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7巻
7-2
3人と4匹を連れ王都に戻る途中、入れ違いで討伐クエストに向かうらしいプレイヤー達を見かけたので、内心エールを送っておいた。
行きと同じく、ヒタキの【気配探知】スキルに頼って魔物がいないところを通り、無事に王都へ戻ることができた。
空いている時間なのか、並ぶこともなく門を抜ける。
しかしギルドに討伐報告に行く道すがら、なぜか屋台での買い食いが始まってしまった。
ぶつ切りの串焼き肉を両手に持ったヒバリが、また食べ物を口に入れたまま喋っている。
「ふぐひいひはひひははひ、んぐっ、んんっ! ツグ兄ぃには行き当たりばったりに見えるかもしれないけど、戦士は食べられるときに食べないと」
俺がじっと見つめると、以前注意されたのを思い出したらしく、ヒバリは素早く呑み込んでから話してくれた。
「……おぅ、そうだな。これも食べるか?」
「食べる!」
俺の目はやや冷たかったかもしれないが、美味しそうに食べ物で頬を膨らませる妹達はプライスレス。彼女達が楽しんでいれば大体OKだな。
そんなことを考えていると、双子がゲテモノ食材を売る店に興味を示していた。まぁ、主にヒバリがだけど。
俺もさすがに、ああいうものを料理する気にはならないなぁ。ヒバリが何を見ていたのかはご想像にお任せってやつで。
「ほら、そろそろ報酬もらいに行くぞ」
「はぁ~い!」
元気な返事をもらって俺達はギルドへ向かう。すると中はたくさんの冒険者でごった返していた。
ちょっと混み過ぎじゃないだろうか? 小柄な妹達がいるから危ないかもな。
そう考えた俺は安全のため、いったんいつもの噴水広場に移動し、ベンチに座る。ギルドの報酬受け取りは別に急がなくてもいいからな。
俺の横では、膝の上にペットを乗せたミィ達が思案顔で話し合っていた。
「大きいイベントでも発表されたのでしょうか?」
「む、情報なかったけど……」
「でも私達、さっきまでオークキングと戦ってたからね。いきなり発表されたのかも!」
「ん! それなら……」
ヒバリの言葉にハッとしたヒタキがウインドウを開く。
そして真剣に何かを見ていたと思ったら、ゆっくり俺のほうに顔を向けて、ドヤ顔と呼ぶに相応しい誇らしげな表情で頷いた。
「理由はすぐに分かる。具体的に言うと北の方向、空の彼方を見ててほしい」
そう言ってヒタキは北の空を指差し、ワクワクした素振りを見せた。
え、何かあったけ? うーん、もう少しで思い出せそうな気もするが……。
ヒバリとミィはどうだろう。ちらっと2人を見ると、明暗の分かれた表情をしていた。
「なるほど! わたし分かりましたわ。ようやく実装ですのね。すごく楽しみですわ」
「え、えっ? な、なんだったっけ? うはっ、ぜんっぜん思い出せない!」
楽しそうに手を叩き、顔を輝かせたミィ。ヒバリはとても明るいけれど、思い出せず困り眉になっている。大丈夫、俺もヒバリサイドだから。
でも、本当にもう少しなんだよなぁ。思い出せたらすっきりするのに。
そうこうしていると、ギルドから聞こえる喧騒が格段に大きくなった。
視線を向けると、冒険者がぞろぞろ出てきている。何かが起きることは間違いなさそうだ。
「ヒタキ、お兄ちゃんにこっそり」
「ん、だぁめ」
ヒタキに教えてもらおうとしたが、とても愉快そうな表情で断られてしまう。
はい、大人しくそのときが来るのを待とうと思います。
それから10分程度。ヒバリ達と話していたからそんなに長くは感じなかった。
1人の冒険者が「来たぞっ! あっちだ!」と叫んだ。
集まっていた人々が一斉に示された方向に目を向ける。
プレイヤーが騒ぐものだからNPC達も怖々と空を見上げている。少し申し訳ないかも。
そしてそれが現れた瞬間、歓喜の雄叫びを上げる者、目を見開いて動けなくなる者、地にひれ伏し拝む者など、反応は様々に分かれた。
3人娘はと言えば、キラキラした表情を空に向けていた。
「……やっと思い出した。超弩級龍・古か」
ようやく答えを得たスッキリ感と、王都を覆い尽くすくらい巨大な龍に対する驚き。
いろいろな感情が入り混じって、俺もさぞかし面白い表情をしているに違いない。
そんな地上のことなど気にする様子もなく、超弩級龍・古は優雅にヒレを動かし、ゆったりと王都上空を通りすぎていった。
でかいなぁ、ごついなぁ、といった感想しか出てこない俺を許してほしい。空にいる相手なんて詳しく観察できないし、主に見えるのはお腹だし、皆そんなものだろう、うん。
「わー! わーっ! おっきかったねぇ!」
「すごい存在感でしたわね。あの龍、どれほどの強さかと考えると、胸が熱くなりますわ」
「めめっ、めぇめっ!」
とても楽しそうにはしゃいでいるヒバリ達を見て、俺の心も温かくなってくる。ミィとメイが相変わらず戦闘狂らしい発言をしているけど、気づかない振りをしておいた。
興奮冷めやらぬ現場にいる俺達だが、ふと、これからどうしたものかと考える。
予想外のイベントに時間を取られ、今後の予定が狂ってしまったんじゃないだろうか?
