁ。
ヒタキ先生が言うには、少しでもゲームに違和感が無いと、のめり込む人が増える……らしい。
確かに、かなりの魅力を持っているゲームだから仕方ない。
俺は妹達を思い、心を鬼にして時間制限を設けるけどな。
「皆に話しかけたり、周囲に視線を向けたり。私達もいるのに、もしや気配り大臣なのでは?」
「ん、地域密着型騎士様なのかもしれない」
「ふぁぁ騎士様大臣しゅごい……」
手慣れた様子で見回りをする青年騎士を、じっくり見たヒバリとヒタキが顔を見合わせる。コソコソ話しているつもりなんだろうけど、聞こえてたら意味ないから。
楽しそうに笑う青年騎士に少しだけ頭を下げ、俺は比較的大人しめのミィと顔を見合わせ、小さく頷き合った。
「ツグ兄様、楽しいので放っておきましょう!」
「えぇー、それはちょっと」
あ、たった今ミィと通じ合えたと思ったのは間違いだった。
いつものことのような気もするけど、3人まとめて隅の方で、コソッと大事なお話をしておく。
保護者としての義務ってやつだな。ダメなことは注意しないと。
リグ達も「なになにー?」って感じで来てくれたので、撫でることをお忘れなく。今唯一の癒やし。
見回りをしていると、お爺ちゃんお婆ちゃんからお菓子をもらったり、筋骨隆々の人が汗だくで何かを運んでいるのをお手伝いしたり。
前者は、見回り体験では必ずもらえる恒例だそう。
後者は、「んっしょ」と可愛らしくも軽やかなかけ声と共に、ミィが片手間にやってくれました。
これには青年騎士も苦笑い。だよなぁ。
見回りも中盤に差し掛かり、青年騎士の『アインドという名前は~』と、十八番になっているであろう蘊蓄を聞きながら、大通りへ向かう。
すると後ろの方がなんだか騒がしく、皆でなんだなんだと振り返った。
「ん? んん?」
ずっと奥に転んだご婦人がおり、俺達の方へ、必死の形相で走ってくる男。
言わずもがなひったくりだ。
青年騎士を見て一瞬速度を緩めたひったくり犯だったが、ヒバリ達や俺を見て行けると思ったのか、再度力強く走ってきた。
思い切りが良いというかなんというか。ちょっと呆れてしまうなぁ。
血の気の多いヒバリ達を青年騎士に抑えてもらいつつ、俺は頭上に乗っているリグに頼んで、ひったくり犯へ投網の要領で糸を吐いてもらう。
これなら危なくない、はず。
ちなみに、ゴーレムも引きちぎれず俺が空を舞ったほどの強度だから……あぁいや、これはやぶ蛇だ。恥ずかしいから忘れたいんだった。
リグの吐いた糸によって、ひったくり犯は雁字搦めになり、石畳を走ってきた勢いで数メートル滑る。
『……あ、かっ、確保します!』
陸に打ち上げられた魚のように暴れる、生きの良いひったくり犯を少し眺めた後、青年騎士は腰の革袋からロープを取り出して手際よく縛っていった。
そしてもう一度腰の革袋を探り、手のひらよりも小さいなにかを押している。
これは招集用の魔法道具で、近くにいる騎士の人達が来てくれるらしい。
そう説明を受けている間にもワラワラと騎士が集まり、あっという間に事後処理なども終わってしまった。
特に体験見回りをしている時に、ひったくり犯が出てくるらしく、楽で良いとは青年騎士の談。
子供達に格好いいところを見せたいんだろう。多分だけどな。
◆ ◆ ◆
ひったくり犯を捕まえた俺達は見回りを続行し、周囲の人の温かさに驚かされつつ、半周ほどでお昼の鐘が鳴りタイムアップ。ちょっと街の人と話し込む時間が多すぎたかも。
騎士団の詰め所に帰ってきた俺達は、多くの人に出迎えられた。
恥ずかしいけど、ヒバリ達が喜んでいるからまぁ良いか。
「とても有意義な見回りでしたわ。ありがとうございます」
「めめっめぇ」
ミィが青年騎士に話しかけると、足元にいたメイもピョンピョン飛び跳ねた。
