精霊の使い

野上葵

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こちらはシェルター村です。

そー言えば練習場は?まいっか!

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「エイル。そのモ……精霊どうすんだよ。このままポイ捨てするわけにはいかねぇだろ」
「俺様は捨てることに反対だぞ!精霊の気持ちにもなってみろ!いきなり捨てられるんだぞ!しかも知らない人に!」
「きゅいー!きゅー……」

……さっきからエイル、全然話さない。怒っていることはなんとなく分かる。けれど、このモコモコに罪はないわけだから、そこまで冷たくしなくても良いのではないかとも思う。

「報告しに行くわ。それでその子も一緒に上に引き取ってもらうの。それが一番よ。私たちにとっても、その子にとっても」
「きゅいー……」
「しゅんとしてもダメなものはダメなの。法律で決まってるんだから。今から行くわよ」

え、今から!?今からダンジョンに行くのかとばかり思っていた。まさか、本当に報告に行くなんて。確かに、エイルは冗談は言わないタイプだけど。それにしても、『上に報告』って、どこに行くのだろうか。知らずについてきていた俺も悪いのだが。

「エイルー……。これからどこ行くんだ?そろそろ教えてくれても良いだろ」
「だから上に報告に行くって言ってるじゃない」
「その上に報告ってのが分かんねぇんだよ。誰に報告するんだ?」
「ギルド。法律破る人たちの対策本部があるの。今からそこへ行って、マスターのことを報告するの。一回マスターは捕まってるからもうこの次はないわ。このまま檻の中よ」

こ、怖……。法律破るのは確かにダメだ。皆で決めたルールなら、破ることは裏切りに匹敵する。しかし、先ほども言ったように、モコモコには罪はない。マスターは檻の中に連れていかれたとしても、モコモコまで一緒にされてしまうのは何か違う気がする。

「なぁ。エイル。そのモコモコだけでも助けないか?そいつはまだ生まれたばっかだし、この世界のこと何も知らないだろ?」
「生まれたばかりでこの世界のことを何も知らないのなら、何をしてもいいの?私はそうは思わない。確かに少し不憫だとは思うわ。けれど、ルールはルール、約束は約束よ。ちゃんと守って従わないと」
「きゅいー……」

正論すぎて、ぐうの音もでない。あのモコモコも切なそうな顔でエイルを見ている。しかし、エイルは見向きもせず早足でギルドへ向かっている。止めたい。でも、もうこの運命は止められない。そんなもどかしさを胸にギルドに向かった。おそらくそれはエイルもモコモコもダウトも同じ思いだったと思う。そして、ギルドへの扉をエイルは開けた。



報告が終わり、ギルドから外へ出ると、エイルの機嫌はすっかりなおりきっていた。もう超にこにこ笑顔すぎて、ダウトも少し引いている。俺も若干のところ引いている。

「よし!報告も終わったことだし!ダンジョンへ行きましょう!!」

空をピシッと指差して、エイルは言った。そのやる気に満ち溢れた表情はどこからか懐かしさを感じる。なぜだろうか。きっと俺に妹がいたからだ。元気にしてるかな……。
おっと、昔話になるところだった。いけないいけない。今やるべきことはダンジョン……って、え?練習場は?無視するの?

「あ、あのエイル、練習場は?」
「気分が変わったわ。今はダンジョンでストレス発散したいの。てことで!今から初心者向けのクエストに行くわよ」
「こ、このダウト様も行くのか!?クエストに!?ダンジョンに!?」
「当たり前でしょ。狐ちゃんがいなくてナオヤはどうするのよ。ナオヤが死んだって私は責任負えないもの」
「物騒なこと言うのはやめてくれ……」

本当に死ぬかもしれないから。だってクエストだろ!?行ったことないようなところでいきなり戦えって無理にもほどがあるだろ……。いくら初心者向けだからってその人たちも練習場で色々鍛え上げてるはずだ。俺は何もしていないんだぞ。ちゃんと考えて行動するという能力がエイルには備わっていないのか。

