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#6 不埒な純愛
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意識を失ってた間、私は夢を見ていたようだった。
その夢というのは、私が小学一年生の頃、同級生であり同じマンションに住んでいた幼馴染みでもあった男の子、“優くん”と、当時人気だったテレビドラマの話をしていた時の懐かしい光景だ。
その主人公というのが、神の手を持つと巷でもてはやされているような天才外科医で。
手術が不可能だといわれているような難易度の高いオペを次々に成功させて、多くの患者の命を救うという、大人向けの医療系ドラマだった。
その幼馴染みの優くんのお父さんが外科医だったことで、
『将来はお父さんのような外科医になるんだ』
というのが優くんの夢であり口癖だったことから、私も自然と外科医に憧れるようになっていた。
けれど、ある朝、登校児童を迎えにきていた送迎用のバスに乗り込んでいた際に、高齢者が運転する車がそこに突っ込んでくるという、いたましい事故に巻き込まれ、その夢は儚くも砕け散ることになる。
その時に、ちょうど優くんの後ろにいた私は、正面から向かってくる車に気づいていたらしい優くんの『鈴ちゃんッ!』という叫び声を耳にしたと同時。
背後の私に向かって突進してくるようにぶつかってきた優くんのお陰で、運良く、背後に位置する植栽の上へと倒れ込んだことにより、ほんのかすり傷程度で済んだ。
けれども、何が起こったか状況が把握できずにいた私は、その場で泣きじゃくることしかできずにいた。
直後、私たちのことを見送ってくれていた母が血相を変えて駆け寄ってきて、抱き起こしてもらったことでようやく何が起こったのかを知ることになったのだが。
事故直後の惨状を前に、呆然と立ち尽くす母の腕の中で、それを目にした私は、ショックのあまり泣くことも言葉を発することもできず、眼前で繰り広げられるドラマの中のような惨状をただただ呆然と見つめることしかできずにいた。
そこには、見るからにぐったりとしている、その小さな優くんの身体を抱きしめたまま人目も憚らず泣き崩れている優くんのお母さんの姿があって。
その周囲には、衝突したことにより飛び散ったと思われる、大破した車やバスの破片が散乱していて、まるでニュースなどで目にした戦場のよう。
なかには、転倒して泣きじゃくる児童や、私と同じようにあまりのショックに呆然と見守ることしかできないでいる児童や、その児童らに駆け寄ってきた大人の姿や声、到着したばかりの緊急車両や警察車両のサイレンの音らで溢れかえっていた。
後になって知ったことだが、その事故で、優くんを含む三名の児童の尊い命が犠牲となり、ニュースでも連日のように取り上げられていたらしい。
あれからもう二十年近く経っていることもあり、大人となった今では、子供の頃に比べれば、その時の光景を思い出すこともなくなってきたが、交通事故の現場を目にしたり、大きな物音や大量の血を見てしまうと、あの時目にした惨状が恐怖心とともに蘇ってくる。
それが血が苦手になった原因であり、トラウマでもあった。
けれども、あの時、優くんのお陰で助かったのだから、優くんのためにも、どうしても外科医になるという夢を叶えたかったのだ。
というのも、小さい頃、人見知りの激しかった私は、クラスに馴染めずにいたのを、明るくて優しい優くんがいつも声をかけてくれて、それがきっかけでクラスにも打ち解けることができたから余計だった。
今にして思えば、それが私にとっては初恋だったのかもしれない。
……だが、その事故のことがあるため、両親は、ひどく心配して、医者になることを反対していたのだ。
でも、どうしても諦めきれなかった私は、子供の頃から可愛がってもらってた光石総合病院の院長であるおじさんや副院長の小百合さんの援護射撃のお陰もあって、なんとか両親を説得し、医大を受験し見事合格を勝ち取った。
私が曽祖父の主治医だった小百合さんにかねてから憧れを抱いていて、よく見学させてもらっていたこともあり、ふたりとも快く引き受けてくれたのだ。
両親は、在学中に私が医者になるのを諦めると思っていたようだが、卒業間近、おじさんの元で働きたいと言いだした私に対して猛反対。
そこで、絶縁することになったというわけだ。
絶縁といっても、就職したのを機に、両親(特に父)へ対する反発心から、母親の旧姓である『高梨』を名乗っているだけで、戸籍上は今も『神宮寺鈴』のままだし。
一人暮らししようと企てていたのだって、心配性の父によって阻止されてしまい。
結局は、母の実家が経営している、江戸時代から代々引き継がれてきたという老舗料亭『橘』の後継者である母の兄で私の伯父でもある高梨侑磨が世帯主である高梨家で居候中の身である。
因みに、私の父は、日本全国は元より海外にも進出しており、チョコだけでなく日本製の高級腕時計などの宝飾品やオーダーメイドのスーツなど幅広く取り扱っている、誰もが知る老舗高級チョコレートブランド『YAMATO』の社長を務めている。
なんともお偉い職に就いてはいるが、娘である私にとっては、ただの口うるさい頑固親父でしかなかった。
思いがけず交通事故に遭遇してしまったがために、ひどく懐かしい夢をみたせいか、絶縁状態である両親、特に心配性で口やかましい父のことまで夢に出てきてしまい、気分は最悪。