周りの空気がほんわかしたものに変化する。
可愛いからな、メイの一挙一動。分かる。分かるぞその気持ち。
肩にかけている襷を外し、俺達の対応をしてくれた事務職の青年に手渡す。
全員でもう一度お礼を述べようと口を開きかけると、とても良い笑顔の青年騎士が、『良かったらお昼ご飯を食堂で食べませんか?』と元気良く言ってきた。
リグ達も含め、全員が嬉しそうな表情を浮かべたので、青年騎士に案内され食堂へ。
お昼を少し過ぎた時間。
大量の飲食物が消費されていく様を見るのは、作り手として心地よい。
このゲームを始めてよく見る光景な気もするけどさ。
青年騎士は空いた場所に俺達を案内し、一番人気を持ってくると言い、行ってしまった。
彼が持ってきたのは、肉と野菜がゴロッと入ったシチューの大皿と、麦の大きなパン? かな。
『自分も食べてないので一緒に食べますね』
俺も手伝って、皆の分を並べ、ペット達を各々の膝の上に乗せて、手を合わせいただきます。
シチューは大きめにぶつ切りされたであろう肉と野菜が存在を主張し、麦の味がしっかりしているパンに付けて食べると美味しい。
昼食を終えるまで青年騎士と話していたんだけど、社会見学に冒険者をやっている兄妹なのかって聞かれた。『よく貴族の子息がやってます』と。
いやいや、ううん、なんて応じたらいいんだろう。
言い方を考えていたら、わりとどうでも良くなってきた。
頷いておけば良いか。気にしたら負けということで。
「今日は本当にありがとうございました」
『またいつでもいらっしゃってください』
楽しくて美味しい昼食も終わり、俺達は青年騎士達に別れの言葉を告げ、騎士団の詰め所を後にした。
諸々が終わったけれど、お昼を結構過ぎた時間なので、中途半端かも。
なにやら悩んでいる様子のヒバリ達がいたから、とりあえずいつもの噴水広場へ行くことにした。
「なに悩んでんだ?」
「あっ、あのね! まだ時間あるから、もう1回魔物退治行きたいなって!」
ポソポソッと話し合っているヒバリ達に問いかけると、意を決したように言い出したのは一狩り行こうぜ! のお誘いだった。
理由は、最近攻撃力に物を言わせた戦闘が多くなってきて、たまには頭をフル活用した戦闘をしてみようって考えたらしい。
確かに、脳みそ筋肉の名をほしいままにしていた気もするからな。
よく考えたら時間もあるはずだし、頭をフル活用した戦闘を見せてもらおう。
ターゲットは、俺達がよく倒しているゴブリン。
ゴブリンならどのギルドでも討伐依頼があって、集落討伐なんてのもあるらしい。
新人冒険者が挑んで逆に倒されてしまう話も、わりと良く聞くとかなんとか。
そうと決まればすぐにギルドへ行き、近場の集落討伐の依頼を引き受ける。
暗くなるまでには帰りたいので颯爽と都市の門をくぐり、ヒタキ先導のもとでゴブリンの集落まで歩く。ゴブリンは洞窟の中に棲んでいるらしい。
ゴブリンの集落は舗装路から外れて森の中へ入り、約15分くらい歩いたところにある洞窟内とのこと。
入り口が見える草の陰からコッソリ覗きつつ、ヒバリとミィが囁き声で話す。
「あら、そうですわねぇ。ええと……」
ヒバリ達に言い聞かせるよう大きめの声で話し、空や大通りを指し示すと、ミィが頷き視線をウロウロさせた。
ヒバリはメイ達を愛でることに夢中で、頼れるのはやっぱりヒタキ先生。
ヒタキが選んでくれた宿は、料理が美味しくて、いっぱい食べられるところ、とのこと。
どうやらポンドステーキも真っ青な、特盛りステーキを出してくれるらしいぞ。
ジャガイモと甘く煮たニンジン、コーンもたっぷり付け合わせで出てくるとかなんとか。
いっぱいたっぷり食べるヒバリ達が満足出来そうなので、なるほど納得。
「じゃあ行こう! 目指すはお肉だぁ~!」