「よし!じゃあ行きましょう!ユーマ討伐クエスト!」
「ユーマ!?エイリアンだろ!?それ!」
「そのユーマじゃないわよ。ユーマっていう敵がいるの。その名前がユーマってだけ」

そんな紛らわしいもの作らないでくれ。しかも、ユーマとエイリアンだけで伝わるものなのだな。うん、この世界は結構話が通じる奴が多いな。それに初めは、異世界って言うから何も通じないとも思っていた。それが全く通じないと言う訳でもなかった。これはこれで面白い。

「じゃあ早速行きましょうか!ダンジョンでクエスト申請しに行きましょう!」
「「お、おー……」」

めちゃくちゃ乗り気のエイルに対して、いまいち乗り気ではない俺とダウト。こんな温度差で本当にクエストなんて行けるのだろうか。まあ、行ってみよう。



「つ、ついた……」

なんだここ……。どんだけギルドから遠いんだよ。ギルドから出発して、坂を20回程登り、さらに階段を300段……。俺らは中学の運動部か。ダウトは狐だからか全く疲れていない。いいな。これだけ聞くと、自分も狐になりたいとすら思えてくる。

「エイル……。クエスト申請はどこでするんだ?」
「ない……」
「え?」

見るとエイルはブルブル震えている。さっきの勇ましい威勢はどこかへ消え失せていた。

「行かない!クエストなんて行かない!やっぱり怖いんだもん!仲間もいるし、これで私も大丈夫って思ったけど!やっぱりこの感じ、この雰囲気ダメなの!!帰りましょう!」

は?ここまで来たのに?またこの階段及び坂を下りるのか?俺は怒りを抑えきれず、エイルの腕を掴んだ。

「は、離してよ!!」
「ちょっと待て。誰が最初にクエストでストレス発散したいって言ったんだ?お前だよな?しかも、ここまで連れて来たのは誰だ?お前だよな?そんな俺らのこと振り回してる奴が今更やっぱりダメとかふざけたこと言ってんじゃねぇよ!なんとしてでも行くからな!ほら!行くぞ!」
「今回ばかりは俺様も賛成だ」
「だってさ。ダウトも俺も賛成してるんだ。二対一で俺らの意見を尊重すべきだろ?」

エイルは口をぎゅっと紡いで何も言わなくなってしまった。目がほんのり赤くなっている。俺は女の子を泣かす趣味はないが、こればかりは仕方がない。

「行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

ずんずんと俺とダウトが進んで行く。その後ろから気配を消すかのようにひっそりとついてくる美少女エイル。
その空気感ぶりに、こいつは本当に精霊使いなのかと疑ってしまう。

「ユーマ討伐クエストですね。ではこちらにサインを」
「はい。了解です」

『ユーマ討伐クエスト
報酬 20万
注意書き ・私たちは負傷の責任を一切負いません。
               ・スキルなどを使うのは自由です。
               ・報酬は一人ひとりに受け渡されます。

皆さんで楽しく、討伐をしていきましょう!』

なんだこのサイン書。重い……。書いてあることが重すぎる。まあ、初クエストだし?別にゲームオーバーになっても、また戻れるだろう。

「はい。クエスト申請完了しました。行ってらっしゃいませ」
「ありがとうございます。おい、エイル行くぞ」
「行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない……!」

エイルは申請所の片隅で一人震えていた。心の底からダサいと思った。しかし、美少女は美少女だ。何してようが、可愛い。そんなわけで、討伐クエストイッテキマース。

******
面白おかしくなりませんでした。ごめんなさい。
昨日調子に乗って少しルンルン気分で家に帰っていたら、坂の段差に気づかず全治二週間の捻挫を負いました。
皆さん、気をつけましょうね。

こんな奴になっちゃダメだよ(震え声)

以上野上でした。
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