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一難去ったその後で
#3
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突然、巻き起こった突風の如く現れた夏目さんの登場で、ビックリした要さんは振り返ったまま言葉を失ってしまっている。
私も要さん同様に驚きすぎて、夏目さんのほうに首だけ向けて釘付け状態だ。
そんな中、夏目さんはやれやれって感じで、
「ったく、俺の用事が終わるまで待ってろって言ったのに。美菜ちゃんが体調悪いって知ったとたん血相変えて出てっちゃうんだもんなぁ。お陰で副社長室からここまで全速疾走する羽目になって、いい運動になったよ。
美菜ちゃんは美菜ちゃんで、肝心なこと隠してるんだもんなぁ。お陰で思ったよりてこずっちゃったよ。まぁ、言えなかった美菜ちゃんの気持ちもわかるけどさぁ」
出入り口から私たちのいるベッドに向けて靴音を鳴らしつつ、ゆっくりと一歩ずつ歩みを進めながらそう言って近づいてきた。
どうやら、夏目さんの声に耳を貸さなかったらしい要さんと、夏目さんに肝心なことを隠していた私に向けての苦言を呈しているらしいけれど……。
肝心なことって、まさか、要さんと静香さんのキス動画のことを言っているんだろうか?
最後に、言えなかった美菜ちゃんの気持ちもわかるけどさぁ、って言ってたし、やっぱりそういうことなのかな?
――でも、どうしてそんなことまで知ってるんだろう? それに、てこずったって、どういうことなんだろう?
私が混乱気味に浮上してくる疑問に対して答えを導き出す前に、夏目さんはベッドの傍までくると。
立ち止まって、私のことを組み敷いている要さんのことを一瞥し、
「お前が美菜ちゃんのことを信じてやれない理由がよーくわかったよ?」
どこかバカにしたような口調で感心したようにそう言ってきた。それに対して。
「……どういう意味だ?」
困惑ぎみに言葉を発した要さんの肩に、夏目さんが手を置いたかと思えば……。
次の瞬間、
「どういう意味もなにも、お前に美菜ちゃんのことを責める資格なんてねーんだよっ!どけっ!」
吐き捨てるように冷たく言い放ち、要さんの背広の生地を掴んで、ものすごい勢いで乱暴に自分のほうへ引き寄せると。
夏目さんはそのまま要さんの身体を躊躇なく、ベッドから床へと突き飛ばしてしまった。
何の前触れもなく、突然床に突き飛ばされた要さんは、尻もちをついたままの体勢でしばし茫然自失状態に陥ってしまっているご様子だ。
そりゃそうだろう。
私だって、たった今目の前で起こったことが信じられなくて……。
床に尻もち状態の要さんと、要さんのことを物凄く怖い表情で冷たく見下ろしている夏目さんとを、なんども見比べるようにして、視線を忙しなく交互に行き来させているのだから、無理もない。
そんな私を置き去りにして、要さんを冷たく見下ろしている夏目さんは、背広のポケットの中からスマートフォンを取り出すと。
視線を要さんから手元のそれへと移動させ、指でなにやら画面を操作し始めた。
――あっ!もしかして、あのキス動画!? でも、どうして夏目さんが!?
あれこれ頭の中で考えを巡らせかけていた私の耳に、未だ尻もち状態の要さんから、
「……ちょっと待て。まさか、俺が本当に美菜を裏切って静香とキスしたとでも思ってるのか?」
ようやく聞こえてきたものは、さっき私に返した時の言葉とさして変わらない。
けれど、さっきと違い、いくらか冷静さを取り戻した私には、要さんが嘘をついているようには見受けられない。
――もしかして、本当にキスなんかしてないのかな?
私が再びそう思い始めた矢先、操作を終えたのか、手元から要さんへと視線を戻した夏目さん。
夏目さんの目は完全に据わっていて、完全に冷静さを失ってしまっているようだ。
もしかすると、先ほどの要さんの言葉は、今の夏目さんには届いてはいないかもしれない。
私はどうしたものかと思いつつも、どうすることもできずに、ただただ事の成り行きを見守ることしかできないでいる。
そんな中、要さんの目の前で、例のキス動画が映し出されているのだろうスマートフォンを突き付け、問答無用で追及の言葉を放つ夏目さんのドスの効いた低い声が私の耳に飛び込んできた。
「お前、美菜ちゃんと婚約していながら、どうして西園寺社長の娘とキスしたんだ!?美菜ちゃんと俺が納得できるように説明してみろ? この通り証拠の動画だってあるんだ。言い逃れはできないぞ?
これ、先週西園寺社長との会食があった日のものだよな? 忘れたとは言わせないからな。西園寺社長に頼まれて……娘を滞在中のホテルに送る途中、俺が会社へ立ち寄った時のことだよ?
