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深まる疑惑
#21
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夏目さんは私の言葉を聞いた瞬間、意味が全く分からないって表情をして、クワッと目を大きくひん剥いて、
「はっ!?何で!?だって、美菜ちゃん不安で堪んないんだろ?だったら要に聞くのが一番なんじゃねーの?なのに、何で要に黙っとく必要があんだよっ!?」
っと、早口で捲し立てるようにして放たれた夏目さんのその声は、驚きを通り越して、もはや怒っているようにしか聞こえない。
それだけ、夏目さんが私のことを心配してくれてるってことなのだろう……。
私だって、夏目さんの言ってることは正しいことだと思う。
けれど、私には私なりに色々と思うところがあったのだ。
確かに、この機会に、静香さんのことを要さん本人の口からちゃんと聞いて、速く安心したいっていう気持ちもある。
でも、それ以上に、要さんに、元カノである静香さんのことを、ほんの少しでも思い出して欲しくないって気持ちの方が遥かに大きかった。
――自分でも、驚きだった。
――今の今まで、まさか自分がこれほどまでに嫉妬深い人間だなんて、思ってもみなかったし。
――でも本音では、要さんにとって初恋だという静香のことを聞いて、その時の要さんの反応を知ることがなにより怖くて堪らない、という気持ちもあった。
才能にも美貌にも恵まれた静香とどこにでも居るような自分とを比べてみるまでもなく、元より自分に自信の持てない私の気持ちは、何かあると、こうやってすぐにゆらゆらと揺らいでしまうのだ。
――だからって、要さんのことを信用していない訳じゃない。
――美優さんのことをちゃんと話してくれた要さんのことだから、静香さんのことも、要さんの方からちゃんと話してくれるに違いない。
様々な葛藤を踏まえ、そういう要さんのことを信じたいという気持ちから、そうしたいと思ってのことだった。
相変わらず、納得いかない、という風な顰《しか》めっ面で鼻息荒く、腰を上げてテーブルに両手をついて、前傾姿勢で身構えている夏目さんは、私の言葉次第で、今にも飛びかからんばかりの勢いだ。
なんとか夏目さんに納得してもらいたくて、
「……正直いうと、聞くのが怖いっていうのもあるんですけど……」
私が思い切って、そう重い口を開けば、
「いや、そういう気持ちも分かるけどさぁ。そんな心配しなくても大丈夫だって。要が好きなのは美菜ちゃんなんだからさぁ、何も心配することないよ。美菜ちゃんが聞くのが怖いなら、俺がそれとなく話題ふってもいいしさぁ、ね? そうしよう?」
なんとかして私の考えを改めさせようと、必死になってけれど、私の想いに寄り添うように、優しい口調で、やんわりと諭そうとしてくれる夏目さん。
いつも本当の妹のように私のことを心配してくれる優しい夏目さんに、有り難く思うと同時に、これ以上頼ってはいけないとも思う。
不意にそんなことを考えてたら、隼さんが言ってたことが浮かんできた。
隼さんが、要さんと夏目さんのことをあまり信用しない方がいい、と言ったのは、きっと、二人が居なければ私なんてどうにでもできる、だから二人から引き離すために、敢《あ》えてそういう言い方をしたのだろう。
――だったら、今までみたく二人に守ってもらうだけじゃなくて、これからは少しずつでも強くなっていきたい。
「でも、それ以上に、嫌なんです。元カノである静香さんのことを、要さんが思い出して、あれこれ思い浮かべるのが……。それに、美優さんのこともちゃんと話してくれたし。静香さんのことも、要さんの方から言ってくれるのを、信じて待ちたいんです。だから、要さんには黙っててください」
いつになく、夏目さんの言葉に食い下がる私に、とうとう根負けした夏目さんは、少しだけ寂しそうな表情をした後で、
「……美菜ちゃんがそこまで言うなら、分かったよ」
と、仕方ないなっていうように答えてくれた後、
「あーあー、でも、なんだか寂しいなぁ……。まだまだガキンチョだと思ってたのに、いつの間にかそんな大人なこと言うようになっちゃって。お兄さん、泣いちゃいそうなんだけど……。えーん、えーん」