「「にゃんにゃ~ん」」
宿屋は大通りに面しており、冒険者やら食事を食べに来た人達で、食堂は大盛況。
部屋はすぐに取ることができ、鍵を受け取ってから食堂へ。
他の客が肉を食べたりお酒を飲んだりと騒いでいるので、空いている場所を見つけるのも一苦労だ。
すると、俺達が席を探していることに気づいた冒険者達が大雑把に皿を退け、場所を空けてくれたので、お礼を言ってから着席する。
メニューなんてあって無いようなもので、肉! 酒! おかわり! で通じている。
ステーキセット、ジュース、お酒、水があるらしい。周りの人に教えてもらった。
ステーキセットを4つ、ジュースを8つ頼むと、事前に用意されていたかのような手際の良さで、すぐテーブルに並ぶ。
熱々な湯気を立てている肉の塊にヒバリ達は目を奪われ、俺はちょっと遠い目をしながら自身のジュースをひと口。
ん? これはミカンジュースか。
「んん~、おいひぃ~!」
「えぇ、肉汁が骨身に沁み渡りますわ」
「ん、これには野菜好きなヒタキさんもニッコリ」
「とにかく肉! って感じがたまらなぁ~い!」
ヒバリが熱々ステーキを大きめに切り分け、冷ますのもそこそこにパクリとひと口。目を輝かせたかと思うと、ステーキを切り小麦の口の中へ。
ミィもヒタキもステーキを食べてから頷き、ヒバリと同じようにメイと小桜にも食べさせている。
俺もリグにステーキを食べさせる。
リグが前脚を器用に動かして喜んでいる姿を見つつ、俺もひと口。
塩コショウでしっかりと味付けされているし、ニンニクや香草も使っているな。ソースは焦がしバター醤油風味。
最近、R&Mの料理が美味しくなったと思う。やっぱり料理ギルドのおかげなんだろうか。
「とても美味しく食べておりますが、リアルだったらこんなに食べられないですわよね」
「ん、現実なら3人でひとつを食べられるくらい。いっぱい食べられて最高」
とてもじゃないけど、妹達が1人で食べ切れる量ではない。俺でも厳しい量かもしれないな。
だけど余裕で食べ終えた俺達は、入店時と同じように少しばかり苦労して移動し、受付の横を通り抜け、部屋を探した。
「……1、2、3、飛ばして5、ええと6だからここか」
鍵に刻まれている数字は6なので、手前から5番目が俺達の部屋。
昔から4は死を連想させるとか言われ、使われることはほとんど無いとか。
この宿屋は冒険者を相手にもしているから、余計に気を使ってるかも。諸説ありってことで。
部屋の中は特徴もなく、ゆっくり眠ることが出来れば御の字といった感じ。
ヒバリ達は装備をインベントリへしまって、ベッドに腰掛けた。
俺もコートを枕元に置き、その上にリグを乗せる。
リグは、ステーキを食べていたときは元気だったけど、食べ終わったらウトウト舟を漕いでいたからな。
そしてベッドに腰掛け、楽しそうな妹達の会話を聞きながら、ブーツとにゃんこ太刀をしまい横になった。
メイ、小桜、小麦は、3人と寝るから良いとして、寝過ごさないようにタイマーをかけておこう。
ええと明かりは……あぁ、枕元近くのスイッチで大丈夫そうだ。
「よし、俺とリグは寝るし、電気も消す。会話してても良いからな」
「シュシュシュシュ~」
会話が弾んでいるヒバリ達に一方的に告げ、枕元近くのスイッチを押して俺は目を閉じた。
HPMP回復のために宿屋へ来たから放って置いても大丈夫だ、と思いたい。
◆ ◆ ◆
アラームが鳴る。
何度経験しても、一瞬で時間が過ぎてしまう感覚に慣れない。
気にしたら負けの精神でアラームを止め、ムクリと起き上がれば、まだヒバリ達は寝ていた。
いつまで起きていたのかはしらないけど、HPとMPは回復しているから、規定の時間はキッチリ寝たらしい。
「……いつ頃起きたいとか言ってたかな」
