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6巻
6-3
「ヒバリが耐えられないと総崩れになるもんな。まずは防具の強化が先決か」
「ん、そういうこと」
俺も以前に聞いて了解していたので、同じポーズを返した。しかしそこで、聞き慣れない言葉が出てきたことにふと気づき、首を捻る。
「……って、魔法石の欠片? 魔力を帯びた宝石? それ、初めて聞くよな? 普通の宝石は分かるけど」
「あ、渡すの忘れてた!」
ヒバリが慌ててこちらを向いた。
別に怒っているわけじゃないんだし、その口に詰め込まれた食べ物を、よく噛んで呑み込んでから話しなさい、と諭しておく。慌てるのはよくないぞ。
ゆっくりもぐもぐし始めたヒバリは、隣で食べているリグ達と共にいったん放置して、俺はヒタキから例の物を受け取った。
【魔法石の欠片】
名前のとおり魔法石の欠片。魔力を有してはいるが、ないよりマシな程度。少しだけ魔力を足す場合に重宝する。
【魔力を帯びた宝石】
魔力の濃い場所に長時間置かれていた宝石。使い道は魔法石より限定されるが、魔術の触媒などに使われる。保有魔力は10~30。
……俺の錬金で使えそうな気もする。はっきり断言できないのは、俺があまり錬金のレシピを調べていないからだ。反省しなきゃな。
まぁ多分役に立つと思うので売らないでおこう。尚、金欠時は売却予定。
「よし、もういっちょ掘り掘りしますかね!」
「めめっめめぇめっ!」
最後のクッキーを食べ終えたヒバリが勢いよく立ち上がると、メイもそれに続いた。
ヒタキは小桜と小麦を撫でつつ言う。
「小桜、小麦。暇かもしれないけど、またお願い」
2匹はゆったり起き上がり、先ほどと同じ場所に移動した。
地面が土や岩だから冷たくないかなと、今さらながら心配してしまう。あとで可愛がってやろう。
「めぇめっめめっ!」
これまでとはまた異なる壁の前に立ったメイが、元気な声を上げ大鉄槌を振り下ろす。
スピードがない代わりに攻撃力は凄まじく、見慣れている俺でも思わず凝視してしまう。頑張れメイ。
それから2時間以上作業に没頭し、魔法石採掘はかなりの成果を挙げた。
合計で手に入れた魔法石は17個。
魔物を倒すより効率が良く、ヒタキ先生も満足そうだった。ホクホクした表情を浮かべてメイを撫でながら、感謝を伝える。
「これで、ヒバリちゃんの防御が固くなる。メイのおかげ、ありがとう」
「めめっめめめぇめ」
メイは照れたように、小さな尻尾をブンブン振った。
その様子に、俺もヒバリもとても癒されたのだった。
ずっと待っていてくれた小桜と小麦の労を労い、ダンジョンの入り口へと引き返す。
道に迷うこともなく無事にギルドへ帰ってくることができたので、シルバーの腕輪を返却するため受付に向かった。
入場時に対応してくれたお姉さんの姿が見えずヒバリは少々しょげていたが、仕方ないと空いている列に並んだ。
『こんにちは、冒険者の方々。今日はどのようなご用件でしょうか?』
受付の人にもそれぞれ個性があるようで、柔和な人から敬語を使わない人、完全に田舎のおばちゃん口調な人まで様々だ。
そんなことを考えていたら、俺の番になったのに返事がワンテンポ遅れてしまった。
何気なく腕輪を返して誤魔化す。ボーッとしていたらダメだな。
採掘したものはとりあえず売らないので、腕輪の返却が終わったら、俺達はいったん噴水広場のベンチへ移動した。
考え事をするならやっぱりここだよな。
まだまだ時間もあるし、さてどうしようか。
