嘘つき同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。【改稿版】

羽村 美海

文字の大きさ
64 / 109
#7 寝ても醒めても

#2

しおりを挟む
 窪塚と初デートした日からもうそろそろ一月を迎えようとしている。

 けれど、あれ以来二度ほど、仮眠室での情事を重ねただけで、窪塚とはそれきりまともに逢えていないから余計だ。

 専攻医である私も窪塚も、日々の慌ただしい業務と専門医になるための勉強に励んでいるからというのは勿論のこと。

 窪塚に至っては、上級医である樹先生が珍しい症例の新たな術式についての研究結果を近々学会で発表するにあたり、データをまとめたりといった論文の手伝いもあるとかで。

 かれこれニ週間あまり、逢う時間もままならないという状況が続いている。

 普通のカレカノなら、逢えない間、電話やメールのやり取りでのコミュニケーションという手段もあるだろうが。

 セフレでしかない私たちにはそれがないため、この二週間、ときたま院内でちらっと顔を合わせることはあっても、まともに会話すらできていない。

 表向きにはカレカノではあるものの、実際にはただのセフレなのだから、当然と言えば当然なのだけれど……。

 同じ院内で働いているというのに、窪塚に逢えないことで、余計に想いが募ってしまっている気がする。

 お陰で、院内での移動中なんかに、窪塚と同じロイヤルブルーのスクラブに身を包んでいる男性医師の姿を見かけるたびに、知らず知らずのうちに視線で追ってしまっていたりして。

 それを彩に、ここぞとばかりに鋭く指摘されてしまうという有様だった。

『なになに? もしかして、窪塚だと思っちゃった?』
『べ、別に。たまたま見てただけだしッ』
『へぇ、たまたまね~』
『そう。たまたまだから』

 だからといって、素直にそれを認められるほど、可愛げのある性格なんて持ち合わせていないため、毎回毎回、飽きることなく速攻で跳ね返してしまうのだが。

『もー、鈴ってば。ホントに素直じゃないんだからぁ。でも、そんな鈴がまさか、窪塚のためにおしゃれに気を配ったり、私にメイクを教えてほしいなんて言ってくる日が来るなんて。もうほんっとーに吃驚だったんだからぁ』

 仕事もプライベートも何もかもを知り尽くしている、自他共に認める親友である彩にかかれば、私なんてほんの数秒で戦意喪失状態にまで追い込まれてしまい。

 窪塚を振り向かせるためにも、まずは皆無に等しい女子力をなんとかしなくてはと一念発起。

 彩のことを頼ってしまったことを今更ながらに後悔したってもう後の祭りだ。

 こういうときには毎回決まって、ところ構わず、真っ赤になって大慌てで彩の口を塞ぐという、わかりやすすぎる狼狽えぶりを披露してしまっていた。

『////ーーも、もーッ! 彩ってばッ。声が大きいんだってばぁ!』
『ちょっ、んッんん~~ッ!?』

 その光景をすれ違う職員らに生温かな視線でチラチラと盗み見られるという、なんとも恥ずかしい場面を幾度となく、やり過ごしていたのだった。

 それもこれも、窪塚のことを好きだという想いに突き動かされてしまっているせいだ。

 これまで勉強と仕事のことしか頭になかった自分が、まさか、こんな風に、恋愛事に右往左往する日が来るなんて。

 吃驚だし、二月前には夢にも思っちゃいなかった。

 まったく、人生、いつ何時何があるか分からないものだ。

 でも、窪塚のことを好きだと自覚してからというもの、相変わらず仕事にも勉強にも忙殺されて毎日ヘトヘトだけど。

 ーーどっちも頑張るぞ。やってやるぞ。

 という具合に、前向きに、ヤル気とパワーが漲ってきて、以前とは比べものになんないくらい、仕事でもプライベートでも、とっても充実した日々を送れている気がする。

 なにより驚いたのが、そんな前向きな自分のことをまんざらでもない、むしろ好きだ、と思えるようになれたことだ。

 以前は、影でビッチなんて呼ばれてるにもかかわらず、全然女らしくもなく、可愛げのない自分のことがどうにも好きになれずにいたのが嘘みたいだ。

 恋のパワーは偉大なんだなって、しみじみ想う今日この頃。

 そんな日々を経て、以前、同期の加納に出欠の確認をされた際に、偶然居合わせた窪塚が珍しく参加したいと言いだした、例のセミナーが開催される当日の朝を迎えたのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

処理中です...