そのせいか、寝苦しさを覚えてしまった私が寝返りを打ったところで何かにぶつかり、なんだろうと、目を開けたその先に、こちらに向いて転た寝している窪塚の端正な寝顔が待ち受けていたものだから、驚きすぎて、危うく口から心臓でも飛び出すんじゃないかと、要らぬ心配をしてしまったほどだ。
その夢というのは、私が小学一年生の頃、同級生であり同じマンションに住んでいた幼馴染みでもあった男の子、“優くん”と、当時人気だったテレビドラマの話をしていた時の懐かしい光景だ。
その主人公というのが、神の手を持つと巷でもてはやされているような天才外科医で。
手術が不可能だといわれているような難易度の高いオペを次々に成功させて、多くの患者の命を救うという、大人向けの医療系ドラマだった。
その幼馴染みの優くんのお父さんが外科医だったことで、
『将来はお父さんのような外科医になるんだ』
というのが優くんの夢であり口癖だったことから、私も自然と外科医に憧れるようになっていた。
けれど、ある朝、登校児童を迎えにきていた送迎用のバスに乗り込んでいた際に、高齢者が運転する車がそこに突っ込んでくるという、いたましい事故に巻き込まれ、その夢は儚くも砕け散ることになる。
その時に、ちょうど優くんの後ろにいた私は、正面から向かってくる車に気づいていたらしい優くんの『鈴ちゃんッ!』という叫び声を耳にしたと同時。
背後の私に向かって突進してくるようにぶつかってきた優くんのお陰で、運良く、背後に位置する植栽の上へと倒れ込んだことにより、ほんのかすり傷程度で済んだ。
けれども、何が起こったか状況が把握できずにいた私は、その場で泣きじゃくることしかできずにいた。
直後、私たちのことを見送ってくれていた母が血相を変えて駆け寄ってきて、抱き起こしてもらったことでようやく何が起こったのかを知ることになったのだが。
事故直後の惨状を前に、呆然と立ち尽くす母の腕の中で、それを目にした私は、ショックのあまり泣くことも言葉を発することもできず、眼前で繰り広げられるドラマの中のような惨状をただただ呆然と見つめることしかできずにいた。
そこには、見るからにぐったりとしている、その小さな優くんの身体を抱きしめたまま人目も憚らず泣き崩れている優くんのお母さんの姿があって。
その周囲には、衝突したことにより飛び散ったと思われる、大破した車やバスの破片が散乱していて、まるでニュースなどで目にした戦場のよう。
なかには、転倒して泣きじゃくる児童や、私と同じようにあまりのショックに呆然と見守ることしかできないでいる児童や、その児童らに駆け寄ってきた大人の姿や声、到着したばかりの緊急車両や警察車両のサイレンの音らで溢れかえっていた。
後になって知ったことだが、その事故で、優くんを含む三名の児童の尊い命が犠牲となり、ニュースでも連日のように取り上げられていたらしい。
あれからもう二十年近く経っていることもあり、大人となった今では、子供の頃に比べれば、その時の光景を思い出すこともなくなってきたが、交通事故の現場を目にしたり、大きな物音や大量の血を見てしまうと、あの時目にした惨状が恐怖心とともに蘇ってくる。
それが血が苦手になった原因であり、トラウマでもあった。
けれども、あの時、優くんのお陰で助かったのだから、優くんのためにも、どうしても外科医になるという夢を叶えたかったのだ。
というのも、小さい頃、人見知りの激しかった私は、クラスに馴染めずにいたのを、明るくて優しい優くんがいつも声をかけてくれて、それがきっかけでクラスにも打ち解けることができたから余計だった。
今にして思えば、それが私にとっては初恋だったのかもしれない。
……だが、その事故のことがあるため、両親は、ひどく心配して、医者になることを反対していたのだ。
でも、どうしても諦めきれなかった私は、子供の頃から可愛がってもらってた光石総合病院の院長であるおじさんや副院長の小百合さんの援護射撃のお陰もあって、なんとか両親を説得し、医大を受験し見事合格を勝ち取った。
私が曽祖父の主治医だった小百合さんにかねてから憧れを抱いていて、よく見学させてもらっていたこともあり、ふたりとも快く引き受けてくれたのだ。
両親は、在学中に私が医者になるのを諦めると思っていたようだが、卒業間近、おじさんの元で働きたいと言いだした私に対して猛反対。
そこで、絶縁することになったというわけだ。
絶縁といっても、就職したのを機に、両親(特に父)へ対する反発心から、母親の旧姓である『高梨』を名乗っているだけで、戸籍上は今も『神宮寺鈴』のままだし。
一人暮らししようと企てていたのだって、心配性の父によって阻止されてしまい。
結局は、母の実家が経営している、江戸時代から代々引き継がれてきたという老舗料亭『橘』の後継者である母の兄で私の伯父でもある高梨侑磨が世帯主である高梨家で居候中の身である。
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なんともお偉い職に就いてはいるが、娘である私にとっては、ただの口うるさい頑固親父でしかなかった。
思いがけず交通事故に遭遇してしまったがために、ひどく懐かしい夢をみたせいか、絶縁状態である両親、特に心配性で口やかましい父のことまで夢に出てきてしまい、気分は最悪。
そのせいか、寝苦しさを覚えてしまった私が寝返りを打ったところで何かにぶつかり、なんだろうと、目を開けたその先に、こちらに向いて転た寝している窪塚の端正な寝顔が待ち受けていたものだから、驚きすぎて、危うく口から心臓でも飛び出すんじゃないかと、要らぬ心配をしてしまったほどだ。
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