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番外編~海翔のライバル~
#5
しおりを挟む翌日、私が朝食を作ろうと思って起き上がろうとすると、
「芽依、良いからもっとゆっくり寝てろって……。ほら、ちゃんと寝とくんだぞ?」
そうやって、まるで小さな子供に言い聞かせるようにして、私をベッドに寝かせると、海翔は手早く朝食の準備をしてくれて。
朝食を一緒に済ませてからは、当たり前のように片づけもさっさと海翔一人で片してしまった。
その後すぐ、何やらすることがあるとか言って書斎に篭ってたと思ったら、海翔にパソコンに向かって何かを熱心にネットで検索しているようだった。
それから暫くして、海翔の車で産婦人科に向かっていると、近所の産婦人科とは方向が違うようだったから聞くと、
「あれ? 近くの産婦人科に行くんじゃないの?」
「は!? 芽依、あそこに行くつもりだったのか? あそこの医者は若い男なんだぞ? んなとこ行かせるはずねぇだろ…」
なんて言葉が返ってきた。
海翔は言いはしなかったけれど、おそらくさっき書斎に籠っていたときに、産婦人科のことを色々調べていたんだろうと思う。
助手席から、海翔のムッとした横顔を見つめながら、自分のお腹にソッと手を重ねて、 ちゃんとここに居てくれますように……心の中で何度もそう願い続けた。
***
その夜、夕飯を済ませた私と海翔とミルクは、リビングのソファーでゆっくりと寛いでいた。
私は、ソファーの背凭れに深く座っている海翔の脚に挟まれるようにして、後ろからお腹を大事に包み込むようにして抱きしめられている。
そして、海翔の大きな手によって、時々お腹を優しく撫でられていた。
「ヤダ。海翔、くすぐったいよ~」
くすぐったくて大きな声をあげると、隣で丸くなって眠ってたミルクがびっくりして飛び起きてしまった。
海翔が起きしてしまったミルクの頭を優しく撫でながら、
「ミルクごめんな。けど、なんかずっとこうして触ってたい。まだ小さいエビみたいだったけど、やっぱり可愛いもんだよな?」
「海翔ってば、また、エビっていう」
「だってあれはエビにしか見えなかったろ?」
産婦人科で赤ちゃんが居ると解かってから、 私と海翔はこういうやりとりを何度も繰り返している。
私と海翔がそんなやりとりをしていると、飛び起きてしまったミルクが不思議そうに、こちらの様子をジッとうかがうようにして見つめてくるから。
私はミルクを抱き上げて膝の上に乗せて、
「ミルク、ここにね、赤ちゃんが居るんだよ」
ミルクの顔を見つめながら話しかけていると、ソファーに深く座ってた海翔がゆっくりと起き上がってきた。
そして、ゆっくりと私の肩越しにミルクを覗きこんできて、
「俺と芽依にとって、ミルクの次に大事なもんができたんだぞ?」
さっきと変らず、とっても楽しそうに笑みを零しながら、まるでミルクに説明するように、そう言い聞かせる海翔を見ていると、ジンと胸の奥が熱くなってきた。
海翔に出逢う前までは、こんな日が来るなんて想像もできなかったのに……。
私は、ミルクに言い聞かせるようにして喋り続ける海翔の腕の中で、そっと静かに、この幸せを噛み締めていた。
そんな私の耳に、
「まぁ、けど、それだけ大事なもんってことは、俺やミルクにとっては、ライバルでもあるんだけどな…」
そんな言葉が流れこんできた。
……え?
ライバル……?
「どういう意味?」疑問を口にすると、
「……ん? あぁ、だって母親にとって子供は自分の腹ん中で育てて、命がけで産むだろ?
そんな自分の分身みたいな存在が、可愛く笑ったり喋ったりするようになってみろよ?
俺やミルクが敵うわけねぇだろ……。なぁ? ミルク」
なぁんて、拗ねたように言う海翔には唖然としてしまったけど、その間も私のお腹を大事そうにずっと撫でていて。
海翔の横顔をチラリと盗み見てみれば、とっても嬉しそうに満面に笑みを浮かべて、本当に幸せそうな表情をして笑みを零している。
ねぇ、海翔、知ってる?
私は、
毎日こうやって、
……色んな海翔に出逢う度に、
何度も何度も恋に落ちてるんだよーー。
だから、
海翔のライバルなんて、
どこにも存在しないんだよ
お腹の中に居るこの子でさえも、
海翔に適うことなんてないんだから……。
海翔のあったかい腕の中、私は心の中でそっと呟いた。
~END~
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