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縺れあう糸
#25
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ちょうどタコさんウインナーを呑気に頬張っていた私が、出入り口のドアの向こうから現れた木村先輩へと視線を上げた瞬間、
「美菜ちゃん、お疲れさま~!」
弾けるような明るい笑顔の花を咲かせて、トレードマークの八重歯を覗かせた木村先輩の明るい声が響き渡った。
咀嚼してゴクンとウインナーを飲み下した私が数秒遅れで、
「……お疲れさまです。今日も出勤だったんですね?」
そう返せば……。
ベンチに座っている私のすぐ傍までやってきた木村先輩が、少しだけ距離をとって私の右隣に腰を下ろしてきて。すぐに、
「うん。美菜ちゃんもそうだったみたいだね?」
コンビニのレジ袋を私とは反対側のスペースに置きつつ、返事に続けて問いかけてきた。
「はい。……あっ、それより昨日はどうもごちそうさまでした。それなのに、急に帰っちゃってすみませんでした」
「ううん、そんなの気にしなくていいよ。俺が引き止めちゃったんだし。……それより、あれから大丈夫だった? 副社長メチャクチャ機嫌悪かったようだけど」
「……」
木村先輩の言葉に、昨日のあれこれを思い浮かべて、どう返せばいいかと思案していると……。
明るかった木村先輩の表情がだんだん暗く沈んで、重い口を思い切るようにして開いた木村先輩の口からは、
「もしかして、いつもあんな感じなの? 副社長の言いなりっていうか……言われたとおりにせざるを得ないっていうか……。あれじゃ、美菜ちゃん言いたいことも言わせてもらえてないんじゃないの?
付き合ってる期間だって短いだろうし、副社長のことまだよく知らないんじゃないの?
美菜ちゃん、そんなんで結婚なんかしちゃってもいいの?」
思いもしなかった言葉が出てきたものだから、意表を突かれ、真剣なあまりいつしか問い詰めるような口調になっている木村先輩の顔に、視線をやったまま、
「……へ?」
マヌケな声を発することしかできないでいる私に向けて、木村先輩からの言葉は留まることはなく……。
「先週だって、美菜ちゃんが休んでた時、俺遅番で、仕事終えて帰る時に偶然見ちゃったんだよね。駐車場の車の中で、副社長が髪の長い女の人とキスしてるとこ。
それに来年の春、結婚するのを機に社長に就任するらしいし。
俺、何にも知らない美菜ちゃんが副社長に都合よく利用されてるんじゃないかって、心配なんだよ」
おまけに、衝撃的な事実まで孕んでいたものだから堪らない。
そこへ運悪く、膝の上に乗せてあったお弁当箱が、無惨にも脚元へ転げ落ちる音が響き渡った。
突然、頭を鈍器か何かで殴られてしまったような衝撃をくらってしまった私は、瞠目したまま何も言葉を発することもできずに、ただただ木村先輩の顔を見つめ続けることしかできないでいた。
少しして……。
頭の中で、木村先輩の言葉を反芻し終えた冷静なもう一人の自分が、
――きっと見間違いだったに違いない。
そう導きだした答えを、
「……それ……きっと、木村先輩の見間違いですよ」
そのまま口にして、脚元のお弁当箱に手を伸ばしかけた私の望みは……
「これ見てもそんなこと言えるの?」
ポケットからスマートフォンを取り出した木村先輩によって、あっさりと打ち砕かれることになる。
「美菜ちゃん、お疲れさま~!」
弾けるような明るい笑顔の花を咲かせて、トレードマークの八重歯を覗かせた木村先輩の明るい声が響き渡った。
咀嚼してゴクンとウインナーを飲み下した私が数秒遅れで、
「……お疲れさまです。今日も出勤だったんですね?」
そう返せば……。
ベンチに座っている私のすぐ傍までやってきた木村先輩が、少しだけ距離をとって私の右隣に腰を下ろしてきて。すぐに、
「うん。美菜ちゃんもそうだったみたいだね?」
コンビニのレジ袋を私とは反対側のスペースに置きつつ、返事に続けて問いかけてきた。
「はい。……あっ、それより昨日はどうもごちそうさまでした。それなのに、急に帰っちゃってすみませんでした」
「ううん、そんなの気にしなくていいよ。俺が引き止めちゃったんだし。……それより、あれから大丈夫だった? 副社長メチャクチャ機嫌悪かったようだけど」
「……」
木村先輩の言葉に、昨日のあれこれを思い浮かべて、どう返せばいいかと思案していると……。
明るかった木村先輩の表情がだんだん暗く沈んで、重い口を思い切るようにして開いた木村先輩の口からは、
「もしかして、いつもあんな感じなの? 副社長の言いなりっていうか……言われたとおりにせざるを得ないっていうか……。あれじゃ、美菜ちゃん言いたいことも言わせてもらえてないんじゃないの?
付き合ってる期間だって短いだろうし、副社長のことまだよく知らないんじゃないの?
美菜ちゃん、そんなんで結婚なんかしちゃってもいいの?」
思いもしなかった言葉が出てきたものだから、意表を突かれ、真剣なあまりいつしか問い詰めるような口調になっている木村先輩の顔に、視線をやったまま、
「……へ?」
マヌケな声を発することしかできないでいる私に向けて、木村先輩からの言葉は留まることはなく……。
「先週だって、美菜ちゃんが休んでた時、俺遅番で、仕事終えて帰る時に偶然見ちゃったんだよね。駐車場の車の中で、副社長が髪の長い女の人とキスしてるとこ。
それに来年の春、結婚するのを機に社長に就任するらしいし。
俺、何にも知らない美菜ちゃんが副社長に都合よく利用されてるんじゃないかって、心配なんだよ」
おまけに、衝撃的な事実まで孕んでいたものだから堪らない。
そこへ運悪く、膝の上に乗せてあったお弁当箱が、無惨にも脚元へ転げ落ちる音が響き渡った。
突然、頭を鈍器か何かで殴られてしまったような衝撃をくらってしまった私は、瞠目したまま何も言葉を発することもできずに、ただただ木村先輩の顔を見つめ続けることしかできないでいた。
少しして……。
頭の中で、木村先輩の言葉を反芻し終えた冷静なもう一人の自分が、
――きっと見間違いだったに違いない。
そう導きだした答えを、
「……それ……きっと、木村先輩の見間違いですよ」
そのまま口にして、脚元のお弁当箱に手を伸ばしかけた私の望みは……
「これ見てもそんなこと言えるの?」
ポケットからスマートフォンを取り出した木村先輩によって、あっさりと打ち砕かれることになる。
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