文字の大きさ
大
中
小
97 / 161
7巻
7-1
金曜日の朝。双子の妹達、雲雀と鶲はまだ寝ているけど、俺、九重鶫には朝食の用意がある。
目を覚ました俺は、もうちょっと寝ていたいと思いながらもベッドから出た。
たまにあるんだよなぁ、ベッドでずっとゴロゴロしてたいとき。平日は無理だとしても、日曜ならやっても良いかもな。
「つぐ兄ぃおはよー、朝から元気いっぱいの雲雀ちゃんですよぉ~!」
「おぉ、本当だ。おはよう、雲雀」
キッチンでまったりと、簡単だけど大量の朝食を作っていると、元気いっぱい娘の雲雀がリビングにやってきた。
妹達は最近、どちらが早く起きれるかを競っているらしいが、今日の勝者は雲雀のようだ。
あとからのっそりやってきた鶲に挨拶したあと、いつでもどこでも元気な雲雀に、出来上がったばかりの朝食をテーブルに運んでもらう。
雲雀が「食べ過ぎて動けない……」とか言い出すハプニングはあったけれど、いつも通り学校へ行く2人を見送り、家事を開始。悲しいことに、家事に終わりはないんだ。
「お?」
リビングに戻って朝食の片づけをしようとすると、テーブルの上に何かが置いてあった。
白く四角く薄っぺらいもの、つまりメモ用紙。
俺のじゃないから、雲雀か鶲のどちらかが置いたに違いない。
見ないほうが良いと分かっていても、見てしまうのが人の性。ペラッとメモ用紙をめくると、可愛らしい丸文字で、『今日のR&M予定!』と大きく書かれてあった。
俺達がプレイしているVRMMO【REAL&MAKE】――通称R&M。
2人が座っていた位置のちょうど真ん中にあったので、どちらのメモかは分からないが、よほど楽しみにしているんだな。
ほっこり気分になった俺は、メモ用紙をテーブルの上に戻し、食器の片づけを始めた。
「さて、昼食は適当に済ますとして……」
皿をぬるま湯で丁寧に洗いつつ、昼の献立を考える。あ、カレーの残りが少しあったしうどんもあるから、めんつゆで溶いてカレーうどんにしよう。
家事をある程度終わらせたら、昼食を済ませ、さっそく買い物に出かける。
賞味期限の迫った食材が家にあるとか、洗剤がそろそろ切れるとか、いろいろ考えないとな。
買い物から帰ってくるともういい時間だったので、すぐに夕食の準備に取りかかった。
夕食は、賞味期限の近い食材を組み合わせつつ、栄養バランスも考えたメニューにしよう。このバランスが結構難しかったり。
「つぐ兄ぃ、ただいまー!」
「ただいま、つぐ兄。お風呂入ってくる」
あぁ、時間が過ぎるのは本当に早い。玄関の扉が開いたと思ったら、慌ただしい足音がして雲雀と鶲が帰ってきた。
汗と土埃で汚れている双子はリビングに入らず、そのまま風呂場へ直行する。2人で入るお風呂はすごく楽しそうだな。
落ちていたメモのことは上がってからでいいか。詳しく見なかったから内容は分からないし、雲雀も鶲も特になにも言ってなかったし。
「……こんなものか」
きちんと準備をしていたから、夕食はすぐに出来上がった。
しかしいくら腹ペコの双子でも、さすがに烏の行水にはならないので、出てくるまでもう少しかかる。今日は1人寂しく配膳するか。いや、別に寂しくないけども。
「んん~っ、いい匂いが漂ってるよぉ!」
お風呂から上がった雲雀が、リビングに入ってきた途端にくんくんと鼻を鳴らした。
そんな雲雀をちらっと見つつ、鶲が声をかけてくる。
「さっぱりした。そうだ、メモ用紙落ちてなかった? 無地で、丸文字きゅるんの」
「雲雀は匂い嗅いでないで、早く席に座りなさい……ええと、これだよな鶲。可愛い文字書くんだな。初めて見た気もするけど」
テーブルの上にあるメモ用紙を渡すと、鶲が楽しそうな表情になった。
「……私じゃなくて雲雀ちゃんの字だよ。丸文字が可愛いから、練習がてら書いたって」
「えへへ、意外と上手に書けたと思うんだ」