「残り時間はあんまりないし、ツグ兄ぃが料理するに1票かな。手持ちも少なくなってきたみたいだから」
「ん、一番いいのはそれだよね」
俺が考えるまでもなく、ヒバリとヒタキがすぐに決めてくれた。
とはいえ俺も料理かな……と思っていたので、妹達が同じ意見だったことに嬉しい気持ちでいっぱいだ。
そうと決まれば、ささっと立ち上がって作業場へ向かう。
中途半端な時間だからか、作業場の共同スペースにはほとんど人がいなかった。まぁ俺達は個室に行くので、共同スペースが空いていても意味はないんだけど。
2階の個室に入ると、まずは備え付けのテーブルを囲んで椅子に座る。少しは考えないと、料理もマンネリになっちゃうからなぁ。
「んー、手持ちの食材を使い切る感じで作ってみようと思う」
「うんうん。いいんじゃないかな! ツグ兄ぃの料理はなんでも美味しいし、私大好きだよ!」
「ん、私も大好き。使い切ったら、次にログインしたとき食材買いに行こう」
俺が悩みながら2人に話すと、元気に答えてくれた。ちょっと返事が雑な気もするけど、俺もよく、そういう返事しちゃうからな。
もしも料理がなくなったら……ヒバリ達の絶望する姿が目に浮かぶ。なのでここは俺も頑張らせていただこう。
「じゃあ、あとで手伝ってもらうかもしれないから、心するように」
「はーい!」
「シュシュッシュ~!」
椅子から立ち上がり皆の顔を見渡しながら言うと、元気なヒバリの声に紛れて、リグもいい返事をしてくれた。
一番料理を楽しみにしているのはリグっぽいなぁ。作り甲斐は増すけども。
作業台に向かった俺はインベントリを開き、アイテム欄と睨めっこ。
スライムスターチはスライムを倒せば手に入るのでたくさんあるが、肉も野菜もそこまで多くないんだよな。
アイテム欄を整理する際にまとめちゃったりもしてるから、ぶっちゃけなんの肉だったのか分からないやつもあった。
インベントリに入れてある食材は賞味期限を気にしなくてもいい。でも、今日は全てを使い切ってしまおう。んで次のログインで食材を調達する、と。
「……大量消費するなら、あれでいいか」
色々なレシピを頭の中で考えつつ、小さく呟く。
野菜に肉、魚とキノコがある。卵も少しあるし、スターチは売るほどある。
だったらアレしかないな。
食材をひたすら刻んで刻んで刻みまくって、卵でひとまとめにしてしまうオムレツだ。これなら材料の必要量がアバウトなので適当かと。
玉ねぎ、ピーマン、人参、タケノコ、何種類かあるキノコ、何種類もある肉、ベーコンを取り出して並べ、ひたすらみじん切りにしていく。
以外と量があったりするので大変だ。
「……とりあえず、みじん切りは終わった」
作業台の下から木のボウルを取り出し、みじん切りにした食材と卵、塩コショウ、バターを入れてよくかき混ぜる。
インベントリの隅っこにチーズも残っていたので、それもちぎって入れて混ぜ混ぜ。
混ざりきったら、ちょうど良い大きさのフライパンを作業台から探し出して、バターをひと欠片入れる。弱火で溶かし、フライパン全体に回したら、ボウルの中身を全投入。
木ベラで混ぜながら焼き、周囲が少し固まり始めたら蓋をして蒸し焼きにするよ。
ひっくり返せる状態になったら蓋を取り、フライパンを揺さぶってから、軽く一回転。
うまく一回転ができない人は、ヘラを使ってやったほうが失敗しなくていいかもしれない。
もう片面も弱火でじっくり火を通していく。
蒸し焼きにしているから、時々焦げないようフライパンを振るだけにして、なるべく触らないように。
3~5分くらい経って、いい感じの焼き色がついたら軽く押してみる。
