推しに激似のクールな美容外科医のお飾り妻になるはずが、溺愛されて陥落寸前です

羽村 美海

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従兄の奇襲

「――ッ⁉ 杏璃?」

 茫然と見つめることしかできない杏璃を振り返ってきた央輔は、ギョッとした様子で杏璃の姿を捉えた。

 杏璃の頬の涙を視認したのだろう。物凄い勢いで向き直ってきた央輔により杏璃の身体は再び腕に閉じ込められたのだった。

 その背後では、物珍しそうに生あたたかな視線と冷やかしとを送ってくる啓輔の姿があった。

 しばらくして、優しく涙を拭ってくれた央輔から杏璃はこの状況の説明と、啓輔という人物についての説明を受けた。

 啓輔は、洋輔の一粒種である長男であるらしい。ちなみに、身も心も完全なる乙女なのだという。というのはさておき。つまり、央輔にとって従弟にあたるそうだ。

 啓輔は、医師の道を選ばず、大学を中退してメイクアップアーティストになるため単身で渡米し、現在は海外を拠点に売れっ子メイクアップアーティストとして活躍しているのだという。

 このマンションに入れたのは、鷹村グループの子会社が管理会社であるからであるらしい。要するに職権乱用だが、そこは目を瞑ることにして突っ込まないでおいた杏璃だ。

 今回、央輔が呼びつけられた仕事は、啓輔の紹介により実現したそうだ。

「まぁ、そういうわけだから。杏璃ちゃん、嫉妬なんてしなくても大丈夫よ。だからね、ほら、機嫌直してね。いい子いい子」

 説明を聞き終えた杏璃が改めて啓輔に挨拶をしたところ、急に引き寄せられた杏璃は啓輔にハグされ、頭まで撫でられて固まった。

 突然の出来事にポカンとするしかない杏璃は、即座に央輔により引き剥がされて、耳元に囁かれた。

「驚くのも無理もないと思うが、俺以外の男に触れさせたら駄目だろう。バツとして、今夜は寝かせないからな」

 ボンッと火を噴きそうなほど全身を紅潮させる。杏璃の様子に満足したようにゆっくり離れた央輔は、啓輔を伴い今度こそ仕事へと向かったのだった。
 
 杏璃の従兄はどうしたのかというと……。あの後すぐに折り返しの着信があり、到着ははやくても一時間後になるそうだ。

 何でも、新婚の邪魔をするような暇があるなら稽古をしなさいと、芸事に厳しい祖父に足止めを食らったらしい。

 ――さすがは人間国宝。グッジョブ! である。

 けれど、前回帰省した際には祖父は仕事で不在だったため、杏璃の顔を見たいと零したそうだ。その結果、杏璃は央輔と共に実家に招かれることとなった。さらに同じタイミングで央輔に呼び出しの電話があった。

 それにより、央輔とは別行動をとらざるを得なくなったのである。

 電話の主は洋輔だ。

 来月、海外からのVIP患者――ハリウッド女優が極秘で来日する予定だったのが急遽早まったのだという。

 縫合痕を目立たなくする手技に長けている央輔の腕を見込んで乳房縮小術を希望しており、直接会って話がしたい、とのことらしい。

 急なことではあるが、相手は世界的な有名人である。機嫌を損ねるわけにいかない。

 ここで恩を売っておけば、新たな顧客獲得に繋がる可能性は充分にある。央輔曰くそう考えたに違いない洋輔に「迎えをやったからすぐに来てほしい」そう言って、央輔は呼びつけられたのである。

 それを聞いた杏璃の心情は複雑だった。

 他の部位の手術ならそうでもなかったと思うが、乳房というのだから無理もない。しかも、相手は子役時代から美しい容姿と確かな演技力に注目され、歳を重ねた現在も絶大の人気を誇っている。これまで数多の浮き名を流してきた銀幕の大女優である。齢四十をすぎて衰えるどころか、一層美しさに磨きがかかっている。

 不安にならないわけがない。

 央輔は、杏璃が夢中になっていた元推しもかくやというほどの美貌を有しているのだから、当然だ。

 ――けれど、心から通じ合えたのだから、心配はないはずだ。

 杏璃は不安な思いを打ち消し、央輔の仕事がうまくいくように心から願いながふたりの背中を見送ったのだった。
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