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それぞれの思惑~前編~
#14
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その声に驚いて、隣の木村先輩と私とが揃ってビクッと肩を跳ね上がらせてから同時に入り口の方へ恐る恐る振り返ると……。
入口のドアを開け放った夏目さんは、ここまで走って来たのか荒い息を落ち着かせるために肩を上下させて深呼吸を繰り返してるように見える。
そんなに慌ててどうしたのだろかと静かに見守っていると、
「何度電話を掛けても応答がないと思えば……。思った通りか」
少し距離も離れているし、弾む息を抑えながらしゃべってるせいもあってかハッキリとは聞こえてはこないけれど、ブツブツと呟くように言った後。
「まあいい。綾瀬、今度から休憩時間が終わる十分前には自分のデスクで待機しておくように。分かったか?」
いくぶん呼吸が整ってきたのだろう夏目さんが仕事用の落ち着き払った冷たい声で、有無を言わせないキツメの口調で言い放ってきて。
ーーなんだぁ、そんなことかぁ……。
大した用事じゃなかったことにホッとした私が、「はい。分かりました」素直に従えば、満足したような表情の夏目さんが今度はすかさず指示を出してくる。
「悪いが、副社長にお出しするチョコを貰ってきてくれないか?」
それに返事を返そうとした私よりも早く、
「それなら、もう店舗に戻るんで、俺が行きますよ」
気を利かせたんであろう木村先輩が先に応えてくれていた。
そしたら、どういう訳か、さっきよりも不機嫌そうな険しい表情に変わった夏目さんが、
「いや、結構だ。綾瀬、何してる? 聞こえてるならさっさと動け」
鋭い口調でピシャリと跳ね返すようにして放ったもんだから。
「はいっ! すぐに」
そう言って、ベンチから立ち上がって向かおうとしたら、隣の木村先輩に腕を引っ張られてしまい。
「いいから」
と私にだけ聞こえるような小さな声で言われて、どうしたものかと思っていると。
「それって、そんなに急がなきゃいけないことですか? いつも落ち着き払って冷静な夏目さんが、そんなことくらいでそんなに慌てるなんて、驚きました。そんなに綾瀬さんと俺が一緒に居るのが気に食わないんですか?」
いつも明るくてちょっとチャラくて軽い木村先輩が今まで見たこともないような険しい表情をして。
おまけに、あのすかしたインテリ銀縁メガネ仕様のおっかない夏目さんと対峙している。
夏目さんと木村先輩の視線とがちょうど交わるところで、まるで火花でも散ってるようなそんな錯覚までしきてしまうほどに……。
どういう訳か緊迫してしまったこのよく分からない理解しがたい状況に、どうしたらいいのか益々頭がこんがらがってきて分からなくなってくる。
一体全体どうなってしまうのだろうと、二人に置き去り状態の私は、オロオロとしていることしかできないでいた。
入口のドアを開け放った夏目さんは、ここまで走って来たのか荒い息を落ち着かせるために肩を上下させて深呼吸を繰り返してるように見える。
そんなに慌ててどうしたのだろかと静かに見守っていると、
「何度電話を掛けても応答がないと思えば……。思った通りか」
少し距離も離れているし、弾む息を抑えながらしゃべってるせいもあってかハッキリとは聞こえてはこないけれど、ブツブツと呟くように言った後。
「まあいい。綾瀬、今度から休憩時間が終わる十分前には自分のデスクで待機しておくように。分かったか?」
いくぶん呼吸が整ってきたのだろう夏目さんが仕事用の落ち着き払った冷たい声で、有無を言わせないキツメの口調で言い放ってきて。
ーーなんだぁ、そんなことかぁ……。
大した用事じゃなかったことにホッとした私が、「はい。分かりました」素直に従えば、満足したような表情の夏目さんが今度はすかさず指示を出してくる。
「悪いが、副社長にお出しするチョコを貰ってきてくれないか?」
それに返事を返そうとした私よりも早く、
「それなら、もう店舗に戻るんで、俺が行きますよ」
気を利かせたんであろう木村先輩が先に応えてくれていた。
そしたら、どういう訳か、さっきよりも不機嫌そうな険しい表情に変わった夏目さんが、
「いや、結構だ。綾瀬、何してる? 聞こえてるならさっさと動け」
鋭い口調でピシャリと跳ね返すようにして放ったもんだから。
「はいっ! すぐに」
そう言って、ベンチから立ち上がって向かおうとしたら、隣の木村先輩に腕を引っ張られてしまい。
「いいから」
と私にだけ聞こえるような小さな声で言われて、どうしたものかと思っていると。
「それって、そんなに急がなきゃいけないことですか? いつも落ち着き払って冷静な夏目さんが、そんなことくらいでそんなに慌てるなんて、驚きました。そんなに綾瀬さんと俺が一緒に居るのが気に食わないんですか?」
いつも明るくてちょっとチャラくて軽い木村先輩が今まで見たこともないような険しい表情をして。
おまけに、あのすかしたインテリ銀縁メガネ仕様のおっかない夏目さんと対峙している。
夏目さんと木村先輩の視線とがちょうど交わるところで、まるで火花でも散ってるようなそんな錯覚までしきてしまうほどに……。
どういう訳か緊迫してしまったこのよく分からない理解しがたい状況に、どうしたらいいのか益々頭がこんがらがってきて分からなくなってくる。
一体全体どうなってしまうのだろうと、二人に置き去り状態の私は、オロオロとしていることしかできないでいた。
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