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#4 内科医VS外科医
#4
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でも普通、好きな人を画像で脅したりする?
しないよね。そんなことしたら嫌われるだけだし。
だとしたら、やっぱり私と一緒で好意じゃなく、気が強くて可愛げのない女だって疎んでたのが、周囲には意識してたように見えてしまったのだろう。
そうやって幾度となく、自分に言い聞かせていた。
そういう時に限って、どういう訳だか不意に、窪塚に欠点を見抜かれた時の光景が脳裏に浮かんでくるのだ。
✧✦✧
あれは、ちょうどニ年前。
研修医になったばかりの、梅雨に入ってすぐの頃だ。
初期研修中、だいたい内科は半年、外科や救急、麻酔科などは三ヶ月ごとのローテーションで様々な診療科を渡り歩くのだが。
急性期病棟の救命救急センターでの研修の際、運の悪いことに窪塚と一緒だった。
その時に、ちょっとしたアクシデントがあって、それ以来、窪塚のことを今のように敵視するようになった。
その頃の私は、まだ外科医を目指していたのだが、ある不安材料があって、それをなんとか克服しようと必死だったにもかかわらず、一向に克服の兆しもなく。
スタートラインが同じだったはずの窪塚との差は開くばかりで、焦りもあったのかもしれない。
それに加えて、一刻を争う、緊急性の高い患者の受け入れに追われる慌ただしい現場のピンと張り詰めた緊張感も相まって、私は少々テンパり気味だった。
そこへ、胸の痛みを訴えて、緊急搬送されてきた四十代男性の意識は既に混濁状態。
ただちに処置室での処置が始まり、研修医の私たちは救命救急医である指導医や上級医から矢継ぎ早に出される指示に従い、それぞれの持ち場に着いていた。
指示といっても大したことを任されていた訳じゃなく、ごくごく簡単なことだ。
命じられるままに処置に使用する機材の準備や薬品などを指導医や上級医に手渡したりというサポート的なモノで、後は処置の妨げにならないよう、ただただ救命救急医の技術を吸収しようと目に焼き付けていただけなのだけれど。
その際に、突然患者が激しく咳き込み始めたかと思った次の瞬間には、大量吐血。
災難なことに、ちょうど傍にいた私の腕を患者が苦し紛れに掴んできたために、ラテックスの手袋越しにそれら全てを掌で受けることとなってしまい。
フリーズするだけでなく、その場にしゃがみ込んでしまうという大失態を犯してしまったのだ。
そしてそれを少し離れた場所にいたはずの窪塚が素早い身のこなしで駆け寄り、すぐに立ち上がらせてくれたのだが……。
『おいおい、嘘だろ。んなことくらいでパニクってんじゃねーよッ!』
『おいッ! 邪魔だ、どけッ!』
処置の妨げとなったため、殺気だった救命救急医らから怒声を浴びせられることになって。
いたたまれないながらも、脳裏には、幼い頃の記憶が呼び起こされてしまい。
怖くて怖くて身体が戦慄するばかりで、動けずにいた私のことを周囲に『体調が悪いのにずっと我慢していたようだ』と機転を利かせ、処置室の外へと連れ出してくれたのも窪塚だった。
しないよね。そんなことしたら嫌われるだけだし。
だとしたら、やっぱり私と一緒で好意じゃなく、気が強くて可愛げのない女だって疎んでたのが、周囲には意識してたように見えてしまったのだろう。
そうやって幾度となく、自分に言い聞かせていた。
そういう時に限って、どういう訳だか不意に、窪塚に欠点を見抜かれた時の光景が脳裏に浮かんでくるのだ。
✧✦✧
あれは、ちょうどニ年前。
研修医になったばかりの、梅雨に入ってすぐの頃だ。
初期研修中、だいたい内科は半年、外科や救急、麻酔科などは三ヶ月ごとのローテーションで様々な診療科を渡り歩くのだが。
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その時に、ちょっとしたアクシデントがあって、それ以来、窪塚のことを今のように敵視するようになった。
その頃の私は、まだ外科医を目指していたのだが、ある不安材料があって、それをなんとか克服しようと必死だったにもかかわらず、一向に克服の兆しもなく。
スタートラインが同じだったはずの窪塚との差は開くばかりで、焦りもあったのかもしれない。
それに加えて、一刻を争う、緊急性の高い患者の受け入れに追われる慌ただしい現場のピンと張り詰めた緊張感も相まって、私は少々テンパり気味だった。
そこへ、胸の痛みを訴えて、緊急搬送されてきた四十代男性の意識は既に混濁状態。
ただちに処置室での処置が始まり、研修医の私たちは救命救急医である指導医や上級医から矢継ぎ早に出される指示に従い、それぞれの持ち場に着いていた。
指示といっても大したことを任されていた訳じゃなく、ごくごく簡単なことだ。
命じられるままに処置に使用する機材の準備や薬品などを指導医や上級医に手渡したりというサポート的なモノで、後は処置の妨げにならないよう、ただただ救命救急医の技術を吸収しようと目に焼き付けていただけなのだけれど。
その際に、突然患者が激しく咳き込み始めたかと思った次の瞬間には、大量吐血。
災難なことに、ちょうど傍にいた私の腕を患者が苦し紛れに掴んできたために、ラテックスの手袋越しにそれら全てを掌で受けることとなってしまい。
フリーズするだけでなく、その場にしゃがみ込んでしまうという大失態を犯してしまったのだ。
そしてそれを少し離れた場所にいたはずの窪塚が素早い身のこなしで駆け寄り、すぐに立ち上がらせてくれたのだが……。
『おいおい、嘘だろ。んなことくらいでパニクってんじゃねーよッ!』
『おいッ! 邪魔だ、どけッ!』
処置の妨げとなったため、殺気だった救命救急医らから怒声を浴びせられることになって。
いたたまれないながらも、脳裏には、幼い頃の記憶が呼び起こされてしまい。
怖くて怖くて身体が戦慄するばかりで、動けずにいた私のことを周囲に『体調が悪いのにずっと我慢していたようだ』と機転を利かせ、処置室の外へと連れ出してくれたのも窪塚だった。
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