とか言いながら、ソファに倒れ込むようにして寝転ぶと、クッションに顔を埋めて泣き真似を決め込んでいる夏目さん。
きっと、これ以上シンミリしないように気遣ってくれてるのだろう……。
まるで、小さな子供が拗ねてるような口ぶりで放たれた夏目さんの『ガキンチョ』発言に、壷った私がクスクス笑いながら見守っていると、
「そんなこと言ってくれる彼女、どっかに居ないかなぁ」
とか言い始めた夏目さんに、何故かふと高梨さんのことが浮かんできて、
「あっ、秘書室の高梨さんみたいなシッカリした綺麗な彼女、夏目さんにお似合いだと思いますよっ!」
そう返せば、
「前言撤回、やっぱ美菜ちゃんはまだまだガキンチョだな。高梨はショコラティエの木村のことが好きだっての。そんなことにも気づけないなんてなぁ……。これだからガキンチョはよ~って……あっ!今、高梨と木村くっつけよーとか可笑しなこと考えてるんじゃないだろうなぁ?」
ビックリ発言を繰り出してきて、それを聞いた私は一瞬驚いたものの、色々画策しているところへ、急に顔を埋めていたクッションから顔を上げてきた夏目さんによって、図星をつかれてしまい、
「……えっ!?何で分かっちゃったんですか?」
またまた驚いていたら、
「美菜ちゃんの考えてることくらいお見通しだつーの。そんなことより、恋愛初心者マークの美菜ちゃんは、自分のことだけ考えるよーに。余計なことして微妙な均衡が崩れたら大変だから、高梨と木村をどーこーとか余計なお節介は、くれぐれもしないよーに!分かった?」
「……へ!?あぁ、はい」
茶化してきたクセに、急に何やら怖い表情をして念押ししてくる夏目さんに、気圧された私が訳も分からないまま返事を返したら、
「ついでに一つだけ、お兄さんからのアドバイス、聞いてくれる?」
またまた夏目さんから、そんな真面目な声がして。
ソファからゆっくり起き上がってきた夏目さんのアドバイスを素直に聞き入れた私は、夏目さんと一緒に夕飯の支度に取りかかった。
それからしばらくたった頃だった、待ちわびてた要さんの帰りを知らせるインターフォンの音が鳴り響いたのは。
「はっ!?何で!?だって、美菜ちゃん不安で堪んないんだろ?だったら要に聞くのが一番なんじゃねーの?なのに、何で要に黙っとく必要があんだよっ!?」
っと、早口で捲し立てるようにして放たれた夏目さんのその声は、驚きを通り越して、もはや怒っているようにしか聞こえない。
それだけ、夏目さんが私のことを心配してくれてるってことなのだろう……。
私だって、夏目さんの言ってることは正しいことだと思う。
けれど、私には私なりに色々と思うところがあったのだ。
確かに、この機会に、静香さんのことを要さん本人の口からちゃんと聞いて、速く安心したいっていう気持ちもある。
でも、それ以上に、要さんに、元カノである静香さんのことを、ほんの少しでも思い出して欲しくないって気持ちの方が遥かに大きかった。
――自分でも、驚きだった。
――今の今まで、まさか自分がこれほどまでに嫉妬深い人間だなんて、思ってもみなかったし。
――でも本音では、要さんにとって初恋だという静香のことを聞いて、その時の要さんの反応を知ることがなにより怖くて堪らない、という気持ちもあった。
才能にも美貌にも恵まれた静香とどこにでも居るような自分とを比べてみるまでもなく、元より自分に自信の持てない私の気持ちは、何かあると、こうやってすぐにゆらゆらと揺らいでしまうのだ。
――だからって、要さんのことを信用していない訳じゃない。
――美優さんのことをちゃんと話してくれた要さんのことだから、静香さんのことも、要さんの方からちゃんと話してくれるに違いない。
様々な葛藤を踏まえ、そういう要さんのことを信じたいという気持ちから、そうしたいと思ってのことだった。
相変わらず、納得いかない、という風な顰《しか》めっ面で鼻息荒く、腰を上げてテーブルに両手をついて、前傾姿勢で身構えている夏目さんは、私の言葉次第で、今にも飛びかからんばかりの勢いだ。
なんとか夏目さんに納得してもらいたくて、