液体が出てこないようだったら大丈夫だ。お皿に取り、あら熱を取ってしまおう。
ハムやチーズ、塩コショウでしっかり味がついているから、冷めても美味しいはず。
【お肉とお野菜たっぷりオムレツ】
これでもかとみじん切りにした、お肉とお野菜の入ったオムレツ。熱々でも冷めていても美味しさは折り紙つき。レア度5。満腹度+25%。
【製作者】ツグミ(プレイヤー)
「んんん~、良い匂い」
「シュ~シュッシュ~」
とりあえず一品出来たとホッとしていると、ヒバリとリグの声が聞こえてきて、少しばかり気が抜けてしまった。
褒めたって料理しか出ないぞ。これは後々食べることにしてインベントリにしまい、次に作るメニューを考える。
持て余しているスライムスターチ……用途が限られ豊富に余っているクルミやレーズン……クルミなどはそのまま食べてもいいんだけど、料理できるならしたいよな。
よし、双子には簡単なクッキーを作ってもらって、俺が乾物入りのパンを焼けば、大量に消費できるはず。これが一番いい案だな。
2人に手伝ってもらって大量生産しよう。
「……お、型抜きがあるぞ」
妹達を呼ぶ前にある程度の準備をしてしまおうと、作業台の下をゴソゴソ探したら、お菓子作りに使う型抜きを奥のほうで見つけた。
「ヒバリ、ヒタキ、ちょっと手伝ってくれ」
とてもいい案が思いついたので、そわそわしている2人を呼ぶ。
「んー? なになにー?」
「ん、もちろん。お手伝いなら任せて」
快く寄ってきたヒバリ達に、スライムスターチと乾物を指差しながら説明する。すると神妙な面持ちで頷かれた。
まぁほぼ同じ工程だし、混ぜて練って型を取って焼くだけだから、失敗はしないだろう。
ヒバリとヒタキの前にボウルをふたつ置き、スライムスターチ、砂糖、バター、レーズン、クルミを用意する。
バターを溶かし、全ての材料を混ぜてよくこねる。5ミリくらいの薄さに伸ばしたら型を抜き、170度の窯に入れ待つこと15分くらい。簡単だろう?
「なんか、料理してるって感じがするね!」
「ふふ、いつもはダークマターしか作れないもんね。私達は不器用、すぎた……」
「……くぅっ、世知辛いっ」
「でも、これで失敗するほうが難しい。隣には最強主夫のツグ兄がいるし」
「それを言ったらおしまいだよ、ヒタキさん」
わいわい楽しそうに型抜きしている2人を横目で見つつ、俺はマフィンっぽいパンを作ろうと準備に取りかかった。
用意するのは万能粉スライムスターチ、バター、卵、牛乳、砂糖、レーズンやクルミだ。
バターをボウルに入れ、クリーム状になるまでひたすら混ぜる。
レーズンとクルミ以外の材料を全て入れて混ぜ、刻んだレーズンとクルミを投入……するのだが、今回は一緒に入れず、別々の味を目指してみよう。
紙で作ったカップに生地を入れ、160度に熱したオーブンで15~20分、様子を見ながら焼き上げたら完成。
【型抜きクッキー】
綺麗なものから端が欠けているものまで、不揃いな型抜きクッキー。レーズンやクルミが入っていて、とても美味しそう。型は星、ハート、クマ、ウサギ、犬、猫とバリエーション豊富。レア度3。満腹度+3%。
【製作者】ヒバリ&ヒタキ(プレイヤー)
【レーズンとクルミのマフィン風パン】
食べやすいパン。レーズン味とクルミ味で分けられており、匂いがたまらない一品。レア度4。満腹度+7%。
【製作者】ツグミ(プレイヤー)
俺が料理を作ると、ほとんどがNPCより美味しいレア度4だ。それに対し、ヒバリとヒタキの作ったクッキーがレア度3なのはなぜだろう? やっぱりスキルがないからか?
