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episoudo:2
#4
しおりを挟む俺に何もかもを委ねるように、ジーッと真っ直ぐに見つめたまんまで逸らそうとしない潤んだ瞳。
そんなふうに見つめられたら、自分の都合の良いように解釈して、酔ってるコイツに縋ってしまいそうになる。
心の奥深くに仕舞い込んで封印しようとしてた何もかもを……一時でも良いから、忘れさせて欲しいと願ってしまう。
たまたま一緒に飲むことになっただけで、たまたまコイツガ悪酔いして目覚めた時に俺が居たってだけなのに。
俺はコイツにとってはただの上司であって特別な存在でもないのに。
もし、今、俺がコイツに縋ってしまったら、コイツは後で絶対に後悔することになる。
ーーそう解っているのに、薄い皮一枚で繋ぎとめてるような、こんな頼りない理性じゃ、もうもちそうもない。
「……黒木、お前、本当に俺でも良いのか?」
身勝手な俺は、酔ってるコイツに、判断を委ねるというズルいやり方しかできなかった。
俺の言葉を聞いた黒木は、俺を真っ直ぐ見つめたままで、潤んだ大きな瞳を揺らしながら微かに唇を震わせた。
その潤んだ瞳には、チラチラと不安の色が見え隠れしてるように見える。
「ーー……」
そうして震える唇から少し遅れて出された声は、黒木の不安な気持ちを表すような小さな頼りないもので。
俺の耳に届く前に、辺りの静けさに吸い込まれるようにして消え去ってしまった。
いつもあんなに強気でツンケンしてるクセに……。
でも、だからこそ、余計そう感じてしまうのかもしれない。
気づけば俺は、黒木の微かに震える身体をそっと優しく包み込むようにして抱きしめていた。
こんなに頼りない弱々しいコイツを、無性になるだけ優しく包んでやりたくなったからだ。
そんな俺の突然の抱擁に、驚いただろう黒木が何かを言ってくる前に、
「どうした? 怖くなったか?」
優しく聞いて先を促してやると……。
「……やっぱり、痛いれしゅよね?」
変らず直ぐに消えてしまいそうなほどの、弱々しい声が聞こえてきた。
俺は、少しでも黒木の不安を取り除いてやりたくて。
「…まぁ、多少はな……。つっても、俺には解かんねぇけどな…」
わざと軽く微笑いながら答えてやれば、
「…でも、主任は、イケメンさんだから、慣れてましゅよね?」
“イケメンさん“なんて、可愛らしい言い方をする黒木に、俺は思わずフッと笑みが零れてしまっていた。
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