「……正直いうと、聞くのが怖いっていうのもあるんですけど……」
私が思い切って、そう重い口を開けば、
「いや、そういう気持ちも分かるけどさぁ。そんな心配しなくても大丈夫だって。要が好きなのは美菜ちゃんなんだからさぁ、何も心配することないよ。美菜ちゃんが聞くのが怖いなら、俺がそれとなく話題ふってもいいしさぁ、ね? そうしよう?」
なんとかして私の考えを改めさせようと、必死になってけれど、私の想いに寄り添うように、優しい口調で、やんわりと諭そうとしてくれる夏目さん。
いつも本当の妹のように私のことを心配してくれる優しい夏目さんに、有り難く思うと同時に、これ以上頼ってはいけないとも思う。
不意にそんなことを考えてたら、隼さんが言ってたことが浮かんできた。
隼さんが、要さんと夏目さんのことをあまり信用しない方がいい、と言ったのは、きっと、二人が居なければ私なんてどうにでもできる、だから二人から引き離すために、敢《あ》えてそういう言い方をしたのだろう。
――だったら、今までみたく二人に守ってもらうだけじゃなくて、これからは少しずつでも強くなっていきたい。
「でも、それ以上に、嫌なんです。元カノである静香さんのことを、要さんが思い出して、あれこれ思い浮かべるのが……。それに、美優さんのこともちゃんと話してくれたし。静香さんのことも、要さんの方から言ってくれるのを、信じて待ちたいんです。だから、要さんには黙っててください」
いつになく、夏目さんの言葉に食い下がる私に、とうとう根負けした夏目さんは、少しだけ寂しそうな表情をした後で、
「……美菜ちゃんがそこまで言うなら、分かったよ」
と、仕方ないなっていうように答えてくれた後、
「あーあー、でも、なんだか寂しいなぁ……。まだまだガキンチョだと思ってたのに、いつの間にかそんな大人なこと言うようになっちゃって。お兄さん、泣いちゃいそうなんだけど……。えーん、えーん」
とか言いながら、ソファに倒れ込むようにして寝転ぶと、クッションに顔を埋めて泣き真似を決め込んでいる夏目さん。
きっと、これ以上シンミリしないように気遣ってくれてるのだろう……。
まるで、小さな子供が拗ねてるような口ぶりで放たれた夏目さんの『ガキンチョ』発言に、壷った私がクスクス笑いながら見守っていると、
「そんなこと言ってくれる彼女、どっかに居ないかなぁ」
とか言い始めた夏目さんに、何故かふと高梨さんのことが浮かんできて、
「あっ、秘書室の高梨さんみたいなシッカリした綺麗な彼女、夏目さんにお似合いだと思いますよっ!」
そう返せば、
「前言撤回、やっぱ美菜ちゃんはまだまだガキンチョだな。高梨はショコラティエの木村のことが好きだっての。そんなことにも気づけないなんてなぁ……。これだからガキンチョはよ~って……あっ!今、高梨と木村くっつけよーとか可笑しなこと考えてるんじゃないだろうなぁ?」
ビックリ発言を繰り出してきて、それを聞いた私は一瞬驚いたものの、色々画策しているところへ、急に顔を埋めていたクッションから顔を上げてきた夏目さんによって、図星をつかれてしまい、
「……えっ!?何で分かっちゃったんですか?」
またまた驚いていたら、
「美菜ちゃんの考えてることくらいお見通しだつーの。そんなことより、恋愛初心者マークの美菜ちゃんは、自分のことだけ考えるよーに。余計なことして微妙な均衡が崩れたら大変だから、高梨と木村をどーこーとか余計なお節介は、くれぐれもしないよーに!分かった?」
「……へ!?あぁ、はい」
茶化してきたクセに、急に何やら怖い表情をして念押ししてくる夏目さんに、気圧された私が訳も分からないまま返事を返したら、
「ついでに一つだけ、お兄さんからのアドバイス、聞いてくれる?」
またまた夏目さんから、そんな真面目な声がして。
ソファからゆっくり起き上がってきた夏目さんのアドバイスを素直に聞き入れた私は、夏目さんと一緒に夕飯の支度に取りかかった。
それからしばらくたった頃だった、待ちわびてた要さんの帰りを知らせるインターフォンの音が鳴り響いたのは。
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