なぜか雲雀が照れたように笑っている……まぁいいか。
さて、出来たての料理が冷めてしまうのは悲しいので、さっさと食べてしまおう。
好きな味付けにできるんだから、自分で作った料理に舌鼓を打つのは自然なことだよな。
そんなことを考えながら食事をしていると、雲雀が「あっ」と声を上げて、俺のほうを見た。
「つぐ兄ぃ。今日は1時間、ええと……ゲーム内の時間で大体2日、遊んでいい?」
「あぁもちろん。もともと平日は1~2時間、休みの日は3時間程度って約束だったじゃないか」
俺が箸を休めて雲雀を見返すと、おずおずと窺うように聞いてきたので少し笑ってしまった。いつもの元気っぷりはどうした、とからかいたいのを我慢して頷くと、途端に雲雀の表情が輝く。
「えへっ、そうだったね。あと美紗ちゃんの強い希望により、オークキングとの再戦決まりました」
双子の幼馴染、飯田美紗ちゃんは戦闘が大好きだから、そうなる気はしていた。経験値も美味しいし、今の俺達なら危なくなさそうだから、別に止めないよ。
そのあとは、美紗ちゃんがいるならようやく魔法石が使えるとか、部活の朝練があるとか、学校で宿題が出たとか、どんどんゲームの話じゃなくなっていった。
――あとでどんな宿題か確認しなければ。
夕食のあと、俺が洗い桶の中に食器を入れている間に、2人はさっそくゲームの準備を始めた。
水を溜めるだけだから、そんなに時間はかからない。
俺がリビングに戻ると、もう用意はばっちり終わっていた。
「つぐ兄ぃ、準備できたよ~っ!」
「美紗ちゃんにも連絡済み。時間通り行けるって。なぜか早苗さんが言ってたけど」
「お、おぅ」
……早苗さんのお茶目さんめ。
早苗さん――美紗ちゃんのお母さんの出現に、鶲もさぞかし驚いたことだろう。いや、鶲もお茶目さんだからむしろ意気投合しちゃうか。
まぁその辺は置いておくとして、満面の笑みを浮かべた雲雀から、俺はゲーム用のヘッドセットを受け取った。そしてちょうど良い場所に置いてあったビーズクッションに腰かけ、ヘッドセットを被ってスイッチを押す。
今更なんだけど、今日の予定を決めるのにいっさい使われなかった、あのメモ用紙って……。
しかしすぐにR&Mに入り込む独特な感覚が襲ってきて、そんな取り留めのない考えは霧散してしまった。
◆ ◆ ◆
いい加減見慣れてきた王都の光景に苦笑しつつ、俺は双子を待つ少しの時間に、ペットのリグ達を喚び出すことにした。
しかし操作の途中で目の前にメッセージ画面が開き、美紗ちゃんことミィがこちらに来たがっていることを知る。平たく言うとログイン認証を求められたのだ。
「ええと、まずミィの【はい】を押して、次にリグ達を……」
何度もやってもう慣れたと思っていたんだけど、なぜか操作がモタモタしてしまう。
その間にヒバリとヒタキが現れ、やや遅れてリグ達ペットが登場。最後に満を持してミィがログインしてきた。
久々のゲームということで、ミィの狼の尻尾はすでに揺れていて、パタパタ音がしそうなほど。そんなに楽しそうだとこちらまで楽しくなってくる。
「あの、さっそくで申し訳ないのですが、オークキングを倒す作戦会議をいたしませんか? わたし、とても楽しみにしておりましたの。魔法石のこともありますし、やる気満々ですわ」
ミィがモジモジと恥じらいながら、頬を赤らめて言った。
可愛らしいミィのお願いは抜群の威力……だが、発言内容がいささか物騒だ。
でもお兄ちゃん的には、このまま花より団子で正直さを貫いてほしいところ。
「おぉっ、やる気があるのはいいことだよ!」
「今日倒すと明日も倒せる。ミィちゃん、策士」
「ほっ、褒めてもなにも出ませんわ」
ミィと同じくらいワクワクした双子の言葉に、またミィが照れる。
なんだか延々とループしそうな気がしたので、俺はいつものベンチに移動しようと提案した。
