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忘れられない特別な夜
#16
しおりを挟む要さんの唇を奪うようにして塞いでしまった私が、胸にしがみつきながらも一生懸命背伸びして口づけていると……。
始めは驚いて固まってた要さんが、私のキスに応えながら、なにげにさりげなく、腰を包むように両手を添えて、優しく支えてくれている。
このままずっと要さんとの甘いキスに酔いしれていたくて、もっともっとふれあっていたくて、私は要さんの首へと両腕をまわして、しっかりと絡めさせた。
……の、筈だったのだけれど。
突然、すべての動きをピタリと停止させ、ハッと何かを思い出したように目を見開いた要さん。
もう離してあげない、とばかりに要さんに食らいついている私の唇と腕は、そんな要さんによってあっけなく掴んで制止されてしまって、
「……美菜、本当にいいのか?」
なーんて、この期に及んで、今さらなことを聞き返してくる。
要さんは、私が勢いで口走ったものだと思って、きっと心配してくれているのだろう。
要さんのそういう優しいところも勿論好きなんだけど……。
要さん以外の他の男なんて、私の頭の片隅一ミリたりとも入る余地なんかない、ってことを、要さんもそろそろ自覚してくれてもいいのに、とも思う。
ーーそれに、スッゴく恥ずかしいんだから!
こういう時ぐらい、お月様みたいに気をきかせて、私に流されてくれてもいいものを……。
私はそんな想いと、若干の不安と、勿論照れ隠しも込めて、
「ダメだったらあんなこと言いませんっ! 要さんこそ、本当に私なんかでいいんですか? 後になって後悔しても、私、なかったことにはしてあげませんからねっ!」
そう言って、さっき同様、前のめりぎみに強気に出てみれば……。
ついさっきまで、あんなに私に圧され気味だった要さんが、いつも以上に増して調子を取り戻し、
「はぁ!? 俺が後悔する訳ないだろう? それに、俺は仕事でもプライベートでも、人を見る目は確かだって思ってる。その俺が美菜と結婚したいと言ってるんだ。もう二度と、"私なんか"って口にするなっ!
それから、ハッキリ言っておく。この俺が一度言ったことをなかったことになんて、何があろうと絶対にしないっ! そんなくだらない心配してる暇があるなら、今すぐ俺の嫁になれ。
これでもかってくらいに愛し抜いて、とことことん幸せにしてやるから覚悟するんだな。分かったか?」
怖いくらいに真剣な表情で、凄んでくる要さん。
要さんの必死な想いが痛いくらいに伝わってくる。
……せっかく、もう泣かないようにって、頑張ってたのに。
胸がいっぱいで、もう収まりそうになくて、涙と一緒に溢れてしまいそうだ。
私は泣きそうになるのを必死に堪えて、今できうる限りの精一杯の笑顔を浮かべて、
「はい」
と、頷いてみせた。
途端に、ポロポロと大粒の涙がいくつもいつも零れ落ちてゆく。
嬉し涙のせいで、要さんの表情はボヤけていてハッキリとは見えないけれど、
「ありがとう、美菜。愛してる」
あのとびきりの優しい声で、そう言って、私のことをしっかりと受け止めて、キスの続きを再開させた要さんも、きっと私と同じように笑顔を浮かべてくれてるんだろうと思う。
そう思うと余計に嬉しくて、要さんのことがどうしようもなく愛おしくて堪らなくて、私は、要さんの背中に腕を伸ばしてギューと抱きついた。
そうして、何度か優しいキスを繰り返してるうち、互いの想いと同じように、どんどん深まっていく甘い口づけに、思考が奪われ、身体からも徐々に力が抜けていく。
そんな私はいつの間にかすっかり泣き止んでいて。
もう、心も身体も、要さんの支えなしに立っていることさえままならない。
一秒でも、速く、もっともっと深いところで繋がりあいたい。
まるで、タガが外れてしまったかのように、そう思ってしまう私は、
「……もう、待て……ない。はや……く」
キスの合間に無意識にそう口走っていて。
「……あぁ、俺も。じゃあ、ベッドにいこう」
そう言ってキスを中断させた要さんは、多分、いつものように、私のことお姫様抱っこでベッドへ運ぼうかと、提案してくれかけていたのだろう言葉に対して、
「やっ、そんなの待てない。今すぐがいい」
私は聞き分けのない子供みたいなことを言ってしまっていた。
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