俺は美菜ちゃんが不安がると思ったから社長がピアス忘れたって、お前の嘘にも付き合ったけど。まさか、美菜ちゃんのこと裏切ってたなんて、最低だな。お前には失望したよ?」
私も要さん同様に驚きすぎて、夏目さんのほうに首だけ向けて釘付け状態だ。
そんな中、夏目さんはやれやれって感じで、
「ったく、俺の用事が終わるまで待ってろって言ったのに。美菜ちゃんが体調悪いって知ったとたん血相変えて出てっちゃうんだもんなぁ。お陰で副社長室からここまで全速疾走する羽目になって、いい運動になったよ。
美菜ちゃんは美菜ちゃんで、肝心なこと隠してるんだもんなぁ。お陰で思ったよりてこずっちゃったよ。まぁ、言えなかった美菜ちゃんの気持ちもわかるけどさぁ」
出入り口から私たちのいるベッドに向けて靴音を鳴らしつつ、ゆっくりと一歩ずつ歩みを進めながらそう言って近づいてきた。
どうやら、夏目さんの声に耳を貸さなかったらしい要さんと、夏目さんに肝心なことを隠していた私に向けての苦言を呈しているらしいけれど……。
肝心なことって、まさか、要さんと静香さんのキス動画のことを言っているんだろうか?
最後に、言えなかった美菜ちゃんの気持ちもわかるけどさぁ、って言ってたし、やっぱりそういうことなのかな?
――でも、どうしてそんなことまで知ってるんだろう? それに、てこずったって、どういうことなんだろう?
私が混乱気味に浮上してくる疑問に対して答えを導き出す前に、夏目さんはベッドの傍までくると。
立ち止まって、私のことを組み敷いている要さんのことを一瞥し、
「お前が美菜ちゃんのことを信じてやれない理由がよーくわかったよ?」
どこかバカにしたような口調で感心したようにそう言ってきた。それに対して。
「……どういう意味だ?」
困惑ぎみに言葉を発した要さんの肩に、夏目さんが手を置いたかと思えば……。
次の瞬間、
「どういう意味もなにも、お前に美菜ちゃんのことを責める資格なんてねーんだよっ!どけっ!」
吐き捨てるように冷たく言い放ち、要さんの背広の生地を掴んで、ものすごい勢いで乱暴に自分のほうへ引き寄せると。
夏目さんはそのまま要さんの身体を躊躇なく、ベッドから床へと突き飛ばしてしまった。
何の前触れもなく、突然床に突き飛ばされた要さんは、尻もちをついたままの体勢でしばし茫然自失状態に陥ってしまっているご様子だ。
そりゃそうだろう。
私だって、たった今目の前で起こったことが信じられなくて……。
床に尻もち状態の要さんと、要さんのことを物凄く怖い表情で冷たく見下ろしている夏目さんとを、なんども見比べるようにして、視線を忙しなく交互に行き来させているのだから、無理もない。
そんな私を置き去りにして、要さんを冷たく見下ろしている夏目さんは、背広のポケットの中からスマートフォンを取り出すと。
視線を要さんから手元のそれへと移動させ、指でなにやら画面を操作し始めた。
――あっ!もしかして、あのキス動画!? でも、どうして夏目さんが!?
あれこれ頭の中で考えを巡らせかけていた私の耳に、未だ尻もち状態の要さんから、
「……ちょっと待て。まさか、俺が本当に美菜を裏切って静香とキスしたとでも思ってるのか?」
ようやく聞こえてきたものは、さっき私に返した時の言葉とさして変わらない。
けれど、さっきと違い、いくらか冷静さを取り戻した私には、要さんが嘘をついているようには見受けられない。
――もしかして、本当にキスなんかしてないのかな?
私が再びそう思い始めた矢先、操作を終えたのか、手元から要さんへと視線を戻した夏目さん。
夏目さんの目は完全に据わっていて、完全に冷静さを失ってしまっているようだ。
もしかすると、先ほどの要さんの言葉は、今の夏目さんには届いてはいないかもしれない。
私はどうしたものかと思いつつも、どうすることもできずに、ただただ事の成り行きを見守ることしかできないでいる。
そんな中、要さんの目の前で、例のキス動画が映し出されているのだろうスマートフォンを突き付け、問答無用で追及の言葉を放つ夏目さんのドスの効いた低い声が私の耳に飛び込んできた。
「お前、美菜ちゃんと婚約していながら、どうして西園寺社長の娘とキスしたんだ!?美菜ちゃんと俺が納得できるように説明してみろ? この通り証拠の動画だってあるんだ。言い逃れはできないぞ?
これ、先週西園寺社長との会食があった日のものだよな? 忘れたとは言わせないからな。西園寺社長に頼まれて……娘を滞在中のホテルに送る途中、俺が会社へ立ち寄った時のことだよ?
俺は美菜ちゃんが不安がると思ったから社長がピアス忘れたって、お前の嘘にも付き合ったけど。まさか、美菜ちゃんのこと裏切ってたなんて、最低だな。お前には失望したよ?」
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