希少であるらしい魔法石について話すなら、作業場の個室のほうがいいかもしれないけど、とりあえずここ。
広場の隅にある人気のないベンチに座った俺達は、それぞれ膝の上にリグ、メイ、小桜、小麦を乗せる。
ミィは作戦会議と言ったが、俺達はバランスの良いPTだからな。きちんと作戦を立てなくても、自分の役割をこなすだけで問題なく勝てるはず。
そう言えば、オークキングとの再戦しか今日の予定を教えてもらってないけど……まぁいいか。
俺は隣に座っているヒバリに話しかける。
「倒すのは前回と同じ、オークキングと取り巻きのゴブリンで変更ないんだよな?」
「うん! 大人数の複数PTで挑むと、魔物がオークキング変異体とゴブリン亜種に変わるみたいだけど、私達には関係ない話だから気にしなくていいし」
「つまり、前となんら変化なし……と」
「おふこーすだよ、ツグ兄ぃ!」
うんうんと力強く頷き、適当な発音の英語で返してくるヒバリ。
前回と変わらないならとりあえず安心かな。あえて不安な点を挙げれば、前回戦ったときよりメンバーが1人少ないことだけど、もともと攻撃力が過剰気味だからな……うん。
その他の細かいことを簡単に話してから、俺達は討伐クエストを受けるべくギルドに向かった。
この人数でぞろぞろ行くと邪魔かもしれないが、ギルド内は結構広いし、妹達によるとギルドに行くこと自体が冒険者っぽいので、やめられない止まらないってやつらしいぞ。
到着すると、一目散にクエストボードを目指すミィ。空いている時間帯を狙ってログインしたので、揉みくちゃにされることはなかった。
そしてクエスト用紙をペリッと剥がすと、手を掲げ俺達に見せてくる。
「この用紙ですわね!」
「うん、受付してくるよ」
ええと、ちょっと恥ずかしいかな。
ミィに微笑んだ俺はそっとクエスト用紙を受け取り、心持ち急いで受付を終わらせる。
これで少しは落ち着くかな? と思ったけど、いっそう闘志を燃やし始めたのでいろいろと諦めた。このみなぎる闘志を発散するにはさっさと戦うしかないらしい。すごく楽しみにしていたのだから、まぁ仕方ないか。
俺達はさっそくギルドを出て門に向かった。
大通りに並ぶ店を横目に見ながら、必要なものは……と考えるんだけど、大抵は自分達で用意できるからいらない、という結論に落ち着く。
王都の出入り口である門は混雑しており、とてもぶらぶらする余裕などなく、はぐれないようにするので精一杯だ。まぁ、それが一番大事なんだけど。
どうにか無事に門を抜けて少し道から逸れると、すぐに人影がなくなった。
スキル【気配探知】を持つヒタキが言うには、まばらに冒険者の気配があるだけらしい。俺にはさっぱりだ。
「これから強敵と戦うのですね、血湧き肉躍ります。すごく楽しみにしておりましたのよ?」
後ろにいるから見えないんだけど、声だけで、ミィの言葉が本心からのものだと分かった。
ちなみに今は、ヒタキと小桜を先頭に、俺とリグ、ヒバリと小麦、最後尾にミィとメイ、という並びで歩いている。
「へへっ、ミィちゃん1人で倒しちゃいそうだなぁ。私達も気合い入れて頑張らないと、ねっメイ」
「めめっ!」
前回も戦ったはずなのに、ヒバリの問いかけに元気良く返事をしたメイ。ブレないなぁ。
思えば、小桜や小麦は戦闘欲が強くないので、バーサーカーが増えなくて何より。
のんびりまったり進み、ヒタキのスキルのおかげで敵と遭遇することなく目的地に到着した。
前回と寸分違わず同じ場所にあるアイコンを、ミィが興味津々といった様子で眺めている。
「ただ広いだけの場所ですが、印があるので分かりやすいですわ。それにしても、強敵が湧く場所ですのに、王都に近すぎではないでしょうか?」
「それは言わないお約束だよ、ミィちゃん」
ヒバリがとても輝かしい笑顔でそう答えた。
お約束と言うより、プレイヤー用のクエストだから細かいことは気にするな、って感じか?