噴水広場もギルドもしばらくお祭り騒ぎが続きそうだから、一度ログアウトして、現実世界での翌日にログインし直すか……?
「とりあえず、あっちの予定を繰り上げて、こっちの予定はあとにすれば……うんうん」
「報酬の受け取りも、あとからのほうが良さそうですわ」
「いったん待避が賢いやり方」
おぉ、俺が口を挟む間もなくどんどん決まっていく。
とにかくどこかに移動しようって感じだな。その場合、俺達の場合は宿屋か作業場が多いけど。
俺の予想は的中し、移動先は作業場となった。
「じゃあ、ささっと行くか」
「シュシュッ」
いつの間にか頭の上に移動していたリグ。いい返事だ。
作業場の2階の個室に着いて、窓から噴水広場を確認すると、あまりの人の多さに乾いた笑いしか出てこなかった。一緒に外を覗いていたヒバリ達も同じ心境だろう。
もう気にしたら負けだ。皆をテーブルに座らせ、俺達はまったり会議と洒落込もう。
お菓子も作ったばかりだから、種類は少ないけど数だけはある。いや、これでも足りないかもしれないな。ゲームなら太らないと言って、食べ過ぎる妹達がいるし。
「今からやることと言えば……料理か錬金合成、ルリとシノの服作り……あれ、意外と多いな」
リグにクッキーを食べさせながら考えていた俺は、自分でもクッキーをひと口。
うん、ばっちりな味だ。さすが俺……なんてのは褒めすぎだけど。
食べ終わるのを待っていてくれたのか、俺が呑み込んだところでヒタキが口を開く。
「まず、装備に魔法石を合成、が良いと思う」
「あ、いいねいいね! ずっと気になってたんだ」
「地下で掘ったという、例のあれですわね。わたしも、すごく楽しみにしてましたのよ?」
ヒバリとミィが賛成しているし、俺にも異論はない。
ええと確か、手に入れた魔法石は17個……だったかな。
インベントリから探し出し、小粒なので床に落とさないよう慎重にテーブルの上に置いた。
一緒に王都の地下で採掘した魔法石の欠片や魔力を帯びた宝石は、素材としては使えるけど合成には使えないらしい。
「やはり、小さいですわね」
小指の爪くらいしかない魔法石を、しげしげ眺めていたミィがそう呟いた。
強い魔物を倒すともっと大きい魔法石が手に入るらしいけど、俺達にはまだ先の話かな。危ないことはさせたくないし。
さて、以前は全部ヒバリの防具につぎ込むような話もしていたけど、やっぱりみんな強化はしたいよな。だったら……。
「1人4個ずつ強化して、端数はヒバリの防具に。ええと、それで大丈夫か?」
「ん、妥当」
「はい。ヒバリちゃんは大変なタンク職ですもの」
「おぅふ、ありがとうごじゃいます」
俺の提案にヒタキとミィが大きく頷き、ヒバリがはにかみながら、モゴモゴと礼を言った。
3人は俺の作った着物ドレスを強化するみたいだけど、俺はどうしようか。
あ、にゃんこ太刀にしよう。小桜と小麦の家みたいなものだから、強化したら快適になるかもしれない。
そうと決まればさっそく、と思ったけど、ヒバリ達が先で良いか。
テーブルを覗き込むリグに再度クッキーを渡し、食べ終わった頃合いを見て頭に乗せる。
気を取り直して2度目の合成となるヒバリから。
隣同士のほうが圧倒的にやりやすいので、自分の椅子と4個の魔法石を持ってヒバリの横に移動すると、彼女は目をキラキラ輝かせていた。
「ひと思いにドッカンお願いします!」
「なんだそりゃ」
俺は軽く笑いながら、魔法石を1個つまんで服に近づけ「合成」と呟く。
その瞬間、魔法石が輝いて消えていった。ちょっと分かりづらいけど、きっと成功したはず。
ウインドウを開き、ヒバリの服の説明欄をしげしげ眺める。
