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#9 悶々とする日々のなかで

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 毎晩のようにあの妙な夢を見て驚いて目を覚ますということを繰り返している所為か、ここのところ少々寝不足気味だった。

 夢のリアルさに驚いて目を覚ましてからは、目が冴えてしまいどうにも寝付けないせいだ。

 仕方ないので、寝こけているレオンのもふもふした身体をぎゅうと抱きしめて、心地いい鼓動の音とあたたかな体温とを感じつつボーッとしているうちに、いつしか朝を迎えていた。

 そうしていると、やっぱり心は不思議と落ち着いていく。

 けれども睡眠時間は補えはしないので、寝不足は解消されないでいた。

 この日も朝から寝不足で、頭がふわふわしていて、いつにも増して悶々としていたように思う。

 ルーカスさんの家には時計がないので、正確な時間はわからないが、日が傾きかけたからおそらく午後五時を回ったところだろうか。

 精霊の森には、夜になると活発に行動する邪妖精が棲み着いている。

 なので、その頃には仕事を切り上げて、夕飯の準備に取りかかる。

 今日もいつものように台所でフェアリーと一緒に夕飯の準備をしているところだ。

 元いた現実世界の我が家のシステムキッチンとは違い、オーブンレンジやIHクッキングヒーターなどの電気調理器具なんていう便利なものは存在しない。

 けれども魔法という便利なものがあるので、特段不便を感じるようなこともなかった。

 勿論、私ではなく、ルーカスさんや小妖精であるフェアリーのお陰だ。

 どうしてピクシーが入っていないのかというと、ピクシーはお風呂係だからだ。

 家の裏手にある小さな浴場をしっかりと管理してくれているピクシーは、とても綺麗好きでいつもピカピカだった。

 きっと今頃は、自分で割った薪をくべて鼻歌でも歌いながら、大好きな絵本でも読んでいるのだろう。

 といっても、ピクシーは読み書きができないから、魔法を使って。

 だったら魔法を使えば仕事なんてしなくていいだろうと思うだろうが、そうできない理由があった。

 驚くことに、このマッカローン王国にいる妖精や邪妖精たちは、夜しか魔法が使えないらしいのだ。

 どうしてかというと、その昔、このマッカローン王国をおさめていた偉大な国王によって、悪事を働く邪妖精の力を封じるために呪いがかけられているかららしい。

 私を召喚した例の我が儘王太子とは違い、祖先である国王は凄い人だったようだ。

 寝不足のせいでボーッとしながら、そんなことを思い返していたら、突然意識にフェアリーの声が割り込んできた。

「ノゾミン。スープが煮えたぎってる。そんなに煮立ててたら煮詰まっちゃうでしょう?」

 魔法で食器の準備をしてくれていたフェアリーに目を向けると、四人がけのテーブルの端にちょこんと腰を下ろし、腰に手を当て頬を膨らませているフェアリーの姿が待ち構えていて。

「……へ?」

 ハッとし手元のスープ鍋に視線を落とすと、ぐつぐつと煮えたぎって、今にも吹きこぼれそうだ。

「あっ、あー、ごめんなさい。水足すね」

 大慌てで近くにある水瓶から水を汲もうとする私に魔法で手助けをしながら、呆れたようにツンとした口調で鋭い指摘を繰り出してくるフェアリー。

「もう、どうしちゃったのよ? 最近、暇さえあれば溜息零してばかりだし。かと思ったら、急に真っ赤になって身悶えたりして。もしかして欲求不満なの?」

「////……よ、欲求不満じゃなくて、ただの寝不足だから。もう、フェアリーったらやだなぁ。ははは」

 まさか、図星をつかれようとは思いもしなくて、真っ赤になってしまうという、なんとも恥ずかしい目に遭うこととなった。

 なんとか笑いで誤魔化すことができたけれど、これではバレバレだ。

「その様子だと、どうやら図星みたいね? いくら欲求不満だからって、寝床をともにしているレオンに欲情したらダメよ? 人狼が生まれちゃうから」

「////……よ、よ、よく」

 案の定、ズバズバと鋭い指摘と、吃驚発言とをお見舞いされてしまった。

 私は、尚も真っ赤にさせられ口をパクパクさせることしかできない。そこへ。

「ノゾミ様、どうかしましたかな?」

「……今、人狼がどうとかって言わなかった?」

 仕事を終えたルーカスさんと一緒に戻ってきたピクシーの声が合わさった。

 ボンと火を噴く勢いで全身を真っ赤にさせた私は、

「なんでもありません」

それだけ言って小さくなるしかない。

「ふふふっ、なんでもないわよ。さぁ、夕飯の準備、準備」

 フェアリーの笑い声が聞こえてきたけれど、話題を変えてくれたことに安堵しつつも内心は穏やかじゃなかった。

 そんな私の足下では、いつものように擦り寄って甘えていたレオンが私のことを不思議そうに見上げつつ首を傾げていて。

 レオンのサファイアブルーの綺麗な瞳と視線がかちあった刹那、言いようのない気まずさと羞恥に襲われてしまい、無性にこの場から消えたくなった。

 けれども、そういう能力は備わっていないようで。

 当然、消えることもなく、身体を縮こめ、スープの入った鍋を掻き混ぜ続けるしかなかった。

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