するといつの間にか隣に移動してきたヒタキが、自信満々の表情で促してくる。
「今回は前回とほとんど一緒。私達は準備できてるから、ツグ兄が良いならいつでも大丈夫」
「ん? あ、あぁ。よし、やるか」
少々反応が遅れてしまった俺だけども、クエストのアイコンにタッチ。
クエストアイコンだっけ? それとも特殊アイコン? まぁ意味が通じればいいか。
アイコンに触った途端、ピリッとした緊張感が一帯に走る。
シャボン玉のような薄い膜が、アイコンを中心に半球状に広がって、俺達以外のプレイヤーは入ってこられないようになった。
ヒバリ、ミィ、メイが前線で戦い、ヒタキ、小桜、小麦がその後ろ。
あ、今回はヒタキが少しだけ力を制限して、シャドウハウンドを出さないらしいぞ。
武器を構え、戦闘態勢になっている前衛組の邪魔をしないよう、俺はこそっとリグに話しかける。
「リグ、俺達は超後衛。いわゆる最終防衛ラインだ。ヒバリ達からは離れて、自分達にできることをしよう」
「シュッシュ~」
ノリノリのリグが小さく返事をしてくれた。俺、リグのそういうところ大好き。
そうだなぁ、孤立したゴブリンでも簀巻きにするか。するのは俺じゃなくリグだけどな。
とても輝かしい笑みを浮かべ、取り巻きのゴブリンを翻弄し始めたヒバリ達を放っておき、俺達は物見遊山の気分で歩き回った。
とは言っても、リグがきちんと敵の動きを見て、単独で動くゴブリンを簀巻きにして噛んだりしている。
オークキングやゴブリンは、派手に暴れているヒバリ達にご執心らしい。なので何匹か片づけると、はぐれゴブリンはすぐにいなくなってしまった。
お疲れ様の意味も込めてリグの背中を撫で、俺はヒバリ達に視線を向ける。
「ふふっ、この数を相手にできるだなんて、さすがのわたしでも興奮を隠せませんわ!」
「めぇめっ! めめっめ!」
戦いの喧騒に混じってミィとメイの声が聞こえてきたけど……気にしちゃダメだと思う。
さて、数が多いので時間はかかっているが、これはもう時間の問題ってやつかな。
タンク役のヒバリも上手だし、ヒタキ……はノーコメントで。
「ふんぬーっ! ぬおおおおりゃぁぁあぁっ!」
ヒバリが一際大きな、面白い声を発し、オークキングの攻撃を盾で受け流した。
よろけていないので、体重が2倍に増える例のスキルを使っているのかもしれない。ただ、本人は結構気にしているから、このネタでからかうのはやめておこう。
邪魔にならないよう、というかゴブリンに敵意を向けられる前に、俺はささっと移動した。
敵がヒバリにご執心だとしても、まだ数に差がある。
あぶれたゴブリンが俺に向かってきた場合は、リグの糸でどうにかしてもらった。本当に頼りになるなぁ。
ゴブリンをあらかた倒すと、本格的にオークキングとの戦闘に入った。
正面にヒバリが陣取り、ひたすらオークキングの攻撃を受ける。そして後方に回ったミィとメイがアタッカーとなり、ヒタキや小桜、小麦は縦横無尽に戦場を駆ける。
あ、俺のことは気にしないように。
「適材適所って大事だと思うよ、うん」
「シュ?」
「ははっ、気にしないで。あ、ゴブリン」
「シュ! シュシュッ!」
俺のぼやきに首を傾げていたリグに指示し、敵を簀巻きにしてもらった。
もはやゴブリンもあまり残っていない。
ヒバリとミィとメイに挟まれ動けないオークキングに対し、ヒタキと小桜、小麦が顔めがけて絶え間なく魔法を浴びせかける。
「え、うわぁ……」
思わず引いてしまった。なんだかオークキングが可哀想にすらなってくる。