よしよし成功してるな、って心の中で頷いたあと、続けて3回。全て成功したので大満足だ。
【レースとフリルをあしらったお手製着物ドレス】
丁寧に製作された愛らしさ溢れる着物ドレス。着用者の一番高いスターテスに+3追加される。
レア度6。合成+5。HP+3、MP+4、VIT+2、DEX+1、AGI+1、WIS+3、LUK+1。
【製作者】ツグミ(プレイヤー)
うーん、狙ったスターテスを上げられないのが難点だよな……まぁHPもVITも上がったし、このまま続ければある程度の性能を持った防具になるだろう。ちょっと楽しみだ。
ヒバリから離れ、そわそわしているヒタキとミィの間に椅子を置いて座った。
「私は最後で良い。ミィちゃんをお願い」
「まぁ、ありがとうございます。ではツグ兄様、ひと思いにやってくださいませ」
顔を綻ばせたミィに軽く笑いかけ、俺は4個の魔法石を……って、テーブルの上からいちいち拾うのは不便だな。いったん全てインベントリに収納し、仕切り直しと言わんばかりに4個の魔法石を取り出した。
2人にとってはこれが初めての合成だ。とはいえ仰々しいものでもないし、ヒバリと同じですぐに終わってしまう。
楽しそうにウインドウ画面を確認している2人の後ろから覗き込んでみた。
【レースとフリルをあしらったお手製着物ドレス】
丁寧に製作された愛らしさ溢れる着物ドレス。着用者の一番高いスターテスに+3追加される。
レア度6。合成+4。HP+1、MP+1、STR+1、VIT+2、DEX+2、AGI+1、INT+2、WIS+2、LUK+1。
【製作者】ツグミ(プレイヤー)
【レースとフリルをあしらったお手製着物ドレス】
丁寧に製作された愛らしさ溢れる着物ドレス。着用者の一番高いスターテスに+3追加される。
レア度6。合成+4。HP+3、VIT+2、DEX+4、INT+2、LUK+2。
【製作者】ツグミ(プレイヤー)
前者がミィので、後者がヒタキのだな。うん、なんとなく結果は分かってた。
でも同じ合成なのに、数値の割り振りがバラバラって面白い。ミィのほうは満遍なく少しずつで、ヒタキのほうは少ないステータスの数値を多めにって感じで……これがランダム!
3人の満足した顔を見た俺は、腰に提げたにゃんこ太刀に手を伸ばす。そして慣れた手つきで合成しつつ、あることを思いついた。
メイの装備、黒金の大鉄槌を強化しても良いな。装備品だし。今度また魔法石が手に入ったら提案してみよう。
【にゃんこ太刀】
きらびやかな作りの太刀。鞘の両側には2本の尻尾を持つ猫又が大きく描かれている。途方もないMPを食われるが、猫又は使役することも可能。テイマー職限定。
レア度7。付与効果『切れ味悪化の遅れ』。合成+4。HP+1、MP+2、VIT+2、DEX+3、INT+1、WIS+2、LUK+2。
【製作者】マカロニスト(プレイヤー)
おぉ、こんな感じになるのか。なんだかんだで初めて説明を見る気がする。
そしてプレイヤーの製作品だったのか。今まで調べてなくて申し訳ない気が……。
さて、小桜と小麦を見てみよう。武器というか住居が強化されてるし、様子はどうなんだろう。
「にゃんにゃ~ん」
「にょあ~ん」
双子の膝の上にお行儀良く座る2匹は、ぷるぷる身体を震わせ楽しそうな顔文字を出していた。これは喜んでもらっていると言っていいだろう。
「メイ、ごめんな。次に魔法石が手に入ったら、黒金の大鉄槌を強化しような?」
「めめっ、めぇめっ!」
メイの頭を軽く撫でながら話しかけると、元気な返事があったのでホッと一息。ええと、あとは何をするんだっけ?