まぁ、双子がまたダークマターを作らなかっただけよしとしよう。あれはどうやっても食べられないしな。
「……よし。これでインベントリにも空きが出来た」
いま食べる分を除いて全てインベントリにしまっても、随分と空きがあったので、俺は思わず微笑んでしまった。
だけど必要なものは忘れずに購入して補充するようにしないと。
ゲームならではの食材を料理するのも楽しくなってきたからな。また探してみるか。
2人お手製のクッキーをテーブルに並べてから、俺は大きな水筒を取り出し、大量にハーブティーを作ることにした。
これはゲームならではだけど、適当に作っても美味しくなるので、インベントリから大ざっぱにハーブを取り出して煮込むだけでいい。
本当に美味しいから、色々と負けた気分だ……。
ハーブティーを飲みつつクッキーを食べていると、ヒバリがボヤく。
「んん~、そろそろログアウトしなきゃだねぇ」
「まだ時間はあるけど本当に少し。だったらログアウトして、明日の作戦立てたい」
ヒタキが肯定するように頷き、俺のほうを見た。
「ゲームしながらでもサイトは見れるけど、家のパソコンのほうが見やすいもんねぇ~」
「シュ~」
ヒバリが言うと、なぜか俺の手元でクッキーを食べていたリグが返事をしたので、思わず俺達は顔を見合わせて笑い合った。
まぁヒバリやヒタキの言うとおり、そろそろログアウトするのが良いだろう。
散らかしてしまったものをインベントリにしまい、最後のクッキーを今日最大の功労者であるメイの口の入れてやった。
あ、たとえヒバリの装備につぎ込むんだとしても、魔法石の合成をするのは、ミィがいるときのほうがいいだろうな。
「さて、忘れ物はないな。じゃあ行くぞ」
「めめっ! めめぇめ!」
「お、いい返事だ」
もう一度メイと部屋の中を見渡してから、作業場を後にした。
いつも通り噴水広場に行き、リグ達に別れを告げてステータスを休眠状態にしていく。今日もお疲れさまだったな。
リグ達が消えるのを見届け、俺達もログアウト。
ボタンを押すと、すぐに目の前が暗くなる。その感覚に身を任せていれば、気がついたらリビングってわけだ。
ちなみに、これに抗ったらログアウトに失敗するらしいぞ。
◆ ◆ ◆
目を開けると見慣れたリビングだった。
雲雀と鶲もちょうど目を覚まし、一緒になって思いきり伸びをしている。
「んん~!」
「ちょっと身体痛くなるのが難点。もう少しクッション持ってくる。次の機会に、もふもふ」
「そうだね。ちなみに、美紗ちゃんはベッドに寝ころんでやってるみたいだよ」
「ほうほうふむふむ」
カポッとヘッドセットを脱ぐと、2人が何やら話し合いを始めた。
このソファーも母さんが随分とこだわって選んだから、柔らかくていい感じなんだけど、何時間も身体を預けているとさすがになぁ。
「……ん? あ、そういえば」
鶲の「クッション」という言葉に、頭の片隅にあった記憶が呼び起された。
少し前に友人から送られてきた、大きなビーズクッションが物置部屋にあったような?
使い道の分からないトーテムポールを送ってきたときはさすがに全力で殴ったけど、今回ばかりは役に立つかもしれない。
「つぐ兄ぃ?」
「んー、ゲームの片づけでもしてて」
「う、うん。分かった」
頭上に大量の疑問符を浮かべる雲雀を残し、俺は物置と化している一室へ。
定期的に掃除をしたり窓を開けたりはしているが、それ以外ではいつも閉めきっているので、埃と湿気の臭いが気になってしまう。
今度の土日、妹達に手伝ってもらって大掃除でもしようかな……じゃなくて、今はクッションだ。
「うーん、こっちにあるはず……あったあった」
だいたいの場所は覚えていたので、少し探すと目当てのものが見つかった。
大量に送られてきたクッションのうち、約半数が入った袋を引きずり出す。
掃除機で空気を吸い出す圧縮袋に入っているからペッチャンコなんだけど、封を開ければ元通りになるはずだ。
さて、無事に見つかったので雲雀と鶲の元へ戻ろう。
圧縮袋を持ってリビングに行くと、俺がこんなものを持ってくると想像できなかったらしい2人は、キョトンとした表情で見つめてきた。
「えっと、つぐ兄ぃそれ、なに?」
「……平べったい」
「はは、お前達ご所望の品だよ」
「「?」」
問いかけてきた2人に、俺は小さく笑いながら答える。
するとより疑問が深まったらしく、双子は顔を見合わせて首を捻った。
俺はそこまで意地悪じゃないから、焦らすことなく、袋の封を開けて中に空気を送り込む。
「あ! お土産でもらったのに、即座にしまわれてた小鳥のビーズクッション!」
大きなクッションが元の形を取り戻すと、雲雀がビシッと指を差して叫んだ。
なんだか説明口調のような気もするが、俺の説明する手間が省けたからよしとしよう。
感想
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