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それぞれの思惑~後編~
#9 抜けてたので追加しました。
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やっぱりまだ熱があるせいか、私がボーッとしながら二人の様子を静かに窺っていると。
副社長があからさまに不愉快極まりないっていうような表現を浮かべ、自分の肩に置かれた光石さんの手の方へ視線をゆっくりと巡らせて。
ただでさえ、涼しげでクールな切れ長の瞳を、よりいっそう忌々しげに細めたかと思うと。
まるでそこからブリザードでも放っているかの如く、冷たい視線で睨み付けているように見える。
正面から、そんな冷たい鋭い視線で見据えられたら、さぞかし恐ろしいことだろう。
そう思い、ボーッと視線を光石さんへと向けてみるも。
慣れているのか、さっきと同じような表現を浮かべているように見える。
一方、副社長は、シッシッとまるで埃でも払うかのような手つきで、光石さんの手をさっさと払いのけると。
小バカにするようにフンッと大袈裟に鼻で笑ってから、
「お前なんかと一緒にしないでもらいたい。結婚まで考えてるというのに、セクハラなんかで訴えられるような、そんなことはしない。診察が終わったのなら、さっさと美菜の検査のオーダーでも出しに行け」
至極、当たり前のように、私たちの事情なんて知らないんだろう光石さんに対して、きっぱりと言い切ってしまった副社長。
――イヤイヤイヤ、副社長。そう言い切っておられますが、結構なセクハラやパワハラをお見舞いされゃってたと思うのですが……。
まぁ、別に、されてたからって、訴える気なんて、毛ほどもございませんけれども。
「はぁっ!? マジかっ!?」
直後、大そう驚いた光石さんの、医者らしからぬ大きな声が、ひっろい病院内にコダマしたことは説明するまでもないだろう。
麗しの副社長と比較すると、見かけは少しワイルド系だけれど、病気の患者さんに接してるせいか、とても気さくで親しみやすく、例えるならチョイ悪風な雰囲気を持つ光石さん。
さっき検温に来てくれた若い看護師さんが、指示を出す光石さんへと向ける視線がとっても熱いものだったことからも、かなりおモテになるのだろうことが窺えた。
光石さんの行い次第では、大事なアレが、副社長のお言葉通りになってしまわなければいいのだけれど。
なーんて、余計な心配をしてしまったのは内緒にしておくとして……。
そんな光石さんは、簡単な診察を済ませると、
「まだ発熱は続くかもしれないけど、思った通り風邪症候群のようだから。今は熱も下がってきているようだし、心配はないと思うよ。念のため、要の言うように、精密検査のオーダーは出しておくけど、本当に心配はないから。眠れるようならゆっくり休んでおくようにね?」
見かけによらず、お医者様らしいことを言った後。
『精密検査』と聞いて、ちょっとびびり気味に返事を返した私のことを、何やら意味ありげに見やってから、その様子を静かに見守っている副社長の方へとゆっくり近づいていく光石さん。
「まぁ、でも、若いからってあんまり無茶させて、秘書だっていうこの子にパワハラで訴えられないようにしろよ? 要副社長さんっ!」
やっぱり、なにやら怪しい微笑を浮かべて、副社長の肩にポンッと手を置いた光石さん。
ついさっきまでは、『要』って呼び捨てにしていたというのに……。
ワザとらしく『副社長さん』なんて役職に『さん』まで付けちゃってるし。
語尾には、ハートマークまで見えちゃいそうな言い方だ。
病院中に響き渡ったんじゃないかと思うほど大きな声を轟かせた張本人である光石さん。
さっき、私に可笑しな視線を向けているようなそんな気はしていたのだが……。
どうやらそれは私の思い過ごしではなかったようだ。
その証拠に、なにやら可笑しな思い違いをしていたらしい光石さんが、
「あー、そういえば、この前の虎太郎さんの経過診察の時に、『要がやっと身を固めてくれそうだ』とは言ってたけど……。へぇ、こんな若い子だとは思わなかったから、驚いたなぁ……。
俺はてっきり愛人候補かと思って、あんまりハードなセック」
なにやら不適切な発言を繰り広げようとしていたのだが……。
それをいち早く察知した副社長によって、白衣を纏った襟元から覗いているコジャレたネクタイを躊躇なく思いっきり引っ掴んで息の根を止められそうな状態になったため、それは敵わなかったのだった。
直後、そんな可哀そうな光石さんは、ゲホゲホと苦しそうに咽ながらも、
「おっ、お前、俺を殺す気かっ!?」
なんとか副社長に訴えてみるも……。
既に、ベッド傍の椅子で腕を組み直した副社長は、ツーンとすました表情を浮かべていて。
「フンッ。医者の分際で、病人である美菜の前で、下品極まりないことを口にしようとするからだ。本当に息の根を止めなかっただけ、感謝してもらいたいくらいだ」
なーんて、やっぱり当然のことのように、一刀両断にスッパリと言い切ってしまわれた。
どうやら副社長は、私に自分がしてきたことや言ってきたことに関しては、棚に上げてしまわれているらしい。
それでも、体調の悪い私のことを気遣ってくれる副社長の優しさが嬉しくて。
ボーッとしながらも麗しの副社長の方を見詰めていると……。
ベッドで横になっている私へと視線を向けた副社長の視線とが交わって。
その瞬間、とてつもなく優しい眼差しをお見舞いされちゃったような気がしてしまい。
やっぱり、まだ熱があるせいなのかなぁ……。