これは聞いてなかったな。
コレは俺のミスだ、反省しておこう。
隣に寝ているヒタキを起こすと、「もう大丈夫」の一言が返ってきて、ヒバリとミィも起こしていく。
装備を整えてから受付に鍵を返し、朝食を食べて宿屋をあとにする。朝からステーキ、なんてことは無かったのでホッとした。
宿屋を出た俺達が向かったのは、もちろん噴水広場。
今日の予定は子供職場体験。予約はいらないとか、受付時間は朝の9時からとか、3時間かかるとか。
ほとんど観光になりそうだなぁ、って思ったのは内緒。
「ゆっくり歩きながら、もしくは買い食いしながら行くと、ちょうどいい具合の時間に着きそうだね!」
インベントリを開いて、ゲーム内時間を見ていたヒバリが元気良く話しだし、俺は少し考えてから彼女に問う。
「……買い食いしたいだけじゃないのか?」
「そっそそそっそそそんなことないよぉー、ほんとほんと」
すると図星だったのか「えへへ」とはにかんだ笑みを浮かべるヒバリ。
ヒタキとミィはそんなヒバリを見てほっこりしていた。
受付に、9時までに行く必要はないからな。ゆっくり行こう。
ええと、目的の場所は騎士団の詰め所らしく、大通りから城へ向かう中ほどの建物……だな。
灰色の石材で出来た詰め所は大きく、屋根が青く、周りの建物より目立っている。
警察署などの役割もあるから、目立ってなんぼ、ってやつかもしれない。多分だけど。
屈強な騎士達が行き来する詰め所を恐る恐る覗けば、中は意外にも清潔な雰囲気で、大きな窓から光が取り入れられとても明るい。
こっそり覗き込んだ俺達だったが、すぐさま気付かれ、柔らかな笑みを浮かべた事務職の人に中へ誘われた。
ホテルのラウンジみたいなところだろうか?
間違っていたら恥ずかしいので口には出さないけども。
『本日のご用件は職業体験の件でしょうか?』
片眼鏡の似合う、穏やかな青年は慣れた様子で俺達に問うた。ヒバリが元気な声で返事をすると、より笑みを深める。
青年は手慣れた様子で簡単な説明を始め、説明が終わると4つの襷を渡してきた。
太めの襷には【騎士団体験中】と書かれてある。
ヒバリ達の真似をして、俺も肩にかけた。
ちなみに当たり前だけど、リグ達の襷は無い。ちょっと見てみたかった気もする。可愛いだろうし。
見回りの引率は、事務の青年ではなく俺より少し若い騎士だった。彼は職業体験を通じ、憧れて騎士団に入ったらしい。
騎士とは言っても全身鎧ではなく、ハーフプレート姿で、腰には大きめの革袋とロングソードを提げていた。
職業体験の世話は新人騎士の仕事だ。
週1回は誰かしらが体験しに来るから、『もうほぼプロです。自分に任せてください!』と胸を叩いて……噎せていた。ヒバリと似た雰囲気がする人だな。
『自分は騎士団に所属して2年目ですが、30回は随行しておりますのでご安心ください。今日はアインド騎士団の一員として、住民の皆さんの安全を見守りに行きましょう!』
「はぁ~い!」
多少演技染みた口調ではあるものの、ヒバリもノリノリだ。
周囲の人も慣れているのか、『頑張れよ』なんて言葉をかけてくれたりもして、準備の終わった俺達は詰め所から出てゆっくり歩き出す。
『見回りは、まず南門まで行き、そこから左回りに巡回します。冒険者の方達がいる大通りはもちろん、住民の方達が生活に使う道も見て回ります。お昼の鐘が鳴ったら、見回りの途中でも詰め所へ戻って解散となります』
若い騎士は年下のヒバリ達相手でも丁寧な対応をしてくれ、とても俺の中で好印象フェスティバル開催中だ。
「分かりましたわ。では張り切って参りましょう!」
「ん、世界の平和は私達が守る」
ミィが握り拳で気合いを入れる姿にほっこりした俺だったが、ヒタキの壮大な見回り計画に、一瞬で表情がスンッとなってしまう。これは仕方ない。
