精霊の使い

野上葵

文字の大きさ
8 / 12
こちらはシェルター村です。

法律的に危ないんですけど。

しおりを挟む
「身長は何センチ?体重も教えてほしいなぁ」
「173cmで60kgです」
「結構痩せてるんだねぇ。じゃあ、好きな食べ物はぁ?」
「はんぺんです」
「はんぺん?知らないなぁ。出身地では流行ってるのかい?」
「あぁ。まあ、好きな人は好きだと思いますよ」

何この会話。淡々と進められていくものの、自分でもよくわからない。確かに、装備を作る上でこの会話は大切だと思うけど……。それにしても初めましてで凄く気まずい。
それに、

「あ、今気まずいって思ったでしょぉ?大丈夫だよぉ。リラックスリラックスー」

なぜか、俺の心が読まれていることについて悪寒がする。怖い。なんで気まずいとかバレてるの?ああ。とすると、この考えもバレてるのか。え、じゃあこの会話いらなくない?

「会話は必要さぁ。装備を作るのに、モチベーションってものが上がらないからねぇ。もう少しだけ、質問させて?」
「あ、はい。どうぞ……」
「やっぱり緊張してる。リラックスして、会話するだけで良いんだよぉ。まずは肩の力を抜くこと。いいね?」
「分かりました。ところで、装備ってどんなものができるんですか?」
「えへへ。内緒」

うわぁ。俺が一番苦手にしてるやつだ。非日常は好きだ。何が起こるか分からないから。しかし、相手が分かっているものを自分が知らないのはなんとなく釈然としない。負けず嫌いなんだなとつくづく思う。

「よし!会話しゅーりょー!作ってくるからちょっとだけ待っててねぇ。どんなのができるかはお楽しみにぃ」
「はい。よろしくお願いします」
「あははは!まだまだ君はかたいねぇ。何回リラックスしてって言わせるのぉ?まあいいけど」

そういうと、マスターは奥の方に入っていった。あの奥で装備が作られるのか。そういえば、エイルはどんな装備を持っているのだろうか。聞いたことがなかった。

「エイルってどんなの持ってるの?」
「え?私?私はこの剣よ。指で数えられるくらいしか使ったことはないけれど」

エイルが見せてくれたのは。冒険者が使うようなキラキラとした剣だった。……高そう。こんなの作れるくらいの大富豪になれればな……。でもまだ年収100万の下っ端だ。ダンジョンで稼がないと。

「マスター……。変なの作ってこないといいけど。結構ナオヤの事気に入ってたから、よく分からないわ」
「え、気に入ってたら、変なの作るのか?」
「あの人、一回捕まってるのよ」

え。なんでそんな人に頼んだの?鍛冶屋なんて、いくらでもありそうなのに。この村。すると、エイルは続けた。

「作っちゃいけないものを作って、それをお客さんに渡して。それで捕まってるの。釈放されてからは、また鍛冶屋をやっているけれど、いまいち評判は良くなくて。まあ、それもそうよね。一度檻の中にいた人の作ったものなんて、誰も持とうとしないもの」
「じゃあなんで、こんな人に頼んだんだ?何か、特別な理由とか」
「マスターは腕は確かだから。この剣も昔、マスターが作ってくれたの。何回使っても折れないし、手入れもこっちでするからって言われてるけど、やっぱり私もどこかで不安がってるのよ。マスターの言ってること、正しくないんじゃないかって」

場の空気が哀愁漂う感じになってしまった。しかしながら、初耳だ。檻の中にいたなんて。とてもそんな素振りを見せなかったから流行ってないだけかと思っていた。え、マジで大丈夫なのか?普通に心配だ。
そんな俺の心配をよそにマスターは俺たちのところへ戻ってきた。

「出来たよぉー!!いやー張り切っちゃってすぐ作れたよ!はい!開けてみて!」

装備はプレゼントの箱のようなものに入っていた。
初の装備だから!とマスターがおまけしてくれたらしい。まあ、そのおまけあまり必要ないんだけど。

「じゃあ、開けますね」
「はいはーい。あけちゃってぇ」

ぱかっと箱を開けると、中からなんとも説明し難い、白いモコモコとした動物が出てきた。
すると、そばにいたエイルがかっと目を見開いて、怒鳴りだした。

「どういうこと!?マスター!!ナオヤはもう召喚獣を持っているのよ!!それなのに、精霊を増やしてどうするの!?」

は?精霊?こいつが?全くそんな風には見えないけど。モコモコは手のひらにのるサイズで時々きゅいー!などと鳴いている。一言で言うと、非常に可愛い。それでもエイルは怒鳴り続けた。

「精霊使いは一匹しか持ってはいけないのは原則なのよ!?それを鍛冶屋のマスターであるあなたが破ってどうするのよ!」
「大丈夫だよぉ。バレたりなんかしないって。それでバレたなら、僕が責任取ってあげる」
「冗談じゃないわ。もういい。ナオヤ、別のところで作ってもらいましょう」

エイルがマスターに背を向けて歩こうとした、その時だった。マスターがエイルに向けて弾丸をうったのだ。
あまりに瞬間的すぎて、唖然としてしまう。

「貰ってくれないなら怒るけど?死んでもいいんだ。別に僕は構わないけど」

さっきの穏やかなマスターは何処へやら。急に低い声になり、脅してきた。

「ねぇ、エイル。一回貰っとこ。それからまた考えればいいんだし」
「……。すぐに捨てるわよ。この精霊」

そう言ってエイルはモコモコを拾い上げた。

「あなたの事、上の人に報告しておいてあげる。覚悟しときなさい!」

エイルは再びマスターに背を向けてコツコツとハイヒールを鳴らしてドアの方に向かった。俺とダウトもその後を追い、最後にマスターに一礼して、鍛冶屋を後にした。

バタンとしまったドアの向こうがやけに気になって仕方がなかった。

******
少しシリアスな回でした。次は面白おかしくなると思います。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき
ファンタジー
【読んでいただいて♡いただいて、ありがとうございます。王城編準備中のため、12月12日からしばらく更新お休みします。考えてた構成が「やっぱなんか違う」ってなり、慌てております…汗】 「こんな転生先だなんて聞いてないっ!」六年間付き合った彼氏に婚約を解消され、傷心のまま交通事故で亡くなった保育士・サチ。異世界転生するにあたり創造神に「能力はチートで、広い家で優しい旦那様と子だくさんの家庭を築きたい」とリクエストする。「任せといて!」と言われたから安心して異世界で目を覚ましたものの、そこはド田舎の山小屋。周囲は過疎高齢化していて結婚適齢期の男性なんていもしないし、チートな魔法も使えそうにない。創造神を恨みつつマニュアル通り街に出ると、そこで「魔力持ち」として忌み嫌われる子どもたちとの出会いが。「子どもには安心して楽しく過ごせる場所が必要」が信条のサチは、彼らを小屋に連れ帰ることを決め、異世界で保育士兼りんご農家生活を始める。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...