ふと窓の外を覗くと、噴水広場の熱狂はまだ続いていた。まぁ仕方ないよな。あの龍のことを思い出すと、俺もまだ興奮するし。
とりあえず最初に座っていた場所に戻り、リグを膝の上に移してクッキーを渡した。
「やるとしたら、ルリとシノの新しい装備作りか……」
「そ、そうだね! コンセプトっていうか、参考画像は用意してあるから安心して。うん」
お菓子を摘みながらの会話ですんなり俺の意見が採用される。まぁ、もともと予定には入ってたけどね。
静かに頷いたヒタキが俺の側に寄り、楽しそうにウインドウを見せてきた。
「ルリちゃんには機能性と可愛らしさを追求した軍服風ワンピースみたいなの、シノさんにはシンプルだけど格好いいインバネスコートってやつがいいと思う。難しい……?」
「可愛いし暖かそうだな、ええと……お、資料もちゃんとある。これならなんとか作れそうだ」
「ん、よかった」
前回の四苦八苦振りを気にしてくれたらしく、ウインドウには簡単ながらも作り方が書いてある。でかしたと頭を撫でると、ヒタキは嬉しそうに目を細めた。
すぐに製作に取りかかるのは味気ないので、もう少しまったりお喋りしようか。
外の騒ぎがやや収まったタイミングで俺は腰を上げた。リグは危ないからテーブルの上だな。
テーブルの上に移そうとするが、器用に逃げてピョンピョン飛び跳ね頭の上に。リグがそこで良いなら俺も別に良いけど。
作業台に向かい、インベントリを開いて、必要なものをどんどん出していく。
今回は台の上がカラフルになることはなかった。
ミシン、糸、生地、MP、服の作り方、あとは自分のやる気とか、もろもろOK。
どれくらい時間がかかるかは分からないけど、スキルの恩恵もあるから、現実世界で作るよりは簡単なはず。本当、便利だよなぁ。
「リグ、大丈夫だとは思うけど気をつけてな」
「シュッシュ~」
「ははっ、なら安心だ」
上から楽しそうに見ているリグに、一応注意してから作業に取りかかった。
ええと、まず採寸したデータを元に型紙を作ってから、布の裁断だ。
きちんと採寸したので、紙とペンを使って型紙にするのはすぐに終わった。ヒバリ達の服作りで慣れた、っていうのもあるけども。
次は型紙を当てて生地に線を引いたり、ちょこちょこ見に来るヒバリ達の相手をしたり、生地を裁断したり、自分達でクッキーを作ると息巻くヒバリ達を止めたり……って、なんか無駄な作業が多くないか?
「これが終わるまで大人しくな。余った時間でお菓子作りしよう」
「わぁ~いっ! 約束だからね、ツグ兄ぃ」
楽しそうなのは大変よろしいけど、放っておいたらまた暗黒物質(笑)を作ってしまいそうなので、しっかり釘を刺しておいた。
お菓子の残りも少なくなったし、皆と一緒に作るのは楽しいので、できるだけ早く装備を作り終えよう。あ、だからって手抜きなんてしないぞ。
「あ、わたしはハーブティーなら淹れられますのよ? ツグ兄様が淹れたもののほうが美味しいですが、たまにはわたしも」
「あ、ツグ兄の補助なしで私達が料理できるわけな……」
【絶妙に微妙なハーブティー】
本当に微妙な味。空腹はもちろん、喉の渇きも癒えない残念な代物となっている。レア度1。
【製作者】ミィ(プレイヤー)
「……あ、忘れていましたわ!」
「たまに忘れるの、仕方ない」
「は、はい。仕方ない……です」
ヒタキの制止は少し遅かった。自信満々だったミィの意気消沈ぶりと言ったら……。
このゲームの悩みどころはこういったところかもしれないな。
でも、現実世界で飲むミィのハーブティーは本当に美味しいんだ。今度飲ませてもらおう。
「シュッ、シュシュ」
「? あ、あぁ、忘れてないさ」
おっと、手が動いていなかったようだ。リグに軽く謝って再開する。
まず前身頃、後ろ身頃、前袖の3つに布をカット。ヒバリ達の着物ドレスを作ったときより手際がよくなったように思う。
ペラペラだったら格好良くないので、裏布をカットして貼り付けたり、端ミシンをして頑張って整える。
後ろ身頃と前袖を接合して、左右の後ろ身頃も同じく接合。説明としては大雑把すぎるかもしれないが、用意された画像とかを参考にしているから大丈夫。
次にいらない部分をカットして、切ったところがほつれないようにミシン掛け。
よいしょ、と裏返して襟が完成したので、後ろ身頃に接合。前身頃合わせ部と首回りの加工をして、大きめのポケットやボタン代わりのリボンを取り付ける。
知ってるか? ボタンってすごく良い値段がするんだ。ま、こっちのほうが格好いい格好いい。
俺にとっては大したことない量のMPを消費しつつ、ひたすらミシンを動かしていく。
感想
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