南門に行く途中も、見回りは見慣れた光景なのか、住民から『お勤め頑張れよ』などと声援をもらった。
ヒバリ達はもちろんのこと、リグ達も声援を受けて、若干キリッとした表情をしているような、いないような。
南門から、俺達の見回りが本格的に開始だ。
大通りの3分の1程度の幅しかない狭い通りへ、騎士が歩いて行く。
そう言えば、俺達が聞かないとNPCの人は名乗らないから、ちょっと不便かもしれないなぁ。
ヒタキ先生が言うには、少しでもゲームに違和感が無いと、のめり込む人が増える……らしい。
確かに、かなりの魅力を持っているゲームだから仕方ない。
俺は妹達を思い、心を鬼にして時間制限を設けるけどな。
「皆に話しかけたり、周囲に視線を向けたり。私達もいるのに、もしや気配り大臣なのでは?」
「ん、地域密着型騎士様なのかもしれない」
「ふぁぁ騎士様大臣しゅごい……」
手慣れた様子で見回りをする青年騎士を、じっくり見たヒバリとヒタキが顔を見合わせる。コソコソ話しているつもりなんだろうけど、聞こえてたら意味ないから。
楽しそうに笑う青年騎士に少しだけ頭を下げ、俺は比較的大人しめのミィと顔を見合わせ、小さく頷き合った。
「ツグ兄様、楽しいので放っておきましょう!」
「えぇー、それはちょっと」
あ、たった今ミィと通じ合えたと思ったのは間違いだった。
いつものことのような気もするけど、3人まとめて隅の方で、コソッと大事なお話をしておく。
保護者としての義務ってやつだな。ダメなことは注意しないと。
リグ達も「なになにー?」って感じで来てくれたので、撫でることをお忘れなく。今唯一の癒やし。
見回りをしていると、お爺ちゃんお婆ちゃんからお菓子をもらったり、筋骨隆々の人が汗だくで何かを運んでいるのをお手伝いしたり。
前者は、見回り体験では必ずもらえる恒例だそう。
後者は、「んっしょ」と可愛らしくも軽やかなかけ声と共に、ミィが片手間にやってくれました。
これには青年騎士も苦笑い。だよなぁ。
見回りも中盤に差し掛かり、青年騎士の『アインドという名前は~』と、十八番になっているであろう蘊蓄を聞きながら、大通りへ向かう。
すると後ろの方がなんだか騒がしく、皆でなんだなんだと振り返った。
「ん? んん?」
ずっと奥に転んだご婦人がおり、俺達の方へ、必死の形相で走ってくる男。
言わずもがなひったくりだ。
青年騎士を見て一瞬速度を緩めたひったくり犯だったが、ヒバリ達や俺を見て行けると思ったのか、再度力強く走ってきた。
思い切りが良いというかなんというか。ちょっと呆れてしまうなぁ。
血の気の多いヒバリ達を青年騎士に抑えてもらいつつ、俺は頭上に乗っているリグに頼んで、ひったくり犯へ投網の要領で糸を吐いてもらう。
これなら危なくない、はず。
ちなみに、ゴーレムも引きちぎれず俺が空を舞ったほどの強度だから……あぁいや、これはやぶ蛇だ。恥ずかしいから忘れたいんだった。
リグの吐いた糸によって、ひったくり犯は雁字搦めになり、石畳を走ってきた勢いで数メートル滑る。
『……あ、かっ、確保します!』
陸に打ち上げられた魚のように暴れる、生きの良いひったくり犯を少し眺めた後、青年騎士は腰の革袋からロープを取り出して手際よく縛っていった。
そしてもう一度腰の革袋を探り、手のひらよりも小さいなにかを押している。
これは招集用の魔法道具で、近くにいる騎士の人達が来てくれるらしい。
そう説明を受けている間にもワラワラと騎士が集まり、あっという間に事後処理なども終わってしまった。
特に体験見回りをしている時に、ひったくり犯が出てくるらしく、楽で良いとは青年騎士の談。
子供達に格好いいところを見せたいんだろう。多分だけどな。