なんてことを思いながら、点滴してくれている薬のせいなのか、眠くなってしまった私は、誘われるようにして眠りへとゆっくり落ちて行ったのだった。
副社長があからさまに不愉快極まりないっていうような表現を浮かべ、自分の肩に置かれた光石さんの手の方へ視線をゆっくりと巡らせて。
ただでさえ、涼しげでクールな切れ長の瞳を、よりいっそう忌々しげに細めたかと思うと。
まるでそこからブリザードでも放っているかの如く、冷たい視線で睨み付けているように見える。
正面から、そんな冷たい鋭い視線で見据えられたら、さぞかし恐ろしいことだろう。
そう思い、ボーッと視線を光石さんへと向けてみるも。
慣れているのか、さっきと同じような表現を浮かべているように見える。
一方、副社長は、シッシッとまるで埃でも払うかのような手つきで、光石さんの手をさっさと払いのけると。
小バカにするようにフンッと大袈裟に鼻で笑ってから、
「お前なんかと一緒にしないでもらいたい。結婚まで考えてるというのに、セクハラなんかで訴えられるような、そんなことはしない。診察が終わったのなら、さっさと美菜の検査のオーダーでも出しに行け」
至極、当たり前のように、私たちの事情なんて知らないんだろう光石さんに対して、きっぱりと言い切ってしまった副社長。
――イヤイヤイヤ、副社長。そう言い切っておられますが、結構なセクハラやパワハラをお見舞いされゃってたと思うのですが……。
まぁ、別に、されてたからって、訴える気なんて、毛ほどもございませんけれども。
「はぁっ!? マジかっ!?」
直後、大そう驚いた光石さんの、医者らしからぬ大きな声が、ひっろい病院内にコダマしたことは説明するまでもないだろう。
麗しの副社長と比較すると、見かけは少しワイルド系だけれど、病気の患者さんに接してるせいか、とても気さくで親しみやすく、例えるならチョイ悪風な雰囲気を持つ光石さん。
さっき検温に来てくれた若い看護師さんが、指示を出す光石さんへと向ける視線がとっても熱いものだったことからも、かなりおモテになるのだろうことが窺えた。
光石さんの行い次第では、大事なアレが、副社長のお言葉通りになってしまわなければいいのだけれど。
なーんて、余計な心配をしてしまったのは内緒にしておくとして……。
そんな光石さんは、簡単な診察を済ませると、
「まだ発熱は続くかもしれないけど、思った通り風邪症候群のようだから。今は熱も下がってきているようだし、心配はないと思うよ。念のため、要の言うように、精密検査のオーダーは出しておくけど、本当に心配はないから。眠れるようならゆっくり休んでおくようにね?」
見かけによらず、お医者様らしいことを言った後。
『精密検査』と聞いて、ちょっとびびり気味に返事を返した私のことを、何やら意味ありげに見やってから、その様子を静かに見守っている副社長の方へとゆっくり近づいていく光石さん。
「まぁ、でも、若いからってあんまり無茶させて、秘書だっていうこの子にパワハラで訴えられないようにしろよ? 要副社長さんっ!」
やっぱり、なにやら怪しい微笑を浮かべて、副社長の肩にポンッと手を置いた光石さん。
ついさっきまでは、『要』って呼び捨てにしていたというのに……。
ワザとらしく『副社長さん』なんて役職に『さん』まで付けちゃってるし。
語尾には、ハートマークまで見えちゃいそうな言い方だ。
病院中に響き渡ったんじゃないかと思うほど大きな声を轟かせた張本人である光石さん。
さっき、私に可笑しな視線を向けているようなそんな気はしていたのだが……。
どうやらそれは私の思い過ごしではなかったようだ。
その証拠に、なにやら可笑しな思い違いをしていたらしい光石さんが、
「あー、そういえば、この前の虎太郎さんの経過診察の時に、『要がやっと身を固めてくれそうだ』とは言ってたけど……。へぇ、こんな若い子だとは思わなかったから、驚いたなぁ……。
俺はてっきり愛人候補かと思って、あんまりハードなセック」
なにやら不適切な発言を繰り広げようとしていたのだが……。
それをいち早く察知した副社長によって、白衣を纏った襟元から覗いているコジャレたネクタイを躊躇なく思いっきり引っ掴んで息の根を止められそうな状態になったため、それは敵わなかったのだった。
直後、そんな可哀そうな光石さんは、ゲホゲホと苦しそうに咽ながらも、
「おっ、お前、俺を殺す気かっ!?」
なんとか副社長に訴えてみるも……。
既に、ベッド傍の椅子で腕を組み直した副社長は、ツーンとすました表情を浮かべていて。
「フンッ。医者の分際で、病人である美菜の前で、下品極まりないことを口にしようとするからだ。本当に息の根を止めなかっただけ、感謝してもらいたいくらいだ」
なーんて、やっぱり当然のことのように、一刀両断にスッパリと言い切ってしまわれた。
どうやら副社長は、私に自分がしてきたことや言ってきたことに関しては、棚に上げてしまわれているらしい。
それでも、体調の悪い私のことを気遣ってくれる副社長の優しさが嬉しくて。
ボーッとしながらも麗しの副社長の方を見詰めていると……。
ベッドで横になっている私へと視線を向けた副社長の視線とが交わって。
その瞬間、とてつもなく優しい眼差しをお見舞いされちゃったような気がしてしまい。
やっぱり、まだ熱があるせいなのかなぁ……。
なんてことを思いながら、点滴してくれている薬のせいなのか、眠くなってしまった私は、誘われるようにして眠りへとゆっくり落ちて行ったのだった。
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