嘘つき同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。【改稿版】

羽村 美海

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#7 寝ても醒めても

#4

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 私は別にアイドルなど興味なんてなんてさらさらないが、そんな私から見ても。

 確かに、見た目も、アイドルグループの一員ですか? と思うくらい中性的で甘めの顔つきをしている。

 女の子みたいな長い睫に縁取られたパッチリ二重が印象的で、少し癖のある茶髪の髪は無造作にセットされていて、その様は、実に愛らしく見える。

 最近メイクを覚えたての身からすると、なんとも羨ましい限りだ。

 彩曰く、少し前に流行った『あざと可愛い系男子』であるらしい。

 オマケに、両親が都内で名の知れた美容整形クリニックを経営しているとくれば。

 そりゃあ、モテない訳がない。

 けれども私には、その王子様のような煌めく、通称『王子様スマイル』が、どうにも胡散臭く思えてならなかった。

 それに加えて、誰とでもすぐに仲良くなれる、明るく人懐っこい性格の持ち主で、『ワンコみたいで可愛い』なんて言われて、若い女性職員たちにもてはやされちゃいるが、こう見えて結構強引な一面がある。

 その強引さは、あたかも興味を持った人にロックオンした子犬が、遊んで欲しさに尻尾をぶんぶん振って闇雲に飛びついてきて、懐に強引に飛び込んできたら最後、飽きるまで離れてくれない。そんな風に見えるというか、どうにも苦手なタイプだった。

 それに、なんだろう。

 猫を被っているような気がするというか、二面性があるように感じられるというか。

 兎に角、あまり仲良くはなりなくない部類の人種だ。

 それ故、羽田とは極力関わり合いにならないように、話しかけられても、必要最低限のことしか話さないことで、彩にちょっと冷たすぎるんじゃないかって言われてしまうくらい素っ気なくも振る舞ってきた。

 確かに自分でも冷たいって思うけれど、苦手なものは苦手なんだから、どうしようもない。

 それなのに、どういうわけか、妙に懐かれてしまっていた。

 こうして、ことあるごとに話しかけてくるもんだから、正直辟易している。

 研修医は、内科で六ヶ月の研修を受けるのだが、もうすぐ終了なので、あとの数日の辛抱だ。

 そう自分に言い聞かせて、さっさと追い払ってやろうと、羽田に向き直ったのだった。

「……羽田も来てたんだね? お疲れ。けどごめん。今日は午後からセミナーもあるし、早く終わらせたいから、そっとしておいてくれると助かる」

 ところがそれがかえって裏目に出てしまうことになるのだった。

「わぁ、奇遇ですねぇ。僕もセミナーに参加するんで、ご一緒してもいいですか? 勿論、車もお出ししますので」

「……え? いや、用事もあるし、ひとりで行くから」

 羽田を追い払うのにセミナーのことを口にしてしまったがために、思わぬ誤算が生じてしまうことに。

 羽田からの思いがけない申し出に面食らいつつも、即刻で突っぱねたのだが、それを好機とばかりに、あざとい羽田が特技の強引さを遺憾なく発揮してくるのだった。

「あっ、もしかして、窪塚先生と一緒に行かれるんですか?」

「////ーーえ、いや、別にそういうわけじゃ……」

 ーーないんだけど。

 でも、セミナーの後はもしかしたら窪塚と一緒に過ごすことになるかもしれないし。

 というか、そうなればいいなっていう、私の願望でしかない。

 だから、ハッキリと言い切れないところが辛いとこなんだけれど。

 どうやら、それがまずかったようだ。

「それじゃあ、問題ないですよね? 僕だけじゃなくて他の研修医も一緒なので、ご心配には及びませんから。だからいいでしょう? ねえ、鈴先生ぇ」

 羽田からの誘いを自ら断り辛い状況に追い込んでしまうこととなってしまった。

 私が『しまった』と思ったときには、時既に遅しで、羽田がお得意の可愛いワンコを彷彿とさせる潤みを帯びた円な瞳で縋るようにして、上目遣いで見つめてきて、甘えた口調で畳みかけてくる。

 だからって、ここで断らないと非常にまずいような気がする。

 この調子でグイグイこられたら、そのままどんどん予期せぬ方に流されてしまいそうだ。

 否、流されてしまいそうじゃなくて、窪塚の時にそうだったように、きっと流されてしまうに違いない。

 どうにも私はこの手の押しに弱いところがある。

 ーーここはスパンと一刀両断、キッパリと断っておかないと。

 まったく私の意見なんか聞いちゃいない羽田の、一体どこがワンコ系イケメン王子なんだと思ってしまうほどの強引さに圧され気味ではあったものの、なんとかそう心に決めて口を開こうとしたタイミングで。

 どうやら私たち同様に医局に赴いていたらしい上級医である男性医師の、実に脳天気で明るい間延びした声が医局内に響き渡った。

「お疲れ~!」

 ーータイミング悪すぎ。主要キャラでもないのに、邪魔しないで欲しいんだけど。

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