◆ ◆ ◆
ひったくり犯を捕まえた俺達は見回りを続行し、周囲の人の温かさに驚かされつつ、半周ほどでお昼の鐘が鳴りタイムアップ。ちょっと街の人と話し込む時間が多すぎたかも。
騎士団の詰め所に帰ってきた俺達は、多くの人に出迎えられた。
恥ずかしいけど、ヒバリ達が喜んでいるからまぁ良いか。
「とても有意義な見回りでしたわ。ありがとうございます」
「めめっめぇ」
ミィが青年騎士に話しかけると、足元にいたメイもピョンピョン飛び跳ねた。
周りの空気がほんわかしたものに変化する。
可愛いからな、メイの一挙一動。分かる。分かるぞその気持ち。
肩にかけている襷を外し、俺達の対応をしてくれた事務職の青年に手渡す。
全員でもう一度お礼を述べようと口を開きかけると、とても良い笑顔の青年騎士が、『良かったらお昼ご飯を食堂で食べませんか?』と元気良く言ってきた。
リグ達も含め、全員が嬉しそうな表情を浮かべたので、青年騎士に案内され食堂へ。
お昼を少し過ぎた時間。
大量の飲食物が消費されていく様を見るのは、作り手として心地よい。
このゲームを始めてよく見る光景な気もするけどさ。
青年騎士は空いた場所に俺達を案内し、一番人気を持ってくると言い、行ってしまった。
彼が持ってきたのは、肉と野菜がゴロッと入ったシチューの大皿と、麦の大きなパン? かな。
『自分も食べてないので一緒に食べますね』
俺も手伝って、皆の分を並べ、ペット達を各々の膝の上に乗せて、手を合わせいただきます。
シチューは大きめにぶつ切りされたであろう肉と野菜が存在を主張し、麦の味がしっかりしているパンに付けて食べると美味しい。
昼食を終えるまで青年騎士と話していたんだけど、社会見学に冒険者をやっている兄妹なのかって聞かれた。『よく貴族の子息がやってます』と。
いやいや、ううん、なんて応じたらいいんだろう。
言い方を考えていたら、わりとどうでも良くなってきた。
頷いておけば良いか。気にしたら負けということで。
「今日は本当にありがとうございました」
『またいつでもいらっしゃってください』
楽しくて美味しい昼食も終わり、俺達は青年騎士達に別れの言葉を告げ、騎士団の詰め所を後にした。
諸々が終わったけれど、お昼を結構過ぎた時間なので、中途半端かも。
なにやら悩んでいる様子のヒバリ達がいたから、とりあえずいつもの噴水広場へ行くことにした。
「なに悩んでんだ?」
「あっ、あのね! まだ時間あるから、もう1回魔物退治行きたいなって!」
ポソポソッと話し合っているヒバリ達に問いかけると、意を決したように言い出したのは一狩り行こうぜ! のお誘いだった。
理由は、最近攻撃力に物を言わせた戦闘が多くなってきて、たまには頭をフル活用した戦闘をしてみようって考えたらしい。
確かに、脳みそ筋肉の名をほしいままにしていた気もするからな。
よく考えたら時間もあるはずだし、頭をフル活用した戦闘を見せてもらおう。
ターゲットは、俺達がよく倒しているゴブリン。
ゴブリンならどのギルドでも討伐依頼があって、集落討伐なんてのもあるらしい。
新人冒険者が挑んで逆に倒されてしまう話も、わりと良く聞くとかなんとか。
そうと決まればすぐにギルドへ行き、近場の集落討伐の依頼を引き受ける。
暗くなるまでには帰りたいので颯爽と都市の門をくぐり、ヒタキ先導のもとでゴブリンの集落まで歩く。ゴブリンは洞窟の中に棲んでいるらしい。
ゴブリンの集落は舗装路から外れて森の中へ入り、約15分くらい歩いたところにある洞窟内とのこと。
入り口が見える草の陰からコッソリ覗きつつ、ヒバリとミィが囁き声で話す。
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