でも、一度戦闘になってしまったら倒すか倒されるかしかないので、大人しく成仏してほしい。そうだな、俺も魔法を覚えたら真似しよう。
結果、いつも通りのような気がする作戦で、危なげなく勝つことができた。
俺達は『安全! 大事! 絶対!』がモットーだから、堅実が一番だ。効率を求めているわけでもないしな。
倒したオークキングが光の粒と化し、周辺を覆っていた膜のようなものも消失した。
「わぁ~い、勝った勝った!」
「ふふ。私達、強くなってる」
「この爽快感、さいっこうですわ!」
集まったヒバリ、ヒタキ、ミィの、開口一番の言葉がこれって……いや、むしろ3人らしくていいか。何度も言うけど楽しそうで何より。
さて、メイ達も合流して喜んでいるところ悪いが、早めに移動しようと思う。
こういう討伐クエストのポイントはたくさんあると教えてもらったけど、それでも訪れる人は多そうだからな。
「……そろそろ行こう。次の人が来るかもしれないからね」
「はーい! 報酬なっにかぁ~なぁ~?」
ヒバリが元気に拳を突き上げて返事をしてくれた。
このクエストは経験値も報酬も高めに設定されているから、俺もちょっと楽しみだったりする。もしかして明日もやるのかなぁ……。
そういえば、これからどうするかをまだ知らされていない。ヒタキを見ると小さく頷かれた。
「ん、大丈夫。次の予定もあるから、ゆっくりしてたらすぐ帰る時間になる」
「そんなに予定がぎっしり詰まってるのか?」
「そんなに、ではない。ゆっくり……は冗談で、ちゃんと余裕を持って予定を組んでる。時間に追われたら、運動ができないツグ兄、すごく大変だし」
「あぁ、なるほ……ど?」
ヒタキの冗談(?)に、俺は首を捻ってしまった。でも細かいことは気にしない主義になったので置いておくぞ。
感想
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
妹ばかり愛した家族へ。私が王太子妃になった日、皆さんは謝りました。けれど、もう遅いのです
由香【全一話完結】
幼い頃から妹の引き立て役として生き、婚約者まで奪われて家を追放された侯爵令嬢エレナ。
傷ついた彼女が助けた青年は、身分を隠した王太子だった。
一年後、王太子妃となったエレナの前に現れたのは、今さら「家族だから」と擦り寄ってくる両親と妹。
けれど彼女は、もう二度と振り返らない。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
王妃教育を辞退したら「困る」と国王陛下が直接迎えに来ました ~婚約破棄された私に、王太子ではなく国王陛下が求婚してきます〜
由香【全一話完結】
王太子の心変わりによって婚約を破棄された侯爵令嬢リリアーナ。
十年以上受け続けた王妃教育も辞退し、ようやく自由になれると思っていた。
ところが数日後、侯爵家を訪れたのは国王陛下本人。
「王妃教育を辞退されると困る。私の妃になってほしい」
努力を踏みにじった王太子はすべてを失い、選ばれたのは誠実に生きてきた彼女だった。
これは、年上国王に溺愛されながら、世界一幸せな王妃になるまでの逆転ラブストーリー。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
由香皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
